柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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壱拾五.行ってみたい場所はありますか?

十二支 兎 :そうさなぁ。綺麗な庭園が見たいなぁ。

十二支 桜花:綺麗な花が咲く場所が良いですね。


十二支 兎は 思い出す。

大正○○年 ●月 ●日

 

 若々しく未熟な緑色から、老骨を思わせる鮮やかな橙色に。

 季節は秋。

 年の暮にはまだ時間があるけれど、オレたちは業屋敷の大掃除、ないし大片付けに着手していた。引っ越しの準備である。

 

 今年の晩夏。オレ達の住む業柱は十二鬼月二体の襲撃を受けた。これを辛くも撃退したオレ達だったが、やはり鬼殺隊の柱の住み処が鬼側にばれてしまったというのは結構な大問題な訳で。

 

 なにより、桜花の安全が保障されないのが大問題な訳で。

 

 オレは何度もお館様に嘆願書を提出した。

 新居、ならびにさらなる安全の確保の提唱である。

 

 もう、たくさん送りつけた。

 一日に三冊送った。ねぎまが過労死しかけた。

 あいつ、他の鎹鴉と手を組んで反乱を企てていたらしい。

 

 事態を重く見たお館様は隠に命じて全力でオレ達の新居を建築。

 もう、墨俣一夜城並の速度、かの豊臣秀吉もびっくりな速度で建築。

 

 しかし、屋敷が完成した後確実な安全性を確保するのに手間取ってしまったらしい。

 なにせ前回、下弦の肆は藤の花の結界をものともせずに霙さんを追い込んで見せた。彼女が特殊だったのか、それとも鬼が藤の花に対する耐性を得たのか。

 ただ、隠の報告によれば相変わらず藤の花を避ける鬼が多い事から、前者の可能性が高い、というのは希望的観測だろうか。

 

 ともかく、この屋敷はもう相手に割れている以上、使えない。

 必要なものだけまとめて、引っ越しをするのだ。

 そのための応援も呼んである。

 

 

 

 

 「兎殿!! 俺は何をすればいいだろうか!!」

 

  杏寿朗、お前は家の外で待機。いざというときにはオレ達を守って頂戴。

 

 「わかった! 任せてくれ!!」

 

 あいつに任せたらいろいろ壊される。

 

 「おい、地味派手兎。この箪笥は隠に渡せばいいのか?」

 

 宇随君、そうだね。その箪笥は隠の皆さんに渡して。運んでくれるそうだから。

 で、そっちの部屋に移動させたものが要らない物。宇随君の屋敷に必要なものがあったら持って行っていいよ。

 

 「そうか、悪いな」

 

 いいよ、嫁さんが三人もいたらいろいろと入用だろ。

 

 「兎くーん!! 聞いて聞いて酷いのよ!!」

 

 安心しろ。たぶんひどくない。

 

 「聞いて聞いて聞いてよ!私もお片付け手伝おうとしたら隠の皆が結構です、って口揃えて言うのよ!! ひどいと思わない、私柱なのに!!」

 

 そうか、ちなみにどこの片づけ手伝おうとしたんだ?

 

 「台所! お野菜重そうだから手伝おうと思って」

 

 隠の皆さん、英断です。引き続き蜜璃には食べ物を触らせないように。

 

 「委細承知です、業柱様!」

 

 「おい、はやく運び出せ! オレ達の弁当まで食われたら洒落にならん!」

 

 「なんでー!?」

 

 …。

 ねぇ、お前等なんでいるの? オレ手伝いは隠の皆さんにお願いしたし、護衛は冨岡くんに頼んだと思うんだけど。

 

 「ん? なんだ聞いてねえのか。オレと煉獄はお館様から手伝うように言われてんだよ。仮にあの鬼女が攻めてきたら、お前ひとりだと手を焼くかもしれないとおっしゃってな」

 

 「私は冨岡さんに頼まれたの。なんでもどうしても外せない任務が入ったからいけないって。本気で残念そうな顔してたわ、可愛かったの」

 

 冨岡あの野郎。

 炭治朗くんたちのこと追及されるのが嫌で逃げたな。

 見てろよ、その内ぎりぎりと締め上げて

 

「皆さん、お手伝いありがとうございます。兎さんもちゃんとお礼を言わないとだめですよ」

 

 ありがとうみんな! 大好きだみんな!!

 

「地味派手兎、やっぱりお前は病気だ」

 

 そうとも! これは恋の病!

 

「すばらしいわ! 素敵だわ!!」

 

「雛鶴、まきを、須磨。俺はもう帰りたい」

 

 

 そんなこんなでみんなに手伝ってもらいながら引っ越しを進めていく。

 もともとオレも桜花も物に執着する質ではないので、これだけ頭数がいると次々に片付いていく。

 さぁ、オレも自分の物くらいは片付けないとな。

 

 

 

 自慢じゃないが、オレは自室の片づけが苦手だ。

 一度使った物を、元の場所に戻すという手間を惜しみがちで、床に物が散乱してしまう。

 そういった時、桜花はオレの事を怒りながらも片づけを手伝ってくれる。

 今日だって、例外じゃない。

 

「まったくもう、兎さんは、もう。桜花がいないと何もできないんですから、もう」

 

 そう言いつつも、口元をほころばせながら手伝ってくれる女神。通称、桜花。

 

 床の紙束を纏めて縛る。

 内容はすべてお館様への嘆願書である。1つとして許可が降りていない。

 

 柱辞めていいですか?    

 もうすこし頑張ろう。

 

 柱の世代交代も必要です。

 君はまだ若い。

 

 交換条件で。上弦を斬ったらやめていいですか? 陸とか陸とか、あと陸とか。

 審議不可、さしあたり継続。

 

 

 

 こんな感じのやり取りが、もうすぐ百回に上る。心の折れる音がして、折れた破片が砕ける音を聞いた気がした。聞く耳を何処に落としたんです、親方様?

 

 紙束を集め、それを一か所に集める。努力の成果だが、おそらくもう役に立たない。

 ふと、紙束が消えむき出しになった畳を見る。

 久々に自分の部屋の畳を見た。

 

 「だいぶ片付いてきましたね、兎さん」

 

 そうだね、桜花。

 

 それにしても思い出すねぇ。こうしてこの部屋の畳を見てると。

 見てご覧、そこに開いてる、小さな穴。

 あの穴のこと、覚えてる?

 

 「そ、それについてはもう、いいじゃないですか」

 

 両手を振って話を逸らそうとする桜花。

 昔の話をするのは恥ずかしいのだろう。

 でも、俺ははっきり覚えている。

 この、日輪刀が突き刺さった跡の事を。

 

 

 さかのぼる事、三年前。

 

 俺は紆余曲折あって、業柱になった。柱になるつもりなんて欠片も無かったのだが、何時の間にやら50もの鬼を狩ったことになっていたらしい。

 そして柱になった事の祝い、という形で、俺はお館様から大きな屋敷を賜った。

俺は恨んだ。

 独り身に屋敷与えてどうすんだ、と。

 寂寥感で死んだらどうすんの、と。

 

「うさぎー! 柱就任おめでとー!」

 

「見事だ、兎! うむ! 実にめでたいな!」

 

 屋敷に行ってみると、そこには幼馴染の胡蝶 カナエと兄貴分の煉獄 杏寿朗が立っていた。オレを驚かせようとしたらしい。

 

 二人とも、何してんだよ。仕事は?

 

「なに、大事な兄妹弟子の祝いだ。何を放っても駆けつけるとも!」

 

 …ありがとう、杏寿朗さん。カナエも、ありがとな。

 

「ううん! 気にしないで。兎の新しいお家、私も見てみたいもの」

 

 オレの新しい家を? なんでまた?

 

「え? え、えーっとね?」

 

「ああ! 胡蝶は先程独り言でどうせならここでお前と共に暮らしたいと」

 

「えー!? あはは、言ってない言ってない! 煉獄さん。それは聞き間違いよ」

 

「む? そうなのか? 失礼」

 

 二人のやり取りを聞き流しながら、新しい家、業屋敷に入る。

 広いなぁ。

 朝も、昼も、夜も。ここに帰って来たとして。

 オレは帰って来たと思えるのだろうか。

 そんなことを漠然と考えていた時だった。

 

 

 

 

 

 自分の背後に、強い殺気を感じた。

 

 トン、と首筋に当てられた刃物。

 紅色の刃だった。

 

 

 「あなたは鬼ですか? それとも人ですか?」

 

 可憐な、少女のような。それでいて確かな殺意の込められた声だった。

 

 「振り返らないで」

 

 「鬼なら殺します。鬼は殺します。鬼を殺します。人であるなら、今すぐここから出ていって」

 

 「桜花!!」

 

 どたどたどた、と音がして。

 引き戸を開け放って、カナエが部屋の中に突撃してきた。

 背後の気配の主が、一瞬気を取られる。

 

 怖いし、今のうちになんとかしちまおう。

 俺は腰の日輪刀を取り、身体を捻る。

 上半身を下に振り、遠心の力を利用して、オレの刀で相手の刀をはじく。

 

 キィン、と音がして。

 紅色の刀が飛び、床の畳に突き刺さった。

 

 相手の姿をよく見る。

 女性だ。桜色の髪、黒い鬼殺隊服。羽織は、元は白い羽織だったのだろうが、帰り血だらけで異臭がする。

 彼女は、飛んで行った自らの日輪刀を見つめている。

 

「弾かれた? 私の刀が…?」

 

「桜花、なにやってるの」

 

「胡蝶カナエ。この男は誰です?」

 

 「もう、何回も説明したでしょ? 今日からこの屋敷に住む新しい柱の十二支 兎くん!

もー、桜花ってばこの屋敷の最終安全確認と情報の隠匿が任務でしょ! なんでこんな所に居るの?」

 

「最終安全確認なんて必要ありません。弱い鬼殺隊士なんて必要ない。どれほどのものか見に来たのです。ですが」

 

 そういって相手の少女はオレの顔をまじまじと見た。

 均整の取れた顔、長い睫と、おれより薄い朱色の瞳。

 その彼女が、オレの顔をまじまじとみつめている。

 

「まぁ、役には立つのでしょう。鬼を殺しなさい。鬼を殺すのです。さもなければ・・、いえ、なんでも」

 

 そういって彼女は刀を拾い、部屋から出て行った。

 

「…ごめんね、兎。あなたが来るちょっと前に居なくなってたから煉獄さんに探してもらってたんだけど。悪い子じゃないのよ、可愛いし」

 

…。ねぇカナエ。

 あの人の名前、なんていうの?

 

 

 

 

 

 

 

 

「?『仇散華 桜花』だけど? どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 仇散華 桜花。後の、十二支 桜花。

 この穴は、俺と彼女の出会いの始まり。

 

 そこから彼女が今の桜花になるまで、それはそれは長い話があるんだけども。

 それはまた、別のお話。

 




大正コソコソ噂話(偽)

 現在
 
 「うむ、周辺を回って安全を確かめればよいのだな!!」

 三年前

 「では、仇散華を探しに行くぞ。周辺を回ってみるか!」

 
 いつの時代も家に入れない煉獄さん。
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