中でも最も重いものが、姉を親友などと呼んだことだ。
『なぁ、カナエ』
『なにかな、兎?』
『オレって弱いじゃん?』
『そうかな』
『そうだよ』
『そうかもね』
『今こうして甲まで上がったんだけどさ。正直これ以上階級が上がると死ぬよ、オレ死ぬ』
『それはこまるなぁ。わたしは兎が生きててくれないと寂しいもの』
『ねぇ、カナエ、ねぇってば。鬼にあっても死なずに済む方法考えてよ』
『しょうがないなぁ、兎は』
『簡単よ。鬼とも仲良くすればいいの』
『えー…』
『あ、なぁにその顔。馬鹿にしてるの?』
『いやぁ、なんというか。カナエらしいな、と思っただけ』
『そうなの?』
『そうだとも。長い付き合いのオレが言うんだから間違いない』
『そうね。長い付き合いだものね』
『お前みたいなのを幼馴染って言うんだろうな』
『幼馴染…か』
『? どうかした?』
『ううん。あ、そうだ兎。美味しい沢庵を出す蕎麦屋さん見つけたのよ、一緒に行きましょう?』
『いいねぇ』
『ねぇ、兎。どうしたの? ここの所ずっと上の空だけど。やっぱり柱の仕事は怖い?』
『うん、めっちゃ怖い。鬼狩りの頻度めっちゃ増えたんだけど』
『よしよし』
『やめろよ、子ども扱いするな』
『あはは、いいじゃないの。あ、よいではないかー、よいではないかー』
『唐突に面白いと思ったこと試すのはやめてくれ』
『あはは、ごめんごめん。それで、何を悩んでるの?』
『よく悩んでるってわかるな』
『わかるよ、兎の事だもの』
『? そっか。…そうだな、こういうのは女性のお前に聞いた方がいいかもしれないな』
『うんうん? 何かしら。好きな人でもできたの?』
『…』
『・・・・え? 嘘? ホントに?』
『…うん』
『・・・え。嘘。だって、誰?』
『だ、誰にも言うなよ? いいかい?』
『う、うん』
『…あ、仇散華さん‥』
『…っ』
『いや、わかるよ。わかる。そりゃ弟分みたいなオレが親友の事を好きになったなんて、場合によっちゃいやな話だよね』
『‥そんなことない!』
『うおっ!? びっくりした!』
『素敵じゃない、とってもいい事よ! 桜花は凄く可愛いしすごく強いもの、好きになるのも当然よね、可愛い事は正義! 私、あなたの『親友』としてあなたを応援するわ!』
『ッ、ありがとうカナエ! やっぱ持つべきものは『親友』だな!』
『任せて兎! めざせ夫婦柱!』
『おおー!』
『じゃあ、カナエ。また来るよ。相談に乗ってくれてありがとう』
『どういたしまして。桜花に振られるようなことがあったら私の所にいらっしゃい』
『縁起でもないこと言うな! 人類がしてはならないことの1つ、それは心臓に悪い発言だ!!』
『あはは、兎は面白いわね』
『ったく。ま、あんがとね』
『…そっか。桜花が好きなんだ。そっか。あはは』
『ねぇ姉さん。伍番の薬が見当たらないんだけど…、姉さん!? どうしたの!? うずくまって、何があったの!?』
『ごめんね、しのぶ。ごめんね。何も聞いちゃダメ、お願い』
『何言ってるの!? 伏せってないで顔をよく見せて』
『お願い、見ないで…。今、姉さんの顔を見ないで、しのぶ』
『ごめんね兎。応援するよ、もちろんよ。あんなに『恋』をしている顔、初めて見るもの。応援してあげなくちゃ。そうでしょ、兎。親友だもんね』
『なんで…、どうして…。どうして私じゃないの、兎…』
この文書は、業柱の強さを示す記録にはならない。
されど、誰かの記憶に焼きついた、涙の味の記憶である。