十二支 兎 :桜花の寝顔をかならず眺めてから眠っています。次の日の活力になります。
十二支 桜花:ねっ!? う、兎さん! そんなことしてたんですか!?
十二支 兎 :可愛いのよ、すげー可愛い。天使かと思ったら天使だったわ。
十二支 桜花:知りません知りません! なんでそんな恥ずかしい事…!
十二支 兎 :この間なんて『兎さん、桜花の手をぎゅーってしてください』なんていう寝言を…
十二支 桜花:全集中! 『桜』の呼吸、参ノ型。
大正○○年 ●月●日。
新しい屋敷への引っ越しが完了した。
こんどの屋敷はお館様の屋敷よりすこし距離がある。
前の屋敷は藤の花、ならびに竹林に守られていたが、今回はそれに加えて、複数の偽屋敷が作られている。
その数、本物を入れれば屋敷が五邸。そのうちどれか一か所に異変があれば、すぐに鎹鴉が俺たちと鬼殺の本部に飛ぶようになっている。
手伝ってくれた仲間たちと別れ、桜花と一緒に屋敷を見て回る。
「さぁ、兎さん。折角綺麗なお屋敷を貰えたんですからあまり散らかさないようにしてくださいね」
わかってる、わかってるよ。散らかさない。
「解ってくれたならいいですよ。さぁ、台所を確認しないと!」
るん、るんと鼻歌を歌いながら新しい台所を見る桜花。知ってるか?台所には器量の良い子が良く似合うんだ。
そうだ、桜花にもう一つ伝えることがあったんだ。
なぁ、桜花、こっち見てみ。
「? なんですか? 兎さん。早くお屋敷見て回りましょうよ」
うずうずしている。心なしかめがくりくりしている。
あれかな、ご飯を待つ飼い猫的な?
だめだ、ニャンニャン桜花は危険だ! 脳内にしまえ、十二支 兎!!
「? 兎さん?」
ああ、なんでもないよ桜花。すこし尊かっただけ。
実はな、このお屋敷以外にもらったものがあるんだよね。
「なんですか? もうすぐ冬だから、蜜柑とかです?」
ううん、ちょっと休み貰ったの。
「え!? お休みとれたんですか!? 柱なのに!?」
まぁ、ちょっとした裏技兼お仕置き的な方法でね。
「? お仕置き?」
桜花はこてん、と首をかしげる。
よくわからない、といった表情だ。
まぁ、ばれれば絶対に怒られるからな。黙っていよう。黙っていれば、沈黙こそが真実だ。
同時刻、遠く離れた山間にて。
「カァー! 次! 次! 池ニ少年ガ引キヅリ込マレテイル!!」
「…今日は多いな」
「業柱ノ仕事ガ一月オマエニマワル!! カァー!!」
「・・・・」
水柱、冨岡義勇がややこけてしまった口から、白い息を吐いた。
と、まぁお休みがいただけたわけだ。桜花。
「まぁ、なんにしても桜花は嬉しいです! 兎さん、久々のお休み、鬼の事は忘れてゆっくり休んでください。桜花、なんでもしますからね!」
なんでも、という部分をしっかり記憶しておくことにして。
すまないが、桜花。もう予定が決まってるんだ。
「あ、そうなんですか…」
なんだか少しさみしそうだ。
オレが1人でどこかに行くとでも思っているのだろうか。
まさかまさか。そんなまさか。
だから、オレはどこかに行くならお弁当を作りますよ、と言った桜花に向かって言い放った。
そうだな。この『旅行』の初日に食べよう。
必要なのは、オレの分と桜花の分、二人分だ。
大正○○年 ●月■日
日本に訪れた異国人は、明治の世に比べれば随分と減った。日本が清と戦争をし、そのまま露西亜ともめまくり、さらにそのまま世界を巻き込む大戦へと踏み出したからである。
だが、美しい記憶と言うものは何時までも残る。かつて異国の人々は日本の寺院、景色を見て美しいと言った。そしてその気持ちに、国籍は存在しなかった。
だってオレもそう思うから。この景色を見て、美しいと思うから。
海に浮かぶ無数の島々。そこに沈む、茜色の夕日。牡蠣を取るため海に出る漁師たちが歌っている。日本で一番狭い海なのに、なぜだか果て無く見えてくる。
桜花、見てご覧。瀬戸海の夕日だよ。
汽船に共に乗り込んだ妻を見る。
外套を羽織った彼女は、ただ黙って海を見ている。
「ねぇ、兎さん‥」
桜花がオレの方を見る。身長差の所為で、彼女は自然とオレを見栄げる形になった。
手が震えている。瞳がうるんでいる。
ごくり、と生唾を飲んだ。
「ねぇ…」
柔らかい唇から言葉が漏れる。なんだか、いけないことをしている気分だ。
桜花。
「兎さん…」
すとん、とオレの胸元に桜花が飛び込んできた。
軽い、羽根のように軽い体だった。
「兎さん…」
「この船、沈みませんよね!? 大丈夫ですよね!! 信じられない! 水に浮かぶなんて!!」
そこに恋愛物語の形は無く。
彼女にあったのは恐怖のみ。
大丈夫、大丈夫だって。
「ホントに!? 本当に大丈夫!? 嘘だったら許しません! ええ許しませんとも!! 百年経とうが千年経とうが今日と言う日を許しません!!」
小舟じゃないんだ、汽船だよ?
そう簡単に沈まなないって。
「そ、そうですよね。沈まない、沈まない、沈んだりしない…ひゃあ! いま、揺れた!!揺れましたよね!!」
桜花、君今すっごく可愛いんだけど、すごく見られてるから。汽船の乗客に見られまくってるから。落ち着いて。
「転覆!? 転覆の兆しですかこれは!?うわーぁん!!」
まずい、とうとう泣き出した。
仕方がない。これ以上は近隣の方にご迷惑だ。
落ち着いてもらおう。
オレはそっと桜色の頭に優しく、手のひらを置いた。
よしよし、大丈夫。大丈夫だ桜花。
頭を撫でる。
頭を撫でる。
そうしていると、桜花はだんだん静かになった。
落ち着いてきたらしい。オレは手を止めた。
「あの、兎さん・・」
胸元で声がした。どうした桜花?
「・・・、もっと、してください」
大丈夫、鼻血は天然の物のはずだ。瀬戸海に還る。
オレに手ぬぐいを与えようとする船員と何故か攻防を繰り広げようとするオレの叫びが海に木霊する中、汽船は一路、俺たちの旅行先。
四国へと、向かっていた。
十二支 兎が向かった島国、四国。
山間の中にある一見の山寺に、1人の剛僧が立っていた。
「喰わぬ・・・喰わぬ・・・拙僧は人など喰わぬ・・!」
力と力の、ぶつかりあいが始まろうとしていた。
大正コソコソ噂話(偽)
船員
「だんなぁ! その血をふかせてくだせぇ! そのままじゃあんた失血死しますぜ!!」
兎
「大丈夫だ。愛だから、これでも一応愛だから!!」