戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第27話 エラン・アタックⅥ

「おやっさん、あまりふざけが過ぎると…国家内乱予備罪で今度はモグラ行きだぞ。」

 

カイジがヴォルフの肩を叩きながら、駆け寄る。

帝国という国は、独裁的で強権的な側面を持ちながらも言論に関しては、それなりと自由が認められているが、それはあくまで平時の際に適用される。

 

現在は、真っ向から来たる戦時体制。完全版状態である。

そんな状況下で、敵たる共和国と通じてると捉えられる言動を振りまけばどうなるか?

確実に治安警察か憲兵に「無用に拡大解釈された疑義」でもって連行されるだろう。

 

ただしょっぴかれて、頭を冷やせと投獄されてるか「懲罰部隊行き」程度ならまだよいが「モグラ行き」になると話にならない現実に直面する。

 

カイジ的に言えば、「地下行き」である。正直、まんま変わらない。

 

内容は、思想的乖離者やら人格的矯正処置の不適合者、脳の器質性異常者などを社会奉仕活動に従事させるものだが、簡単な話「色々な面で手に負えないと判断された人間」を合法的に労働資源に組み替えるものだ。

 

こっちの方に不運に選ばれ行ってしまったものは、大体が鉱山行きか軍事用の地下坑道建設等に従事する運命だ。

 

カイジがかつての世界で、辛酸を味わった地下帝国建設プロジェクトに比べれば規模は小さいが、過酷な環境であることは間違いない。

人間が生きるには、とてつもなく不適。

暑すぎて息苦しくて、粉塵が肺を汚染する。

硬い岩盤をツルハシやエンピ(シャベル)で掘るたびに魂が削られる。

人間だからこそできる作業だが、逆に進んでやるべきではない。

 

だが、この国では需要が必要以上に存在している。

 

特に帝国は石油資源には恵まれなかったが、鉄鋼・石炭・コバルト等の鉱物資源には大いに恵まれ、鉱山開発は無数に展開され、人手はいくらあっても良いときている。寧ろ欲しいとされた。

そういった場所に害虫扱いされた人間を放り込むといった形になる。

 

数年すれば、免除され解放されるらしいと聞くが、その前に野垂れ死ぬであろう。

それは、カイジが身をもってよく知っている事だ。

 

根拠となる法律が確かあるが、やたらと長く簡単に覚えられる名称ではなく、誰かが言い始めた「モグラ行き」の別称が独り歩きし、官民問わず広く認知されている。

 

言い得て妙だった。カイジとしては心象的に気持ちの良いものでは、決してなかったが。

 

「えっ?多少は別に良くない?憲兵いないですしー」

ヴォルフは、分別を知らない学生のように気の抜けた返事をする。

 

「駄目だ。周りの視線が冷たいだろ。それに後から公益通報されたらどうする。あんただって、たたじゃ済まない。」

 

公益通報とは、内部告発の事を差す。

組織内部の人間が、法律違反行為をしかるべき機関に通報する事である。

公益通報の対象となる「法律違反行為」には、「国民の生命、身体、財産等の保護にかかわる法律」として定められた350に及ぶ法律が含まれる。

 

母体が実働人員600万を超える恐竜のような組織の帝国陸軍では、秩序統制の為に半ば奨励されていた。

その為、下手な発言を公にすれば、明日からどうなるかわからない。無名正義の通報者は事欠かないからだ。

 

連邦のように即決裁判無しに銃殺か収容所送りになる程、極端ではないにしろ、何らかの不利益を被りかねない。

真意はどうであれ、国家に反するような言動を一つしただけで、敵性国民のレッテルを張られて、批難される風潮が帝国にはあるからだ。

 

「えーいいっしょ、それくらい。まともに聞く余裕なんてないでしょう。されても軍事法廷なんてやる暇ないでしょうに。」

 

カイジからしたら「こいつめぇ…」と思わずにはいられない。

確かに彼の言う通り、そんな余裕は陸軍にはないかも知れないが、そんな中でもやってしまう人達は存在する。

 

「いいや…ルールに盲従する頭が四角い司法、人事将校達が相手なら話は別だ。彼らなら、どんな時でもやるぞ…」

 

彼らなら、法の正義に乗っ取り、最前線でも裁判を強行する謎の気概と行動力を持つ。

実際、カイジは過去にその類のイベントを経験しているから間違いなかった。

 

「それにおやっさん、部隊内の人事幕僚が代わりに簡易裁判を開廷する権限がある事を知らないのか?」

 

「あー、そんなんありましたねー。」

 

気の抜けた返事をするヴォルフに対し、「知っていただろう…」にと返すカイジ。

 

大隊の先任の一人で、大隊個人幕僚としてカイジの傍にいるのだから、連隊という組織や幕僚システムを知らないハズはない。

だがヴォルフという兵隊人間は、ルールや枠組みに囚われない人間だからタチが悪い。

 

悪いと思っていても、敢えてやるような気質があり、その度に色々な問題を起こす。

 

言動以外に上官をボコったりとか等々。

だから過去に何度も「懲罰部隊行き」になり、その常連だった。

 

カイジからしたら悩みの種だった。

だが戦歴で言えば、そこらのエースよりも格段の戦功を持ち、兵士達の中でも畏敬の存在であるのが更に余計だった。

 

その上、彼との10年以上に渡る腐れ縁の関係で、大概の事を許せる度量をカイジに身に着けさせると共に、ある程度は彼の暴走を止めるストッパーの役目を果たす。

本来は、逆なのだが…

 

「だから遊びは終わり…しまいだ。もうすぐ本番なんだから…切り替えなければ…」

先生か親が子供を諭すように言い、そのやり取りもこれで何回目だろうかとカイジは思うが、「ヴォルフはこーゆ奴だからしょうがない」と諦めの区切りをつけさせる。

 

「ちぇ~~」と言いながら、口をすぼめるヴォルフ。

あんたは、子供か。今にして思えば、彼がカイジ新兵時代の先任訓練教官だったのが不思議としか思えない。

 

そうして話は切り替わり、主題は目下、爆裂中の高射砲に注目を向けるヴォルフとカイジ。

「しかし、88ミリはスゲーな。射程は軽く2000オーバー。しかも威力がけしからん。」

 

長い射程と正確な照準で優秀な性能を有する8.8cm砲は、射程2000mでも正面装甲70ミリの戦車を破壊し、明確な照準が可能な射程1000m領域では80ミリ以上の装甲を撃ち抜ける恐るべき能力を保持している。

 

その為、大概の共和国戦車を撃破可能で、相手からしたら戦車砲の有効射程外から高精度の命中弾を喰らう状況に陥る。

共和国戦車隊からしたら、逃れられない悪夢そのものである。

 

この高射砲部隊を主軸にカイジは連隊本部付き幕僚とともに対戦車戦闘陣形を構成したのが以下の通りである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

高射砲による対戦車戦闘 第1段階を策定するにあたり、第23高射砲群が有する9門の88ミリは最前線となる第1塹壕戦から500m後方に主陣地を設定、一定の間隔で分散・配置した。

 

これは、敵の準備砲撃により高射砲部隊の損耗を防ぐ為の処置であり、共和国の砲兵隊が第一線の塹壕地帯に砲撃が集中する事を想定したカイジ達、各指揮官・幕僚らの判断だった。

 

その判断が事幸いにしてか、無事88ミリ砲は全門稼働出来る状態に温存する事が出来たわけである。

 

配置に際しては、88ミリ3門を一つのグループとし、3つの高射中隊に分けて連隊陣地前面を守るカイジの第1大隊、第2大隊を援護出来るよう射線を確保。

 

敵戦車の火砲射程は400~600mと計算し、対してこちらの高射砲部隊は、有効射撃可能な距離は最大1500mを保持する。

 

これにより第1塹壕戦から1000m先からアウトレンジから敵戦車部隊を先制攻撃し、その存在を葬り去る事が戦闘防御計画の第一段階だった。

 

カイジの前世界の戦史においては、第二次大戦のフランス戦や北アフリカ戦線でロンメル将軍が行った戦法とほぼ一緒である。

この事実をカイジが知るのは、大分後になってからになる。特にミリオタでもなかった彼からした当然と言えた。

 

知っているのは戦艦大和かゼロ戦そしてタイガー戦車ぐらいなものだ。

後は、現代日本男児が好むロボットものが主体だ。それも上辺だけだ。

 

その点は、類まれな重度末期患者のオタクであるターニャとは異なる存在で、相反するのがカイジだった。

彼は、あくまで板についた職業軍人として、経験と戦理にかなった分析で判断を下したまでである。

 

「元々は、対爆撃機用の高射砲だからな…高初速砲としてはこれ以上に有効なものはない…」

 

カイジからしたら、使わない手はなかった。あるものは、全て使わなければない。

敵機甲戦力の撃滅を前提条件として考えるなら、現在の状況において、この88ミリ以上に価値があるものを知らない。

仮にあってもアルサスの戦線には、存在しないからだ。

 

だから対戦車戦闘においては、88ミリを装備する第23高射砲群は重要な鍵と認識している。

それに気づいているのは、空軍は別として陸軍では意外にも少ないのが悲しかったが…

 

近代戦争の序章たる「極東戦争」以降、航空機技術は大幅な飛躍を遂げ、以前と比較出来ない以上に、遥かに高高度を飛び、速度も向上した航空機が各国で競い合うように開発され、空を駆けていた。

魔導士の演算宝珠も同様だ。

 

そのため対空兵器も大幅な能力の向上を求められることとなり、帝国でも極東戦争の戦訓を取り入れ、新型対空砲の開発を進めることとなった。

 

それで爆誕したのが8.8 cm FlaK 18 大型多用途高射砲。

通称、アハト・アハトと呼ばれる大口径の高射砲は、1915年にクルップ社およびエーアハルト(後のラインメタル)社によって開発された8.8 cm Kw FlaK(高射砲の原型の一つ)を元にした改良発展版である。

 

本来の目的は高高度化していく爆撃機に対する対空戦闘任務を主題とするものだったが、空軍出身の航空技術参謀クリス・ラッタ・ストライカー大佐の指導で対陸上戦闘能力を本格的に付与したのがFlaK 18となっている。

 

その効果は、イスパニア内戦や第3次アルサス紛争で試験中隊を投入し、改めて再確認し実戦配備を急ぐ形となったが、それは一部の動きに過ぎない。

 

陸軍は野砲による陣地型対戦車戦闘を重視していた為、その考えを転換するのにまだ充分な結果をもたらせねばならなかった。

 

「(しかし、今回の戦闘次第でそれは変わるかもしれない。まず、生き延びなければ話にならないが…)」

 

カイジはそう思いつつ、爆炎に包まれる敵戦車を数える。

全弾一発必中とはいかずとも、数分の戦闘で20輌以上の戦車を無力化できるのは素晴らしいと彼は感じた。

決戦兵器と大仰な表現を持たせても遜色はないだろう。

 

敵戦車を屠る眼下の光景は、ロメール少将が第3次アルサス紛争で見せた「涙の丘」での88ミリによる防御戦闘は紛れもなく正しかった事を証明している。

 

「でっ、射撃精度もピカイチか。神は三つ与えたわけだな。」

ヴォルフは、にやけながらカイジに語りかける。

 

それを聞きカイジは思う。

 

対空戦闘が主眼である88ミリ高射砲は、高速で飛び回る航空機と運動性に極めて優れる魔導士の戦闘に特化している。

逆に言えば、速度300キロの航空機や当てるのに苦労をする魔導士と比べ、戦車は非常に狙いのつけやすい目標であるだろう。

 

現に次々と戦車が擱座しているのだから。

一つ注文を付け加えれば、対戦車戦闘向きの直接照準器を88ミリが持てば、更に効果的と言える。

だがこれは欲張りと言えるだろう。しかし、今後の課題として検討すべきだろう。

 

天は3つ与えたか…間違ってはいない。

対戦車砲として見るなら、射程・威力・精度を兼ね備えているからだ。

 

だが、もう一点、特典があるのを忘れてはならない。

 

「いや、正確には4つだな…速射性能も飛び抜けている…他国にこれほどのモノは、まだない…」

 

この88ミリは1分間に15~20発という極めてイカれた発射速度を発揮した。

これは、当時の高射砲が持つ標準発射速度に比べれば、倍であり圧倒的な投射火力だった。

作った奴は、間違いなく天才である。いったい誰だろうか。

 

「へぇ~、やっぱ詳しいですなぁ~大隊長殿。」

 

「ああ、まぁな…だが兵器の優位性…それだけじゃない。」

 

「88ミリの優秀さもあるが、一番は扱う人間の能力だ。」

 

優秀な兵器が優秀足りえるのは、その兵器の扱いをよく知り、運用出来る人間がいてこそ初めて真価を発揮する。

それは、全ての兵器に言えることだが、今回の場合で言えば空軍に所属する第23高射砲群が88ミリの能力を十二分に引き出してくれている。

 

「しかし…大隊長殿~質問が一点ありますが~」

 

「なんだ?どうした…」

 

「今更なんですがねぇ…空軍の高射砲部隊がよく協力してくれましたねぇ~。あいつら、戦車と戦うのを嫌ってるでしょ。主任務じゃないってさ。」

頭を掻きながらヴォルフは、埋もれた記憶を絞り出すように話し始める。

 

「いまじゃ生きてるかわからんが、ジョーンズって兵隊上がりの古参魔導士がいてなぁ…そいつの話だと前の紛争で、陸軍の師団と空軍の高射砲連隊とめっちゃ揉めたらしいんだ。」

 

軍歴30年以上のヴォルフは、現場主義の兵隊屋という狭い世界の中では、それなりに名が通る上に各方面の兵士との交流関係は想像以上に広い。

 

そこからもたらされる情報は、使えるものもあれば、下衆な話程度の価値しかないものまで様々だ。中には明らかに機密指定疑惑の情報まで何故か流れ込んでいくる。

 

そういった表以外に陸軍の見えない事情を把握するには有益であり、カイジが彼を個人幕僚として抱え込む所以の一つである。

 

「空軍が言うには、戦車になぞに88ミリを使うのかって、お前ら専用の対戦車砲があるからそれでいいだろ!ってほざいてさ…それで師団長が冗談じゃない!シャールとマチルダが相手じゃダメなんだ!ってキレて、てんわやんわになったと聞いたがなぁ…」

恐らく、それはロメール少将の事だろうとカイジは見ていた。

 

確かに空軍の高射砲部隊は、対戦車戦闘を嫌う傾向がある。

一応訓練カリキュラムでは、陸軍の部隊と共同して対戦車戦闘教義の履修を済ませているが、対戦車戦闘は想定として「非常事態」に限るとしていた。

 

空軍高射部隊の非常事態とは、守備する航空基地及び補給施設が敵機甲部隊の強襲を受けた際もしくは陸軍方面司令部からの緊急要請を受諾して際に適用されるとされた。

 

その緊急要請も戦略上、陸軍・空軍共に重要な拠点か主要戦線となる特定の部分に限定され、その承認には陸空現地司令官の協議が最低必要だった。

 

何故そこまで、嫌うのかは色々な理由があるが、要はプライドの問題が大半を占めている。

 

航空機や魔導士を叩き落とし、爆撃機編隊の脅威から地上を守る事を至上の誇りとする空軍高射砲部隊は、その防空任務には死力を尽くすが、逆に戦車との戦いは陸軍部隊がやるべきで、空軍高射砲部隊がメインで動く必要性がないとしている。

 

あくまで対戦車戦闘は、副次的なものと認識している以上に、彼らからすれば戦車との戦いは対空戦に比べてレベルの低い戦闘であり、そんな戦闘に自らの労力を進んで割きたくないと考える人間が多かった。

 

そこに指揮権の問題も重なるわけで、揉めるごとに発展するわけである。

 

そういった面があり、陸軍でも88ミリを主体とした対戦車部隊の編制を急いでいたが、元からある野砲の対戦車戦術に拘る野戦将校達が邪魔をする。

 

さらに88ミリ自体は元来空軍の管轄下にある火砲であり、配備優先権が空軍にあるため、総生産数の3/4が空軍に持ってかれる。

結果、陸軍に納入される88ミリは限定される数となり、装備した部隊の数も限られた。

 

「大体、あの高射部隊どっから来たんです?…三日前に突然現れて…不思議に思わないはずがないでしょー」

 

ヴォルフからしたプライドの高い空軍の高射部隊がノコノコ来て、揉め事もなく連隊会議に出て配置につくのは不自然と思えた。

 

「砲弾の調達にワーゲンで奔走して、後方で右往左往している空軍高射砲部隊がいたから協力要請を行ったんだ…」

 

カイジによれば、当初はコルマールの防空任務に派遣される予定だったが、命令が二転三転した上、空軍司令部の通信が途中で寸断された。

 

恐らく敵の電波妨害によるものと思われたが、それが原因で指揮系統に混乱が生じ、どの命令を受諾すべきか第23高射砲群のメンヘル少佐は悩んでいたらしいと。

 

そこで丁度、カイジが遭遇し、互いに状況を説明した上で命令の中で「ミューズ・ラインの防空任務」に関するものがあり、これを優先させたと。

 

「行きがけの駄賃としては、いい収穫だったな…」

そう呟く、カイジに対しヴォルフは訝し気な表情を漂わせて「いや、嘘でしょそれ…」と言い放つ。

 

彼からすれば、空軍直轄でしか動かない指示待ち人間集合体の高射砲部隊が、そう簡単に首を縦に振るものかと考えていた。

プライドが高く、陸軍とは折り合いが付きにくい面がみられるなら尚更だった。

 

確かにカイジは中佐の階級があり、参勤経験者(陸軍参謀本部勤務の略称)であり、今は連隊臨時野戦参謀の役職を第1大隊指揮官と兼任している。

特徴ある金モールを胸から下げていることから、それなりの権威と権力はあるが、それは陸軍部隊内に限っての事。

 

空軍相手には、通用しない。何かのコネか買収とか、なんか弱みをつけて揺するかしない限り、無理であろうし、そんな状況設定は土台不可能である。

相手は、どこぞの馬の骨と知らない奴らなのだから。

 

後は、ヴォルフの直感がそう感じさせた。あいつ、また嘘をついてごまかしてやがるって

 

「本当はどうしたんですか?」

真意に迫るようにカイジに迫るヴォルフ。

やはり彼には、通じないかと早々に観念したのか、カイジは小さな声でヴォルフの耳元で囁く。

それは砲撃の最中でようやく聞き取れるが、内容は衝撃的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…拳銃で脅して、焚きつけた。死ぬか勲章をもらうかどっちかだってな…」

 

高射砲の独特な射撃音が木霊すると同時だった。

「はぁっ⁉」

ヴォルフは、頭にガツンとした直撃弾を喰らったように仰け反る。

面食らったのも無理はない。

 

「静かにしろよ…聞かれちゃまずいだろ。」

それは、そうであろう。

 

「いいやっ!だってよっ!」

ヴォルフは、声を小さくしながらも動転した心境は抑えられなかった。

 

「彼等は、利口だったから後者を選んでくれたよ…」

利口だとかそーゆ問題じゃない!と頭によぎるヴォルフは、カイジに詰め寄り捲くし立てる。

 

「おいっ、カイジ!おまえっ、流石に流石にそれはまずいだろっ!」

ヴォルフはつい呼び捨てにしてしまう。過去の繋がりの癖ではあるが、今回は別の意味で発露している。

 

本当にさっきの忠告が嘘みたいな話である。確かにさっきはおふざけは過ぎたかもしれんが、奴の場合はシャレに全くならない。

やっていることは、空軍に喧嘩を売ったのと一緒だ!最悪、死刑になりかねない事なんだぞ!

 

「緊急事態だ…こっちは馬鹿みたいな数を相手にしなきゃいけない…これくらいは多少の些事…別にいいだろう…遊兵戦力の有効活用だ。」

多少はねぇ、別にいい?果たしてそうか本当にそう思うのか!

 

「多少?いやいや!やってる事のスケールがちげぇっ!」

 

「ちょっと!こっちこい!」

ヴォルフは、カイジの肩に腕をかけて引っ張り込む。

「おわっ!ちょっと、なんだよ!」

 

「すまん将校諸君!大隊長殿は、少々腹がピィピィしてるらしい!ずっと我慢してたんだなぁ!三分ぐらいで戻るから、なんかあれば呼んでくれぇい‼じゃあな‼」

そう叫ぶと戦闘指揮所から10m程離れた野外トイレにカイジを引きずるように連れ込む。

周りの将校達は不思議そうに眺めていたが、そこまで気に留めてもいなかった。後は段階的に防御計画を連隊本部が発令するのを待つ身だったからであろう。

 

それはどうこう、カイジを引き連れながらヴォルフは心中でこう叫んでいた。

 

ーなんで、お前はいつもそうなんだッ!何故、いつもチャンスをふいにするんだッ‼ー

 

 

 

 

 

 

 

 

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