紅色の桜に紅色の刀。
お似合いの刑罰だと思っていた。
刀はあの人のおかげで白く染まった。
では、私は何色の心に染まったのだろう。
大正○○年 ●月※日
日記をつけるのは今日で二日目。
十二支 桜花です。
性急な文になっていることをお許しください。
ですがそれも仕方がない事ではあります。
桜花は今、とても怒っています。
ではどうして怒っているのか。
後々『あの人』をとっちめる為にも、まずはそれをここに書き込んでおきます。
先日、ねぎまちゃん(鴉の事です)が指令を叫んでもいないのに兎さんが任務に向かうと言いだしました。
桜花はすこし驚きました。兎さんが鬼狩りの仕事に自分から積極的になるのは、柱になってから初めての事です。
なにかあったのですか? と聞くと。
「い、いやなんでしょうね。宇随君がね、えっとね、えーっと。そう、人手が足りないって。すこし場所も遠いし、っていうか場所が悪いし、じゃなかった。だ、大丈夫!
桜花は何も心配しなくていいから!!」
と、しどろもどろの極致のような表情と態度で教えてくれました。
思えばその段階で何かを隠していたことを察するべきでしたが、愚かな桜花は特に疑問にも思わずに、お弁当を作って兎さんに渡し、出立を見送りました。
お弁当を渡した時の、兎さんの泣きそうな顔が印象的でした。
いえ。死に対する恐怖の表情とはまた違って。
なんでしょう。悲壮と言いますか、なんといいますか。
すごく。
なんだかすごく申し訳なさそうでした。
それはもうものすごく申し訳なさそうでした。
兎さんが出立した後、お味噌を切らしていたことに気付いた桜花は、屋敷を出て町に向かいました。
桜花たちが暮らしている屋敷は、とある竹林の中にあります。
柱の屋敷が襲撃されれば、鬼殺隊にとって大変な損害になりえる為、この竹林もただの竹林ではありません。
いたるところに罠が設置してある上に、道中の正しい石の形を覚えて進まないとぐるぐる同じところを回らされてしまいます。
この屋敷に越してすぐのころは、兎さん自身も罠を回避しきれずにズタボロにされていました。
「嫌がらせだよ。巧妙な嫌がらせだ」
とは、当時の兎さん談。
竹林から出て少し歩くと、大量の藤の花が咲き誇る場所に出ます。この藤の花は鬼殺隊によって植えられ、竹林を取り囲むように円形に配置されています。これにより、鬼たちは竹林に入ってこられないと言う訳です。ご存知だとは思いますけれど、人食い鬼は藤の花が苦手です。ここに着目して鬼にも効く毒を藤の花から作成したのが、蟲柱の胡蝶しのぶちゃん。すごい。
藤の花畑の出口には、いつも常駐してくれている隊士さんがいます。その人たちにお願いして、町まで護衛してもらいます。
桜花が柱の妻であると言う事は基本的に鬼にはばれていないはずですが、それでも念のため、と言って兎さんが柱の権力を最大限利用して手配してくれました。
最初はこの措置、兎さんの柱辞職を三月遅らせるという交換条件だったはずですが、それから全くやめさせていただける気配がない以上、お館様の方が兎さんより上手く立ち回ったのでしょう。血涙を流しかねない勢いで悔しがっていた兎さんが印象的でした。
「論破された!! なんか耳触りのいい言葉と他の柱から圧かけられてあっという間に論破された!!」
もう知らない。もう寝る。などといってふて寝しようとする兎さんでした。
可愛い、すごく可愛かったです。
あっ。
いけない、今は怒っているのでした。
兎さん、これを読んでにやにやなんてしてませんよね!?
怒ってるんですよ!? 桜花は、怒ってるんですからね!!
ともかく、その隊士さんと一緒に町に向かいました。
ちなみにですが、隊士さんはときどき交代していますが、なぜかいつも女性の方です。
なんでも兎さんの強い希望なんだとか。
なんでしょう。あまり男の人と歩いて欲しくないのでしょうか。
そうだとしたら、うれし
ああ、また書いてしまいました。
ダメです、桜花。
ここで甘やかしたら駄目。
ともかく、桜花は町に向かい、味噌を買いに向かいました。
ちなみに、味噌をすり鉢で無心にこする時間。
桜花は結構好きです。
醤油屋さんにたどり着く途中、知っている顔に出逢いました。
茶屋の椅子に座る彼に声をかけます。
おや、こんにちは。冨岡さん。
「・・・・・・」
冨岡さん。気持ちはわかりますが、桜花をみて疲れたような顔をするのはやめてください。さすがに傷つきます。
今日は任務ですか? いつもお疲れ様です。
「いや。今日は鍛錬に付き合わされている」
鍛錬、ですか? 一体誰と?
「・・・言わなくても解るだろう」
桜花が小首をかしげると同時、その答えが店の奥から現れました。
「うまい!!」
こんにちは。煉獄さん。
「うまい!! うまい!! おや! 桜花殿!! こんにちは!!」
煉獄さんは片腕には収まりきらない程のおにぎりを食べていました。
ああ、なつかしい。
以前、屋敷に遊びにきた煉獄さんに、桜花は夕餉を勧めたことがありました。
兎さんが必死に桜花を止めていましたが、その時は兄弟分と食事する事を照れているのでしょうか、ぐらいにしか思わなかったのです。
結果、屋敷の米とおかずは目の前の炎柱に食べつくされてしまいました。
その夜、意味もなくひもじい思いをしたのを覚えています。
烈火のごとく怒った兎さんが煉獄さんを引き連れて竹林を飛び出し、一番近くの森までいって動物を狩って来てくれたのは良い思い出です。
そんな事件があったにもかかわらず、煉獄さんの事を話す兎さんが楽しそうなのは、ひとえに彼の裏表の無さが大きいのでしょう。
規律を重んじ、何時でも思ったことを大きな声ではっきりと言う。
芯がある人だと思います。
ただ、真面目すぎて周りを引っ張りまわしてしまうことが玉に傷。
今回の犠牲者・・いえ、鍛錬の相手は冨岡さんだったのですね。
そういえば心なしかぐったりしているように思います。
煉獄さん、冨岡さんとどんな鍛錬を?
「うむ! お互いにどこまで成長しているか確かめたかったからな!!」
「俺はそんなこと言ってない」
「互いの呼吸と型をぶつけ合う事にしたのだ。いや、実に心が躍る!!」
「俺は踊らない」
「だがさすがに日輪刀で斬り合う訳にもいかないからな!!富岡殿には悪いが、木刀で我慢してもらった!!」
「さっきからどこ見て話してる」
なんというか。冨岡さんの言葉尻の低さ。なんとなく任務前の兎さんに似ているような。
ああ、逆ですね。
冨岡さんが、兎さんに似たのかも。
まぁ、でも煉獄さんの鍛錬相手はいつも兎さんでしたもんね。
たまには気分が変わっていいのかも。
「うむ! なにせ兎殿は宇随殿と遊郭に行ってしまったからな!! 残念至極!!」
今、なんて言いました。煉獄 杏寿郎さん。
「む? ああ、兎殿は宇随殿と遊郭に行ったと言った!! ところで桜花殿、遊郭とは何をする場所で・・・・桜花殿?」
「・・・すまない。あの日であった少年。俺にも逃げたいときがある」
へー。
ほー。
っはーん。
そうですかそうですか。
どうにも変だとおもったんですよねぇ。
兎さんが自分から任務に行こうとするなんて。
兎さんがお弁当もらってあんな顔するなんて。
行先を教えてくれないなんて。
そうですか、そうですか。遊郭。へー。
気が付けば、桜花は「どうしよう、これはホントにどうしよう」と大慌てする柱ふたりを置いて、とぼとぼと竹林を歩いていました。
護衛の隊士さんも途中まで
「なにか理由があったんですよ」
とか、
「業柱様に限って、そんな。浮気なんてする訳ないじゃないですか」
とか、声のような何かを掛けてくれていましたけれど、桜花は『浮気』という単語が脳に焼き付いてしまって。
それはもう。うわごとのように繰り返しました。
浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。
浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。
浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。
浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。浮気。
80回を超えたあたりで、護衛さんは何も言わずに虚空を見つめ始めました。
手元を見ます。なにもありません。
兎さんの馬鹿。お味噌、買えなかったじゃないですか。
桜花の手にはなにも残ってないんです。
あなたが言ったんじゃないですか。
あなたが桜花に言ってくれたんじゃないですか。
『桜花!! オレは、オレは鬼が斬れるから君を好きになったんじゃない!!君が、君が鬼を-―――』
馬鹿。馬鹿。兎さんの馬鹿。
約束してくれたじゃないですか。
他の女性なんて見ないでくださいよ。
馬鹿。馬鹿。馬鹿。
ごめんなさい。もうこれ以上。書いていられません。
兎さんがもうすぐ帰ってきます。
でも知りません。
もう桜花は兎さんなんて知りませんからね。
ばか。
大正コソコソ噂話(偽)
よく桜花ちゃんの護衛を任されている女性は霙(みぞれ)さんって言う名前だよ。
彼氏募集中なんだって。