柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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あの人にはいくつか罪がある。
中でも最も重いものが、姉を親友などと呼んだことだ。


番外其ノ伍 かつての兎と華の蝶

『なぁ、カナエ』

 

 『なにかな、兎?』

 

 『オレって弱いじゃん?』

 

 『そうかな』

 

 『そうだよ』

 

 『そうかもね』

 

 『今こうして甲まで上がったんだけどさ。正直これ以上階級が上がると死ぬよ、オレ死ぬ』

 

 『それはこまるなぁ。わたしは兎が生きててくれないと寂しいもの』

 

 『ねぇ、カナエ、ねぇってば。鬼にあっても死なずに済む方法考えてよ』

 

 『しょうがないなぁ、兎は』

 

 『簡単よ。鬼とも仲良くすればいいの』

 

 『えー…』

 

 『あ、なぁにその顔。馬鹿にしてるの?』

 

 『いやぁ、なんというか。カナエらしいな、と思っただけ』

 

 『そうなの?』

 

 『そうだとも。長い付き合いのオレが言うんだから間違いない』

 

 『そうね。長い付き合いだものね』

 

 『お前みたいなのを幼馴染って言うんだろうな』

 

 『幼馴染…か』

 

 『? どうかした?』

 

 『ううん。あ、そうだ兎。美味しい沢庵を出す蕎麦屋さん見つけたのよ、一緒に行きましょう?』

 

 『いいねぇ』

 

 

 

 

 『ねぇ、兎。どうしたの? ここの所ずっと上の空だけど。やっぱり柱の仕事は怖い?』

 

 『うん、めっちゃ怖い。鬼狩りの頻度めっちゃ増えたんだけど』

 

 『よしよし』

 

 『やめろよ、子ども扱いするな』

 

 『あはは、いいじゃないの。あ、よいではないかー、よいではないかー』

 

 『唐突に面白いと思ったこと試すのはやめてくれ』

 

 『あはは、ごめんごめん。それで、何を悩んでるの?』

 

 『よく悩んでるってわかるな』

 

 『わかるよ、兎の事だもの』

 

 『? そっか。…そうだな、こういうのは女性のお前に聞いた方がいいかもしれないな』

 

 『うんうん? 何かしら。好きな人でもできたの?』

 

 『…』

 

 『・・・・え? 嘘? ホントに?』

 

 『…うん』

 

 『・・・え。嘘。だって、誰?』

 

 『だ、誰にも言うなよ? いいかい?』

 

 『う、うん』

 

 

 

 

 

 『…あ、仇散華さん‥』

 

 

 

 『…っ』

 

 『いや、わかるよ。わかる。そりゃ弟分みたいなオレが親友の事を好きになったなんて、場合によっちゃいやな話だよね』

 

 『‥そんなことない!』

 

 『うおっ!? びっくりした!』

 

 『素敵じゃない、とってもいい事よ! 桜花は凄く可愛いしすごく強いもの、好きになるのも当然よね、可愛い事は正義! 私、あなたの『親友』としてあなたを応援するわ!』

 

 『ッ、ありがとうカナエ! やっぱ持つべきものは『親友』だな!』

 

 『任せて兎! めざせ夫婦柱!』

 

 『おおー!』

 

 

 

 『じゃあ、カナエ。また来るよ。相談に乗ってくれてありがとう』

 

 『どういたしまして。桜花に振られるようなことがあったら私の所にいらっしゃい』

 

 『縁起でもないこと言うな! 人類がしてはならないことの1つ、それは心臓に悪い発言だ!!』

 

 『あはは、兎は面白いわね』

 

 『ったく。ま、あんがとね』

 

 

 

 

 

 『…そっか。桜花が好きなんだ。そっか。あはは』

 

 『ねぇ姉さん。伍番の薬が見当たらないんだけど…、姉さん!? どうしたの!? うずくまって、何があったの!?』

 

 『ごめんね、しのぶ。ごめんね。何も聞いちゃダメ、お願い』

 

 『何言ってるの!? 伏せってないで顔をよく見せて』

 

 『お願い、見ないで…。今、姉さんの顔を見ないで、しのぶ』

 

 

 

 

 『ごめんね兎。応援するよ、もちろんよ。あんなに『恋』をしている顔、初めて見るもの。応援してあげなくちゃ。そうでしょ、兎。親友だもんね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 『なんで…、どうして…。どうして私じゃないの、兎…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この文書は、業柱の強さを示す記録にはならない。

 されど、誰かの記憶に焼きついた、涙の味の記憶である。

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