戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

37 / 55
第35話 道中

 

さて、そんなこんなで青く透き通る空に再び戻り、散らばっていた戦力を掻き集めて、なぜか私が指揮を執る形になり、最前線に向かう途上にある。

 

集まった戦力は、何だかんだで中隊規模と言える体を成していたが、部隊の中核をなす士官や下士官が道中戦死するなどして、指揮官は不足。4人ほどマシな下士官がいるのが幸いといったところ。

 

どちらにしろ部隊が統制され連携し戦える状態ではない。

 

多くのものは練度判定Dかその下であるかのような体たらく。それは、一緒に飛んでれば、一目瞭然。陣形を整えるのも一苦労、飛ぶので精一杯な姿を見れば、察しはつくものだ。

 

要は、こちらも寄せ集めの集団である。

まさか、こんな形で部隊指揮官を思わなんだ。

経験のない新人社員と役職についたこともない幹部候補生の集まりの面倒を見ろと言われ苦労していた同僚の姿を思い出す。

「当時の彼もこんな心境だったのろうか」と

 

ターニャはそう思い、ため息をついた。

任務をこなす度に荷が重くなっていく。

 

だが、やるとなれば最善は尽くさなければならない。否が応でも立場がそうさせる。

たとえ、戦争を忌避する人間であっても。

 

「中々、ハードな仕事になりそうですな。一個師団が相手だと少々、我々には手が余りますね。」

 

ジョーンズ軍曹は半分にやけながら話す。

過酷な状況でも古参特有の余裕と落ち着きがある姿勢と見えた。

 

戦力になるかわからない有象無象の魔導師の集まりでは、有用な駒となり得る人間だ。

 

「成る程、少々か。それでも軍人である以上は、最善は尽くさねばなるまい。税金から給料を貰ってる身だ。給料分の仕事はしなければならない。」

 

そう命を失わない程度にかつ、確たる戦果を上げて、新たな出世に向けた布石となす。

 

「明らかに給料分以上の仕事になりそうですがね。我々らの部隊で対応する戦力比率があってませんから。追加で国防給付金が欲しいくらいだ。」

 

「ジョーンズ軍曹の意見はもっともだ。私もそう感じている。だが考え方次第だ。」

 

「というと?」

 

「敵情によれば、144連隊と対する敵師団は、準備砲撃を早々に切り上げ、航空支援を待たずに攻勢に出た。」

 

奇襲性を求めたのか、それとも攻を焦ったのかは知らぬが、防御陣地の破壊が不十分な中での攻勢は、損害が大になるのは必死。

機関銃陣地が1つだけでも、一個中隊を殺せる。

元々、共和国軍の砲兵隊が中口径主体の75ミリであるのも原因か。

 

どちらにしろ今いる世界のヨーロッパは、前世のような大戦も今までになく、本格的な塹壕戦を経験してないのだから無理もないのだが、逆に見ればそこに救いの目はありそうだった。

 

「その結果、144連隊の防御線に阻まれ立ち往生していると聞く。」

 

銃火器の射撃線、砲撃を受けながら前進もままならず、立ち往生するのは、そこにいる兵士達にとっては地獄そのものだ。

 

「攻勢による突撃は、困難が伴う。集中的な攻撃を受けながら各部隊が連携し、前進するのは容易ではないからな。まず混乱し、指揮統制が取れなくなり、部隊が分断される。場合によっては何も出来ずに壊滅する部隊も少なくない。」

 

現代戦のように発達した技術はなく、戦術もまだまだ発展途上で各部隊を共同連携させるシステムも確たるものがないならば、攻勢による突撃は総じて力攻めになりやすい。

 

「であるならば、勝ち目はなくはない。兵士をただ正面に突撃させるだけならば、防御線に阻まれ、多くは土に還る存在だ。

そこに我々が介入し、敵指揮官と無線手を重点的に潰せば…」

 

「最初は1つの固まりだった敵が、バラバラになっていき、後は各個撃破すればよいというわけですな。」

 

「物分かりがよろしいな、ジョーンズ軍曹。その通りだ。敵師団は徒らに戦力を消耗させる結果になるわけだ。」

 

そう考えると、共和国の兵士達は哀れに思える。

あらゆる可能性を持った人的資源を無用に肥料として帝国に輸出している様なものだ。

こちらからすれば、捨てるが如くの戦力運用は願ったり叶ったりである。

 

「どうせ最前線に行くなら周りの敵を血祭りに上げ、徹底的に殲滅するくらいはしたいところだなぁ」

 

「やっぱり少尉殿は、武闘派なんですねぇ。」

ジョーンズ軍曹は笑う。

 

「いや、そういうわけじゃないさ。やるなら徹底的にやらねばならない、それが味方のため、ひいては国のためになる。軍人だからな。」

 

「いやはや、立派な志で」

 

「そう、からかうな」

 

だが現実的はこう都合よく無双できるわけではない。気掛かりな事は残っている。

 

「とは言っても。まず、144連隊が生き残っていればの話だな。」

 

「まず間に合うか、どうかも微妙です。」

 

第144臨編歩兵連隊。読んでの字の如く、臨時編制の寄せ集めで不足の戦力を表面上補う部隊である。

大戦物では、無数に産まれ、殆どが戦闘で壊滅する憂き目を見る存在だ。

 

ある部隊は健闘し、ある部隊は秒で壊滅し、ある部隊は不法行為に手を染める。

純粋な正規部隊からは遠い存在。

 

この世界においても、内容は変わらないだろう。

 

「健闘できる指揮官が連隊に入れば、話は別だろうが…それでも酷な話だ。」

 

これは今更だが、連隊と師団では戦力差の不利は明白で、連隊の内情として練度も装備も足りてないとなるなら致命的な問題として払拭できない。

 

「連隊が防戦している状態となると、陣地築城はしっかりしているようだ。でなければ、とっくの昔に壊滅するか敗走してるだろう」

 

「なんとかもっていても、長くはないと」

 

「だろうな。余程の事がない限りはな…」

 

心中よぎるのは、さらに最悪の事態が発生する予測。タイミング悪く、戦力価値がない瀕死の連隊の救援活動をしなければならい状況に遭遇する事。

連隊が盾とならなずに秒で殲滅される形。

つまり、師団と自分の部隊がタイマンする状況になれば、これは生きた心地がしなくなる。

 

「敵にも航空部隊の増援が来るかもしれん。そうなれば、状況は破滅的になる。」

 

まだ確認されていないが、来ないとは言い切れない敵の航空兵力の来園。魔導師、戦闘機、爆撃機の集団が殺到すれば、何とか連隊が防戦してても流れは変わる。

 

何よりこちらの命が危なくなる。魔導師は殺れても、戦闘機が相手では分が悪い。実戦で戦闘機を撃墜した経験のなさが不安材料になる。魔導師部隊の壊滅は避けねばならない。

特にこれは自分の責任が関わってくるから尚更だ。

 

「場合によっては考えなければ、ならんが…間に合わなかったら間に合わなかったなりの仕事をしなければならない。」

 

連隊が使い物にならなくなり、敵師団や航空部隊の浸透を許した場合は、優先順位を変えてしまおうとターニャは考える。

 

表面上は連隊を救援するという形で遅滞防御戦を行う。我が部隊は一撃離脱の反復を繰り返し、敵師団の移動を鈍らせる。

 

航空部隊に対しては乱戦を避けねばなるまい。ランダム運動回避をしつつ、撹乱術式、デコイをふんだんに使いながら攻撃を避け、爆裂術式で敵を切り取る。

そして、機を見て後退を司令部に打診し逃げるか。

 

その際、何人か盾になってもらおう。もとから力の差があるから、部隊の面倒を見ながら敵を完全に潰すほどの余裕は自分にはない。

 

ならば一層の事、呪いの95式を使い最大出力で全て吹き飛ばしてしまうか?

 

そんな物騒な事を考えてると、ジョーンズ軍曹が話しかけてくる。

 

「カイジって奴がいたら、状況は違ってたんですかねぇ」

 

「…?…カイジ?」

 

まったく聞きなれない名が耳に入り、ぱっとは浮かばない。

一瞬浮かんだのは、最早遠い昔の前世に存在した海上自衛隊の略称である海自。

明らかに全然関係ないので、頭を切り替えて問いただす。

 

「聞いたことがないな。どんな人間だ。」

 

「私がまだ歩兵だった時の話なんですがね。同じ中隊の曹長が…………」

 

ジョーンズ軍曹が言うには、こんな人間らしい。

 

外人で出だしが兵卒の身でありながら、最短コースで佐官に出世した叩き上げのエリート。

経歴はよくわからないが、とりあえず主要な戦争には殆ど従軍。

 

極東戦争、シルベリア紛争、イスパニア紛争、アルサス紛争……etc

本国にいるより、外地派遣の期間の方が軍歴では長いといった現場系の人物らしい。

 

確かに凄いが、このような軍人ならば、探せばいるといったところだが、注目すべきは別にあるという。

 

「彼が指揮した部隊では、敗北なく勝利あり」

 

要は、常勝無敗の指揮官という。

多くが寡兵(兵力が少ない)でありながら、倍以上の敵軍を破った事が勇名を馳せているんだとか。

 

どんな過酷で困難であっても、負けはせず最後に勝利を掴む……男子からしたら憧れと理想的な軍人像を形にしたようなものだ。

 

まるで軍神のようだが、そんな奴が本当にいるのだろうかと疑いたくなる。

 

名前からして、実在するか怪しい。

そんな気を持たせる。

 

「話では聞いただけなので、わかりません。

与太話かもしれないです。」

 

こういった話は、人から人へ流れていく内に尾鰭がついて、過剰な設定が付与されやすい。特に戦争で活躍した人間は誇張され実体からかけ離れた評価になる事もしばしば。

正直、どこの世界でも一緒らしい。

 

「まぁ、仮に実在したとしてだ。都合よく144連隊の指揮官でいるとは思えんな。」

 

「まっ、そうですよね。」

 

この世は不条理だ。良い方向に転がるご都合主義とはいかぬ、むしろ悪い方向に何故か都合よく転がっていくものだ。

 

だからカイジという優れた指揮官が、救援先にいる可能性は限りなく低い。

 

確率はゼロではないが、当たる確率は低い。

そもそも本当にいるのか怪しいのだから、前提条件が崩れている。

 

「とはいえ、本当にいるなら一度はあってみたいものだな。」

 

そう言い残し、新たな地獄があるであろう最前線に最大速力で向かう。

 

そこに伊藤開司がいるとも知らずに。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。