戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第12話 ターニャの憂鬱Ⅲ

ターニャは小さな体躯に不釣り合いな長距離無線機を背負い、箱型の魔導装置を腹に抱えながらライン航空戦域内を大きく旋回し続ける。

 

最初のコンタクトを取ってから30分が経過していたが、ターニャは一向に仕事が捗ってはいなかった。

 

やっているのは、地上管制状況の呼び出し通信符丁のテンプレを永遠と続けていた。

 

「ホークアイ03より、コマンドポスト、応答願う!」

 

ターニャは、もはや何度目かわからぬコールを続ける。

まるでテレアポを取る営業マンのように何度も何度も繋がるかわからない相手先に打診を行い続ける。

 

「…ホークアイ03より、コマンドポスト、応答願う!応答願う‼︎」

幼女の頭には大きいヘッドセットを強く押さえながら、叫ぶ。

 

最初にようやくの思いでコンタクトを取れた第七野戦臨時管制所は支援観測任務に移行した数分後、突如音信不通となった。

二、三度呼び掛けても応答がなく、その結果1つの可能性が浮かび上がる。

 

恐らくは、共和国の重砲兵部隊か爆撃機部隊に管制所が吹き飛ばされてしまったのだろう。

 

空の上で飛び回る偵察機、航空魔導師がもたらす情報が集中し統括する部署である地上管制所は敵から見れば、厄介な情報収集拠点である。

 

しかも前線で展開中の魔導師・航空機部隊を指令伝達・誘導を行う中継指令所を兼ねるのたがら早めに潰しておきたい重要攻撃目標だ。

 

通信機材を集中的に運用している管制所を逆探知して位置特定し片っ端から叩いているのだろう。

武装偵察部隊による捜索攻撃の可能性もある。

私が敵の立場なら同様の手段を取るだろう。

 

そんなこんなで、管制所を捕まえてコンタクトを取り、支援任務に移行した瞬間に音信途絶というパターンを3回も繰り返している。

 

臨時設営された管制所は味方制空圏内の比較的安全な後方地域にある筈なのだが、ここまで米軍張りにピンポイントで叩かれる程なのかと疑問に思ってしまう。

 

管制所が敵に捕捉される程、ラインの空を守る西方航空艦隊の制空状況が芳しくないのか?

それともただ単に我が軍が間抜けだったからか?

どちらにしろ、とてもではないが話にならない。

 

「(まさか、ここまで面倒で煩雑な仕事だったとは…思いも寄らなかった!…全く、時間の浪費だ…‼︎)」

 

彼女は1人、心の中で愚痴りながら、どうしようもない苛立ちと不安、焦燥感に駆られていた。

 

その心境の根源は、遅々として業務が進まない現状もそうだが、それ以上に同じ場所で滞空旋回を続けているのが最大の懸念材料だったからだ。

 

空の眼たる航空魔導師による管制・警戒要員とは早い話、敵地上軍からすれば真っ先に叩き落としたい目標だ。

 

単独で強行偵察している自身からしたら、いつ来るかわからない哨兵狩りの魔導中隊か戦闘機小隊の存在に怯えながら任務に従事している。

 

それだけに同じ場所で長く滞空しているのは、危険である。

 

身の安全には最大限叶う限りの注意を払いながら行動はしているが、時間が過ぎる度に刻々とリスクが高くなっていく。

 

早いところ、やる事やって次の空域に移りたいところだが…それが叶わない現状に陥っている。

 

なんとかせねば…私の命が危ない。

 

嫌気が指しながらも地上の管制所とコンタクトを取り続ける。

 

「くっそぅ…頼むから、誰か応答してくれ…」

呻きに似た声をターニャは漏らす。

 

神に祈りたい気持ちとは、このことか。

だが祈ったところで只の傍観者たる神は救いもしない。

それ以前、人間が現実の苦痛から逃れたいがために妄想し生み出された架空存在の神なぞ現実に存在する筈がないのだから。

 

「(全く、忌々しい…元はと言えば、傲慢かつ合理的理性に欠けた存在Xの所為で‼︎…)」

 

過去に蘇る記憶と憤怒の感情が吐露した瞬間、ヘッドセットにノイズ混じりの声が耳に入る。

 

「こちら…第14野戦臨時管制所。コールサインはベーガル05。敵の電子妨害に…より感度は悪いが…通信可能の範囲だ。ホークアイ…03…どうぞ…」

 

ターニャは、脳内のドーパミンが弾けるような高揚感に包まれながら心の中で歓喜する。

 

おっしゃ!おっしゃ!キタキタキタキタ‼︎

よしっ!ようやく繋がった!

 

いやいや、待て待て。簡単に安堵するな私。このパターンは、先程のように陰鬱な結果になるかもしれない。

 

昂ぶる心情を冷たく抑え、機械的に業務をこなさなければいけない。

 

「了解、ベーガル05。感度は悪いが、こちらも聞こえている。現刻をもって支援任務を開始する。」

 

ターニャは、いつも通りの子供らしかぬ冷静かつ淡々とした口調で任務に応じる。

 

「助かるぞ!ホークアイ03…空の眼が足りてないところ…だったんだ…いやはや、諦めず呼び掛け続けた…甲斐はある…歓迎するぞ!」

 

ようやく、マトモな支援を提供されると喜び勇む友軍の歓喜。

恐らくは、苦境の中で差し出された小さな光明だったのだろう。

 

それに支援を提供する私にとっても嬉しいことだった。

こちらも諦めずコールした甲斐はあった。

 

願わくば、また吹き飛ばされないよう願うばかりだ。

せめて私が一通りの偵察報告を終えるまでは、生き延びてもらたいものだ。

ベーガル05に強運があらん事を願う。

 

「ベーガル05より、ホークアイ03…貴官の現在地…知らせ。」

 

「ホークアイ03よりベーガル05。現在地送る。コルマール管区D-10戦域にて滞空偵察を展開中。オーバー」

 

「ホークアイ03…よりベーガル05。貴…官の所在…地域プロット完了。D-10…戦域周辺の敵情を…知らせ。」

 

現在地を知らせた後は、速やかに敵情報告に入る。

ただ馬鹿みたいに管制所を探していたわけではない。

30分の時間は眼下に見える敵部隊の詳細を確認、分析するには充分な時間だった。

 

「アンマーシュヴィア南東において敵の1個歩兵師団相当の戦力を確認。扇状の横隊隊形をとり、警戒しながら平原地帯を徒歩で移動。移動速度は約時速5キロメートル。街道には多数の野砲を確認。トラックで牽引している模様。大型自走砲10輌も確認。オーバー」

 

トンガリ帽子のような塔が特徴的なシンボルになっているアンマーシュヴィアというアルサル・ワイン街道に連なる小さな町は、今は共和国軍の大部隊に飲み込まれていた。

近隣の町々も同様の状態だ。

 

「ベーガル05、了解。そうか…もう…カイゼルベルクは落ちたのか…という事は…かなりの敵が…侵入してきているな…」

 

管制官の溜息混じりの落胆がノイズ越しに感じられる。

その心情には同情を禁じ得ない。

 

「ホークアイ03よりベーガル05。残念ながらそうだ。さらに悪い事にキンツハイムとジゴルスハイムの町も敵軍に落ちた。ここには2個歩兵師団と増強師団砲兵が展開中だ。続けて報告してよろしいか?」

 

「こちら…ベーガル…5。地図上にプロット…した。ホークア…03、続けてどうぞ。」

 

「了解。ジゴルスハイム北東にはルノーR35とFCM36を主軸とした2個戦車大隊相当の戦力と一個混成機械化歩兵旅団を視認した。オーバー」

 

空の眼から収集された情報を確認する事は、否が応でも帝国軍が置かれた苦しい現状を再確認にするハメになる。

 

侵攻スピードが帝国軍の想定以上だった。

 

前世でその類のジャンルにおいて豊富な知識を継承しているターニャからしても彼らの機動展開能力と戦力は驚くべきものがあった。

 

…果たして、彼等は本当に共和国軍なのだろうか?…やはり、生きる世界が違えば中身も少々、異なるのか?…

 

ただ突撃果敢精神を信奉し、旧来の戦略思想に凝り固まっていた前世世界のフランス軍とは明らかに何かが違う。

 

彼等の陣容は、可能な限り機械化を施された戦闘部隊だ。

旧式兵器の混成部隊も目立つが、強力な戦闘力を発揮できるよう調整がなされている。

 

何より共和国軍の動きには、的確かつ無駄がなく、迅速かつ確実にアルサス地域圏を飲み込んでいた。

 

「ベーガル05…了解。状況は最悪だな…だが打てる手は打つ。ホウッセンと…ローゲルバッハ近郊に…展開する…味方砲兵部隊で…少しでも時間を…稼ぐよう上に打診する…」

 

ターニャはそれを聞くと戦域地形術式を展開し、ホウッセンとローゲルバッハの位置を確認する

 

これは三次元空間情報みたいなもの。

魔導波を発射し、地上で反射して戻ってくる時間から、自身と地上の距離を求め、3次元地形データを取得し、取得したデータをライブラリデータとして表示する。

なんと現代的な魔法なんだろうか、便利なのは間違いないが。

 

三次元の立体データベースを目の前に展開しながら、ターニャは考える。

 

やはり、遅滞防御で対応するしかないのか…

現状では手札が限られている帝国軍には、やむ終えない手段だが…

 

しかし、ホウッセンとローゲルバッハの味方砲兵部隊の位置から考えれば、敵砲兵部隊の射程内に入る可能性が高い。

何故なら、敵砲兵部隊との距離は6〜7キロしか離れてない。

特にホウッセンの砲兵部隊は、ジゴルスハイム北東に展開してる戦車部隊に捕捉される可能性が高い。

 

遅滞阻止射撃を行い、最大数時間の敵集団を妨害、拘束出来ても反撃され全滅する憂き目に会うだろう。

 

ロシア製の戦争映画にありがちな砲兵部隊の最後を演出されるのは、あまり受け入れられない。

 

捨てかまりじみた戦法で、貴重な砲兵部隊を失うのは帝国にとって大いなる損失だ。

 

「ホークアイ03からベーガル05。コルマールに展開する砲兵部隊の陣容を知らされたい。オーバー。」

 

正直、最小限の労力とリスクで業務を遂行するはずだったが…目に見える結末を許容するには些か気が引ける上、わかっていて適切な手段や予防策を講じないのは職務放棄と判断されかねない。

 

事実、魔導師の職務規定内には任務と状況に応じて臨機応変な現場対処をせよと明記されている。

 

だからこそ、魔導師はブラックでオーバーワークになりがちだ。

 

だとしても一介のサラリーマンとしては、許容しよう。

 

上手く転べば、表彰ものになるかもしれない。

これは楽観的すぎるだろうか。

 

まぁ、いい。

少々、お節介かもしれないが、やれる事をやろう。

 




寝落ちして、更新が遅れました。

今回の話で、出てくる地名は実際に存在している場所です。
本当は名前を変えて出そうと思いましたが、もの凄くややこしくなるため辞めました。
描写が細かすぎるのが、いけないんだろうけど…
なのでグーグルマップで見れば、この話に出てくる地理的描写が多少はわかりやすいと思います。
私もグーグルマップを見ながら制作したので。

あと、今週中には3話は投稿したいですね。
そうすれば、ターニャとカイジの絡みをようやく出せるので。

今、思えば色々と細かすぎたなぁと思うし、最初から一緒の部隊にいた方がやりやすかったかなぁと思うのですが…このように書き始めた以上はしょうがないかなと思います。

とりあえず、もう暫くお待ちください。


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