GX8話のミカの様子と、バーニングハート・メカニクスの用語解説からこんな感じのミカ→ガリィを想像してました、と表明する的なSSです。
GX8話沿いなのでガリィは登場しませんすみません。
(初出:2016/01/16)(他サイトと同時投稿です)
(2016/06/17:同じ世界線の過去話を書きました。→『アーティフィシャル・アイ』https://syosetu.org/novel/161721/)
GX8話のミカの様子と、バーニングハート・メカニクスの用語解説からこんな感じのミカ→ガリィを想像してました、と表明する的なSSです。
GX8話沿いなのでガリィは登場しませんすみません。
(初出:2016/01/16)(他サイトと同時投稿です)
(2016/06/17:同じ世界線の過去話を書きました。→『アーティフィシャル・アイ』https://syosetu.org/novel/161721/)
重い金属音と振動とを響かせながら無数の巨大歯車が稼働する。主が倒れたそのときと同じく、ひとりでに。
チフォージュ・シャトー最深部、玉座の間に備わっている四つの台座。何も載っていない二つの台座のうち、ミカから対角に位置する台座が、その司る水元素を象徴する青色に激しく輝いた。
台座から垂直に照射された青い光柱が、天井から垂らされている青のタペストリーを照らし上げる。裾から上方へ向かって、その表面に白く輝く構造式が浮かび上がっていく。
――譜面に音階が記された。呪われた旋律の音階が。
それを見上げるのは、どこか誇らしく思えるところがある。自分の他にシャトーに残り、隣の台座で薄く笑みを浮かべて譜面を見上げているレイアもきっと同じ心境だろう。
これが主から課せられた至上の使命、記すべき譜面の一つ目だった。ギアを一つも破壊できなかった汚名を雪ごうとしてか、一番に毟り取るという宣言通りガリィはやってのけた。
それは同時に、ガリィが装者に敗れたということを意味する。
呪いの旋律を身に刻まれたということ。
装者に破壊されたということ。
ガリィはもう、どこにもいない。
「……なんか、おなかすいたゾ」
腹が唐突に空腹を訴え始めて、ミカは爪指の手を腹にやった。呟きを聞きとめたレイアがこちらに振り向く。
「もうなのか? 少し前にガリィから、派手に想い出を大量に貰っていたのを見た気がするが」
「んん? んんん? なんか少し、違うんだゾ……」
両手で腹をさすりながらしきりに首を傾げるも、判然としない。
レイアが言うように、ガリィから分け与えられた想い出はまだ充分にカラダに残されている。その感覚もたしかにあるから、空腹にはならないはずだった。
けれど空腹感、のようなものがある。空腹感によく似た何かが、腹の奥で渦巻いている。
腹にぽっかり穴があいたような、そんな心許なさ。おなかがさびしい、とでも言うのか。
寂しさ。切なさ。足りなさ。虚しさ。そのどれもつかないようなぼんやりしている言い知れない感覚は、自分を何かに掻き立ててくるかのようで。
「……よくわからないけどたぶん平気だゾ。それより次の任務だゾ」
そのおかしな感覚を除けば、機体の調子はすこぶる良い。問題は無いだろう。それより今は使命の方が大事だ。マスターも以前言っていた。全てに優先されるのは計画の遂行だと。
マスターが現在の躯体を損壊させたり、廃棄するなどして喪失した場合、予備の躯体が聖櫃に装填され自動的に復活を果たす機構がシャトーには備わっていて、現在それが稼働中だった。
マスターは呪われた旋律をその身に受けることで譜面を作成する。随一の爆発的パワーを誇るガングニールの装者のイグナイトモジュールにて繰り出された一撃はよほど重かったのだろう、防御するのに想い出は全て燃え尽きてファウストローブは解除され、立ち上がれないほどのダメージを負ったため、人間に捕まる前に自害を選んだらしかった。
その選択は意外だったけれど、マスターの躯体の死は可能性として想定の範囲内だった。計画の全容は最初からカラダにインプットされている。マスターが不在でも計画は進められるから、慌てることは何もなかった。
躯体への想い出のインストールの進行度合いとは関わりなく、各自使命を遂行するよう命令されている。採譜する前に遂行すべき作戦行動は大きく二つ。レイラインの制御を担う要所を破壊、開放すること。聖遺物が隠匿されている拠点の座標を割り出すこと。
ギアの改修作業の妨害に見せかけつつ、電力総量が目的数値に落ちるまでこの国の発電施設は破壊し終わっている。地下溝の電気経路に割り込み、優先的に電力が供給されてる拠点を洗い出す。事前に決めた役割で、これがミカの分担だった。
「任務に行ってくるゾー」
台座から降りて、広間の出入り口に向かって歩き出す。
「フ、地味に負けていられないというわけか」
「……そういうわけじゃないゾ」
前を通りかかるときにかけられたレイアの声に返答するも。
ふいに胸を過ぎった刺々しいものの不可思議さに、胸中で首を傾げる。
――ねぇミカちゃん。恋ってどういうものだと思う?
――恋ってなんダ?
――誰かを好きになるということなんだけど。
――誰かをカ? 何かをじゃないのカ?
――そういう好きじゃないっての。はぁ、もういいわ……同じ想い出を分け合ってる人形同士、何かわかってるかもと思ったけどそんなことあるわけなかったわねー。ほら、さっさと想い出を分けるわよ。
――ガリィから想い出をもらうのは好きだゾ。
――はいはいそれはどーも、ってまさかそのために燃費を少しも考えてないなんて言わないでしょうね――
想い出の口移しをする少し前。顔を向かい合わせたガリィがふと言い出して、そんな会話を交わしたのはいつのことだったろう。
採集した想い出は、元の持ち主の記憶をその中に見ることができる。そうして見た人間の記憶を含め、人形自身が直接見聞きした情報は人形の記憶として残るけれど、燃やしてしまえばそれまで、跡形もなく綺麗さっぱり消え失せる。
大して興味が湧かないのでミカは想い出の中の記憶を見ることはほとんど無かったけれど、ガリィはつぶさに観察しているようだった。戦闘特化の自分と違い、ガリィは幻術で相手を撹乱する戦闘スタイルなので、人間の思考や心理を学べる情報は力の源なのだろう。あるいは単に、性根が腐っているだけあって興味本位か。
そんなふうに見知ったことをガリィはたまに、想い出を口移しするのに二人でいるときに話してくることがあった。あのとき言い出したことも、きっとそうした中で生じた疑問の一つだったのだろう。
そんなガリィのことがちらちらと頭をよぎる。ガリィは使命を果たすために装者に壊された。自分たちはそのために作られたのだから当然の帰着だ。自分もいつかは装者と戦って壊される。それは最初から決まっていて、わかりきっていたことで、何もおかしなところはない。なのにどうしてかガリィのことがたびたび思い出されてしまう。
ガリィがいなくなって張り合いが無くなったと感じているのは事実だった。
落ち着き払っているレイアや、しなやかな物腰のファラには見られないガリィの振る舞いは、稚気をくすぐられるもので。態度や言動をいじってやると起伏のある反応を返してくるガリィがミカには面白かった。
マスター以外には下衆で砕けた態度を隠そうともしない割に、ミカが解けかかったケープの紐やリボンを爪の手で直すのに難儀していれば、しょうがないわねと言いながら直してくれたり。
先の回想のように、よくわからない事柄をミカに話してみては、言っても無駄だったと落胆した顔をしたり、突っ込まれればキレてみせたり。
そういう打てば返るガリィの見飽きない姿が見られなくなって、つまらないという気持ちがあった。あるいは、想い出はもう貰えないと知って、カラダが空腹を錯覚しているせいなのかもしれない。
けれど、それらの理由にしては不可思議に腹の辺りがきゅうと絞られる感覚に襲われる。
つまらない。つまらないを通り越して、むしゃくしゃする。ともすれば自棄になってしまいそうな。
各地のレイラインを司る霊的な要所を破壊してまわった数日は、そんな気分に占められながらの日々だった。
「これでー、どやあー!」
「派手にひん剥いたな!」
玉座の間の床に展開させた電力供給先マップを見て、レイアが感心したように声を上げた。
そろそろ電力の供給体制が安定したころだろうと踏んで、共同溝に侵入してきた。対応に来た、呪われた旋律をついに口にしなかった装者たちを叩きのめして勝負を預け、戦果をシャトーに持ち帰って来たのだった。
これで大容量の電力を供給している先は丸分かりになった。自分に分担された任務はここまで。台座を降りて広間の出口に向かう。
「どこへ行くの、ミカ? 間もなく想い出のインストールは完了するというのに」
「自分の任務くらいわかってる!」
カラダのなかに渦巻いている、何に対してかわからない苛立ちが声を荒げさせた。声をかけてきたファラを振り向く。
「きちんと遂行してやるから、あとは好きにさせて欲しいゾ」
言い置いた後は振り返ることなく、大扉を通って広間を出た。
――ミカちゃんいい? 装者の隣にいるあの人間は、あの装者にとって大切なものなの。
――大切なもの?
――友達、つまり仲間ってことよ。わたしやミカちゃん、レイアちゃんやファラちゃんもマスターの計画に欠かせない仲間でしょ? そういう仲間の中であの人間が、あの装者にとって一番ってこと。
――もしかして前に言ってた、好きってことカ?
――ま、早い話そういうことね。
――おおっ、そういうことカ! わかんないけどわかったゾ!
――はぁ……わかったんならそれでいいわ。それで作戦だけど、二人を追いかけてあの人間を襲おうとすればあの装者は――
おなかはすいてないはずなのに、おなかがすいている。その感覚はずっと続いていた。つまらない。むしゃくしゃする。数日たった今も、その気分は募るばかり。共同溝にやってきた装者たちと戦ってるとき、道草を窘めたファラについ反発してしまったりもした。
それは先刻、玉座の間を出るときにも。水元素の台座が目に入ったのもいけなかった。あの青い光柱を見ると、空腹感に似たもどかしくてやるせない感覚は一層強まって、何もかもが煩わしく思えてしまう。
目当ての行き先は、都心部のとある神社だった。そこは装者たちの通う学校の近く。運が良ければ装者のいずれかと見えることがきっとある。神岩や古祠として扱われているレイラインの要所を破壊する使命のついでに装者と戦いでもすればきっと気が晴れる。最終目的も達成できるかもしれない。そう考えてのことだった。
高所で様子を窺うこと小一時間。案の定、じゃりん子装者の二人が通りかかった。
頭上の天を指差し、空中に円を描く。召喚したカーボンロッドの一本を目標の祠に落として破壊し、残りは周辺に派手にばらまいて建物を壊しまくる。
レイラインの開放を気付かれないようカモフラージュしつつ装者を焚きつける目論見は成功した。見つけやすいよう鳥居の上に移ったこちらを発見して、じゃりん子どもはギアを纏って臨戦態勢になる。
今度こそ、呪いの旋律を貰い受ける。期待を掛けて、カーボンロッドを避けながら距離を詰める装者二人に応戦する。
けれど、その斬撃は防いで弾くも、躱して蹴るもたやすかった。
「これっぽっちィ? これじゃギアを強化する前の方がマシだったゾ」
てんで弱いままだった。
ため息混じりのぼやきに刺激されて翠色の装者が大鎌で斬りかかってくる。それを余裕で宙空へと躱して、飛ばしてきた鎌の刃を全て受け切って。「どんなもんデス!」粋がる翠色の装者に、「こんなもんだゾ!」爆煙の中からお返しに召喚カーボンロッドを数本降らせてやった。地上で慌てて避ける翠色の装者。
「変形しないと無理だゾー」
「躱せないなら……!」
避けるのをやめて、大鎌を構え直す。そこへ横から紅色の装者が割り込んで、大鋸四枚を盾にしてカーボンロッドを全て防ぎきった。
やるナ、と素直に感心する。紅色の装者の方が適合係数は低いはずだった。次はどんな手でくる? と様子を伺っていると。
大鋸を解除した紅色の装者の肩を、翠色の装者が突き飛ばした。
苦々しい顔で睨み合う二人。
仲間割れ、に見えた。
じゃりん子装者どもはニコイチでギリギリ。喧嘩している二人では採譜に必要なフォニックゲインは望めないかもしれない。
今回もだめか、と落胆しかけたそのとき。
「違うデス! 調が大好きだからデス!!」
間合いの開いたここまで聞こえる大きな声で、翠色の装者が叫ぶように言い放った。
ぽかんと惚ける紅色の装者を置き去りにして、翠色の装者が一人だけで立ち向かってくる。
「大好きな調だから、傷だらけになることが許せなかったんデス!!」
相方に向けた言葉をこちらに叩きつけるように叫びながら、大鎌で斬りかかってくる。
昂ぶらせた感情のせいか、フォニックゲインの高まりを感じる。なんだかよくわからないけれど、いい傾向だった。
もうしばらく戦って様子を見てみる価値はあると、再び期待をかけ直す。
繰り出してくる大鎌の斬撃をカーボンロッドで受け止め躱すさなかで。
目の前で叫ばれた翠色の装者の言に、何故か、ひどくひっかかるものを感じていた。
「わたしがそう思えるのは、あのとき調にかばってもらったからデス! みんながわたしたちを怒るのは――」
続く言葉は耳に入らない。高まり続けるフォニックゲインに顔をほころばせて攻撃をいなしながら、けれど装者の声は遠い。
”大好き”。
”好き”とは、好むものを言う言葉だ。
けれどこの言葉を、翠色の装者は紅色の装者を言うのに使った。
前にガリィがふと言い出したことのように、誰かを言う言葉でもあるようだ。
あの翠色の装者は、紅色の装者のことが”好き”ということ。
自分の場合は――
マスターが好き。マスターだから、当然に好き。
自分が好き。最強だから自分が好き。
レイアとファラが好き。マスターに作られた自分と同じ自動人形だから好き。
想い出をくれる、ガリィも好き。
想い出を口移しされるのが好き。なんとなく楽しいから好き。
ガリィが好き。
好き?
(……あれ?)
眼前でぶつけあったカーボンロッドと大鎌の間に重い金属音と火花が散る。迫り合いになる。翠色の装者はまだ、背後の紅色の装者に向けた言葉を叫び続けている。
なんか、さっき。
お腹じゃなくて、胸のところが、へんだった。
ガリィのことを思い出すと、何かが違う。
ガリィだけが違う。
マスターとも違う、レイアとファラとも違う。
種類が違う”好き”な気がする。
「うわあああ!」
爆炎で出力をブーストした両腕でカーボンロッドを押し退けるようにしてやると、力負けした翠色の装者が吹っ飛んでいった。
「何となくで勝てる相手じゃないゾ!」
翠色の装者を受け止めた紅色の装者ともどもを、おどけて煽る。
紅色の装者のフォニックゲインも良い感じに高まってきているのを感じる。このまま向こうの戦意を煽り続ければ、イグナイトモジュールをようやく使ってくれるかもしれない。
胸中は期待感で湧いているけれど、一方では同時に湧き上がったもやもやするものを扱いかねていた。
お腹の中が、からっぽじゃないのにからっぽで。
おなかがすごく空いているようで、でも空いてなくて。
よくわからない。
誰かを好きということ。
好きとは違う好き。
大切なもの。
言葉たちが、頭の奥でくるくる回る。
寄り添い合い、支えて支えられている装者二人。そんな様子の二人を見ていると、お腹より上のところで何かが軋む。軋みがひどくなる。
あれがもし、自分とガリィだったら――
(……いま、なにか)
もやのなかに、爪指の手を差し伸ばす。
「「イグナイトモジュール、抜剣!」」「デス!」
意識が引き戻される。装者のフォニックゲインが爆発的に高まった。
こちらの戦意も否応なく高まる。
もやに差し入れかけた手は、吹き上がった熱狂の炎風に吹き飛ばされた。
「底知れず、天井知らずに高まる力……!」
待ち望んでいたものがようやく来た。思わず笑顔になる。今まで晒されたことがない、笑ってしまいそうなくらい極高のフォニックゲイン。
喜び勇んでこちらもスイッチを入れる。
バーニングハート・メカニクス。残存想い出の焼却効率を限界まで引き上げて、燃え尽きるまでの四分間、カラダの限界パワーで暴れ尽くす決戦機能。
カラダが燃えるように熱くなる。マスターに着せてもらったケープが、リボンが、身につけているもの全てが燃えて、消し炭になってカラダから剥がれ落ちた。
呪われた旋律を身に纏い、間合いを詰めてくる翠色と紅色。
振り下ろされた大鎌は爪で受け止めて弾き返し、巨大ヨーヨーは両手で捉えた後スイングして投げ飛ばす。
「最強のアタシには響かないゾ! もっと強く激しく歌うんだゾ!」
もっと、もっと。戦いへの熱狂で、視界が灼熱の色に染まっていく。
ガリィから貰った想い出も、ガリィと自分の想い出も。
カラダのなかの想い出を全部燃やし尽くしたら、あの不可思議な感覚も一緒に燃えて消えるのだろうか?
全部燃え尽きたら、きっと腹ペコで動けなくなる。
そうしたらガリィに想い出をたくさん貰えばいい。
カラダが空っぽになるまで燃やし尽くしたあとの想い出は、きっと美味しいに違いない。
ガリィの呆れた顔が容易に想像できる。
眉を顰めて肩をすくめながら、はぁ、とため息をついて。
――ミカちゃんはほんと大食いなんだから、しょーがないわね。
「闇雲に逃げてたらジリ貧だゾ!」
上空に召喚したカーボンロッドを五月雨落とした後、空中の足場にしていた極太も掌底で打ち出して装者に向かって叩き込む。
地面に生えたカーボンロッドの森を走り抜ける翠色の装者の背後を追う。無防備な背中に追いつきかけたそのとき、翠色の装者はカーボンロッドの一本に大鎌を引っ掛けて、それを支点にぐるんと身体を旋回させた。
「ゾなもし!?」
行き違いになった翠色の装者がワイヤーを放つ。余裕で躱すも、避けたそれは離れた背後にいた紅色の装者のギアに接続された。
後ろを見遣った一瞬の隙に、重ねて放たれたウィップに身体を絡め取られて地面に縫い付けられる。
『太陽の輝きに――近づけるかな――』
『月を包む輝きに――嘘はない番いの愛――』
前後に張られたワイヤーが猛然とギアに巻き取られる。
前方から翠色の刃、後方から紅色の鋸が加速してこちらに迫る。
「足りない出力を掛け合わせて……!?」
身動きを取れなくしての挟み撃ちだと察した。
拘束を解いて避けようと思えば避けられる。けれど、この掛け合わされた二人分の呪いの旋律を受ければ、間違いなく良い採譜ができるとカラダが訴えていた。
今この瞬間が、マスターより課せられた最終使命を果たすとき。そう悟ったとたん、カラダの奥底から言い知れない嬉しさが沸き起こってきた。
顔が笑っているのが自分でも分かる。これからやってくる悦びに、カラダが打ち震え出しそうなほど。
けれども、ふと。
先刻考えたことは間違いだったという気付きが、思考に差し込んできた。
燃やし尽くしてからっぽになっても、想い出はもう貰えるはずがない。
ガリィはもうどこにも居ないのだから。
そう認識しなおすと、急にガリィに会いたくなった。
空腹感が急激に募る。
いや、違う、と。否定するものがあった。
何かを欲しているのには違いないけれど、これは、別のものだ。
他の物、者に向けるのとは一切違う、この感情は。
爪指の間ですかすかとすり抜けるばかりのそれが、ようやく爪の先にひっかかった気がした。
翠色の断頭刃が、地面と平行に爆速で迫り来る。
目にそれを映しながら、爪の指でしかと掴んだ。
頭の中で、もやが晴れていく。
双刃の女神の綴る歌詞が、呪われた旋律に乗って高らかに歌い上げられる。
『Just Loving――!』
そうか、これが。
◇
二度戦ってよくわかった。あのオートスコアラーはとてつもなく強かった。
こちらがイグナイトモジュールの起動にようやく成功すれば、呼応するようにあちらも高熱を纏って様相を変えて、その力はイグナイトモジュールで得られる出力に匹敵するか、上回るほどだった。
切歌のワイヤーで捕らえることが出来たあのとき、まだまだ余力を残していたようにさえ調には思える。
それでも。
「何せよ、倒せてよかった……」
「強かったけれど、あたしたちが力を合わせればこんなもんデス!」
先輩と司令たちと別れて、夕焼けの中を二人で暮らしているマンションへと歩いて帰る途中。隣を歩く切歌が請け合って声を弾ませて頷いた。
叱られもしたし、反省もあったけれど、強敵を倒せたこと、これからどういう生き方をすれば良いか掴みかけたことが、気持ちを高揚させているのだろう。それは自分も同じだけれど。
「でも楽観はできない。敵はまだ残ってる」
事を優位に運んでも、装者に止めを刺さずに撤退する人形たちの考えは相変わらず不明だった。
ミカの子供のように無邪気な笑みが思い起こされる。
「あの人形、いつも戦うのが楽しそうだった。目的がわからない……」
「そうデスね……あいつ、やられる直前に笑ってたデス」
思いがけない一言に、思わず立ち止まって切歌の顔を見遣った。
「笑ってた? わたしからは見えなかったけど、そうだったの?」
切歌は神妙な顔で、うんと頷く。
「なんだか嬉しそうだったデス。なんと言いますか……待っていた何かがやっと来た、ような……探していた何かをようやく見つけた、ような……そんな感じの顔にも見えたデス」
「いったい何故……壊されるのが嬉しい……?」
「そんな! やられて喜ぶヤツなんているわけないデスよ」
切歌にすぐ否定される。そんな憶測くらいしか思い浮かばないほど、敵の考えが分からなかった。
「でもいつかきっと、判明する日が来るデスよ!」
「うん……」
答えを求めるように無意識に彷徨わせた視線は、歩道の向こうの街並みに行き着く。
街を染める夕陽の橙色は、機体を白熱させ明るいオレンジ色になったあの人形の髪色を思い起こさせる。
謎はきっと誰かが解き明かしてくれる、そう笑う切歌とは反対に。
あの人形の嬉しそうに笑った本当の理由は誰にも分からない気がした。
あの人形自身にしか。
ミカ→ガリィは無邪気無自覚片思い悲恋系、とツイッターで呟いたことがあるのですが、その呟きの元になっている脳内設定と展開をSSにしてみました。
オートスコアラーは本編では全機壊される結末なので、キャロルと、場合によってはエルフナインも含めて、錬金術師組が揃っている時代の彼女たちのやりとりをいろいろ想像したいですね。原作での描写が本当に少ないのでつらい。公式燃料がもっと欲しいです。
絶唱しないシンフォギア、不安と期待入り混じりで待機中です。
(2016/06/17:同じ世界線の過去話を書きました。→『アーティフィシャル・アイ』https://syosetu.org/novel/161721/)