柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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四.子供は男の子が良いですか、女の子がいいですか?

十二支 兎 :え、子供!? あ、あはははは、ど、どう思う桜花。オレは桜花似の可愛い女の子が欲しいなぁ・・なんて。あ、あははははは!

十二支 桜花:・・・・。

十二支 兎 :そ、そうだよな! まだ早いよね! うん!! おいおい頼むよもっとちゃんとした質問を・・桜花?

十二支 桜花:・・・きゅう。

十二支 兎 :ちょ!? 桜花ぁ!? と、富岡君!! 胡蝶ちゃん呼んできて!! 桜花が恥ずか死しそう!!


十二支 兎は 我慢が出来ない

大正○○年 ●月※日。

 

 帰りたい。ああ帰りたい。帰りたい。 十二支 兎。

 そんな辞世の句を詠みながら、宇随君とオレは花街にたどり着いた。

 時刻は夜。

花街に灯が燈り、男が夢に、女が嘘に溺れる時間。

 鬼の時間。

 

 宇随君、ほんとにここに上弦の鬼がいるのかね。

 私は暇じゃあないんだよ宇随君。

 欠片でも可能性なしと判断したらすぐに帰るからね宇随君。

 

「地味にぐちゃぐちゃ言ってんじゃねぇ。本心を言ってみろ」

 

 これは誘拐だぞ宇随君!! さっさとオレを解放しろ!!

 

「まきをに鴉を送る。オマエの嫁にかける言葉も併せて指示する」

 

 さぁ宇随君、一刻も早く鬼を見つけ出そうじゃないか! 

 

 圧政とは、きっとこういう事を言う。

 ああ、桜花。オレがこんな場所に来ていることを桜花が知ったらどう思うんだろう。

 

 「兎さん・・・」

 

 ああ、桜花、そんな目でオレを見ないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「最低。二度と話しかけないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぅううううううぅずううううういぃぃいいいいいいい!!

 

 居るんだな!? ここに鬼! ホントに居るんだな!?

 

「わかったから静かにしろ! 地味に掴み掛んな!! 何のために地味に変装までしてここに来たと思ってんだ!!」

 

 黙れェ!! こちとら一歩間違えば大切なものをすべて失うんだよ!!

 今回の件が空振りだったら、俺たちただ遊びに来ただけじゃん!

 不倫をしに来ただけじゃん!!

 嫁を裏切っただけじゃん!!

 

「ほんとうるせぇな!! いるいるいるよ、上弦の鬼も普通の鬼も鬼舞辻も!! みぃんなここに居るだろうよ!!・・・・たぶん」

 

 たぶんっつったか貴様ァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 花街から少し離れた位置で、お互いの連携を高める為こっそり本気で殴り合ったオレ達は、改めて花街に潜入した。

 重ねて殴りたいことではあるが、今回この花街に鬼がいる確証はまだないとのこと。

 が、いることが証明できないと同時に、居ないことも証明できないのだと言う。

 

 宇随君は言った。

 花街、遊郭は鬼にとって理想の環境がそろいすぎている。

 

 夜になれば餌が集まり。

 多くの人間が身分、生い立ちを隠し。

 女であれば、問われるのは美しさのみ。

 

 宇随君は以前からこの遊郭に目を付けていたんだとか。

 やだなあ。ホントにヤダな。

 元忍の宇随君が怪しいと感じている。

 それなのに、痕跡1つ見つけられない。

 それはつまり。

 

 

 ここに鬼がいるなら、確実に強い、と言う事だ。

 

 

 

 潜入捜査。

 もちろんオレ達が鬼殺隊であると言う事は隠さなければならない。

 宇随君もいつもの派手な装飾、化粧を落として普通の客として隣に立っている。

 普通の客・・普通の・・。

 

 宇随君。もう普段から君その顔でいたら?

 

「バカだな。オレは祭りの神にして元忍の宇随天元。派手に生きなきゃ人生じゃねぇ」

 

 持っている人ほど、その価値には気付かないもんなのかもしれない。

 宇随君、化粧を落とせば超男前なのである。

 ほら、さっきから遊女たちがチラチラ、いいや。がっつり宇随君の方を見ている。

 オレには桜花がいるから、同僚の彼が男前だろうがなんだろうが特に感じるものはないが、きっと女性にモテたことが無くて、普段から女難に逢っている男が彼の顔をみれば、二度と宇随君とは口も利きたくなくなるだろうな。

 

 

 

 ところで宇随君。オレの変装、変じゃないかな?

 藤の家で用意してもらった着流しは、紺色を基調とした地味目の物だ。オレの場合、どうしても髪の色と瞳の色で目立ってしまう。だから衣服ぐらいは目立たない物を選んだつもり。

 

「ん、ああ・・そうだな。地味だ。地味すぎて泣ける」

 

 うるせぇ、放っとけ。

 

「だが、やっぱりその髪と目は何とかした方がいいな。よし、こっちにこい」

 

 そういって宇随君はオレを花街の路地裏に引っ張り込んだ。

 え? 何する気? 髪を切るとかならオレ嫌だよ。

 桜花がせっかく綺麗な色って言ってくれてるんだから。

 

 

 結果どうしたかと言うと。

 宇随君はオレの顔とあたまを包帯でぐるぐる巻きにした。

 

 ねぇ、酷くない?

 これ潜入捜査だよね。目立っちゃいけないんだよね。

 なんで男前と重症患者が一緒に歩いてんだよ。

 

 先行きに不安を感じながら、オレ達は店に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 花街の遊女にも、オレ達鬼殺隊と同じように階級がある。

 その中で最高位の遊女を花魁と言う。昔は太夫ともいったそうだ。

 美貌(桜花には劣る)、教養(桜花はすこし抜けてるところが可愛い)、芸事(一生懸命頑張る君が好き)。全てにおいて一流。まさに男を遊ばせることにおいて右に出る者がいない存在を指す言葉だろう。

 当然花魁と一夜を過ごすことはそう簡単ではない。

 なんどもなんども店に通いつめ、大枚をはたき、店の遊女たちからも好まれる。

 そんな男たちの中から、さらに上客として一握りの男たちだけが花魁に触れることを許される。

 つまるところ、店側としても花魁は基本『魅せて』稼ぐものであり、そう簡単に触れさせるようなものではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 そう。そう簡単に触れさせるものではない。

 

 

 

「旦那様、少々お待ちくださいませ。まもなく『鯉夏花魁』が参りますから」

 

 

 なんでこうなった!?

 

 

 話は少し前にさかのぼる。桜花への罪悪感にまみれながら二、三軒の店を回ったオレ達。

 すると宇随君が、効率を上げるために別行動をしようと言い出した。

 オレとしてもこの陣形、『男前ご膳、包帯ぐるぐるお化けを添えて。夏の彩と共に』はさっさと解散したかったので二つ返事で了承した。

 宇随君は隠や藤の家の人脈を使って、より深くまで探りを入れられるように手配をしておいた、と言ってくれた。

 その時オレは宇随君なりに気を使ってくれたんだな、と思った。

 きっと桜花への罪の意識で潰されそうなオレの為に、遊女と遊ばなくても店の丁稚のような形で潜入できるよう手配してくれたのだろう、と。

 互いに別れ際、激励の言葉まで送ったと言うのに。

 

 次の店、『ときと屋』に出向いてみれば。

 

 あれよあれよと座敷に通され。

 

 みんなめちゃめちゃ低姿勢で。

 

 もうすぐ花魁が来るって言われた。

 

 

 宇随君、君一体なにしたの!?

 

 

 

 ややあって、オレは鯉夏花魁の部屋に通された。

 やべぇ、もういろんな意味でヤバい状況だよ。

 

 鯉夏花魁。番付一番。つまり、この花街でもっとも美しい花魁。

 こちらに振り返り、ほほえむこの女性が。

 この花街の女王。

 

 いや、女王と言うのは少し違うか。

 彼女もまた、ここに捕えられていることに変わりはないのだから。

 

 

「旦那さん、どうして黙っているんで・・?」

 

 鯉夏花魁がオレに声をかけてきた。

 喋ってもいいのか。

 

 もうしわけありません。鯉夏花魁。お、わたしは本日が初会ですので。本日はお食事だけで。

 

 

 偏っているかもしれないが、急造で覚えた花街のしきたりに従おうとするオレに、鯉夏花魁はまたほほえんだ。

 

「ではそれで構いませぬ。今夜はそれで。食事に致しんす」

 

 なんとか場を収めることに成功。

 内心で、ほっと息を吐く。あとはなぁなぁで終わらせてしまおう。

 そう考えていた。

 

 

 鯉夏花魁の次の言葉を聞くまでは。

 

 

「では、今宵はわっちを『妻』と思って、お気軽に」

 

 

 なんだと?

 

 鯉夏花魁から、怯えた味がした。

 次の瞬間、オレは叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 オレの妻はこの世で『桜花』ただ一人!!たとえその場しのぎだろうがなんだろうが、桜花以外を妻とは呼ばない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やべぇ。やっちゃった。 

 




大正コソコソ噂話(偽)
 兎君は実は筍が少し苦手なんだ。
 桜花ちゃんが作らないと筍料理は食べないんだよ。

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