十二支 兎 :胡蝶 カナエ。アイツには結局、何もしてやれなかったけど。
十二支 桜花:胡蝶 カナエです。幸福は兎さんにもらったけど、心はカナエにもらいました。
大正○○年 !月●日
あの戦いから三週間が経った。
肩の傷も、全身の裂傷も、折れた骨もほとんど治りつつある。
あと一週間もすれば退院できそう。
その旨を、胡蝶ちゃんが話してくれた。
舌打ちしながら。
可笑しいな、オレは治療を受けに来たはずなんだけど。
どんどん傷が増えていきます。
「何はともあれ、さっさと治して出ていってくださいね」
おい、トドメ刺そうとしないでくれ。
「ああ、それと。私はしばらくあなたの治療から離れます。もうほとんど治っていますから、あとはお出ししたお薬を欠かさず飲んでください」
あれ? 胡蝶ちゃんなんかやることでもできたの?
「私も柱ですよ。忙しいのは当たり前じゃないですか。相変わらず考えが足りませんね」
そう言って、胡蝶ちゃんはオレの病室を出て行った。
ふぅむ。
いくらオレの事が嫌いだからと言っても、胡蝶ちゃんは責任感の強い子だ。
その彼女が治りかけとはいえ、患者の治療を途中で切り上げる、というのも妙な話。
口を開いて、空気の味を確認した。
ここは療養所、さまざまな味が口に流れ込む。おえ。
血、薬、薬膳、布団、恐怖、涙、涙、薬、血、血、涙。
妙だ。
いつも口に入ってくる味よりも、血の味が濃い。
なにやらあわただしい気配もするし。
なるほど、急患がいるのか。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そう気付いた瞬間、屋敷の何処からか叫びが聞こえた。
びっくりした。すげぇびっくりした。
外を見ると、日がちょうど真上に昇ろうとしている。
まずいな、そろそろ桜花が来る。
こんな状況では、桜花も安心できないだろう。
もしかしたら・・・。
「ご、ごめんなさい、兎さん。なんだか忙しそうですし、今日はもう帰りますね」
よし、黙らせてやる。
「いやぁ! いやああああああああああああッ!!」
病室から出て廊下を進む。
とにかく声のする方へと進んだ。
ややあって、1つの扉の前にたどり着いた。
思い切り、立入禁止って書いてある。
時には、規律に反する事も必要だろう。
おじゃましまーす。
扉を引いて、中に入る。
ちゃんとあいさつも忘れない。これ大切。礼儀。
「! うさ、業柱。何をしているんですか。さっさと出て行ってください」
そうはいっても胡蝶ちゃん。こんなにうるさいとさぁ、ゆっくり休むこともままならないよ?
「今は治療中です。あなたのように気配の強い者がそばにいると、彼女の心に触ります」
彼女?
胡蝶ちゃんの背後を見る。そこには1人の少女が頭を抱えてうずくまっていた。
隊服を着ている。鬼殺隊士のようだった。
表情は良く見えない。
だが、ぶつぶつと何かをずっと呟いている。
「鬼、鬼が・・! 鬼が来るッ・・!」
鬼? 鬼の味なんてどこにもしないのに。
「みんなぁ、鬼、鬼ッ!?」
「大丈夫です、落ち着いて。もうここに鬼はいませんよ」
「皆が、刀、折れて、頭、先輩の頭が、飛んでッ」
「大丈夫ですよ、大丈夫」
うずくまった少女は半狂乱になりながら何かに怯え続ける。
胡蝶ちゃんの言葉も届いていないようだった。
近くにいた見習いちゃんに事情を聴く。
半狂乱になっていた彼女の名前は、アオイ。最終選別を抜け、癸の鬼殺隊士になったばかりらしい。
彼女は指令を受け、初めての鬼狩りに向かった。同伴したのは辛の剣士。癸の二つ上。彼女は他の癸隊士と共に、彼について鬼狩りに向かった。
恐らく彼女は息まいていただろう。初めての任務。選別を越え、日輪刀を与えられ。
初めて自らの力で人を救えると。
だが、待っていたのは残酷な現実だった。
現れたのは報告とは違う鬼。十二鬼月、下弦の陸。
オレが追っていた下弦の肆には劣るものの、辛、癸の隊士からすれば充分な脅威だ。
それでも彼女は諦めなかった。すぐに柱に増援要請、さらに辛の隊士にも負けない程手際よく撤退しつつ交戦を試みた。その判断は何ひとつ間違っていなかったと言えるだろう。
ただ計算違いだったのは、彼女たちは自分が認識していたほど強くはなかったと言う事。
胡蝶ちゃんが知らせを受け急行したとき、そこに居たのは下弦の陸の鬼。
そして、樹木に埋め込まれ、仲間たちが1人1人嬲られる様を見せられ続けたアオイの姿だった。
胡蝶ちゃんによって下弦の陸は倒されたものの、アオイの受けた精神的傷害は計り知れない。
もしかしたら、もう二度と前線にはたてないかもしれない。
それが、胡蝶ちゃんの見解らしかった。
結局、オレにできることなどなく、桜花の為に叫びを止めることも叶わず、オレはとぼとぼと病室に戻った。
布団を頭まで被り、考える。
アオイに起こった出来事は、決して他人事などではない。
オレも、俺達柱も死ぬときはあっけなく死ぬ。
鬼殺の剣士は鬼の天敵であると同時に、鬼に対し地の力で大きく劣る。
一度劣勢に立たされれば、そこから持ち直せなければ一気に嬲られる。
オレは弱い、弱いまま柱になった。
この先も生き残っていけるのか。
過愚夜は実質、無傷でオレとの戦いから生還した。
またアイツが襲ってきたとき、オレはアイツの頸をとれるのだろうか。
そんなことばかりが、頭に浮かぶ。
しばらくして、病室の戸が叩かれる。
失礼、といって入って来たのは桜花と、相変わらず暑苦しいアイツだった。
「おお! 兎殿!! 元気そうで何よりだ!!」
どこを見たらそんなセリフが出んの、杏寿朗。
「すまない!! オレとしても早く見舞いに来たかったのだが、何分立て続けに任務が入ってしまってな! よもやよもやだ!! すまない!!」
いいよ、気にしてないから。
「煉獄さんとはさきほど道でばったり。どうしても兎さんのお見舞いに来たいとおっしゃりまして。ここまでお連れしたんです」
そっか、ありがと。
「・・兎さん、何かあったんですか?」
・・・どうやら、相変わらずオレは隠し事が下手なようだった。
オレは先程であったアオイという少女の話を二人に話して聞かせた。二人はうぅむ、とその話を聞いてくれた。まず、口を開いたのは桜花だった。
「哀しい事ですけれど、そう言ったこと自体は決して珍しい事ではありません。恐怖と言う感情はどうしたって切り離せない、人間の特権ですから」
だから、気にしなくてもいいんですよ?
そんな言葉を、暗にかけてくれているのだと言うことを感じ取って、嬉しくなる。
桜花はオレの弱さを肯定してくれる。それは他の人間が決してしてくれないことだから、なんだかとても嬉しくなる。
次に杏寿朗が口を開いた。
「よし!! その子とオレが話をしよう!!」
なんでそうなる。
「なに! 後輩が困っているのなら助けるのが柱の役目だ!! さぁ行くぞ!! 兎殿、桜花殿!!」
そういって杏寿朗はオレの襟をつかんで布団から引っ張り出した。
ひどい、情け容赦がない。治りかけとはいえオレは重症なんだけども。
杏寿朗、痛い、すごく痛い。
離すんだ、今すぐ襟を離すんだ。
「そうか!わかった!!」
よし、それでいいんだ。
そして杏寿朗、そう言う事なら俺達よりも適任がいる。
「む! 誰だ!?」
そしてオレはアオイちゃんをオレよりばりばり重症患者の霙さんの所に連れて行った。
「・・・業柱様。事情は分かりました。が、なぜ私なのですか?」
何となく、相性よさそうだなぁ、と思って。
「そうですね、すくなくとも私たちよりは適任です。お願いします、霙さん」
「まぁ、奥様もそうおっしゃるのでしたら。それでは私はしばらく彼女とお話をしてみますので」
「俺も同席しよう!!」
良いから行くぞ、杏寿朗。
「む、しかし・・」
この問題にオレ達が介入する余地なんてないよ。
結局、アオイちゃんが乗り越えなくちゃならない問題だ。
そのための一押しをするには、オレ達じゃ力加減が利かないだろ。
霙さんが適任だ、杏寿朗。
「そうか! わかった、兎殿がいうならそうなのだろう!オレはこのまま帰る!」
やけに素直だな。どうした?
「なに! 俺にとっては兎殿がそう言った、という事実が大切なのだ!!あなたがそう言ったのなら、きっとそれは正しい事だと俺は信じている!!」
・・・あ、そう。
「兎さん、そんなに照れなくてもいいのに」
くすくす、と桜花が笑う。可愛い。
そして俺達はアオイちゃんを霙さんに任せて各々やるべきことに取り掛かった。
桜花はオレの食事を用意しに。
杏寿朗は鴉より伝令を受け次の任務に。
そしてオレはアオイちゃんを勝手に霙さんに預けたことを胡蝶ちゃんにこっぴどく叱られに。
ただ、結果的にこの選択は間違っていなかったことを、後にオレは知ることになる。
大正○○年 ↓月 ●日
やがて傷の完治したオレは、霙さんに頼まれていた妹探しを任務の間にこなすことにした。ちなみに傷の治りが速すぎる、ということで隠の皆さまが盛大に引いていらした。すげぇ引いてた。いとやるせなし。
でもって、問題が1つ。
氷柱家は代々13歳で育手の元に修行に向かう。その修行第一段階と言うのが、なんと水も食料も持たず、刀一本で育手の元にたどり着くという過酷すぎて泣けるもの。霙さん、あなた。苦労してたんだなァ。さらに、氷柱家の人間には育手についての事前情報がほとんど与えられない。つまり下手をすれば誰とも出会えずに、修行に入る前に死んでしまう。
霙さん。あなた、怒っていいと思うなァ。
つまり、妹さんがどの育手の元に向かったのかがさっぱりわからないのである。
知っている育手を片端から回るしかない。
それも任務の合間に。根気求められすぎかよ。
そんなことを考えながら、育手を探す。
安請け合いしたもんだなぁ、でもオレ達にとって恩人の頼みだしなァ。
桜花の弁当を持って、岩に座る。辺り一面草原。奥に見える崖の近くに大きな木があるだけ。時刻は昼。
まぁ、この状況なら鬼も出ないだろ。
そう思って弁当箱の蓋を開けた。
沢庵はもちろんの事、煮豆、昆布、梅干しなど、長旅に備えた献立。
いいなぁ、愛情だなぁ。
箸を動かし、弁当をにこにこ食べていると。
背後に気配を感じた。
振り返ると、草原の向こうに見えた木に向かって、1人の少年が走ってくるのが見えた。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 絶対死んじゃうってこれ以上は!!」
なんだかものすごい後ろ向きなこと言いながら走ってくる。黒い髪に黄色の羽織の彼は、その内せっせと木を登り始めた。
その後しばらく経って、またも草原の向こうから人影が。杖をついた老人だ。空気の味が只者ではないと告げている。熟練者だ。何の熟練者かはわからないが、もしかしたら昔お抱えの役人だったとかかなぁ。
やがて老人は木の天辺に昇った少年と口論を始めた。孫を叱っているのだろうか。
だがまぁ、これ以上桜花のお弁当を味わう楽しみを失う訳にはいかない。
そう思って、次々おかずに手を付ける。
最後に残るのは特製の沢庵。ああ、至福だ。至福のひと時。
せっかくだから全身で喜びを表現してみるかな。
あっはっは、万歳!!
そうやって馬鹿な俺が馬鹿な行為に浸っていた瞬間だった。
ピカッ!! ドォン!!
轟音が辺りに響いた。直後、後ろから叫び声と暴風、箸からこぼれる沢庵を空中で口の中に入れながら、地面を転がるオレ。
痛い、一体何が!?
そう思って音がした方を振り返ると、さっきまで生き生きとしていた木が黒焦げになっていた。
さっきの音と加味して考えると、雷がおちた、と考えるのが妥当か。
恐ろしい話だ。こんなに快晴なのに。
この辺りに一本だけ生えた木に落雷が落ちるなんて・・・。
ちょっと待って。
あの木、さっき少年が1人登ってなかった?
「善逸―――――――――――――ッ!?」
名も知らぬ少年―――――――――――ッ!?
余りにも不幸なその最期に、オレも思わず叫んでいた。
大正コソコソ噂話(偽)
炭治朗
「そういえば白雪はここに来る前何をしてたんだ?」
白雪
「んー? ボクはねー。ネズミを食べたり、田んぼの水を飲んだりしながら過ごしてたよー。ここまでくるのもたいへんでさー」
炭治朗
「そうか・・そうか・・・(ホロリ)」
白雪
「? 炭治朗ー? どうしたの? なんで泣いてるのー?」
炭治朗
「今日のおかずのタラの芽。白雪にあげるよ」
白雪
「ほんとー? 炭治朗だいすきー、男の子の中ではだけどー」