ウォプタルのカントを麓にとめて、登山を始める。
防寒着を着込んでも体の芯を突き刺す冷たさ、そして積雪で歩きづらい。
「はぁ・・・はぁ・・・」
なによりも体力の消耗が激しい。
ヤシュマ兄さんの過酷過ぎる地獄の訓練で体力には自信があったのだが想像以上だった。
登山を甘く見たつもりなかったが、雪山登山の困難さは想定していなかった。
中腹を越えたのだろうか、積雪は深くなって、自分の腰の部分まで高くなってきている。
「まだまだ・・・心が折れない限り前に進み続けろ」
自分に言い聞かせ一歩一歩上っていく。
この雪ならばオルケは襲ってこないはずだ。
歩くことのみに集中しろ。
今、ルルティエはきっと苦しんでるはずだ。
だから自分がこの程度の苦しみで嘆いていられるか。
視界が雪で真っ白に染まる。
この山道は基本的に一本道だから迷うことはない。
だが自分がちゃんと前に進んでいるのかすら疑問になる。
不安が心を塗りつぶしていく。
「山頂は・・・まだ・・・か?」
脚が動かない。
槍で体を支えるのが精一杯だ。
このまま雪に体を預けてしまいそうになる。
『ほら、こんなところで寝てんな。山頂はすぐそこだぞ?』
「誰・・・だ?」
『ぐうたらするのは帰ってからにしろ、山登りをちゃんと終わらせてからだ』
空耳だろうか、聞いたことの無い男の声が、僕を励ます。
不思議とその男の声を聞くと気力がわいてくる気がする。
・・・そうだ。止まってられない。何のためにここに来たんだ。
力を振り絞って、一歩踏み出す。
そしてさらに時間をかけて僕はようやく長い坂を乗り越えて、大きく開けた山頂の広場にたどり着く。
「はぁ・・・はぁ・・・コゥハ草、探さないと」
『ほらそこだ。あの岩の陰にあんの分かるだろ』
山頂はどういうわけか積雪が少なく、普通に歩ける。
声に従い見回すと、巨岩のそばに琥珀色に輝くコゥハ草が生えていた。
「見つけ・・・っ!?」
歩み寄ろうとすると突然、強烈な敵意を感じて、体に震えが走る。
背中の槍を抜き、構える。
「グルルルル・・・」
複数の獣・・・オルケだ。
よりによってここがオルケの棲家か。
山頂には小さな洞窟があり、そこからオルケが次々と現れる。
かすんだ視界で捉えただけでも数はざっと10ほど。
「やる・・・しかないか。うおおおお!!!」
飛び掛ってくるオルケの頭を槍で貫く。
貫いたオルケを、槍を振るって左のオルケにぶつける。
「はぁ・・・はぁ・・・」
思った以上に体力が残っておらず足がプルプルと震える。
腕にも力が入らず、槍を振るうとそのまま倒れてしまいそうになる。
それをなんとがグッとこらえる。
2匹は倒した。
その様子にオルケは警戒したようで僕の周りを囲んでジリジリと距離をつめる。
僕を嬲り殺すつもりか・・・。
オルケは3方向から同時に襲い掛かってくる。
一匹を槍で薙いで弾き飛ばす。
そして体をわざと倒して飛び掛ってきた一匹のオルケの腹に腰から短刀を抜いて突き刺す。
3匹目・・・!
だがもう一匹に対処できずにガブリと左腕にかぶりと噛み付かれる。
「痛っ~~~~!!」
力任せに右手の短刀をオルケの首に突き刺すが、その隙に複数のオルケが足やわき腹に噛み付く。
振り払う力が残ってない。
全てのオルケが一斉に僕に飛び掛ってくる。
くそ、ここまでか。
ごめん・・・ルルティエ。コゥハ草持ち帰れそうにない。
ごめん・・・アヤメ姉。忠告を無視して。
死を覚悟したとき・・・それは起きた。
突然僕を食い殺そうと嬲るオルケたちは吹っ飛ぶ。
そして目の前が光り輝く。
光がやんだ後、一人の男性が立っていた。
白と黒を基調とした衣装と、風になびく髪。
そしてなによりも不思議な白い仮面をつけた男のヒト。
オルケを吹き飛ばしたと思われる扇がくるくると宙を舞い、彼の手に戻る。
「待たせたな。ったく、実体化に時間がかかりすぎた。
大きく歴史に影響が出るからか、これは・・・」
「なっ・・・」
僕は口をパクパクとするだけでうまく言葉がだせない。
光がやんだら目の前にヒトが現れた。
しかもこの声は、山道で僕を励ましてくれたその人そのものだ。
それにあまりの神々しさに、その『仮面の神さま』をただ見つめるしか出来なかった。
「はっ!」
仮面の神さまは僕に扇を振るう。
とたんに光が満ちて、気づいたら全身からの出血が止まっていた。
「立てるか?」
「は、はい」
「だったらこいつらをさっさと倒して薬草取らないとな」
神さまは扇・・・鉄扇をオルケに向け、僕にイタズラっぽい表情で笑う。
「はい!」
僕も槍を再度構える。
突然の乱入者にオルケは戸惑っている。
その隙を逃さず神さまはすばやい動きで鉄扇を打ち据えていく。
ヤシュマ兄さんに匹敵・・・いやそれ以上の洗練されたその動きに僕は魅了されてしまう。
僕も負けずにオルケに槍を突きつけていく。
そしてあっという間にオルケたちは全滅。
「よし、終わったな。ほらはやく薬草を採取しろって」
「はい!」
神さまに言われて群生していたコゥハ草を採取して腰の袋に入れていく。
これでルルティエを含めた多くの人たちを救えるはずだ。
「マシロさま・・・ですよね?」
「はは、確かにそう言われたりするな」
神さまにしては親しみやすい笑顔を向けてくる。
だがその神さまの体がまた突然輝きだす。
「なっ!?もう時間切れとか嘘だろ・・・。すまん。悪いが自分が関われるのはここまでだ」
「え・・・?どういうことですか?」
マシロさまは頭をガリガリかくと、しゃがんで僕に視線を合わせて肩に手を置く。
「いいか。これからお前の人生は波乱に満ちた辛い道になる。
多くの大切なものを失うことになるだろう。だがな―――」
神さまはまるで僕の人生を全て知っているかのような口ぶりだ。
・・・事実知っているからこそ助言をしてくれているのかもしれない。
「忘れんな。最後まで希望を捨てなかったヤツにこそ道ってもんは開ける」
二カッと笑って神様は僕の胸に拳を突く。
その言葉は深く僕の胸に刻まれた。
「どういう・・・こと?神さま、消えるんですか?」
「心配すんな。"また"会える。頼む。アイツを―――」
言いかけて光が強くなる。思わず目を閉じる。
そして目を開けると、そこには誰もいない。
アイツを救ってくれ。
そう神さまが最後に言い残した気がした。
アイツとは一体だれなのか。
「レキー!いるんでしょー!?」
「皇子ー!!いるなら返事してー!!」
シス姉さんとアヤメ姉の声がする。
振り返ると僕を捜索していたのだろう。シス姉さんとアヤメ姉、複数の兵たちが僕を呼んでいた。
神さまに託されたその願いを胸に。
僕は姉さんたちのいる方へ、足を踏み出した。
マシロことハクの言った「最後まで希望を捨てなかった者にこそ道は開ける」という言葉。
大河ドラマの真田丸で出た言葉なんですが、私自身の心に刻まれた名言のひとつです。
ゆえに使わせてもらいました。
後にこの言葉は重要な意味を持ってくる予定です。