クジュウリ皇子は焔と踊る   作:フーマ

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第五話 暗躍するものたち

 平和そのもののエンナカムイではあるが、その中にも暗躍するものがいた。

 森深くの洞窟の中、彼らはいた。

 

 

「アニキ、本当にやるつもりなのか・・・?」

 

「なんだあ?モズヌてめえ怖気ついたのか」

 

「だ、だがよぉ!いくらなんでもそれは道を外れすぎじゃんよ!」

 

 

 モズヌと呼ばれたまだ10代後半の山賊の少年は自分の山賊の頭目にそう意見する。

 だがその意見は頭目をイラつかせるものだったらしい。

 返答代わりに顔面を思いっきり殴られ吹っ飛ぶ。

 

 

「ああん?てめえ、いつから意見できるほど偉くなったんだ?

 浮浪児だったてめえを拾って育ててやったオレはいわば親だろ。子は親に絶対服従のもんなんだよ。

 舐めた口聞くと殺すぞ」

 

「っ・・・」

 

 

 他の山賊たちもモズヌの様子に「甘ちゃんモズヌ」とケタケタと笑う。

 

 

「クジュウリとエンナカムイの会合の日だ。そん時を狙うぞ」

 

「「へえ!親分!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴の翌日。朝食を終えた頃。

 エンナカムイの調練場では、皆が息を飲む激闘が繰り広げられていた。

 

 

「はあああああ!!!」

 

「くっ!」

 

 

 ヤシュマ兄さんは掛け声と共に槍で眼にも止まらぬ連続突き。

 それをオシュトルさんは剣でいなしていく。

 

 

「この隙をっ!」

 

「させぬ!」

 

 

 連続突きが収まった瞬間、オシュトルさんが距離をつめるが、それを兄さん槍の柄で払い封じる。

 瞬時に攻防が入れ替わり続け、かつ決定打をお互いに封じあう達人同士の戦いに息すらできない。

 まさかここまでとは思わなかった。

 全力での打ち合いをする兄さんを見るのも初めてだがそれに拮抗するオシュトルさんも桁外れだ。

 だが・・・。

 

 

「・・・オシュトルさんの方が上かな」

 

「え?互角に見えるんですが」

 

 

 キウルは互角だと感じてるようだけども、兄さんの表情には明らかに余裕がなかった。

 

 

「攻撃範囲の長い槍相手に不利な筈の刀剣で競り合ってる。剣同士だと確実にオシュトルさんが上だ」

 

「でもヤシュマさまは槍の名手なんですよね?」

 

「確かにそうだけども、もっとも得意なのは剣術なんだ。

 僕が槍が得意ってことで、今回は僕に手本を見せるって意味で槍を選んだんだ」

 

 

「「うおおおおおおお!!!」」

 

 

 お互いが自分の獲物に全力をこめて打ち合ったとたんに、獲物が壊れる。

 仕方ない。

 模擬戦ってことで互いに大怪我を負わないため、木製の武器なのだから。

 

 

「折れてしまいましたな。ここまでにしましょう」

 

「ええ。しかしこのまま続けていたら確実に私が負けてたな・・・」

 

「何をおっしゃるか。まだ奥の手を隠してらっしゃるのは某には分かっておりまする」

 

 

 オシュトルさんとヤシュマ兄さんは笑いあい堅い握手をする。

 

 

「噂では帝都に仕官すると聞く。きっとその腕ならば敵無しでしょう」

 

「まだ御前から許しは頂いておりませぬが、そうなれるよう精進しましょう!」

 

 

 

 兄さんはこちら側に戻ってくる。

 

 

「ヤシュマさまお疲れ様です」

 

「ああ、ありがとうネコネちゃん」

 

 

 ネコネから手ぬぐいをうけとり兄さんは汗を拭く。

 

 

「ここまでの傑物だったとは・・・。君の兄さんは将来ヤマトを背負って立つ漢に違いない」

 

 

 兄を褒められネコネはまた自慢げに荒くして胸を張っている。

 なんか微笑ましい。

 

 

「さて次はレキ、お前だぞ」

 

「へ?」

 

 

 兄さんは立てかけられてる木製の槍を一本こっちに投げてくる。

 それを反射的に受け取るが・・・どういう意味?

 そういえば兄さんはこっちに戻ってきたけど、オシュトルさんはあの場所に残ったままだ。

 

 

「行って来い。あの雪の日から3年・・・。お前がどれほど強くなったのか俺にみせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オシュトルサイド】

 

 

 

 レキ殿はヤシュマ殿から槍を受け取り、緊張した面持ちでこちらに来る。

 赤みがかった黒髪。長髪を後ろで編みまとめた幼げの抜けぬその顔つきは一見したら弱弱しく見える。

 身長もその年の少年にしてはやや小柄だ。体格にも恵まれていない。

 だが、槍を持った途端に目つきが変わる。

 間違いなく目の前の少年は戦士だ。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 深く礼をして槍をやや下に構える。

 

 

「では、参ろうか」

 

 

 新しい木刀を手に取り、正眼に構える。

 ヤシュマ殿は今朝こう告げていた。

 『あいつは強い。本気で相手をしてやってくれ。数年もすれば俺を越える逸材だ』

 

 ならばその強さ、確かめてみよう。

 

 

 

 レキ殿は深く呼吸をし、気を練る。

 

 

「いきます!」

 

「来い!」

 

 

 瞬間、レキ殿の踏み込みに耐え切れず彼の足元の地面が砕けた。

 そしてすでに目の前に槍の穂先があった。

 

 

(む、疾い)

 

 

 踏み込みと突きの速度はすでにヤシュマ殿以上か。

 突きを紙一重でかわし続け、隙を見つけて槍を剣で弾きとばす。

 レキ殿の槍は手から離れ、彼の背後の地に刺さる。

 

 確かに速いが年相応の荒削りさがある。

 ヤシュマ殿のような正確無比な突きにはまだ到達できていない。

 

 槍を弾かれたことでレキ殿は大きく体勢を崩す。

 それを逃すわけにはいかない。

 踏み込んで横薙ぎ。

 

 

「まだっ終われない!!」

 

 

 某の横薙ぎをレキ殿は地に身を倒し避ける。

 そして地面から足蹴りで私の剣を蹴り飛ばす。

 

 勢いをつけて飛び上がり立ち上がると、徒手空拳のまま構えを取る。

 

 

「なるほど・・・槍よりもそちらの方が得意とみえる」

 

「武器を失った際の戦い方は姉上から徹底的に叩き込まれてるので、まだ戦えます」

 

 

 ふっ・・・いい目をしている。

 レキ殿に頷く。彼も頷き背後の地に突き刺さった槍を抜き再度構える。

 某も転がった木刀を拾い構えなおす。

 

 

「はっ!」

 

 

 今度は某から攻めてみる。

 斬撃と突きを織り交ぜた連続攻撃。

 それを余裕はないようだが確実に防いでくる。

 

 先ほどの吹き飛んだ際のとっさの判断に、この防御。

 力こそ足りないものの反応速度と判断力はヤシュマ殿に迫るものがある。

 これでまだ元服していないというのだから末恐ろしい。

 これがエヴェンクルガの血か。

 

 あと2年で某と同じ年齢。

 2年でどこまで強くなるのかこの目で確かめたくなる。

 間近で成長を見守ることの出来るヤシュマ殿は本当にうらやましい。

 

 だったら某も彼にひとつ手土産を渡したくなる。

 

 某はあえて隙を作る。

 その隙を逃さないとレキ殿は力をこめ全力の突きを放つ。

 だが某は横に軽く避け、槍を下から切り払う。

 そして剣の切っ先をレキ殿のあごに当てる。

 

 

「勝負あり。ですな」

 

「はぁ・・・はぁ・・・あ、ありがとうございました」

 

 

 レキ殿は槍を拾い、「すごいですよレキさん!」と駆け寄ってくるキウルと仲よさそうに話している。

 

 

「お疲れ様なのです兄さま」

 

「うむ、ありがとうネコネ」

 

 

 ネコネから手ぬぐいをもらい汗を拭く。

 

 

「あの・・・オシュトルさん」

 

 

 レキ殿がキウルと共にこちらに歩いてくる。

 

 

「さっきの最後のは・・・」

 

「ああ、レキ殿は正攻法な戦い方しか教わってないようだったからな。

 あえて隙を作り、敵を誘い出し倒す。そういった戦い方もあることを覚えておいて欲しい」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 

 レキ殿は深く礼をする。

 そんな彼に私は手を伸ばす。

 

 

「いずれ、こうしてまた打ち合いたいものです」

 

「はい!必ず!!」

 

 

 レキ殿は感極まった表情で嬉しそうに某の手を握り返してくれる。

 真っ直ぐすぎるそんな姿をまぶしく感じる。

 某は幻視する。

 将来、この者と肩を並べて戦うことを。

 帝都で笑いあい、共に杯を交わすことを。

 そんな未来が来ることを本当に望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

【レキサイド】

 

 

 オシュトルさんとの模擬戦を終えて、僕たちは城下の郷にいた。

 キウルがやたら「すごいすごい」と言って来るようになった。

 片時も離れないし。

 どういうわけか彼の好感度がとんでもなく跳ね上がったらしい。

 キウルが兄と慕ってるオシュトルさんに呆気なく負けたというのに、どうしてこうなった。

 

 

「兄さまもレキさんを褒めてたです。元服後が楽しみだ、と笑ってましたですよ」

 

「とてもじゃないけどあと2年であの領域には到達できないよ。

 オシュトルさんはヤマト屈指の傑物だよ」

 

 

 その2年でオシュトルさんは更に強くなるだろうに・・・。

 帰ったらもっと兄さんとの鍛錬に励まないと。

 

 

「ところで・・・僕たちは御前さまたちと一緒に行かなくて良かったのかな?」

 

 

 実は今現在、城では紅葉を眺めながら茶会が開かれている。

 主賓である兄さんも呼ばれてるし、オシュトルさんも御前さまの側付ということで出席している。

 

 

「お爺さまから、レキさんに郷を案内するように言われてます。

 ヤシュマさまからも『姉上のお土産の確保頼んだ』と伝言を頼まれました」

 

「ああ・・・シス姉さんのお土産忘れてた」

 

 

 姉さん出発前にココポに邪魔されながらもエンナカムイの地酒を買ってきてって言ってたな。

 どうせならルルティエの分、アヤメの分も何か買ってあげたい。

 

 ネコネが案内担当するようで、僕とキウルは彼女に従ってゆっくり歩く。

 

 

 

 案内といってもクジュウリ同様、施設はそう多くない。

 住民の集まる食堂だったり、お爺さん達がショーギという遊戯をしていた集会場だったり。

 あとはのどかな田園だったり。

 行く先々で大人たちが饅頭だったり食べなれないお菓子だったりをくれるので空腹に困らない。

 というかみんなネコネを可愛がりすぎでしょ。

 

 

「お腹一杯・・・」

 

「あはは・・・」

 

 

 キウルも僕と同じ状態らしく苦笑い。

 

 

「ではお茶を飲むとするのです。ついてくるといいのです」

 

 

 

 ネコネに案内されたのは田園を越えた先にあるとある一軒家。

 普通の民家にしてはすこし作りがしっかりしてる。

 

 

「ここは?」

 

「私と兄さまのおうちなのです」

 

「え?いきなり来ていいの?」

 

「はいなのです」

 

 

 てくてくと気にせずにネコネは早歩きで扉をあけ「母さま帰ったですよ」と声をかける。

 僕たちもネコネにしたがって、「お邪魔します」と言って玄関に入る。

 

 どこか優しい香りがする。

 アヤメの家とは違うがどこか似た生活の香りが。

 

 

「お客さまをつれてきたです」

 

「おかえりなさいネコネ。それにキウルさまかしら?よくいらっしゃいました」

 

「こんにちわトリコリさん。お邪魔します。あ、これおじいさまからです」

 

 

 壁に手をつけてゆっくり歩いてきたトリコリと呼ばれた女性はネコネのお母さんのようだ。

 キウルはお辞儀して小包みを手渡す。

 小包みを手で触って形を確かめてるようだ。

 ・・・ひょっとしてこのヒト、目が。

 

 

(はい、なのです。母さまは目が不自由なのです)

 

 

 僕の考えてることが分かったようでネコネは疑問に答えてくれる。

 

 

「・・・あら?もう一人いらっしゃるのね」

 

「はい。お初にお目にかかります。クジュウリ皇オーゼンが息子レキと申します」

 

「クジュウリからのお客様ね。このような何もないところにようこそいらっしゃいました」

 

「とんでもない。エンナカムイはとても素晴らしいところです。

 それにこの家も大切にされてる良い優しい香りがします」

 

 

 ネコネはボソッと「恥ずかしいのです・・・」と呟く。

 僕たちはタトコリさんに案内されて居間に座り、お茶を頂く。

 

 

「旨いですね・・・」

 

「あらそうですか。ネコネ良かったわね」

 

「ひょっとしてネコネが?」

 

「そ、そうなのです・・・」

 

 

 うん。ルルティエのお茶も旨いが、ネコネの煎れるお茶も美味しい。

 茶葉が違うということもあるのだろうけど熱過ぎず温すぎずの具合が絶妙だ。

 

 

「最近は目が更に悪くなってネコネがよく家事を手伝ってくれるのですよ」

 

「そうなんですね。ネコネはしっかりものですね」

 

「ええ。・・・ふふ、そうね、レキさまは決まった相手がいるのかしら?」

 

「・・・はい?」

 

 

 トリコリさんはなんだか妙に笑顔でそんなことを聞いてくる。

 

 

「まだ幼いけど、ネコネは将来しっかり者のお嫁さんになると思うわ」

 

「確かに。ネコネは魅力的な女性になると思いますね」

 

「うなっ!?」

 

 

 トリコリさんの言葉に同意してるとネコネは飛び上がってびっくりしている。

 

 

「レキさまのお嫁さんにどうかしら?」

 

「母さまっ!?」

 

「なっなっ・・・!!!」

 

 

 キウルもようやく話が理解できたようで僕とネコネを交互に見てくる。

 

 

「だ、だだだだだ駄目ですよトリコリさん。ネコネさんにはまだ早すぎるお話です」

 

「あらそうかしら?」

 

「そうですよ!!」

 

 

 どうしてそこで必死になるキウル。

 どうして、そんなに妬ましい目でこっちを見るんだ。

 その視線に耐え切れず、僕は咳払いしトリコリさんに対し姿勢を正し返答する。

 

 

「魅力的はお話ですが、今はお断りさせてもらいます」

 

「え・・・?」

 

 

 僕の言葉にネコネとキウルが不思議そうな目でこちらを見る。

 

 

「こういったことは本人の気持ちが大切ですし。

 それに自分には心に決めたヒトがいるんです。だからお受けするわけにはいきません」

 

 

 脳裏に浮かぶのは3年前。雪山で無茶した後に泣きじゃくってた幼馴染の姿。

 あのときから憧れだった年上の幼馴染は、僕の中ではもっとも大切なヒトになっていた。

 父は皇族なら側室を持っても良いものだ。と常々言ってたが、愛するのならば一人だけと決めている。

 

 

「そう。レキさまは真面目で一途な方ですね。でも心変わりしたらいつでも―――」

 

「うなーーーっ、母さま!」

 

 

 あ、ネコネが爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネコネの家を後にして僕たちは城下の中心にまで戻ってくる。

 

 

「ほんっとうに失礼したです」

 

「娘の未来を考えてるいいお母さんだと思うよ」

 

「それはそうなんですが・・・」

 

 

 おせっかいすぎるのです。とブツブツと文句を言ってる。

 僕とキウルはそれに苦笑いする。

 

 

「あはは・・・でもレキさん、恋人がいたんですね」

 

「いやいやただの片思い。向こうは手のかかる年下の幼馴染としか思ってないだろうし」

 

 

 皇族と相談役の孫娘という立場の違いがあるのに一度も敬語使ってきたことないし。

 いつも態度はそっけないし。

 ただの弟分としか見られてないっぽい。

 現状、全くの脈無しだと思うが、負けないぞ。と常に思ってる。

 

 

「僕たち、仲良くなれそうです!」

 

「そ、そうか?」

 

 

 キウルは「同士!」と小さく呟いて握手してくる。

 まあ・・・さっきので分かったけども、キウル、ネコネに片思いしてるんだな。

 

 

「そういえば気になってたんだけど、ネコネのお父さんは?見かけなかったけど・・・」

 

「父さまは・・・もう亡くなってるです」

 

 

 ネコネは目を伏せそう告げる。察するべきだった。

 これは聞いちゃ駄目だった。

 

 

「気にしなくていいのです。お役目を果たし立派な最後だったのです。

 兄さまが帝都に仕官しにいくのだってそんな父さまのような男になるためだと言ってたのです」

 

 

 そう言葉にするネコネだが、幼いときに片親を亡くすのはとても辛い。

 僕だって物心ついたころには母さんは亡くなっていた。

 正室のもう一人の母さんが変わらず愛情を注いでくれたから平気だったけども。

 だけどももし父さんだけだったらきっと寂しかったと思う。

 

 それにしても僕が死んだ母さんの生き方に憧れたように、オシュトルさんも同じだったんだ・・・。

 

 

「ありがとうネコネ。話してくれて」

 

 

 僕は感謝を述べ、ネコネの頭を撫でる。

 

 

「はいなのです。さ、案内も一通り終わりましたし、お土産買いに行くです」

 

 

 ネコネに案内されたのは比較的郷の外れに位置する雑貨屋。

 お土産屋という場所はないが、さまざまなものが揃う店のようだ。

 

 

「あ、地酒発見。姉さんと・・・あと父さんと母さんの3本でいいか」

 

 

 3種類あったからちょうどいい。

 

 

「妹さんのお土産ってこれがいいんじゃないですか」

 

 

 キウルが指差してくれたのは花びらの髪飾り。

 あ、すごくルルティエに似合いそう。

 種類も多かったが、特に似合いそうな桜の花びらの髪飾りにした。

 

 あとは本命・・・アヤメのお土産だ。

 

 

「こればかりは自分で決めないとな・・・」

 

 

 髪飾りなんて感じではないし。

 ルルティエと被ったらおまけで買ってきたって思われそうでそれは嫌だ。

 

 

「結構悩んでますね・・・」

 

「うん。そうだキウルもネコネになにか贈ったらどう?」

 

「な、なななっ・・・!?」

 

 

 周囲を見回す。

 ネコネは外で近所のおばちゃんに捕まって世間話をしてる。

 今ならこっそり買うことができるだろう。

 

 キウルもそれを確認して緊張した面持ちで頷く。

 片思い同盟。ここに行動を開始する。

 

 僕たちはさっきよりも入念に店を物色する。

 血走った目をしたキウルに店の店主も唖然としているが。

 

 

(ん?これって・・・)

 

 

 翠色をした変わった石の首飾りだ。

 触ってみるが妙に艶があって陶器で出来てるんじゃないかっていうくらい軽い。

 だというのに宝石のような輝きがある。

 

 

「ああ、それは隣の島国で作られたものらしいぞ。帝都でも手に入らない一品だ」

 

「島国っていうとトゥスクル?」

 

「ああ、確かそんな名前だったな」

 

 

 店主の親父さんの説明を聞いて、僕はこれを手に取る。

 手持ちの金額的にはギリギリだけども。

 ・・・母さんの生まれ故郷の首飾りか。

 運命めいたものを感じるし、なにより綺麗。

 

 

 

 

 

 僕が買い物を終えてもキウルは「うーん・・・」と悩み続けていた。

 

 

「早くしないとネコネ帰ってくるよ?」

 

「わ、分かってるんですけど・・・」

 

 

 あれ?ネコネがいない。

 

 物色を続けるキウルを置いて店の外に出る。

 すっかり夕ぐれの町並み。

 入り口で世間話をしてたおばちゃんたちはすでに帰ったらしい。

 だったら入り口でネコネが待ってるはずなんだけども。

 

 

「どういうことだ?先に城へ戻った?・・・いや彼女の性格上それはない」

 

 

 だったら自分の家に忘れ物したから戻ったか?

 いや、それも必ず僕たちに報告してから行くだろう。

 

 

「どうしたんですかレキさん」

 

 

 ようやく買い物を終えてキウルが雑貨屋から出てくる。

 

 

 

「ネコネがいないんだ」

 

「僕たちより先に城に―――いえ、それは」

 

 

 キウルもそれはありえないと気づいたんだろう。

 

 

「あ、あれ。ネコネさんのだ」

 

 

 キウルが一枚の布を拾う。

 それはネコネが身に着けていた肩かけだった。

 

 

「ネコネさん・・・ネコネさん!」

 

 

 キウルは異常に気づきネコネを呼びかける。

 

 

「キウル、ここに人さらいなんて来ないよね?」

 

「来るわけないです。ここエンナカムイは事件だって起きない平和そのものの国なんですから」

 

 

 そのとおりなんだろう。

 けど・・・だからこそ思う。その思い込みこそが甘かったんじゃないのか?

 この国の気質は皆が助け合い生きていくというもの。

 だから他人を疑うなんてことはしない。

 犯罪なんて起きないものなのだと。だれもが油断しきってる。

 

 

 

「キウル。オシュトルさんたちに報告しに城までひとっ走り頼む。僕は聞き込みをしてみる」

 

「は、はい!!」

 

 

 

 ・・・目の前が真っ青になる。

 

 ネコネが攫われたかもしれない。

 まだ断定はできないが、もしそうならば・・・僕はどうすればいい。

 

 

 

 




 微妙にネコネルート突入しかけてますが、まだこの時点だとネコネ7歳なので。
 皇族の縁談なら幼くても十分ありえますがお母さん先走りすぎです。

 ネコネは偽りの仮面時で14歳になる予定。本編ではもっと幼そうだけどもしっかり者なので。
 幼すぎたら、殿学士になるための試験すら受けさせてもらえないと思うので。
 最低でも小学生は越えて13歳以降の中学生の年齢あたりじゃないと厳しいんじゃないですかね。
 長寿ゆえに原作でも実年齢が公開されてないところが悩ましいところです。

 書き溜めてたストックがこれで最後なので、次話以降毎週土日での更新になると思います。
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