(初出:2015/09/11)(他サイトと同時投稿です)
(2015/11/08:同じ世界線の話を書きました。→「アントラクト Ⅱ」https://syosetu.org/novel/161101/)
(2016/04/09:同じ世界線の話を書きました。R18注意→「アントラクト Ⅲ」https://syosetu.org/novel/161175/
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(2016/04/09:同じ世界線の話を書きました。R18注意→「アントラクト Ⅲ」https://syosetu.org/novel/161175/
チフォージュ・シャトー。その建造は外部調達になる必須パーツとエネルギーを除いて大方が終わりつつあった。
その大広間。四つある台座の一つの前にキャロルは立ち、その元へとエルフナインが向かってやってくる。
「――までの作業、終わりました」
「ご苦労。今日はもう下がっていい」
エルフナインを一瞥して、キャロルは視線を元に戻す。エルフナインもその視線の先を見た。
水の意匠が施された台座。その上には一体のオートスコアラー、聖杯を内に宿したガリィがアラベスクのポーズで安置されていた。
「いよいよオートスコアラーの起動ですか」
「ああ。そろそろ『想い出』の採集に取り掛かって然るべきな頃合いだからな」
キャロルは台座の上につま先で立ち、不安定な姿勢をガリィの肩に掴まって支える。
背筋を伸ばし、顔を寄せて。ガリィの唇に口接けた。
重なりあったそこでぼうと淡い光が灯り、やがて消える。
台座を降りたキャロルの眺める前で、ガリィの肢体はキシキシと軋みを鳴らして微動したかと思うと優雅にターンをして、スカートの端を摘んで軽く持ち上げながら、恭しくお辞儀をした。
「おはようございます、マスター」
「目覚めたか、ガリィ。お前にはさっそく『想い出』の採集を命じる。隠密裏に事を運べ」
「それが、マスター……うっうっ」
ガリィは両の拳を口に当て、目を潤ませてキャロルを見る。
「ガリィ、お腹がぺっこぺこすぎて……もう少し『想い出』を分けて貰えると、お仕事がスムーズにできると思うんですけど」
つい、と立てられた象牙色の指が、キャロルの斜め後ろを指し示す。
「そこのホムンクルスからいただいても?」
不敵な笑みのガリィに指さされ、エルフナインは、えっ、と肩を跳ねさせた。
だがキャロルは顔を左右にする。
「アレから『想い出』を採集することは許さん。勝手なことをすれば、オレが手ずからお前を廃棄処分にすると覚えろ」
あどけないながらも低い声で威を漂わせるキャロルの静かな物言いに、ガリィは少しも動じるところがなかった。
顔の高さの上げた手の平を前後にひらひらさせる。
「じょーだんですよ。それではマスターから、もう少し頂いても?」
「……必要分だけ赦す」
「それではさっそく」
台座から華麗に跳ねて降り、ガリィはダンスに誘うかのような手つきでキャロルの頤に指かけた。
優雅だが、予想外に、ともすれば不遜に見えるほど大胆で。
反射で身を強張らせたキャロルにかまわず、ガリィは顔を寄せてくる。
その唇の端が、嬉々と歪んでいるように見えたのは気のせいだろうか。
「いただきまーす♪」
顎をわずかに上げさせられて、唇を重ねられた。
薄く開いていた歯列を割って、ガリィの舌が口腔に滑り込んでくる。
舌先が触れてきて、絡ませられる。唇が合わさるそこで、淡い光が再び生まれ、だがすぐに明るさを失ってやがて消えた。
「ん、っ……」
両頬を両手で包んで、ガリィは更に深く口接けてくる。
より深く、擦り付けるように一方的に絡められると、キャロルはぞくりとしたものが頭の後ろへ走るのを感じた。
「っ、……」
それはガリィに触れ合わされる度に沸き起こって、だんだんに大きくなっていく。
慣れない感覚に思わず顔を引いてしまいそうになるのを、頬を包むガリィの両手が妨げる。
無意識に上がった手が、ガリィの腕の袖を掴む。
「ぁ、ふ……」
顔の左右を違えて、再び深く。
エルフナインの目には、キャロルは反射的にガリィを押し返そうとして、けれども自らの意志でそれを堪えているかのように見えていた。
キャロルの指の引くガリィの袖の皺は、更に寄るばかり。
自分たちを造った創造主の、赤みが差している小さな耳と細い首筋。何かを堪えるよう顰められた眉、時折漏らされる吐息の湿った音。あまりに濡れたその情景にエルフナインは顔を赤らめて、はわわわわと両手で自らの顔を覆った。
微かな水音はしばらく繰り返され、やがて。
ちゅ、と啄みを唇に残して、ガリィはキャロルを解放した。
「ごちそうさまです」
「っ、はぁっ……」
熱をもった吐息を吐き出す。
軽い立ちくらみに一瞬、よろめいて。
よろめきついでにガリィの肩を突き飛ばすも、まるで力が足りずガリィを支えにしたかのような形になってしまった。
それに苛立ちを覚えつつ、拳の甲で唇をぐいと拭いながら、キャロルはきっとガリィを睨む。
「採集を終えてなお探ることに、何の意味が」
「マスターとキスする機会なんてそうそうあることじゃなさそうですから、今の内にと思いまして」
悪びれず可愛く言うガリィに、キャロルはますます憮然として眉を顰める。
「性根の腐ったお前らしいな。足りたのならさっさと行け」
「りょーかーい。ガリィがんばりまーす☆」
ガリィは屈託のなさを殊更強調するような笑顔で、手をこめかみ付近に当て敬礼してみせた。
その後、掲げた腕を胸の前で曲げ、頭を下げてのレヴェランスで礼を取ったのち、軽妙なステップを踏み弾むように舞いながら、城外に続く闇へと消えて行った。
大広間に残ったのは、キャロルと、もう一人。
エルフナインは、頬を未だ少々上気させたままの顔で、おずおずとキャロルを伺う。
「キャロル、顔が赤いです……大丈夫ですか?」
「っ……!」
顔が熱を持っているのは自覚している。それをわざわざ口にされて、顔がさらにかっと熱くなった。
「問題ない。お前もだエルフナイン、もう行け!」
「は、はいっ!」
とてとてと慌てたように走って大広間を出て行くエルフナイン。
それを見届け、キャロルは玉座に腰を下ろす。
「まったく……」
溜息を付く。昂った精神を落ち着けるために。
考えに沈む。半ば無意識で、指で唇に触れた。
……ガリィがあんな思考を持つとは思わなかった。
「あれもまたオレの精神構造の一部から創りだした擬似人格……」
嗜虐心の発露、だろうか。裏目にでなければいいが。
「潜在願望の解消……いや、……」
顔を左右に振って、頭を過った疑念を振り払う。
懸念はあれど、こちらの命令は絶対的に聞くようだった。使命を忘れないのならそれでいい。
不足を可及的に補わなければならない場合は、今後も先ほどのように手ずから『想い出』を供給する必要があるだろう。
その時には先刻の感覚を再び齎されると思うと落ち着かない気分になるが――たぶん、必要に迫られる時はない。
ガリィの視覚映像を呼び出して様子を伺ったところ、さっそく一人目の捕獲に成功してした。
この調子ならば、レイアとファラ、ミカの起動もすぐだろう。
顔を上げ、天井を見上げた。底の見えない高い闇が視野に落ちてくる。
大広間に低く微かに流れる歯車の音楽に身を委ね、目を閉じる。
世界の終わりは、まだ始まったばかりだ。
…という錬金術勢の幕間劇でした。アントラクト=entr'acte=幕間に演奏される楽曲。
オートスコアラーの運用を開始するにあたってはじめに起動させるのは想い出供給ができるガリィだろうし、ガリィならキャロルにこんなことをしてもおかしくない(断言)…という発想を発散させたかったのです。
(2015/11/08:同じ世界線の話を書きました。→「アントラクト Ⅱ」https://syosetu.org/novel/161101/)
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