戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル
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第11話 ターニャの憂鬱Ⅱ

 

私ことターニャ・デクレチャフ少尉は、空を翔ける魔導師として責務を果たすべく、行動開始。

 

私に与えられた任務はー

 

「敵がどんだけ来てるか、見てきて。それで何かあったら報告して。あと出来たら航空機の誘導とかしてね。」

 

雑に言えばこんな感じ。

 

正規に通達された内容は「味方地上軍より先行し、警戒線の斥候及び航空警戒要員に従事せよ」という半ば強行偵察に等しい任務。

 

実際そうだろうと思う。

 

敵が幾つかの師団単位の集団で纏まりながら進撃している情報を得ており、確実に「敵がそこにいる」ことが分かっても、さらに詳細な情報を欲する為に行う偵察は強行偵察と見なされる。

 

…個人的には、なるべくは避けたい業務の一つである…

 

何故か?

 

間違いなく死ぬ確率が高いからだ。

 

遮蔽物のないライン戦線の空の下で、敵の防空圏内に抵触する危険性がある中での「強行偵察」だ。

しかも大体の場合、抵触する。

それを味方の援護がない中で行なっている。

 

戦略シュミレーションで、敵側の部隊・地形等の情報を収集するために偵察機を飛ばして、敢え無く敵の防空網に抵触し撃墜されるシーンを想像すれば、多少は分かり易いかもしれない。

 

危険極まりないだろう。だから嫌なんだ。

 

これはノルデン北方戦線で協商連合相手に実戦で直に学んだ事であるが、空には遮蔽物がなかった。

あるのは姿を一時的に隠せる程度の積雲か。

無論、砲弾や銃弾から守れる防護性は皆無だ。

 

自身の防御力の点で言えば、魔導師だからある程度の頑丈さはある。

 

だが、その頑丈さもどこぞのリリカルな「白い悪魔」がもつ鉄壁の防御壁とは程遠く、ストライカーユニットを駆る「機械化航空歩兵」の魔女達にも劣る。

 

今思えば、存在する世界は全く彼女達であるが、彼女達が持つ強力な防殻が羨ましく感じられる。

 

比して私たち魔導師にある防御力は生身の歩兵に比べればマシと判断される形だ。

まぁ、銃弾や低威力の砲弾ぐらいならば耐えるかな程度の防御力である。

 

逆に地上の地獄を這いずり回り、砲弾と機関銃弾の雨に恐怖する歩兵達からしたら魔導師の持つ魔導防壁は羨望の眼差しだろう。

 

だが現実的に言えば、ちょっと装甲が厚い程度の航空機のような存在である私たち魔導師はあらゆる脅威の的になっている事を一度、彼等に教えたい。

 

所詮、頑丈だからといって死なないわけではないと。

 

貫通力重視の対空機関銃と対空機関砲や、そもそも口径からして別次元で強力な高射砲に立ち向かえる程の堅牢なシールドを展開できる訳ではないのだ。

 

それに共和国軍は、対空火器がない場合は75ミリ野戦砲を無理やり仰角を上げて魔導師を対空狙撃、弾幕を展開して叩き落とそうとする。その執念たるや空恐ろしい。

 

そして諸君らは、知っているだろうか?

フランソワ共和国には対空用に開発された127ミリ砲という恐るべき存在を…

これは高度1万メートル以上の範囲をカバーする驚異の高射砲だ。

その存在たるや、間違いなく出る時代を間違えている。

 

こいつの直撃を喰らえば、魔力を前面に集中した多重魔導防御壁を展開しても耐えれない。

 

防御不可能。瞬時に体は米粒以下の肉片に分解されるだろう。

爆片を喰らうだけでも命取りだ。

戦場では決して遭遇したくない、挨拶もしたくないシロモノだ。

 

ちなみにこの高射砲は、主任務である首都防空用以外に前線で展開する各師団隷下の砲兵部隊の防空任務に直接関わるから、必然的にこのライン戦線にもノコノコやって来ている。

 

何が言いたいのかというと

「こっちくんな!首都に帰れ‼︎」である。

 

しかし何故、共和国は時代からしてオーパーツじみた大口径高射砲を作ったのか?

空の要塞の称号を持つB-17かB-29でも叩き落とすつもりだったのだろうか?

 

だが世界は複葉機から単葉機の移行が終わらない。

まだ、個人的に愛着湧く複葉機がまだ第一線の主力であるが、ようやく航空機の変わり目の時期に入ったところである。

 

この魔力が存在する世界線の文明、技術水準は、前世の世界で言う第1次世界大戦〜第二次世界大戦の丁度あいだにあたる。

いわば近代兵器の技術発展として中庸の時代である「戦間期」と言われる時代だ。

 

だから列強国が単葉機を導入し始め、曲がりながりにも4発爆撃機の実用化には成功しているが、恐るべき空の要塞達と比べる以前のものだ。

 

彼等は航空機時代の先読みをして実用化したのか?

それとも開発に携わった技術者が尖りすぎていたのだろうか?

 

あのMAD…ドクトル・シューゲルのように…

記憶に蘇るは、クルスコス試験工廠で行われた未知の可能性しかない謎の試作演算宝珠を使用した悪魔的試験。

 

その技術検証員だった私は普通に飛ぶ事でさえ命と引き換えだった毎日を想起する。

 

突然起きる演算宝珠の機関部出火、爆発。

管制員の悲鳴じみた叫び声。

自身が零す苦悶の呻き声。

一向に決定的な技術面の問題を是正しない常軌の範疇外に生きるドクトルとの押し問答。

毎日、モルモットのように酷使される。

その繰り返しだった。

 

果たして、あの日々と戦場にどんな違いがあったろう。

 

…ともあれだ。

 

仮にこれらの対空兵器群の攻撃を躱しても、次は戦闘機と哨兵狩りの魔導師がやってくる。

 

やぁ、色々こう考えるとこの仕事辞めたくなってくるねぇ…

 

しかも他の魔導師達と違い、私は上から単独飛行命令を受け、このラインの空を飛んでいる。

 

魔導師ほど孤立するのが恐ろしい兵科であるのを認識しているににも関わらずだ。

 

上からの理由は、「警戒班編成に当てる時間的余裕はないため、危険ではあるが単独で出撃し任にあたれ。特に貴官は、北方戦線に置いて単独で充分な戦闘技術と戦功を有しているため、単独任務でも充分可能と考える。」だそうだ。

 

はやい話、危険でも戦術上の時間稼ぎを優先するために、上は私に単独でも任務に耐える能力はあるから飛べと命じている。

 

所詮、しがない一介の少尉。階級としては、一応少尉だから下士官クラスだが、現状で言えば平の会社員となんら変わりはしない。

 

だからサラリーマンと同様に、職務規定に従うほかにないのだ。

悲しいかな、軍人には拒否権などという高尚なものは無い。

 

例外的に直属の上官から「この任務は、かなりの危険が伴うから拒否しても構わない。」と命令を受容する、しないの権限が与えられる場合がある。

 

だが、そこはお決まりの軍隊組織が持つ特有の同調圧力が力を発揮。

「義務と遂行」という見えないプレッシャーに押されて、「やります!やらせて下さい!」と震える足を前に出さざるを得ない。

 

それをしない、拒否する事も可能だがその後は周りから白い目で見られるのは明白だ。

大体、「臆病者!」「意気地なし!」「突撃精神が欠けているのではないか?」と陰口を叩かれる。最悪の場合、左遷されるオマケが付いてくる。

 

軍隊以外に体育会系の会社でよく見られる光景だろう?

 

どちらにしろ評価を神経質なまでに気にする私には、土台無理な話だ。そもそも踏み切る勇気がない。

 

しかも私は航空戦技に関しては士官学校で空戦技能章を授与される程、頑張ってしまった。

 

ノルデン北方戦線では、観測任務中に敵魔導

中隊と単機で不意遭遇戦に突入、重傷を追いながらも敵中隊の半分を叩き落とし撃退した実績を残してしまっている。

 

その実績を敬意を持って大々的に讃えられ、死体以外に授与者はいないと言われる「銀翼突撃章」を与えらてしまった。

 

これは、誤算だった。ここまで認められるとは…正直、色々な面で私には重い、重すぎるのだ。

 

胸に光り輝く誉れ高き銀翼の勲章を見る度、はぁっと溜息を吐きたくなる。

 

そんな立派な経歴を持つ私が今更、「飛べません」という泣き事など言えるはずがない。

 

結局、YESかハイしか選択肢はなかった。

だから嫌々ながらも「そうせよ」と命令を従順に受け、スクランブルで危険な空を飛んでいる。

 

ちなみに西部方面軍の第14陸軍航空管制本部から与えられたコールサインは鷹の目。

 

忌まわしきノルデン戦で与えられた妖精の名前よりは、まだ好みだった。

 

「ホークアイ03より、CP、応答願う。」

 

実際私がこなす仕事内容は以下の通り。

まず索敵術式や高倍率の双眼鏡を使用して、敵を捜索。

発見次第進軍中の友軍若しくは阻止防御線を展開中の砲兵部隊に伝達。

その後は、接近中の敵集団と安全距離を保ち、詳細な情報を継続して収集。

状況によっては、直掩集団の誘導といった管制を兼ねる。

 

私と同様に後方から駆り出された臨時配備の魔導師の多くは、この強行偵察任務に駆り出されている。

 

何故か?

 

我が軍が今求めるものは、充分な戦力を持つ主力野戦軍の増援もそうだが、それ以上に「敵軍の情報」を欲していたからだ。

 

共和国軍の大規模な奇襲により後手に回った帝国軍は防戦一方なのは自明の理。

 

「…ホークアイ03より、CP、応答願う。」

 

我が陸軍としては戦術的優位を少しでも確保すべく、防衛線の要となる要塞や塹壕陣地帯など各防御拠点を連結した西方防衛線の構築。

 

そして各所に湧き出る敵野戦軍の規模、陣容に合わせた手持ちの部隊配置が急務だった。

 

合わせて、敵の進行スピードを少しでも遅らせるために長距離砲、列車砲による防御射撃及び戦爆連合(戦闘機、攻撃機、爆撃機からなる大編隊)による強襲も限定的な範囲で実施される。

 

そういった作戦や部隊展開における戦術、戦略的判断と決定を下すためには材料となる「情報」が何より必要だった。

 

だから西部方面の航空西部方面で展開可能な全ての偵察機、魔導師をスクランブルさせ、共和国軍の攻勢範囲と戦力、展開部隊の把握に全力を傾けるのは当然だった。

 

そのため詳細な部隊の規模とその陣容の把握は何より重要だ。

 

どれだけの人員を擁していて、どのような装備を有しているか、どんな行動をしているかを可能限り正確に伝えなければならない。

 

特に戦場で最優先攻撃目標となる砲兵部隊の存在は発見した瞬間、マッハで報告せねばならない。

 

「……ホークアイ03より、CP、応答願う。」

 

だが誠に遺憾な事に飛べと指定された戦域管区で管制官を捕まえることからして難儀な仕事だとは思わなかった。

恥ずかしながら想定していなかったと言わざるをえない。

 

「….ホークアイ03…こちら、第七野戦臨時管制所。コールサインは…ラザルド08。感度は多少悪いが支障はない。ホークアイ03どうぞ…」

 

ようやく地上管制と通信が繋がった…

何度の呼びかけでやっと構築できた通信ラインに少々の安堵を感じ、錯綜し混乱する無線状況の中では運が良かったと評するべきだろう。

 

これでようやく実任務に入れると思ったが、その安心が数分で裏切られてしまうとは、私は思いもよらなかった。





偵察とか斥候って、大変だよねっていう話です。
明日には、もう1話更新します。


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