十二支 兎 :笑った顔でしょ。料理が上手いところに、家事をしっかりやってくれるところ。弱い俺を信じてくれること。髪の毛の色。瞳の色。長い睫。お茶目なところ。案外やきもち焼きなところも来るものあるよね。それから・・・
十二支 桜花:ひゃああああああああっ! わかりました! わかりましたから!! だ、駄目です!! これ以上は駄目!! 断固!!
大正○○年 ☆月○日
雨が強い季節になった。
館の雨漏りが心配になる季節でもある。
蝸牛と朝顔をみて、桜花と笑いあえる季節でもある。
良い季節だ、いい時分だ。
だから、こんな日ぐらい現れてくれるなよ。
今日も鬼を倒す指令が下った。かぁかぁと、オレの鴉は相も変わらずやかましい。
十二鬼月。
それが、オレが斬るべき鬼の名称。
探せ、探せ、と鴉がわめく。
うるさいぞ。近所迷惑だろうが。ご近所いないけど。
それを見て、桜花はまた寂しそうな顔をして。
オレに弁当と替えの草履を持たせてくれる。
今日は傘も持たせてくれた。
「帰りは雨が酷くなるかもしれませんから、今日は傘も持って行ってください。身体を冷やしてはいけませんよ。五体満足。桜花は、兎さんが無事に戻ってくれればそれで良いですから」
健気だなぁ、と思う。
大好きだ、と思う。
愛してる、とそう言いたい。
そして、すまない、とも思う。
オレはさっさと柱をやめたい。
もっと本音をぶちまけるなら、鬼殺隊だってやめたい。
だって戦うのは怖いし。
鬼だって怖いし。
十二鬼月なんてもう、認めないからね。そんな恐怖の権化。
そんな怖い化け物たちに、オレはなぜ刀1本、身1つで向かって行かなくちゃならないんだろう。
怖いなぁ。すげぇ怖い。
でも、桜花はきっともっと怖い。
だって、見送る夫が無事に帰ってくる保証なんてどこにもない。
五体満足なんて確約されない。
今日が、今生の別れになるかもしれない。
それでも、何時も笑って強気に送り出してくれる。
帰ってきたら、何が食べたいですか?
こんど近くで神楽があるそうですよ。
これから暑くなるでしょうから、甚平を出しておきますね。
留守は任せてくださいね。
桜花、気付いてるかな?
君はいつも、『オレが帰ってくる前提』の事しか、任務の前には言わないんだ。
怖いだろう、不安だろう。
一人の屋敷は広いだろう。
それでも君は、そんなことを絶対に口に出さない。
オレは
気が付けば玄関先で、オレは桜花を抱きしめていた。
あっ、と胸元で声がした。
二人の傘が、地面に落ちた。
「う、兎さん。苦しいですよ?」
ごめん。でも今は弱めたくない。
「兎さん、濡れてしまいます・・」
それでいいんだ。
「兎さん。兎さん・・・」
桜花の声に嗚咽が混ざり始めた。
いいんだ、それでいいんだ桜花。
オレは耳元でささやいた。
今日は雨が強いな、桜花。身体もどんどん冷えてきた。
これじゃ身体も震えるだろうし、顔もたくさん濡れるだろう。
でも仕方ない。今日は雨だ。仕方ない。
雨のせいだろうな。桜花の顔は、今日はとっても濡れていた。
必ず帰るよ。桜花。
「あの・・・出発前にお館様よりお渡しするものがありまして・・・そのう」
何時からそこに!? 隠の方よ!!
大正○○年。 ☆月□日
いい加減にしろよ。
いい加減にしろよな。
そんな気持ちを、オレが今抱えているのには理由がある。
だって、またいないんだもん。
十二鬼月。
いや、わかるよ。矛盾しているのはさすがに解ってる。
オレは戦いたくない。
十二鬼月になんて出会いたくもない。
会わずに済むならそれでいい。
でも、5回目だ。今月だけで5回目。
まるでオレが来たのを察したかのように、十二鬼月は逃げ回る。
奴が根城にしていた場所に足を運んでみれば、風に乗って流れてくるいつもの味。
こうも毎回毎回逃げ回られると、さすがにイライラしてくる。
だって毎回桜花は怖い思いしながらオレを見送ってんだよ?
オレも弱いのに戦わされるもんだから、毎回決死の覚悟な訳だよ。
いや、桜花と約束したから厳密には決死でもないけど。
それが、毎回空振り。
いい加減にしとけ。
食い散らかされた人たちの亡骸をみれば、その思いもまた募る。
逃げるくらいなら、出てくるな。
逃げるくらいなら、食うな。
決死の覚悟じゃないんだよ。
この人たちの一日は、当たり前に過ぎていくものなんだ。
だれも死ぬことなんて覚悟してない。
だれも。だれも。
大正○○年 ☆月△日
雨が降り続いたが、ようやく太陽が顔を出し始める。
ようやく外で洗濯物が干せます、と桜花は袖をまくって意気揚々。かわいい。
嬉しそうだね、と声をかけると、桜花はこう返した。
「いつもいつも隊服では兎さんも息が詰まるでしょうから。兎さんにさっぱりとした服を着てもらえることが、桜花は嬉しいんです」
おもわず抱きしめたオレに罪はない。
たとえ伊黒の奴にねちねち文句を言われたとしても。
また富岡君と胡蝶ちゃんに微妙な顔をされたとしても。
桜花が困ったようにオレを見上げてほほえんだ。
犠牲になる人たちがいる。
無念を抱える者達がいる。
望まずして鬼になった者たちもいる。
それを救うために、オレたち柱がいることも、解っているつもりだ。
でも、それでもオレは柱をやめたい。
哀しみが生まれるのは嫌いだ。
ひどい味がする。
でも。
桜花の隣に居られらないということは、オレにとっては何よりも。
だから桜花、約束だ。
この間の約束は、未来永劫の約束にしよう。
大正コソコソ噂話(偽)
兎君から逃げ回ってる鬼はいつも同じ奴だよ。
他の柱が来てもにげるけど、兎君の時は特にはやいんだって。
※お知らせ
主人公、兎の日輪刀の色が時透君と被っているというご指摘がありました。
もうしわけありません。
兎君の日輪刀の色はどうしても白で行きたいので、誠に勝手ではありますが本作中において兎の日輪等は純白の白、時透君の日輪刀の色は灰寄りの白、つまり本来の『霞』色とさせていただきます。
ご了承いただけましたら、誠に幸いです。