クジュウリ皇子は焔と踊る   作:フーマ

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 大雨で住居の浸水被害。引越しを余儀なくされました。家電関連水没したのでほぼ全滅。
 引っ越したばかりで荷解きも何も出来てない状態ですが、息抜きを込めてニューPCで更新。



第八話 マシロ、再び

 エンナカムイからの遠征から戻ってきたレキ達を出迎えたのは仁王立ちでしかめっ面の長女シスだった。ヤシュマが早馬で文をクジュウリに届けていたため、シスは事件の詳細をすでに把握していたのだった。

 賓客が率先して事件に首を突っ込んだこと。

 その末に末弟のレキは腹部に重傷を負った。

 そして兄ヤシュマの許可を得たとはいえクジュウリ側に確認も取らずに自分の家臣を作ったこと。それも山賊一味出身。

 それらの事実はシスに怒りの焔を灯すには十分だった。

 

 

「い、いいではないか姉上。レキもこうして無事。首魁を打ち倒す大手柄。御前さまも感謝をしていたのだ。悪いことはあるまい?」

 

「あ?」

 

 

 ヤシュマは弟を庇い弁解するが、シスの一睨みで「な、なんでもないです・・・」と肩を落とし撃沈。最強の姉シスには武士であるヤシュマも太刀打ちは無理だった。

 

 

「姉さん・・・兄さんを責めないでください。これは僕が懇願したことなんです。僕はどうしても誘拐された大切な友達を助けたかった。僕のわがままでクジュウリに迷惑をかけてしまったのなら、元凶は僕です。罰するなら僕にしてください」

 

 

 すみませんでした!とレキは深々と頭を下げる。

 いつも人懐っこくて敬語なんて使わずに慕ってくれる可愛い弟の、そんな真髄な謝罪をシスは数秒間、複雑な心境で見つめ、そして「ああもう!」と声を上げる。

 

 

「罰するつもりなんてないから。要は国家同士の大切な席で軽率すぎるってことを言いたいの。レキ、あんたのしたことはヒトとして正しい。でもね、それだけですべてが上手くいかないのが国交ってものなのよ。もし、あんたが命を落とすことになってたらきっと父上だって笑って済ますことは出来ない。下手したらクジュウリとエンナカムイの友好関係は断裂して戦争になってたかもしれないのよ」

 

 

 戦争・・・。そんな最悪な事態を想定していなかったレキは背筋に寒いものを感じ、頭を上げて姉を見る。

 

 

「確かにレキは皇位継承とは程遠い立ち位置にいる。堅苦しいのは全部ヤシュマに放り投げても構わないわ」

 

「ちょ、それ横暴―――」

 

 

 反論しようとするヤシュマの脳天にシスは手刀を落とし、無慈悲に黙らせる。そしてレキの両肩に手を置いて真剣な眼で言葉を続ける。

 

 

「アンタが武芸にひたむきで立派な武士になろうとしてるのは分かってる。でもね・・・アンタは皇族なのよ。その責任からは決して逃れられない。だから動くのであれば、ちゃんと考えてそれからにしなさい。いいわね?」

 

「はい、肝に銘じます」

 

「よし、ならお姉ちゃんの説教はおしまい。こんな時に限って父上も母上も留守なんだから、まったく」

 

「えっと父上と母上は?」

 

「父上は八柱将のお勤めでまだまだ帝都に滞在しなきゃならないみたいだし。母上はシシリ州の方にちょっとね。害虫・・・ギギリによる農作物の被害拡大を食い止めるための指揮をとっていられるわ」

 

 

 それで。とシスは言葉を切って、レキやヤシュマたち皇族から離れたところで恐縮して立っているモズヌのほうに視線を向ける。自分に視線が向いたことでモズヌは息を呑んでピンと姿勢を正す。

 

 

「あんたが文に書かれていた元山賊のモズヌね。ふーん・・・」

 

「は、はいぃぃ!俺、いや自分がモズヌであります!」

 

 

 厳しい視線のままシスはモズヌの周囲をぐるぐる回って、腕やら腰などをつかんで品定め。

 モズヌは緊張のあまりガチガチに固まっており、汗もダラダラ流れている。

 

 

「うーん・・・貧弱な体つきねえ。本当に山賊やってたの?」

 

 

 貧弱。と言われモズヌはガックリと肩を落とす。

 

 

「うっす・・・主に食事当番とか酒の買出しとかやってたっす・・・」

 

「なんだ使いっ走りか」

 

「そ、その通りっす・・・」

 

 

 モズヌはすでに涙目。

 ヤシュマもレキも「うわあ・・・」と表情を引きつらせている。

 

 

「レキが認めたからには私もレキの家臣入りを反対する気はないわ。だけども今のままじゃ任せられないわね。今のあんたじゃ護衛すら勤まらない。よって―――」

 

 

 シスは殺気を放つ。傍にいるレキとヤシュマの二人すら、背筋がゾクリとするほどの殺気だ。

 モズヌの顔面に正拳突きを寸止めで行う。モズヌの髪が風圧で揺れる。

 モズヌは足をガクガクと震わせるが、その恐怖に耐え抜いた。

 

 

「腰を抜かさないだけマシか。今日から私とヤシュマで貴方を徹底的に鍛え上げるわ。レキの家臣に就くのはそれからよ。ヤシュマも異論はないわね」

 

「それはもちろんだが、モズヌは片目に重傷を負っている。まずは怪我の治療が先でしょう」

 

 

 モズヌの片目には変わらず包帯が厳重に巻かれている。やせ我慢をしていたがエンナカムイからの帰路の間も、激痛に悩まされていたのはレキはもちろんだがヤシュマも知っていた。

 

 

「そうね。だけども知識として学ぶことはいくらでもあるわ。並行して一般教養も叩き込むわ。覚悟なさい。今この瞬間から地獄の日々が始まると思いなさい」

 

「まあ・・・覚悟を決めてくれ、手を抜くわけにはいかんからな」

 

 

 厳しい鬼教官であるシスとヤシュマに、モズヌも「うっす・・・」と頷く。これもエンナカムイで、レキに家臣になってほしいといわれた時から覚悟は決めていたことだった。

 

 

「僕も一緒に付き合うからさ。頑張って」

 

「当然っすよ、若殿」

 

 

 

 レキの励ましにモズヌはニヤリと笑って返答する。

 弱い過去から脱却して、隣の主君にふさわしい家臣になってやる。

 モズヌは人生で初めて、身震いするくらいの決意で心がいっぱいだった。

 

 

「じゃあ今後の方針をこれから三人で煮詰めるとして・・・。レキ、あんたはムラジさまのところに行ってきなさいな。帰ってからまだ顔を見せてないんでしょ?あの子、ものすごく心配してたわよ」

 

 

 シスに指摘されて、レキの脳裏には3年前の雪山で見せた幼なじみの泣き顔が浮かんだ。

 

 

「ルルティエもムラジさまのお手伝いでそっちにいってるから、三人にきちんと謝ること」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今後のモズヌの教育に関して、本人を含めてシスとヤシュマは話し合う。その間にレキは姉に言われたとおりに城下へと足を運ぶ。歩き慣れた道を歩き、途中で声をかけてくれる住民たちと軽く言葉を交わしながら、大通りの一角に位置するムラジの診療所にたどり着く。

 

 

「いやあココポのおかげで荷運びが随分と楽にすんだよ。ありがとうルルティエさま」

 

「いえ・・・お役に立てて嬉しいです。ココポもよく頑張ったね」

 

 

 ムラジは孫娘当然に可愛がっているルルティエの頭を撫でる。

 今日はルルティエが自分からムラジの手伝いを志願した。

 薬石が大量にはいった箱や、薬草でぎっしりの籠など。仕入れた物資の運搬。また倉庫に農作物を運ぶのをココポが荷車を引いた。高齢による腰痛の悪化でムラジが満足に動けないため、ルルティエは学問の師として慕うムラジの手伝いを懸命に頑張った。

 

 ルルティエ自身も褒められたことが嬉しかったようで、頬を赤く染めて相棒であり親友の巨大なホロロン鳥のココポの背を撫でる。ココポは嬉しそうにルルティエに頬ずりする。そしてココポは動物的な感で、背後を振り向く。

 

 

「ココ~~~っ!!」

 

 

 ココポは目を輝かせて、そこに立っていた人物に駆け寄り、ルルティエ同様に頬ずりする。

 

 

「痛てて、ココポただいま。ちょっとおちついて頭噛まないの」

 

「え・・・お、お兄さま!?」

 

 

 ルルティエが振り向くとそこには2つ上で一番大好きな兄であるレキがココポを撫でていた。働きづめだったため、兄が帰っているとは知らずルルティエは心底驚いた。

 

 

「ただいまルルティエ」

 

「お兄さまっ、お兄さまっ!!」

 

 

 ルルティエは走って駆け寄ってレキに正面から抱きつく。普段のおとなしい妹からは想像できない、初めての積極的な行動にレキは唖然とするが、妹の目から涙が流れていることに気づき、改めて胸を痛めた。

 

 

「ご無事でよかったです・・・」

 

「うん、ごめんな。兄ちゃん心配かけたけど、もう大丈夫だから」

 

 

 2日前に早馬でエンナカムイでの事件の詳細が記された手紙が届けられ、シスと共にルルティエも目を通した。兄が大怪我を負ったことも知っている。それに気づき、ルルティエは慌てて体を離す。

 

 

「あ・・・ごめんなさい、お怪我に触りますね」

 

「大丈夫だよ。もう痛みは特にないから」

 

「お腹を刃物で刺されたと聞きました・・・我慢なさらないでください」

 

「うん。ありがとな」

 

 

 レキはルルティエの頭を撫でる。

 そして姿勢を正し、ムラジに頭を下げる。

 

 

「ムラジさまもご心配をおかけしました」

 

「詳細はシスさまから聞いております。・・・良き、お顔になられましたな」

 

「はい・・・ありがとうございます」

 

 

 ムラジは、レキが敵の首魁を打ち倒しその命を奪ってしまったことを知っていた。命のやり取りなど当然の世界ではあるが、それでも命の重さを受け止めてそれでも前に進もうとするレキの表情から、もはや理想に燃えるただの少年ではなく一介の武士だと。ムラジは感じ入っていた。

 

 

「それで、えっと・・・アヤメは?」

 

 

 レキの問いかけにムラジは微笑み、診療所の道を挟んでの隣に位置する旅籠屋を指差す。

 

 

「まあ、見ていただければお分かりかと」

 

 

 

 

 ムラジとルルティエに案内されて、レキは旅籠屋に入る。

 女将に案内された一室は晩には宴会場として使われている場所だった。昼間使われていないその場所を間借りして、多くの子ども達が席に座っていた。子ども達の手には書物があり、読み書きを教わっている様子だった。

 そして子ども達に教えているのは、レキの想い人でもあるアヤメその人だった。

 

 

「ムラジさまこれっていったい・・・」

 

「ほほほ、私がレキさまやルルティエさまに行っていることと同じですな。・・・以前よりオーゼンさまより皇族だけでなく市井の子ども達にも学問を教える場を設けたいと相談されておりましてな。孫娘がそれを買って出てくれたわけです」

 

 

 レキとルルティエの兄妹はムラジにより幼少から読み書きや算術、政治などを教わっている。加えてレキは兄ヤシュマから武術、父オーゼンからは兵法を。ルルティエは姉シスや母から芸術なども、だが。それでも皇族以外の一般の民たちには学ぶ場というものが設けられていないのが現実だった。クジュウリは知識よりも田畑での仕事の方が重要視されており子ども達も幼い頃から両親の手伝いをしている。そのため他国よりも素養が低いことが悩みのひとつだった。

 

 子ども達の将来を思って学ぶ場所を設ける。

 

 オーゼンとムラジが中心となって始めた計画の第一号と呼べるものが、この旅籠屋の一室を間借りしての小さな学び舎だった。アヤメも今年で15歳。成人入りを果たし、ムラジの孫娘というだけあり知識も豊富だ。人見知りなところもあるが教師としてはうってつけの人材だった。

 

 

「あー!皇子さまとお姫さまだー!」

 

 

 部屋の外から覗いていたのだが、子ども達に見つかってしまう。

 レキとルルティエは顔を見合わせ、微笑み合いアヤメに小さく手を振る。

 レキの姿を見たアヤメは目を大きく開けて驚くが、嬉しそうな柔らかな笑顔を見せる。

 

 

「先生の未来の旦那さまだー!先生行かなくていいのー?」

「ええーアヤメお姉ちゃんとレキ皇子ってそういう関係だったの!?」

「おいおい知らないのか、将来を誓い合った仲らしいぞ」

 

「ちょっ、おませな事言わないの!みんなちゃんと席につく!」

 

 

 子ども達の言葉に赤面しつつ、授業を再開させる。

 邪魔をしないように、部屋の外に出てレキ達三人はムラジの診療所に戻り授業が終わるのを待つ。

 

 しばらくすると、旅籠屋から多くの子ども達の声がする。

 授業が終わって子ども達は皆、帰っていく。そしてアヤメが診療所に戻ってくる。

 

 

 

 

 

 

「しかし驚いたよ。アヤメが先生やってるだなんて」

 

「本当はお爺ちゃんのお役目だけど、せっかくの機会だからやってみようと思って。何事も挑戦してみないと」

 

 

 大したものだ、とレキは歓心する。

 引っ込み思案なルルティエも自分から率先してムラジの手伝いをし、アヤメだって人付き合いが苦手なはずなのに新しいことに挑戦している。

 

 

(変わってないのは・・・僕だけだな)

 

 

 3年前の雪山に後先考えずに薬草を取りにいきオルケに殺されそうになったり、先ほど姉に叱られたばかりだが数日前に友人を助けるためとはいえ国同士のことを考えずに山賊とやりあって大怪我を負ったり、昔から何一つ成長していない。レキは自分が情けなく思えてしまう。

 

 

「お兄さま・・・?どうかされましたか?」

 

「ん?いや二人がすごいな、と思っただけだよ」

 

 

 レキの表情の陰りをルルティエは察して訊ねるが、レキは誤魔化して笑う。

 

 

「それよりもレキさま。お腹の傷、深いってシスさまから聞いてるわ。包帯、替えましょうか」

 

 

 着物を脱ぎ、ムラジに包帯を解いてもらう。

 ルルティエとアヤメも、そこには痛々しい刃物による傷跡があると覚悟していた。

 

 ・・・だが包帯を解いたレキの腹部には傷跡らしきものは残っていなかった。若干傷跡らしき痣が出来ている程度だった。

 

 

「これは一体・・・レキさま。治癒術でも受けてきましたかな?」

 

「いえ、特には」

 

 

 レキ自身も不可思議だった。

 数日前に深々と痺れ毒を塗られた刃が突き刺さってかなりの出血をしたのは間違いない。エンナカムイの薬師には「奇跡的に臓器を外しての傷だが完治にはしばらくかかる」と言われたばかりだった。包帯も素人が触ってもどうかと思ったため、クジュウリに戻る道中の4日間は変えずにそのままの状態だ。痛み止めの丸薬を毎日飲んでいるからこその、痛みを感じないものだと思っていたがまさか傷が塞がっているとは。

 

 

「まるであの時みたい・・・」

 

「あの時ですか?」

 

 

 アヤメの呟きにルルティエは首を傾げる。

 

 

「ルルティエさまが病に倒れた3年前。レキさまが雪山に薬草を取りに行った時のことよ。オルケの大群に襲われて全身を噛み付かれたはずだったのに。噛まれた傷跡はなくなっていた。服には破れた箇所もおびただしい血の跡もあったのに」

 

 

 レキも言われて、あの時と状況がまるで同じだと気づいた。

 

 

「クジュウリ皇家には自然治癒の体質でもあるのかしら」

 

「えっと・・・あれば苦労しないんですけど・・・」

 

 

 ルルティエの指には料理の際に包丁で指を切ってしまい、その治療の際に巻かれた包帯があった。

 まだ痛いようでルルティエにはレキのような自然治癒が備わってないことが分かる。

 

 

「レキさまは思い当たることはあるのですかな?」

 

「・・・マシロさま、かな」

 

「「マシロさま?」」

 

 

 ルルティエとアヤメは同時にレキに聞き返す。

 ムラジに問われて、レキが思い当たったことはあのオルケの大群から救ってくれた『仮面の神さま』であるマシロさまだ。

 

 

「うん。姉さん達は笑って信じてくれなかったけども、オルケの大群から助けてくれた人がいたんだ。真っ白い仮面を被った神さまが。その人が扇を一振りすると僕の体が輝いて。そして気づいたら全身の傷が癒えていたんだ」

 

 

 レキの言葉に、三人とも言葉を失う。

 

 

「それって実話だったんですか。シス姉さまが冗談めいて説明したものだと思ってました」

 

「マシロさま・・・マシロさまか。本当にいるのかしら」

 

 

 ルルティエとアヤメの言葉にムラジは、うーむ・・・と考え込む。

 

 

「ふむ・・・仮面となると、仮面の者(アクルトゥルカ)でしょうか」

 

「アクルトゥルカ、ですか?」

 

 

 レキの問いかけにムラジは頷く。

 

 

「このヤマトを統べる帝が認めた最高の武人に与えられる仮面(アクルカ)。身に着けるだけで常人離れした力を得ると聞きます。その方たちの1人が来ていた・・・とは思えませぬが」

 

「そんなものがあるんですか」

 

「八柱将たるオーゼンさまならば詳しいでしょうが・・・しかしありえないですな・・・」

 

 

 しかしレキにはそのような存在だったとは思えない。

 目の前に光と共に現れ、そして光と共に消えていった。

 あの仮面の人は・・・どう考えても、自分達よりも上位の存在。神さまだとしか思えなかった。

 

 もしかしたらあの神さまが自分に加護を与えてくれてるんじゃないか、と。

 

 

「ムラジさま。確かあの霊山、オルケはもういないんですよね?」

 

「ええ。ヤシュマさまの定期的な掃討で完全にいなくなったようです」

 

「・・・なら、一度確かめに行って来ようかと思います」

 

 

 神さまに会えないとしても、もう一度あの場所に行ったら何かつかめるんじゃないか。

 レキには何故かそんな確証があった。

 

 

「レキさま、私も行くわ。一人で行かせるのは怖いもの」

 

「信用・・・ないなあ」

 

「当たり前です。どういうわけだからレキさまは不運を引き寄せるみたいだから」

 

 

 アヤメの言葉にレキは肩を落とす。

 行く先々で傷を負い、日々の特訓でヤシュマにボコボコにされて彼女が見るレキはいつもボロボロなのだから。そしてルルティエも手を上げる。

 

 

「お兄さま、アヤメさま。私も行きますっ。

 戦いになった時はココポはきっと役に立ちます」

 

「うん、分かった。けどもあの時と違って、ちゃんとシス姉さん達に報告してから行こう。じゃないとまた説教地獄だ」

 

 

 

 

 

 

 

 冬の到来の前ということで霊山にはまだ雪は積もっていなかった。麓の祭壇には行事で何度か訪れたが、登山に関してはあの日以来だ。雪を?き分けて数時間かけて少しずつ登ったあの日とは違いすんなりと歩いていける。そしてあの日とは違い、レキの後ろでは賑やかな女性陣の話し声がする。

 

 

「で・・・なんでこんな大所帯になったのさ」

 

 

 先頭を歩くシスとルルティエとアヤメの三人娘はにこやかに会話しており、レキの後ろ、殿(しんがり)にはヤシュマが周囲を警戒しつつココポを引きながら歩いており、レキの隣には息を切らせながら歩いている怪我人のモズヌまでいる。  

 

 

「まあ良いではないか。たまには忙しさから解放されてのんびりと登山も悪くない」

 

 

 後ろのヤシュマはレキの問いかけに、すっきりとした表情でそう言う。

 

 

「兄さん、政務放り投げてきたの?」

 

「さ、さあ何のことやら」

 

 

 知らないよなココポ。とヤシュマはココポに話しかけるがココポは無反応。

 ココポは基本、ルルティエとレキとしか親しく接しない。ルルティエにデレデレ接するシスは嫉妬心から敵視されているがヤシュマはガン無視されている。まあ、まだマシなのだとヤシュマは諦めている。

 

 

「それにしてもモズヌ・・・着いてこなくてよかったんだよ?怪我に響くでしょ?」

 

「俺だけが留守番って寂しいじゃん。

 若殿の行くところであればどこであれ供しますぜ」

 

 

 片目の包帯が痛々しいが、モズヌは自分の胸をドンと叩いて勇ましく笑う。

 

 

「ところで・・・若殿(わかとの)って何?」

 

「レキさまのことでさあ。殿、と呼びたいがまだ元服前。つーことで若殿」

 

「あー、うん。普通に呼んでくれてもいいんだけどね・・・」

 

 

 先頭を歩く三人娘の会話から時々自分の名前が出てくることにレキはモヤモヤする。

 微妙に距離があり会話まで聞き取れないのが非常に気になる。

 

 

 

(そういえば・・・これ、まだ渡せていないな)

 

 

 

 懐にはエンナカムイで買ったおみやげ。

 ルルティエへ贈る花びらの髪飾り。

 アヤメに贈るトゥスクル産の首飾り。

 

 どこで渡そうか、と思案している間に山頂にたどり着く。

 

 

 

「うわあー・・・絶景ー!」

 

 

 シスは山頂から見える景色に「やっほー!」とありきたりな大声を上げる。

 アヤメはルルティエを終始気遣って歩いており二人で、3年前に自分が採った万能薬の素材であるコゥハ草を摘んでいる。

 ヤシュマはオルケの棲家だった洞窟に槍を持って見に行っており、残されたのはレキとモズヌだけだ。

 

 

「ここが若殿の目的地っすか?」

 

「うん。そして僕はここで・・・マシロさまに救われた」

 

 

 雪がなく景色が変わったとしても一寸の狂いもなくレキは覚えていた。あの日のことは心の奥底に刻み込まれていた。

 

 

「ここが僕の、原点ともいえる場所なんだ」

 

「原点っすか」

 

 

 レキは、ルルティエと楽しそうに笑うアヤメを見る。

 あの日、年上の幼なじみの泣きじゃくる顔を見て・・・強くなろうと決意した。

 もう泣かせない、と誓った。

 その誓いはまだまだ果たせそうにない。と未熟な自分に対してレキはため息をつきたくなる。

 

 

(ねえ、神さま。あの時から僕は少しでも強くなれたのかな)

 

 

 

 

 

『ああ、強くなれたとも』

 

 

 

 キーン・・・という耳鳴りと共に、レキにはその声が聞こえた。

 視界は灰色に染まり、隣のモズヌや、ルルティエやアヤメも灰色に染まる。

 そして身動きひとつとらず、固まっている。

 まるで時間が止まったかのように。

 

 

『ああ、時間は止まってる。今動けるのは自分とお前さんだけだ』

 

「あ・・・」

 

 

 レキの目の前には、白い仮面と、神々しい衣をまとった忘れらない人物が立っていた。

 

 

『久しぶり、ということになるのかね。成長したな。レキ』

 

「マシロさま!」

 

 

 

 3年ぶりに命の恩人と再会した瞬間だった。

 

 

 

 




 次回で少しだけハク(マシロ)が動く予定。

 そういえばガンダムの新作でアヤメっていう子がいるみたいですね。
 放送されてないのでトレンド上がってるのをチラッと見た程度ですが。
 うちの子は犬夜叉のアニオリキャラから名前貰ってます。


 生活環境整えるのを優先するので、次回更新はちょっと遅れます。
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