十二支 兎 :桜花と沢庵。あと桜花の笑顔。
十二支 桜花:兎さんと吹雪饅頭です。あと、兎さんが鬼を斬らなくてもいい世界になればいいなぁ、と思います。
大正○○年 ※月○日
雪が溶けて、ようやく暖かくなってきた。そろそろつくしが芽を出す季節。
気温が上がると、本当に布団から出たくなくなるよね。
働きたくない。
ずっと布団の中にいたい。
ましてや鬼退治なんてもってのほか。
こんな平和な時間が何時までも続けばいいのになぁ。
なんてまどろみながら横をみると、そこにはすやすやと寝息を立てる最愛の妻。
おや、こんな時間まで寝ているなんて珍しい。
桜花は基本的にオレよりも早起きだ。早起きして布団をたたみ、服を着替えて、朝食の用意をし、髪も整えず食卓に現れるオレの世話をやいてくれる。
改めて桜花の顔をまじまじと見る。陶器のように美しい肌に、ふっくらとした唇。表情を見れば、驚くなかれ。寝ているときまで優しい顔だ。
綺麗な顔してるだろ? 嫁さんなんだぜ。オレの。
さて、桜花もきっと疲れていたんだろう。ぐっすり眠っている。しめしめ、今のうちに思い切り驚いてもらうための準備をしておくかな。
一時間後。うん。まだ寝てるな。
驚いてもらう準備は完璧だ。あとは可愛い可愛い桜花が起きるのをまつばかり。
それからしばらくして、隣で桜花の寝息が止まる音。
布団の中でもぞもぞ動く音。
それから外を見て、息を呑む音。
慌てたようにパタパタと布団を出て調理場に向かう音。
そしてしばらくしてオレの所に戻ってくる音。
狸寝入り狸寝入り。
そして、優しく布団がめくられた。
「兎さん、起きてください。朝ですよ」
うぅん。と、今起きたようなふりをする。
それを見て桜花はクスクスと笑った。
「ねぇ、兎さん。今日桜花はすこし寝過ごしてしまいました。ごめんなさい。でも、すっごくふしぎなの。台所に行ったら、窯にはご飯が炊いてありました。お鍋にはお味噌汁が作ってあって、沢庵も切ってありました。卓には吹雪饅頭も置いてありました。昨日干した洗濯物も取り込んでありましたし、綺麗にたたんでもありました。ねぇ、桜花は寝過ごしちゃったのに、すっごく不思議でしょう?」
きっと答えは解っているのだろう。
でも、なんだかおもしろいからすっとぼけることにした。
きっと桜花が何時も頑張ってるから、仏さまからの贈り物さ。
そう伝えると、桜花ははにかみながらこう言った。
「そうかしら。じゃあお礼を言わないと。 ありがとう、白い髪の仏様。桜花はあなたのおかげで、とっても幸せです」
ああ。幸せだ。こんな時間を、大切にしていきたいなぁ。
「うむ! 兎殿は本当に家族思いで結構!! 良い事だ良い事だ!!」
なぜいる、煉獄 杏寿郎!?
布団から出てまず杏寿郎に殴りかかり、そのまま二人で転がって玄関まで連れて行った。
「いやすまない!! 玄関で声をかけたのだが、誰も出なかった!!! こちらも急ぎの用だった故、ずかずかと家の中に入り込んでしまった!! 申し訳ない!!」
最悪の気分だよ。杏寿郎。ホントに何しに来た。
思えば、桜花もオレも互いに夢中だったのだろう。こんな声のデカい男に気が付かないなんて。ここが戦場だったら確実に死んでる。
桜花もさすがに恥ずかしいのか、ずっと顔を伏せていた。よく見ると真っ赤な顔で震えている。この後どういうことが起こるのか、何となく察しているのだろう。
ああ、杏寿郎が口を開く。
頼む、頼むお願いだやめてとめて
「しかし桜花殿!! 朝食を用意し、家事をこなしたのは恐らく兎殿だろう!! 仏様ではないと思うぞ!! それに、仏様の髪は恐らく白くない!! うむ!!なに、間違いは誰にでもある、お気になされるな!!」
『子』の呼吸!! 分身ぼこぼこの刑ィィィ!!
オレが使える12の呼吸の一番目、『子』の呼吸。これは呼吸によって脚力を極限まで高め、オレの体を高速の域で飛ばす技。応用すれば、ネズミが増殖するかのごとく、分身を作り出すこともできる。前に島で使った時はこれで30の鬼を索敵し、切り裂いた。
弱い俺の、みみっちい技ではあるのだが、それでもニコニコ笑っている杏寿郎はやはり只者ではない。さすが炎柱。
さて、そんな杏寿郎だが、一体何の用件なのだと聞いてみれば、案の定。
鬼の討伐の仕事だった。そんなもの、鴉にでも伝えさせればいいものを、わざわざ非番の杏寿郎を使うあたりお館様も人が悪い。
つまりは、今回は逃がさないぞと。
そう言う事か。
確かに、柱の中でも指折りの実力者である杏寿郎から逃げ切るのは至難の業だ。
行くしかないのだろう。
行くしかないんだよね。
行くしかないんだろうなァ。
桜花、顔からいまだ湯気が出てるとこ申し訳ないけれど、行ってきます。
大正○○年 ※月□日
落ち着いてこれを読んでほしい。
いまから本当に変なことを書くから。
鬼退治のために山に入ったら、鬼よりヤバい奴がいた。
「アハハハハハハ!! 猪突猛進! 猪突猛進!!」
ね? こんなこといってたの。やばいよね。
捕捉しておくと、山に登った時、隠が目撃したと言う十二鬼月(鬼の中でも超強い12匹の鬼のこと。メチャ怖い)はすでに山を去ったあとだった。
あー良かった、戦わずに済んだ、なんて思ったのもつかの間。
木々をなぎ倒しながらそいつは現れた。
イノシシの皮をあたまに被ったそいつは、けれども完全に人間の体をしていた。空気の味を確かめると、イノシシのほかに鹿とか、熊の味を感じた。ちょっとした鬼より怖い格好してた。
思わず悲鳴をあげそうになるところを、何とかこらえて、オレはまず会話を試みた。コイツが人なら通じる筈だ。
もし、あなたは近くの村の方ですか?
「オレは山の王だ!!」
そうですか。山の王はお名前をなんというのでしょう?
「はしびら いのすけだ!!」
良いお名前ですね。ボクは十二支 兎といいます。
「兎は旨い!!」
僕は沢庵が好きです。
「たく・・・なんだそりゃ! おまえさっきから何言ってる!? ぶっ殺すぞ!!」
やめてください、死んでしまいます。
「そんなわけあるか!! 確かにオレは強い! だがおまえも強い! 感じるぞ!!」
家では妻が僕を待っているんです。ご勘弁を。
「つま? なんだそれ。うまいのか? 持って来い! 食ってやる!!」
おいコラテメェこのクソガキが今なんつった。
そして、気が付けばオレは端正な顔立ちの少年をぼこぼこにのしていた。
いや、メチャ強かったよ?
どこから攻撃してくるかスゴイわかりにくいし、山の地の利を利用してくるし、さらにまるで本物のイノシシを相手にしているかのような、打点の低い攻撃をしてくる。
うっかり日輪刀を抜きそうになったが、人を斬れば桜花に嫌われる。そこはぐっと我慢。
とりあえず、アイツは山の木に縄でぐるぐる巻きにしてつるしておいた。すこしは反省しろ。えーっと・・・山の王。はしびら いのすけ。
・・・・。どんな字を書くのだろう。それは聞きそびれた。
「畜生!! 畜生!! あいつめ!! あいつめ!!」
山の王、嘴平伊之助は木にぶら下がったまま激昂していた。山に入った縄張り破りを倒してやろうと生き生きと出かけ、見つけたのは今まであったどの生き物より強い男。
細身に見えた。
弱そうにも見えた。
けれども伊乃助の感覚は全力で警鐘を鳴らしていた。
結果として、その感覚は正しかったと言える。伊之助が出会った兎は、イノシシなど軽くいなしてしまう、鬼さえ食う兎だったのだ。
「覚えたぞ! たにし うさぎ!! 次会ったらオレが勝つ!!」
名字は間違って覚えていたものの、後に『獣』の呼吸を極める少年は、新たに出会った強者に向かって吠えたてた。
月に向かって叫んだ声。それを聞いたのは、兎が山に入る前に2秒で斬った、鬼の魂だけだったのかもしれない。
大正コソコソ噂話(偽)
山に入っていった十二鬼月は兎が近くにきたって知らせを受けて思わず逃げちゃったよ。
あとですごく怒られるだろうね!
平成コソコソ噂話(偽)
作者のいろはにぼうしは感想やUA、評価を見てみんな鬼滅の刃が好きなんだなぁ、と思ってすごくうれしかったそうだよ!
でも、仕事中に腰をやっちゃって今すごく震えてるよ!
バカだね!!