柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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怖かったら、桜花の事を思い出してください、兎さん。


十二支 兎は 隠し事が出来ない。

大正○○年 △月 ○日

 今日はオレの屋敷に後輩の冨岡君が遊びに来た。

 冨岡君は水の呼吸の使い手で、齢19歳で柱の地位に着いた、言うなら天才剣士なのだ。

 いつも仏頂面なうえに言葉足らずな所があるからほかの柱のみんな(特に不死川と伊黒)と上手くいってないけど、お館様にも期待される期待の星である。

 冨岡君が遊びに来たときは、必ず桜花に鮭大根を用意させる。普段は不機嫌そうな冨岡君だけども、これが出てくれば、すぐに上機嫌になる。胡蝶ちゃん曰く、違いは全く分からないらしいけども。彼が癸だった時代から剣の相手をしてあげていたオレからすれば、違いは一目瞭然だ。

 ほら、目じりが少し下がってる。

 ちなみに前遊びに来てくれた時に冨岡君の前で桜花にそのことを教えてあげようとしたら、彼の指が日輪刀にかかっていたのですぐに口を閉じた思い出がある。いやぁ、懐かしい。

 

 

 

 

 とまぁ、冨岡君の紹介はさておき。彼の口からちょっと面白い話を聞いた。

 なんでも、キグルミの痕跡を追ってとある山村に向かった際に、人間を庇う鬼を見たと言う。

 うんうん、としたり顔で頷いていると、冨岡君がなんともいえない微妙な表情になり、桜花がクスクスと笑いながら

 

 「キブツジですよ。兎さん」

 

と、訂正してくれた。口に手をあてて上品に笑う桜花はものすごくかわいかった。頭を撫でたい衝動に駆られたが、冨岡君が見てる前ではさすがにまずい。えらいぞ、オレの理性。あとで桜花を思い切り抱きしめような。

 

 話をもどそう。冨岡君の話だが、鬼の中には人間の頃の記憶をもっている者もいるから庇うこと自体は別段珍しいことでもない。着目すべきは、その鬼がどうやら相当な飢餓状態だったらしいこと。それでもその鬼は、人間を庇った。

 なんだか、カナエちゃんが聞いたら喜びそうな話だなぁ、と思った。こんど墓前で聞かせてあげよう。

 続いて冨岡君が語るには、その庇われた人間の少年。察するに、その鬼とは兄妹らしいのだが、鬼殺隊の才覚があるらしい。なんでも、冨岡君の育手と同じで嗅覚がとても鋭いんだとか。冨岡君はそんな彼の事をだいぶ買っているようで、あの元・水柱の鱗滝さんの所に送ったらしい。

 冨岡君と鱗滝さん。

 新旧の水柱に見いだされた少年。きっとつよい隊士になるだろう。

 こんなに喜ばしいことはない。

 くじけるな少年。

 諦めるな少年。

 強くなれ少年。

 柱になれ少年。

 替わってくれ少年。

 

 なんてことを思っていたのがばれたのかな。

 冨岡君。日輪刀から手を離せ。

 

 

大正○○年 △月△日。

 今日はすこし落ち込むことがあった。

 胡蝶ちゃんが冷たい。もう冷たいなんてもんじゃない。凍える。

 カナエちゃんが亡くなる前はこんなんじゃなかったんだけどな。

 胡蝶しのぶちゃん。16歳。蟲柱になって間もない女の子。

 鬼の首を切ることが出来ないけれど、鬼を藤の花の毒で毒殺することに成功した、もう全然鬼より怖い女の子。

 姉のカナエちゃんとオレは親交があった。優秀な鬼殺隊士であったと同時に、彼女は人間として眩しい人だった。

 

 鬼と人間はわかりあえる。友達になれる。

 

 そんな理想をかけらも疑っていなかった。あの優しい冨岡君でさえ、それは無理だと切って捨てた理想を、彼女は捨てることをしなかった。

 そんな彼女が昨年、鬼にだまし討ちされて死んだ。

 友達になりたい、人間を理解したい。

 そういって近づいてきた鬼を、彼女はすこしも疑わずに抱きしめたそうだ。

 

 オレがカナエちゃんの鴉からそれを聞いた時には、悔しくて、悲しくて。一緒に任務にあたっていた桜花と大泣きした。

 

 ただの友人だったオレ達がそうだったのだから、しのぶちゃんはもっとつらかっただろう。

 おっと。今はこう呼んだらもっと怒るんだった。胡蝶ちゃん、胡蝶ちゃん。

 まぁ、ともかく、そんな胡蝶ちゃんだが、カナエちゃんが死んでから、笑ったふりをずっとするようになった。まるで、カナエちゃんの理想を引き継いだかのように。

 

でも、本人も解っている筈だ。それは夢物語だと。

 所詮は無為な理想なんだと。

 それに、きっと胡蝶ちゃんは許せないだろう。

 姉を殺した鬼を。

 それを生み出す元凶を。

 きっと胡蝶ちゃんは許せない。

 

 そんなことを考えているのがばれたのだろうか。

 オレの前で、あの子は笑わない。

 

 きっと、オレでは彼女を救えないだろう。

 彼女を救えるのは・・・きっと、もっと強い人なのだ。

 

 解っている。解っているつもりだ。

 

 でも同僚に嫌われるって辛いの!

 桜花ぁ、頭撫でてー!

 

 

大正○○年 △月□日

  今日は桜花と町に出て、甘味処に入った。やべぇ、うきうきが止まらないよ。

  やめたいってのになかなかやめさせてもらえないから、桜花と二人で過ごせる時間はいつも少なくなってしまう。もしオレに育手がいたら、必ず毎日剣を握れ、とか、女に現を抜かすな、なんて言われるんだろうか。

 うるせぇやい。剣なんかより桜花の手の方がすべすべしてあったかくて、どきどきするんだい。このどきどきは剣持ってるときのそれとは全然違うモンだからね。

 剣持ってるときのドキドキ、『死にたくない』。

 桜花の手のひらを握ったどきどき、『死んでもいい』。

 これ、試験に出るよ新人諸君。

 

 なんて冗談を口にしたら、桜花は桜色の綺麗な髪と同じぐらい顔を桃色に染めて一言。

 

 

 「もう・・。兎さんはまたそんなことを往来で。桜花は、桜花は・・困ってしまいます」

 

 

 

 

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!

 

 

 

 

 

 綺麗な文を書こうじゃないか。うん。

 ちなみに好物の吹雪饅頭を頬張る桜花に夢中だったせいで一切気付かなかったが、同じ甘味処には蜜璃がいた。

 甘露寺蜜璃。恋に恋する恋柱。こんな地獄のような職場で結婚相手を探しているという。

 もしかして最強の柱はコイツなんじゃないだろうか。実際強いし。

 桜花との時間を邪魔されるのは正直いやなので、無視しようとしたら、ばっちり目が合ってしまった。

 そうなるともうね、寄って来るの。

 胡蝶ちゃんみたいに嫌われるのも辛いけど、蜜璃や杏寿朗みたいにめちゃめちゃなつかれるのも、それはそれで辛い。

 蜜璃。結婚についての相談ならまた聞いてやるから、今日は二人で過ごさせてくれよ。なぁ。

 すると、桜花が一言。

 

「まぁ、良いではありませんか。桜花も蜜璃さんとお話したいです」

 

 店主に頼んで桜餅と吹雪饅頭をしこたま注文した。

 桜花、たくさん蜜璃さんとお話していいからね。

 蜜璃、ありがたく食えよ。

 

 しかし、桜花と蜜璃が甘味を食べる姿は、なんというかとても絵になった。

 美女が二人並んで、甘いものを食べる。蜜璃が夫婦円満の秘訣を聞き出そうと身を乗り出し、桜花がそれをふふ、と笑っていなす。

 ってか蜜璃。そんなに身を乗り出すな、こぼれるぞ。何がとはいわないけど。

 そんな視線を送っていたことに気が付いていたのか、蜜璃と別れた帰り道。

 桜花はすこしご機嫌ななめだった。

 どうしたのか、と聞いてみると

 

 

 

「む。どうせ桜花のは蜜璃さんほど大きくありませんよーだ」

 

 

 ああ、やっぱばれてた。

 でもそれはしょうがないじゃん、男だもの。

 

 ふくれっ面の桜花もかわいいけれど、やっぱり笑った顔の方が好きだ。笑ってもらおう。

 どうせ隠し事をしてもばれるのだ。なら、正直に思いの丈を話そう。

 

 

 桜花。オレはたとえ桜花がどんな姿で生まれてきていたとしても、必ず桜花を好きになるよ。

 

 

 

 そこからの帰り道、しばらく桜花は顔をあげなかった。

 え? 怒った? 嫌いになった?

 桜花がオレのこと嫌いになったら、それだけでオレ心臓止まるよ?

 そんなことを考えていたら、屋敷の手前で桜花がオレの隊服の裾をきゅ、と掴んで、とてもか細い声でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・桜花も、必ず兎さんの妻になります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。オレは眠れなかったし、眠りたくなかった。

 




大正コソコソ噂話(偽)

桜花ちゃんは甘露寺さんととっても仲良しなんだ。
髪の毛も同じ桃色なんだよ。
でも決して桜餅の食べ過ぎじゃないんだよ。
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