柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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十二支 兎 :なんで、なんでいつもこうなるの!? やめる事も出来なきゃ休むことも出来ないのかよ!?


十二支 兎は 追跡する。

大正○○年 ●月■日。

 

 おかしい。絶対に可笑しい。

 さっきまで桜花と温泉入ってゆっくり疲れを取ってたわけじゃん。

 さっきまでご飯なんだろな、なんでしょうね、なんて話をしてたわけじゃん。

 

 疲れをいやす旅なんだよ? ねぇってば。

 

 

 なんでオレ疲れながら深夜の街を全力疾走してんの!?

 

 

 

 

 話を戻そう。

 温泉から出て、俺たちは部屋に戻って浴衣を着て料理が来るのを待っていた。

 鯛がいいな。鯛が食べたい。

 吹雪饅頭もついているといいですね。

 筍はいらない。

 なんて話をしていたわけだ。

 すると、ややあって天井からがたがたと音がしたと思ったら。

 上からなにかが降って来た。

 

 とっさにオレは桜花を庇い、部屋の中で押し倒す事態に。

 これは数えるなよ、そういう展開に数えてはならない。

 

 落ちてきた物を振り返ると、そこには子供が立っていた。

 小さな小さな袈裟を来た丸坊主の少年だった。

 

 少年は俺たちの姿を見て、さらに部屋を見回して、そして俺たちの荷物を見つけて。

 

 にやり、と笑って手を思い切り地面に振り下ろした。

 

 瞬間、ぼんっ! という音と共に部屋に煙が充満した。

 

 「この臭い…っ! 兎さん! 口を閉じて!!」

 

 そう言って桜花がオレの鼻と口を綺麗な白い小さな手でふさぐ。

 花の香りがした。思い切り吸った。

 

 瞬間、舌に激痛が走った。

 

 いだあぁああああああああっ!?

 

 と叫びながらオレは理解した。

 この煙、唐辛子が混ぜ込んである!

 オレは舌が敏感だから、それだけ強烈に痛みを感じてしまう訳だ。

 畜生! 魅惑の香りだったのに!!

 

 「兎さん! せっかく抑えたのに何で吸っちゃうんですか!?」

 

 しょうがないだろ、香しかったんだもの!

 ってか桜花浴衣似合うなほんと!来てよかった! 口の中焼けそう!!

 

 「わ、わかりましたから! 口を閉じてて!!」

 

 ややあって桜花がなんとか部屋の戸を開け(その間オレは苦しみ続けた、無様だ)煙が晴れたころには少年は消えていた。

 

 

 俺たちの荷物と一緒に。

 

 そんなわけでオレは宿を飛び出しあの少年、否。糞餓鬼を追っている訳である。

 

 ちくしょぉぉおぉおお! 逃げられると思うなよォ!!

 

 あの餓鬼の使った唐辛子煙幕は強烈な味だった。

 あんなもんを持っていたとなれば、当然本人にも残り香ならぬ残り味が付く。

 あとを追う事は、そう難しい事じゃない。

 夜の街をひたすら走る。涙が出そうな味を追いながら。

 

 

「兎さん、大丈夫ですか!?」

 

 浴衣姿の桜花もいっしょに走る。さすがに宿においてくるわけにもいかなかったし、隠とねぎまも唐辛子にやられていた。

 

 桜花、すこし速度を落とそう。君の鎖骨が見え隠れして追跡どころじゃない!

 

「鎖骨より追跡です、今この瞬間はそれに集中して!」

 

 おう、わかった! 

 あ、お前桜花の鎖骨ちょっと見たな饅頭屋のおじさん! ぶっ飛ばしてやる!!

 

「兎さんっ!!」

 

 

 

 

 

 味を辿り、たどり着いたのは町はずれの小さな廃寺だった。

 ひどくボロボロな状態で、人がいなくなってから何年も経っているように見える。

 いたるところに蜘蛛の巣が張っていて、生活感がまるでない。

 まるでお化けがもののけか、そう言った類の怪物が現れそうな雰囲気だ。

 

 桜花。こわかったら手を繋いでもいいからね。

 

「大丈夫ですよ、兎さん。行きましょうか」

 

 ホントに大丈夫? 怖かったら言っていいんだよ?

 

「平気ですよ? さぁ。あの子を探して叱ってあげましょう」

 

 無理すんなよ、桜花。大丈夫だ。君の夫はこの程度で君に幻滅したりはしないよ?

 

 

「…兎さん。手を繋いであげましょうか? お化け、苦手でしたよね」

 

 すみません。お願いします。

 

 

 

 ぎしり、ぎしりと本堂への階段を昇り。

 その一音一音に驚きながらも、オレと桜花は引き戸の前に立った。

 

「じゃあ、開けてみましょうか兎さん」

 

 え、まじ?

 ちょっと待って桜花。いや怖くないけど。

 少し様子を見ようよ、いや怖くないけど!

 

「兎さん、怖いのもわかりますけど、ここに逃げ込まれたのは間違いないんですから。取り戻さないと、荷物」

 

 わ、わかった。ただまって数刻まって。

 心臓の準備が出来ていないんだ。万が一には停止してしまうかもしれない!!

 

 「開けますよ、せーのッ!!」

 

 わぁあああああっ!! 桜花ぁああ!! まってぇぇ! オレ実は古いお寺に入ると死んでしまう病で・・!

 

 言い終わる前に、桜花は容赦なく(本当に容赦なく)引き戸を開け放った。

 

 

 

 真っ暗なお堂の中央。

 所々穴が開いたその中に、しかして例の子供は居た。

 しかし、状況は俺たちの予想とは少し違っていた。

 

 

 

 「兄ちゃん、どう? お薬あった?」

 

 「畜生、何処にもありやしねぇ!おい、菊! お前も探せ!!」

 

 「う、うん! 鈴兄ちゃんのためだもんね!」

 

 先ほどの少年と継だらけの着物を着た少女が俺たちの荷物を床にぶちまけている。

 鬼気迫る表情で風呂敷をなんども確認している。

 少女、菊と呼ばれた彼女は、泣きそうな顔でオレの水筒を逆さに振っている。

 

 必死に何かを探している様子だった。

 

「兎さん、あの子たちは…」

 

 桜花がオレに話しかける。

 その声でようやく、子供たちはオレに気付いた。

 よほど必死に何かを探していたのだろう。

 

「あ、アンタ達! なんでオレの逃げた先がわかったんだ!?」

 

 大したことないよ。味を覚えただけだ。

 

「意味わかんねぇよ!? 畜生!! こっちも尻に火が点いてんだ! アンタ達に荷物帰すわけにはいかねェ!! 菊、下がってろ!!」

 

「に、兄ちゃん! やめようよ、あの人刀持ってるよ!? 殺されちゃうよ!」

 

「いいから、行け!!」

 

「に、にいちゃぁーん!!」

 

 …、ねぇ、オレ達荷物盗られてんだよね? 桜花。

 

「そうですね…、しかし、この状況では・・・えー」

 

 だよね。

 完全に俺達が悪役になってるよね。

 すこし、この子たちから話でも聞いてみようか。

 

「ええ、とりあえずは聞いてみましょう」

 

 なぁ、少年少女。俺たち、なにもお前らを斬って捨てようってわけじゃ・・

 

「うるさいっ! 良いから帰れよ!!」

 

 そういって少年が構えているのは、小さな錫杖だった。

 袈裟と言い、なんでこうも坊主みたいな恰好してんだろうか。

 

「ねぇ、ぼくたち。お姉さんたち、荷物を返してほしいだけなんです。それを返してくれたらすぐに出ていくから」

 

 桜花が膝をたたんで目線を合わせた説得を試みる。

 子供と話すときは目線を合わすのが効果的って昔本に書いてあったな。

 さすが桜花。

 

「うるさい、ぺったんこ!!」

 

「なっ‥!」

 

 ぺったんこ、ぺったんこ。

 何処の事かは、まぁ桜花の名誉のために言わないでおこう。

 そして少年よ、馬鹿だな。

 小さいからいい、って考え方だってあるんだぞ。

 

「兎さんっ!! この子捕まえましょう!! お尻を叩きます!!」

 

 すまん少年。助けられる自信は無いぞ。

 すまん逃げた少女。お前の兄は助からないかもしれない。

 

 

「さぁ捕まえましたよ、悪い子です!!」

 

「はーなーせーっ!! はーなーせーよーッ!!」

 

 そしてさすが桜花。もう捕まえたらしい。

 

「さぁ、お仕置きです! 人の物を盗るような悪い子は!」

 

「ぎゃああ! 離せよばばあ!!」

 

「ばっ・・!」

 

 おい少年、それ以上はオレも黙ってないぞこの野郎。

 

 オレがいたって正当な理由で日輪刀に手を掛けた時だった。

 

 

 

 

 

 轟音と共に、上から何かが降ってきた。

 

 オレは素早く桜花の所に跳びこみ、彼女と少年を抱えて回避する。

 二人を抱えたまま、オレは轟音の原因を探る。

 

 そこには、巨大な僧が立っていた。

 袈裟を下半身にひっかけ、上半身は裸。丸太のような腕には巨大な錫杖が握られている。

 身の丈は俺の倍以上。見上げれば、鬼の形相が目に入る。

 

「菊に呼ばれて来てみれば…」

 

 男が錫杖を上段に振り上げる。

 …まずい!!

 

「貴様ら、拙僧の子らに何をするかぁあああああああああ!!」

 

 轟音と共に、錫杖が俺たちに向かって振り下ろされた。

 




大正コソコソ噂話(偽)

 最強の兎の傍に居た所為で油断し、唐辛子爆弾を思い切りすった隠たちとねぎま。
 長期療養決定。
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