柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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 桜の花は春が過ぎると必ず散ってしまう。
 だけど次の春には同じ場所で、また咲き誇る。
 まるで、春が自分たちの所に帰って来るのを待っているかのようだ。

 昔、あの人がそう言って。
 私は自分の名が好きになった。


番外其ノ壱 十二支 桜花は 帰りを待つ  

大正○○年 ●月 ■日

 

 私の名前は、十二支 桜花(じゅうにし おうか)。

 鬼殺隊の柱が1人、十二支 兎さんの妻です。

 

 兎さんにならって、今日は桜花も日記をつけてみることにしました。いろいろと忙しい身なので、兎さんほどマメには書けませんが、頑張ってみましょう。

 そう、何事も挑戦が大事です。

 苦手だったお料理も、兎さんに隠れてこっそり練習して、恥ずかしくない腕前になりました。やってみよう、喜んでもらおうと言う気持ちが大事なのです。

 それを言われれば、この日記は誰に喜んでもらおうとしているのか、はて。

 

 日記、といっても桜花の一日はいつも取り留めのないものです。

 朝起きると支度をして兎さんの朝餉を作る。

 お洗濯ものを取り込んで、たたむ。

 兎さんを起こす。この時間が一番好きです。

 

 その後、任務に向かう兎さんをお見送りします。

 近くに藤の家があるとも限りませんから、お弁当も用意して渡しておきます。

 

 今まで、寂しさや不安が兎さんに伝わらないように努めて努力してきたつもりでした。

 でも、梅雨のある日。桜花は堪えきれなくなってしまって。

 いえ、止めておきましょう。

 さすがにあんな恥ずかしい話、兎さんも日記には書いていないでしょうから。

 

 さて、兎さんがお出かけされた後ですが、家の掃除、庭のお手入れなどやることはたくさんあります。兎さんの事ですから、それこそ上弦の鬼でも出てこない限り、なんだかんだと早く帰ってきます。失敗したことは、今の所一度もありません。

 ただ、このところ。空振りで終わってしまうことが増えたそうです。

 

 「アイツが現れたって報告が上がったから来てみれば、いつも同じ空気の味だけ残して消えてるんだ。そりゃ、戦うのは怖いし、嫌だよ。でもさっさとしないと犠牲者が増えていく一方だ」

 

 

 

やめたい。そう常日頃口にしている人とは思えない言葉ではあります。

 

 「やめたいよ。そりゃあやめたい。・・・でもなぁ」

 

 食われた人の遺族に会うたびに、心がざわざわするんだ。

 親を失った子を見るたびに、心が熱くなるんだ。

 

 前に、しのぶちゃんが桜花に語ってくれました。兎さん以外の柱はみんな鬼に対して、心の奥の憎悪を消すことが出来ない。だからどんなに取り繕ったところで、皆鬼と相対すると、自分を抑えることが出来ない。

 

「でも、あの人は違う。あの人は姉さんが死んだ後も。鬼を斬りに行きたくないと言う。任務に行っても、適当なことばかり。あんなにも強いのに。自分は弱いと言い訳してばかり」

 

 しのぶちゃんは、兎さんの事を嫌っています。それには少なからずカナエの事が関わっているんだと思います。

 胡蝶カナエ。私の親友であり、そして。

 

 いいえ、この話は置いておきましょう。

 内緒にするって約束ですもんね、カナエ。

 

 話を戻します。しのぶちゃんはそう言って、いつも申し訳なさそうに桜花を見ます。

 そのたびに、いいんですよ、と、一言。

 

 確かに兎さんの在り方をよく思わない方が多いのも事実です。

 絶対強者。歴代で唯一、上弦を圧倒できると言われた柱。

 

 業柱(わざばしら)、十二支 兎。

 

 兎さんの通り名だけは、呼吸法の名前ではありません。

 12の呼吸を同時に『極めて』しまった、兎さんにだけ許された名前。

 兎さんが柱になった時、お館様は大層喜ばれておりました。

 運命が変わる。時流が変わると。

 その刀は、何時か鬼舞辻に届きうるとも言われました。

 

 

 でも、肝心の本人は鬼狩りに積極的ではありません。

 怖い、行きたくない。

 いつもそんなことを口にします。

 そのたびにいつもいつも桜花に恥ずかしい言葉を・・いえ、なんでも。

 ともかく、一見すれば消極的なその姿勢は、才を捨てているようにも映るのでしょう。

 

 でも、桜花はそんな兎さんを誇らしく思います。

 

 兎さんは才能に恵まれた?

 それがなんですか。

 兎さんは歴代最強の柱?

 あなた達がそう決めたんでしょう。

 兎さんは鬼と戦わなくてはならない?

 ふざけないで。

 

 あの人がどれだけ恐ろしい思いをして。

 あの人がどれだけの重圧を背負って。

 あの人がどれだけ震えながら。

 

 

 

 それでも必死に日輪刀を握る様をみて、どうして認めないなんてことができるでしょう。

 

 兎さんは眠るとき、必ず桜花と手を繋ぎます。

 その手はいつも震えています。

 背中を撫でてあげると、ようやく落ち着いたように眠ります。

 

 兎さんは、人間を越えた強さを持った剣士かもしれません。

 でも、人間なんです。

 自分と同じ位置にいる剣士が存在しないから、自分の強さを実感できないだけ。

 本当に心の底から、自分の事を弱いと思っているのでしょう。

 

 

 だからこそ、桜花は兎さんの帰る場所になることを選んだのです。

 兎さん、あなたは否応なしに戦う事を求められる。

 あなたは捨て置けないから。

 親友との記憶を。

 骸からの怨嗟を。

 

 でも、桜花の前でだけはどうか。

 優しくて、怖がりで、沢庵が大好きで、仲間との時間がなんだかんだと好きで。

 そして、血に濡れた桜花を、妻と呼んでくれた。

 ただの、ただの兎さんでいてくださいね。

 

 桜花はいつでも、この屋敷で待っていますから。

 失敗してもいいですから、無事に戻って来て下さい。

 大丈夫、二人でいれば、大丈夫ですよ。

 兎さん。

 

 

 

 

 

 桜花は、兎さんの妻だから。桜花は、兎さんが大好きだから。

 




大正コソコソ噂話(偽)
 兎君は桜花ちゃんが料理をこっそり練習してたのを知ってるよ。
 兎君はこっそり洗濯を練習してたんだって。
 桜花ちゃんは、その事を知ってるよ。







平成コソコソ噂話
 作者は止まらないUAと評価に驚いているよ。
 みんな、本当にありがとう、だって。
 皆がこれをきっかけに、もっと鬼滅の刃を好きになってくれたら嬉しいな。
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