柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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壱.今してみたいことは何ですか?

氷柱 白雪:えー? そうだねぇ。ボクはやっぱり服を縫う事かなぁ。女の子たちが可愛い服を着てボクにお礼を言ってそのまま…じゅるる。


十二支 兎は 刃を止めない。

大正○○年 ●月■日

 

 突然降ってきた僧。

 筋骨隆々な体は、背後の小さな盗人を守るようにそびえたつ。

 巨大な錫杖が振り下ろされた場所には大穴があき、どれだけの力が叩きつけられたのかを証明している。

 あんなものが叩きつけられたらただじゃすまないな。

 

 桜花、怪我はないかい?

 

「大丈夫です、兎さんがすぐに抱えて飛んでくれたから」

 

 腕の中で桜花がオレに話しかける。

 怪我はしていない。良かった。

 

「むぅ、避けたか盗人め!」

 

 破戒僧がこちらに目を向ける。

 空気の味を確認する。

 

 なんてこった。旅行先でもこんな目に合うとは。

 

 

 桜花、下がっててくれ。

 アイツ、鬼だ。

 

「わかりました…。あっ!? そういえば、あの子は!?」

 

 言われて気付く。さっきまで桜花の手の中で暴れていたちび僧侶がいない。

 

「お師匠様!! あいつらだ!! あいつらが鈴兄ちゃんの薬買うのを邪魔すんだ!!」

 

 あ、あの餓鬼!!

 ちゃっかり破戒僧の後ろに隠れ、しかもちゃっかり虚偽申請まで済ませる餓鬼を睨みつける。

 

 おい、お前適当なことを言うんじゃねぇよ! オレ達のどこが盗人に見えるってんだ!!

 

「ではその刀はなんだ! 拙僧の子をそれで斬ろうとしていたろう!!」

 

「ご、誤解です! 桜花たちはとられた物を返してもらおうと」

 

「問答無用! すべては仏の示すままに! さぁ、刀を抜け盗人よ! 貴様の性根を叩きなおしてやる!」

 

 どうやら話を聞く気はないらしい。

 それにしても、と思う。

 妙な味がずっとする。

 いや、鬼の味には違いないんだ。違いない。

 この味、どこかで感じたことがあるような。

 

「抜かぬか。ならこちらから行くぞォ!!」

 

 ぶぉぉぉん、と音を立て錫杖が奴の手の上で回転する。

 まずい、集中しないと。

 オレは日輪刀に手を掛け思案する。

 どうする、どの呼吸が有効だ。

 

 一番いいのは未の呼吸。

 あれで眠らせてしまうのが手っ取り早い。

 だがあの呼吸は相手によって効果に差が出る。

 俺自身にもどういう事かはわからないが、多くの人間を喰っているほど未の呼吸は効果が大きいのだ。目の前の鬼からは血の味がほとんどしない。

 未の呼吸は使ったところで効果が薄い。

 できればこの鬼とは殺さずに話がしたい。

 人間をなぜ、『子』と呼ぶのか。

 なぜお前からは血の味がしないのか。

 鬼を人間に戻したいと願ったあの少年の助けになりたいから。

 可愛い後輩の判断が、間違っていないのだと思いたいから。

 

 「ふぅんっ!!」

 

 錫杖が叩きつけられる。

 オレは左に飛んで避ける。

 強い衝撃が堂に走った。桜花を見る。

 良かった、怪我はしてなさそうだ。

 しかし、あの錫杖がなんども振り下ろされれば、桜花にも危害が及ぶかもしれない。

 早急に勝負を決めなければ。

 

 あ、そうだ。いい手がある。これで行くか。

 オレは破戒僧の側面から刀を抜いて斬りかかる。

 

 「っ、ぬぅう!!」

 

 当然、破戒僧もそう簡単に斬らせてくれるわけはなく。

 錫杖を構えて防御する。

 そう、側面を守る。そう来るよね。

 

『子』 の呼吸。

『鼠惨死鬼・退散ノ鳴動』

 

「な、なにッ!? なぜだ、なぜそこに居る!?」

 

 子の呼吸応用編。普通に使えば分身を使い続けるだけだが。この応用編『退散ノ鳴動』を使うと、分身たちにちょっとした機能を付けられる。

 

 巨漢の破戒僧は、オレが狙っている側面から錫杖をはなし、正面に構える。

 『オレは今まさに側面を斬ろうとしているのに』

 『もうオレに見向きもしない』

 

それもそのはずだ。

 破戒僧の目の前には、俺の分身が立っている。

 基本的には子の呼吸で生み出したオレの分身は、オレと同じ動きしかできない。

 分身、と聞こえよく言ったところで、所詮原理は『高速移動』。

 訓練を積めば誰にだってできる、まぁ簡単な技だから。

 そこにあまり高度さを求めるのは酷というモノ。

 

 ただし、退散ノ鳴動は少し違う。

 この技を使うとき、オレの分身は極度の『存在感』を放つ。

 分身の数が一体だけに限定されてしまうが、この分身は本物のオレと違う動きをし、相手をひきつけてくれるのだ。

 実際、この時分身は刀を横になごうとしているオレとは逆に刀を正面に構え、『さぁかかってこい』と言うような感じで破壊僧を睨んでいる。

 

 そして、それに意識を食われている今なら、オレは簡単にこの破戒僧に剣戟を叩き込める。

 

 悪いね、腕を一本落とすよ。

 鬼の回復速度ならそのくらいはすぐに回復するだろう。

 まずは話を聞いてもらうために抵抗できないようにしなくては。

 

重ねて二刻。

 『虎』の呼吸。

 『肆虎・肆填(しこ・しでん)』

 

 四本の斬撃が破戒僧の腕に向かい、そして。

 

 「うぐッ!? ぐおおおおッ!!」

 

 ずぶり、と刃が肉に食い込んでいく。

 切り落とす、このまま!

 

 

 ビタァ、と、刃が止まった。

 

「むぅううううん!」

 

 びき、びきと血管の浮く音がする。

 刃が、肉に挟まれて止まっている。

 

 って、ウソォ!?

 

 

「なるほど、幻の類か。拙僧の目の前にあるのは幻で、貴様が本物か。うぅうむ小賢しい」

 

 

 錫杖が振りかぶられる。

 アレを喰らえば、オレの骨は粉になるまで粉砕されるだろう。

 ひとたまりもない。

 

 

 だからこそ安心した。

 うまく引っ掛かってくれて助かった。

 

 

 ザンッ!と破戒僧の『正面』に向かって斬撃が飛んだ。

 油断していたのか、胸筋は斬れ血が流れ落ちる。

 

 叫びをあげて巨漢が崩れ落ちる。ギリギリ意識はあるが、人間なら致命傷の傷だ。

 …うん。少しやり過ぎたかもしれない。

 だが、まぁ彼は鬼だ。

 傷の治りは早い。証拠に、もう斬り込んだ傷がふさがり始めている。

 オレは溜め息をついて、刀を力の抜けた彼の腕から引き抜いた。

 しかし、まさか筋肉だけで刀を止めるとは。

 過愚夜とはまた違った意味でぞっとするなぁ。

 

 そんな彼の誤算は分身を『幻覚』と誤認識してしまったこと。

 実体のない虚像と思ってしまったこと。

 子の呼吸で生み出した分身は、基本的に難しい事は出来ないけれど、逆に言えば簡単なことなら実行できる。

 例えば、相手の周りを飛び回るとか。

 例えば、相手をひきつけるとか、

 例えば、相手に斬撃を喰らわせるとか。

 

 

「ぐぬぅうう、倒れぬ、拙僧は倒れぬぞ!」

 

 おお、元気になって来た。今なら話も通じるだろうか。

 

「構えよ、盗人。次こそ叩き潰してくれる!!」

 

 いやいや、オレの攻撃はもうおしまいだ。

 アンタと話がしたい。構わないかな。

 

「ふざけるなよ盗人。お前は拙僧の子らに斬りかかった。子は斬れても拙僧は斬れぬというか!?」

 

「…では、桜花の話なら聞いてくださいますか?」

 

 すっ、とオレ達の間に立ったのは桜花だった。

 

 って桜花、あぶねぇ!

 

「大丈夫です。任せてください」

 

さらに前に進み出る桜花。破戒僧の目に、わずかながら迷いが見え始める。

 

「すみません、その武器を収めてはいただけませんか?」

 

桜花が、破戒僧にむかって言葉を掛け始めた。

 

「むぅ…、貴女は。この盗人の仲間か」

 

「いいえ、妻です。十二支 桜花と申します」

 

「十二支…」

 

 破戒僧が、何かに気が付いたようにオレと桜花の顔を見る。

 

「こちらは十二支 兎。桜花の夫です。見てわかるとおり、桜花は今丸腰です。そんな相手に錫杖を振り下ろすことを、あなたが信じる神仏はお許しになるのですか?」

 

「むぅ」

 

「ここはひとつ、話を聞いていただきたいのです。戦うのはそれからでも遅くはないでしょう?」

 

 桜花の言葉を、破戒僧は何かを噛みしめるような顔で聞いていた。

 信用するか、否か。

 こちらとしても、これ以上怖い思いはしたくな・・・無用な争いは避けたいのだが。

 

 

「…いいだろう。話してみるがいい、御婦人。拙僧の知らぬことをな」

 

 

 桜花のおかげで、どうやら話がまとまりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、御婦人…わ、悪くない響きですね、えへへ」

 

 

 桜花、頬に手を当てて恥ずかしがってる場合じゃないけれど可愛いなぁオイ!!許す!!

 

 




大正コソコソ噂話(偽)

胡蝶 しのぶ
 「ねぇねぇ、冨岡さん。急に俯いてどうしたんですか。ねぇ」

冨岡 義勇
 「髪を引っ張るな。申し訳なくなっているだけだ」
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