柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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十二支 兎
 「据え膳食わぬは男の恥って言葉があるでしょ? でもさ、据え膳用意されてる時点でオレとしちゃまだまだだと思うんだ。男なら素材のままだったとしても、美味しいって言って食べないとね」

十二支 桜花
「兎さん、ことわざの意味取り違えてませんか?」


十二支 兎は 流される。

大正○○年 ●月△日。

 

 あの日の白刃を覚えている。

 泣いて止める少年の顔を覚えている。

 穏やかな彼の顔を覚えている。

 月下、芒が揺らめく丘で。

 鬼は、どちらだったか。

 教えてくれよ、懺戒。

 オレとオマエ、鬼はどちらだったのか。

 

 

大正○○年 ●月■日

 

 「ぶぁああああかぁあああああものぉおおおおおお!!」

 

 どうも、十二支 兎です。突然ですけど、オレ。

 腕がちぎれそうです。

 桜花の決死の訴えでオレ達の疑いは晴れた。無罪放免。未来は快晴。

 よかった。よかった。

 

 が、この後が問題だった。

 

「つまりはなにか? お前たち。鈴の病気を治すため旅人の荷を盗んだと?」

 

「お師匠様、ちげぇよ! あいつらが嘘ついてんだって!!」

 

「問答無用!! このご婦人の話は拙僧が聞く限り筋が通っている!!」

 

「えへへ、御婦人…。兎さん、なんだか照れくさいですね?」

 

 

「いや通ってねぇ!! みろ、あの筋というか表情筋の緩みきった顔を!!」

 

 馬鹿だな少年。これが可愛いんだよ。みてろ、頭撫でたらもっと可愛くなるから。

 

「う、兎さん! ダメですよ! 桜花は妻なんですから、公衆の面前でゆるんだりは・・」

 

 よしよし。

 

「ふぁぁあ」

 

「怪しいよぉお師匠!どう考えてもあっちの方が!!」

 

 少年が必死の潔白を訴える。

 

 

 

 

 

 

 が、ムダ。

 

 

 

 

「『数珠坊』! 菊!! 盗みをするなとあれほど言っただろう!! 拙僧は、拙僧は哀しみと呆れと怒りの頂点だ!! そこに直れ!!」

 

「ひッ!?」

 

 そして破戒僧は錫杖で少年、数珠坊をぶん殴ろうとし、オレはそれを持てる腕力の全てで止めようとしている、と言う訳だ。

 ってかこの破戒僧、日輪刀を筋肉で挟み込むだけあって、とんでもない力だ。鬼であると言う事を差し引いてもすさまじい。

 

 

「ええい、離さぬか! 拙僧は子を叱りたいのだ!」

 

 まぁまぁ。まぁまぁまぁ。

 

 

 まぁまぁまぁまぁ、と十二回程言った後、オレ達は荷を返してもらった。

 盗られた物はなく、怪我もほとんどない。上々と言っていい出来だ。

「すまなかったな、拙僧の子らが」

 

 破戒僧はそういって俺達に詫びた。彼は自らを、懺戒と名乗った。

 

「大丈夫ですよ。ねぇ、兎さん」

 

 ああ、荷物も帰って来たしね。

 

「かたじけない」

 

 懺戒はその巨体を曲げ、頭を下げた。襲い掛かってくるそぶりも見せない。

 鬼の味がするのに、鬼の姿がどこにもなかった。

 

「あの‥、鈴、という方は、どんな病に…」

 

 桜花が恐る恐る、といったように話しかける。

 

「鈴か。鈴はこの先の本堂に住む、数珠坊と菊の兄替わりだ。一月ほど前から病に伏せっている」

 

 そうなのか。

 懺戒はその、何時からあの子たちと?

 

「鈴が倒れてすぐだな。旅の途中で立ち寄ると、数珠坊にえらくなつかれてしまってな」

 

 懺戒、数珠坊は何時になったら引き抜いてあげるの?

 アンタが拳骨するから、ずぼっと地面に埋まってるけれども。

 

「彼奴が物盗りをしたのはこれで五度目だ。いい加減反省させねばな」

 

 そこまで話したところで、穴だらけの引き戸が開いて、継だらけの着物を着た菊ちゃんが顔を出した。

 

「お師匠様。お客さまへの、茶と菓子を持ってきました」

 

「ああ、お出ししなさい。ちゃんとお前からも謝るのだぞ」

 

 菊ちゃんはそう言って盆に菓子を乗せて持ってきた。乗っている菓子は‥。

 あ、すごく見覚えがある。

 

「吹雪饅頭!!」

 

 ぱぁあ、と桜花の顔が明るくなった。女神が降臨為されたぞ、ひれ伏さなくちゃ!

 

 

 

 

「…何をしておるのだ?」

 

 ひれ伏してる。

 

 

 

 ほむほむ、と饅頭を食べる桜花と、それを眺めるオレ。

 懺戒も満足そうに、だけれどすこし申し訳なさそうにオレ達を眺めている。

 ややあって、オレの分の吹雪饅頭を菊ちゃんが持ってきた。

 せっかく持ってきてくれたことだし、頂こうか。

 そう思ってオレも吹雪饅頭を口の近くまで持っていき。

 

 

 

 

 

 ぴたり、と食べるのをやめた。

 吹雪饅頭を口に近づけてわかった。

 この饅頭は普通じゃない。

 この味は、と言うかもうこの香りは。

 

 桜花、ダメだ! その吹雪饅頭を食べちゃ、この中には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒックッ!」

 

 

 

 恐らく酒が‥遅かったか。

 

 

 桜花は決して酒を飲まない。

 飲めばどうなるか解っているからだ。

 

 「ありぇぇ? うしゃぎしゃぁあん? どぉうしたんですかぁ? あははぁ」

 

 お、桜花? 大丈夫かい?

 

 「うしゃぎしゃんこしょぉ、だいじょうぶでしゅ? なんれぶんれつしてるんれすかぁ?」

 

 ふっぐ! 効果は抜群だ!可愛い、酔いどれ桜花可愛いぃぃ!

 

「ご、御婦人? どうなされた?」

 

「むぅ。うるしゃいでしゅ。きんにくさんはお部屋からでてくだしゃい!」

「し、しかしだな?」

 

「いいからいけよ」

 

 懺戒はそっと部屋から出て行った。

 おい未熟者! 戻ってこい!!

 

 

「えへへへ、うしゃぎしゃん、ふたりきりでしゅねー?」

 

 えへへ、と言いながら桜花は顔をオレの着物に当てて、すりすり、と頬ずりをした。

 あゝ、善きかな。

 このまま時が止まればいいのに。

 

「むむ、うしゃぎしゃんが桜花をみてましぇんねぇ、ゆゆしき事態!しょんなときはちゅーしましょう、ちゅー!」

 

 迫る桜花の唇を見つめて考える。

 あまい味を思い出しながら考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いいか。流されちゃっても。

 




 大正コソコソ噂話(偽)

 菊ちゃん特製吹雪饅頭。
 餡子に金陵というお酒が混ざっています。
 子供が食べても平気な濃度に薄めてあるよ!

 「菊の自信作です、皆さまでどうぞ」
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