竈門 炭治郎
「タラの芽です!」
氷柱 白雪
「女の子だよー」
竈門 炭治郎
「白雪。この質問はきっと食べ物について聞いてるんだよ」
氷柱 白雪
「? じゃあ間違ってないよねー?」
竈門 炭治郎
「・・・え?」
大正○○年●月■日
炭治郎はこの半年間ずっと日記をつけている。
鱗滝さんから教えてもらった技術や極意、修行の内容とそのおかげで死にそうになっていることなど、事細かに。
人の日記を見ることはさすがにボクも気が引けたんだけど、たまたま布団に隠してあったのを見つけてしまった。
とはいっても、詳しい内容までは読んでいない。
そもそも男の子の書いた日記にそんなに興味がある訳でもなかったし、炭治郎は友達だから、ボクは日記に書いてある禰豆子ちゃんとの思い出や、禰豆子ちゃんのかわいらしさ、もうとにかく禰豆子ちゃんのことが書かれた部分だけ暗記して、そっと日記をもとの位置に戻したのだ。
ボク、氷柱 白雪は本当に友達思いの人格者だと思う。
さて、鱗滝さんの所で修業を始めて早くも八か月近く、例の柱のおじさんがやって来てボクと禰豆子ちゃんの甘い時間を邪魔してから早くも二ヶ月ちょっとが経ったわけだけれど。
毎度のことながら、炭治郎は鱗滝さんにしごかれていた。
今日は呼吸法の訓練だ。
一回やるごとに炭治郎はお腹をばんばん叩かれる。
あれは痛い。
正直な所、子供の頃から氷柱家で鬼狩りの修業をしていたボクからすれば、炭治郎は要領が悪いと思う。
ボクが一か月で出来るようになる事でも、炭治郎なら三か月かかるだろう。
ほとんどの事で、ボクは炭治朗の上を行っているだろう。
決して、彼を馬鹿にしている訳じゃない。
ボクはずっと、刀を握って、握らされて生きてきた。
炭治郎はずっと、家族と一緒に炭を焼いて生きてきた。
経験の量が違うんだから、差が出るのなんて当たり前だ。
だから、ボクが炭治郎を手助けするのは当たり前なんだ。
そう思って炭治郎が刀を持たせてもらった頃、ボクは一つ提案をした。
ねぇ炭治郎、せっかく二人いるんだし、鱗滝さんに教わったことを夜に練習してみようよー。
炭治郎は大層喜んだ。
ばんざーい、とその場で両手を上げて喜んだ。
それは炭治郎の焦りの発露なのかもしれない。
禰豆子ちゃんは今も眠ったままなんだから。
そして今日も稽古の後、ボクと炭治郎は刀を持って外に出た。
あまり鱗滝さんの家から離れると危ないし、ほんの少し離れるだけ。
いいー炭治郎? 刀はこうやって握るんだよー?
「こ、こうか?」
刀をもった炭治郎は、柄に力を込める。
うーん。握り方はあってるけど、力入れ過ぎ。
炭治郎ー? もっと肩の力抜いてー? 深呼吸だよー。
「そ、そうか。すーっ! はーッ!」
こりゃあすごいや。深呼吸にまで力が入ってる。
これは落ち着かせるのが先かもしれないなぁ。
しかし、女の子については知らないことはないこの白雪ちゃんだけども。
男の子とはほとんど話したことないんだよね。
どうやったら落ち着くんだろ。
そうだ、この間やってもらったアレをすれば炭治郎も落ち着くかもしれない。
そうだそうだ、それがいい。
炭治郎ー、ちょっとこっちに来てー?
「なんだ白雪? 手招きなんかして」
山の土を踏みしめて、炭治郎が歩いてくる。一歩一歩、こちらに向かって。
そしてボクの手が届くところまで炭治郎が歩いてきたところで。
ボクは手のひらを、炭治郎の頭にのせた。
「えっ? し、白雪?」
そのまま、ボクは炭治郎の髪を撫でる。
赤みがかった、綺麗な色だ。
ボクの水色の髪とは正反対で、すこし羨ましい。
「白雪、どうして‥?」
炭治郎だって前にやってくれたでしょー? あの時すっごくほわほわして落ち着いたからさー。
炭治郎も落ち着こうよー、焦るより、できることを1つずつでも増やそう?
炭治郎はうつむいたまま、なにも言わなくなってしまった。
まずいことをしたかな、と焦ったところで、ボクは思い出した。
炭治郎はあの時言っていたじゃないか。
ボクの髪を撫でたのは、『妹の花子を落ち着かせるのによくやった事だったから』って。
『花子』。
炭治郎の、二番目の妹。
あった事なんてある筈もない。顔だって知らない。
ボクが知っているのは、その子はもうこの世に居ないと言う事だけ。
ボクがやったことは、炭治郎の心の傷を踏みつけにする行為だ。
謝らなくちゃ。炭治郎に。
ボクが口を開こうとすると、炭治郎は急にがばっ! と頭を起こした。
驚いてボクは手を引っ込める。
炭治郎は、目を閉じていた。目を閉じたまま、黙っている。
わからない。いつもは簡単に言葉が出てくるのに。
なんて言葉をかけたらよいのだろう?
女の子のことなら一目見ただけで、なんでもわかるのに。
こんなとき、お姉ちゃんならなんて言うんだろう。
「すぅー・・・はぁー・・」
息を吸う音がする。はっ、と意識を炭治郎に向けると、彼は深呼吸をしていた。
すぅ、と吸って、はぁ、と吐く。
それを繰り返して、炭治郎はゆっくりと目を開けた。
「できることを、1つずつ増やす、か」
そう言って、炭治郎はボクに向かって笑いかけた。
「ありがとう、白雪。君がいてくれて良かった。一人だと、どうしても力が入ってしまってたから」
お日様のような笑顔だった。
逆にボクはこの時、どんな顔をしていたのだろう。
きっと炭治郎も知らない。この時のボクの表情を。
なんだか見せられない顔になっているような気がして、顔を背けてしまったから。
「白雪? どうしたんだ?」
どうしたんだ、じゃないだろ。
「…ま、まさかなにか気に障るようなことでも言ったか!? すまない!」
気に障るようなことを言ったのは、ボクだろ。
お人よしめ。
ううん、なんでもない。
そういって、ボクは取り繕って顔を上げた。
ボクの表情を見て、炭治郎はすん、と鼻を鳴らしたけれど、やがて表情を引き締めて、刀を構えた。
もう、余計な力は入ってない。
うんうん、その調子だよー、炭治郎。
じゃあ一緒に素振りしようかー。悪いところがあったら、言っていくからねー。
「ああ!」
そういって炭治郎は刀を振り始めた。一回、二回、三回・・・。
何回かに一回振り方がぶれて、ボクはそれを指摘し続けた。
炭治郎は要領が悪いけれど、努力の才はある。
いつかはボクより強くなる。
ボクのよく当たる『勘』はそう言っていた。
…ねぇー、炭治郎ー?
「なん、だっ、しら、ゆきッ!」
素振りしながらも、律儀に答える炭治郎。
ボクは炭治郎の友達だからねー、ずっと。
「もち、ろん、だっ!」
本当に律儀に答えるなぁ、炭治郎。
ボクは女の子が好きだ。
手を繋ぎたい、可愛い着物を着てほしい、抱きしめたい、一緒に寝たい。
可愛い子ならもっと好きになる。
でも男の子とはあんまり話したことがない。
だから、正直ずっと苦手だった。
ただ、炭の香りがする男の子は、友達としてなら最高点かもしれないなぁ。
らしくないことを考えて、ボクは少し炭治郎をからかってやることにした。
炭治郎ー、ボクがいかに親切だからって、ボクに惚れるなよー。
「? ああ、そんな、ことは、しないぞ! 安心、してくれ!」
だから、几帳面にそんなこと言うなよ。
柄にもなく、すこしチクっとしたじゃないか。
大正コソコソ噂話(偽)
炭治朗くんは白雪ちゃんの臭いをあまり嗅ぎません。
そういうの、無神経だと思うし、禰豆子ちゃんもお兄ちゃんがそんな真似してたら嫌がると思うよー?
白雪ちゃんのこの一言が決定打になりました。