柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

22 / 65
壱拾参.苦手な人はいますか?


十二支 兎 :いっぱいいるけどそうだなぁ。一番何考えてるのか解んないのは悲鳴嶼さんかなぁ。あの人、怖いし。

十二支 桜花:伊黒 小芭内さんです。時々私の方をじっと見つめてくるのですが・・何の御用なんでしょうか? すこし怖いです。

十二支 兎 :よし、アイツぶっ殺す。


十二支 兎と 強靭な刃

大正○○年 !月●日。

 

 落雷が直撃すると言う空前絶後の不運に見舞われた少年、我妻善逸(あがつま ぜんいつ)は、かろうじて生きていた。落雷の影響で、なぜか髪が黄色になっていたけれど。

 そういえば蜜璃の奴は桜餅を食べすぎた所為で髪が桃色になったと教えてくれた。改めて、人間と言う生き物の仕組みを不思議に思う。

 

 善逸君の保護者だと思っていた老人は、なんと彼の育手だった。善逸君を担いで老人の家に入り善逸くんを布団に寝かせた後、こちらの事情を話したうえで元柱だという彼から事の仔細を聞く。

 なんでもこの隊士候補の善逸君。悪女に金を貢がされ、借金で首が回らなくなったところを老人に救われ、その引き換えに剣士としての修業を始めた。

 だが、才能は確かなのだがいかんせん臆病で、稽古がきつくなるとすぐに死ぬといって泣きわめき、すこし目を離せばあっという間に逃げ出してしまうらしい。

 

 「善逸は強い。間違いなく100年に1人の逸材だ。だがなぁ、こうも臆病では。毎回引き回す儂の身にもなれい」

 

 本人がいやだって言ってるんですから、止めさせてあげればいいのに。

 

 そういうと、老人は厳しげな顔立ちからは想像もできないほど柔和にほほえんだ。

 

「こやつはな、底抜けに馬鹿な男でな。儂が助けた時も、騙した女に文句の1つもいわん。修行にしてもそうだ。逃げ出した、泣きわめいた。だが、いちども誰かの所為にはしなかった。夜、皆が寝静まった後に必死に刀を振っているのを見たことがある。こやつはこやつなりに、弱い自分とずっと切り結んでいる。そんな真っ直ぐなこやつを見ているとなぁ。教えるのが楽しくなってくるのよ」

 

 だから、これは儂のわがままだ。邪魔はさせんぞ、若造め。

 

 そういって笑う老人を見て、オレもおかしくなって笑ってしまった。

 

 その内もぞもぞと音がして、布団から善逸君が顔を出した。

 

 「おお、善逸。気が付いたか、どうだ。気分は」

 

 そして老人が声をかけた直後、善逸君は。

 

「あ゛―――――――――――ッ!? じじじじじじじじじじいちゃんんん!! オレ打たれたよ!! なんかすっごい痛い体中が痛いよ!! しんだしんだしんだ!! 絶対死んだよオレ!!うああああああ、こんなことならやっぱり修行なんてするんじゃなかった!! 俺なんかが頑張ったって意味ないよ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 黒焦げになって死ぬよ!! 黒焦げに・・・ぎゃああああああああッ!? 髪が、髪が黄色になってるぅぅ!? 病気だ!! 未知の病原菌だよきっとコレ!!」

 

 

 すっごい汚い高音を発しながら泣きわめ始めた。

 うるさい。赤子よりうるさいんだけど。

 

「落ち着け善逸!! お前は無事だ、なんとも」

 

「気休めはよしてくれじいちゃん!! 死んだんだよオレは死んだ!!もうおしまいだよ! オレじいちゃんの期待に応えたかったのに!」

 

 ご老人、嬉しそうにしている場合じゃないと思うよ。

 

「・・・・あ゛ッ」

 

 善逸くんがオレを見て固まった。普段見慣れない男の存在にここがこの世であると認識したか。

 

「あ゛――――――――ッ!? し、死神だァァ!! 不吉だもの!! 白い髪に赤い目って完全に死神だよ!! 最悪だよなんで男なんだよどうせなら可愛い女の子に看取られたかったよー!!」

 

 初対面で失礼だね君は。オレは人間、十二支 兎。一応柱やってる。よろしく。

 

「嘘だー!! そうやってオレの魂を涅槃に持っていく気だろ! うわああああん!!」

 

 ついに泣き出した。

 なぁ少年、ちょっと落ち着けよ。ねえってば。

 

 

 

 

 その後、なんとか善逸くんをなだめすかす。

 飴をあげてみる。

 震えながら受け取った彼を見ながら、オレは老人に改めて聞いてみた。

 

 ご老人、ここに氷柱、という名字の女の子が来なかった?

 

「いや、ここには来ておらんよ。来ておったら善逸ももうすこし真面目に修練に励んでいただろう」

 

「酷いやじいちゃん」

 

「師範と呼べ。ここからだとそうさな・・。狭霧山が近い。元水柱の鱗滝がいる筈だ。そちらに向かってみてはどうか」

 

 鱗滝。たしか冨岡くんの師範。そういえば約半年と少し前、冨岡君が1人の少年と人を庇った鬼を彼の元に送ったと言っていたような。

 よし、ついでにその子の顔も拝んでくるか。そう思い、オレは礼を言って老人の家を出ようとした。

 

「少し待て、若き柱よ」

 

 しようとした、ところで呼び止められた。なにさ? 飴ならもうないよ。善逸君にあげたのが最後。

 

「いや、折角来たんだ。1つ、儂の頼みを聞いてくれんか?」

 

 最近頼みごとされてばっかだな、と思いつつ。オレは話だけでも聞いてみることにした。

 

 そしてその頼みの内容を聞いた時。 

 善逸君の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 そして、しばらくしてからのこと。

 広い修練場に木刀を構えるオレの姿があった。

 

 さぁ、いつでもどーぞ。

 

 オレの向かい側には真剣を持つ少年、我妻善逸。

 

 「無理だよ無理絶対無理。すげー強そうな音するもん、なんだよこれバケモンかよ」

 

 

 老人に頼まれたのは、早い話が彼の愛弟子への剣術指南だった。

 元柱の指導を受けられる隊士は稀有だが、現柱に剣術を見てもらえる機会に恵まれる剣士はもっと珍しい、とのことで、どうか少し見てやってくれないか、と頼まれたのだ。

 まぁ、別段難しい事でもないし、本当の殺し合いという訳でもないのだ。オレは了承することにした。

 困ったのは善逸君である。師範から聞いていた柱の強さに完全に委縮した彼は再び脱走を試みた。

 それを3秒で捕縛すると、絶望の表情でオレを見上げてきた。複雑。

 

 

 オレは柱の中で一番弱いからそんなに心配いらないよ?

 

 優しく言葉をかけてみるが、もはや言葉を話すのも難しそうだった。

 すると老人が善逸君を7、8発杖で殴り、そのまま縄でひきづって修練場に連れて行ってしまった。いくらなんでも殴り過ぎじゃない? 善逸君が逃げたくなるのも解る気がするわ。

 

 

 そして、先ほどの状況にいたるのである。

 

 まずは斬り込んできてご覧。大丈夫、怪我したりしないから。

 

 その言葉に善逸君は震えながらも刀を構える。

 なるほど、持ち方はしっかりとしているが、目が泳ぎ過ぎている。

 自分に自信がない者の典型的なパターンだ。

 

 「いいいいいいい、いくぞおおおお!!」

 

 もはや焼け石に水。そんな鬼気迫る表情で、善逸君は大地を蹴った!!

 

 

 

 ずるっと音がして、善逸君がひっくりかえった。

 こけたのだ。

 

 

 ・・・・・・・・。

 

 

 「・・・・」

 

 老人は何も言わない。

 いや、何か言ってください。

 どうすればいいですか。善逸君動きませんよ。気を失ってますよ?

 

 「何をしている」

 

 そうそう。修練を付けるにも、まず善逸君を起こさないと。

 

 「構えろ、柱の若造。『来るぞ』」

 

 へ? 『来る』? 何が?

 

 と、老人に問おうとした瞬間だった。

 

 シイィィィィ・・・。

 

 ドン!

 

 何かが爆発したかのような音と共に、目の前が黄色に染まった。

 

 

 おっと。

 

 対応できない速さではない。

 オレは即座にその物体を回避し、状況を確認する。

 といっても、オレの相手は今善逸君しかいないのだから、突っ込んできたのは十中八九彼になる。しかし驚いた。これだけの実力があるなら、あんなにも怯える必要はないだろうに。いまだなんらかの呼吸法で刀を構える彼を見る。

 

 ・・・・あれ?

 なんか、様子が変じゃないか?

 

 そうこうしていると、善逸君がまたも居合の体勢に入る。

 また飛び込んでくる気なのだろう。そう考えたオレは、手にもつ木刀を構えた。

 呼吸を使えば、恐らく木刀の方が耐えられないので、普通に一発入れて確認してみるか。

 

 そして、善逸君が足を力いっぱい踏み込んだ。

 今度は、こけない。正しく力が入れられている。

 

 

 『雷』の呼吸・壱ノ型 『霹靂一閃』

 

 ドン! という、まるで彼の髪色を変えた落雷のような音と共に、善逸君が突っ込んでくる。

 オレは身体を捻って、それを躱す。

 刀の振り方には無駄がない。

 震えなど微塵もない。

 何より驚くべきは、彼がいまだ気絶したままだと言う事。

 身体に染みついた鍛錬と、強い想いが、彼の意識を超えて体を動かしている。

 

 

 彼が刀を振り切った、その隙。

 木刀を彼の懐に叩き込みながら、オレは届くはずの無い言葉をかけていた。

 

 善逸君。君は凄い。

 はやく柱になってくれ。

 オレは待っている。

 もっと君は君を信じるべきだ。

 大丈夫。

 君の努力は、きっと無駄じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我妻善逸は、混濁する意識の中で考えていた。

 かろうじて覚えているのは、あの死神のような姿をしながら、強く、何かを恐れるような音を立てている1人の男。十二支 兎と名乗っていただろうか。彼に無理やり修行を付けてもらうことになった事。いやだといったのに聞き入れてもらえなくて、本気で自分の師を恨んだこと。

 緊張のあまり足を滑らせて、頭を思い切り打ちつけたこと。

 そして気が付けば自分は修練場に倒れていて、あの兎と名乗った男は居なくなっていた。

 

 一撃でやられるとは修行が足りん!

 

 そういって鬼より鬼な師範に殴られながら、善逸は涙を流していた。

 

 その涙が、いつものそれより静かなことに気付いた師範が、どうした、と善逸に尋ねた。

 

 わかんないよ。

 

 と彼は答えて。

 そしてそのままこう続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、なんだかずっと欲しかった言葉を、誰かに言ってもらえた気がする。

 




大正コソコソ噂話(偽)

十二支 兎の手紙
「お館様。将来有望な逸材を見つけました。我妻善逸という少年です。確かな才能を感じました。どうでしょう、ここはひとつ私と彼の立場を交換すると言うのは」

産屋敷 耀哉
「兎、まだ諦めて無かったのかい?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。