戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第38話 動静

ジェラール・エメ大尉の戦車隊は、壊乱状態に陥っていた。

 

謎の対戦車砲の猛射で、多くの味方戦車が戦うことなく鉄屑に変えられた。

 

それでも、何とか敵陣地に取り付こうと恐怖で頭がイカれそうになりながらも、勇気を引きしぼり、前進し目の前まで迫るか…

 

「こんな!砲撃を喰らわれちゃあ、ラチがあかねぇ!」

エメ大尉は叫ぶ。

対戦車砲が繰り出す死の魔弾を殆ど運で避けているというのに、あらゆる方向から飛んでる来る猛砲撃を食らっては、前進して突破なぞは困難だと思われた。

 

「こんな所で無駄死になんてゴメンだ!」と内心強く思う。

とはいえ、逃げるわけにはいかない。

ならば…

 

「マクシム!戦車が隠れそうなでっかい穴を探せ、一時隠れるぞ‼︎」

 

「はっ!了解です!」と操縦手のマクシムは快諾して、FCM36の速度を上げる。

 

「大尉!それは命令違反ではっ!!」

と疑義を投げかけるのは装填手のアダン。

「別に逃げるわけじゃねぇ。建て直すんだ!体制を!」

 

「いや、建て直すっても、もう味方が散り散りに…指揮もロクにできないのに、体制を建て直すもクソもないじゃないすか!」

「そんなこったぁっ、わかってる!」

エメは苛つく。アダンって奴は、砲弾の種類すらしっかり覚えてるか微妙な癖に、周りの状況を何故か理解してやがる。

 

「もう天命に任せて、前に行くべきでは!」

 

「このまま突っ込んでも死ぬだけだ!無駄死だけはしたくない!」

 

「あっ!遂に本音でましたね!大尉‼︎」

 

「うるさいっ!アダンお前はいつもー!ってうわあああっ!!」

 

エメとアダンが言い合いをしている最中に突如、衝撃に襲われる。

車両が砲撃で出来た窪地に落ちたらしい。

車両は擱座したように斜めになり、息苦しい車内を圧迫する。

 

「いてて…アダン、マクシム大丈夫か?」

アダンは「へーきーです」とあっけらかんに言う。相変わらずに強い奴だ。

しかし、マクシムから返事がない。

 

まさかっ!と操縦席にエメが滑り込むとマクシムが頭から血を流して、うなだれていた。

 

「アダン!救急箱持ってこい!!」

エメに命ぜられたアダンは、モタモタしながら救急箱を見つけ出し持っていき、エメとともに応急処置をする。

 

マクシムを見れば、頭部裂傷で脳震盪の疑い。気を失っているが脈はあるから、死んではいない。

だが、かなりの衝撃だったから危ぶまれる部分がある。ひとまず安静にすべきか。

こんな戦場で安静もクソも無いのだが。

 

テキパキと患部を消毒しガーゼをつけ包帯を巻くとアダンにマクシムの様子を見るように言いつける。

「大尉、何処に行くんですか?」

「外の様子を見に行く。」

アダンから「危ないですよ!」と言われたのを無視し、砲塔の重いハッチを開けて、外に出る。

 

見渡せば、戦車を隠すほどの大きい窪地の中におり、身を隠すには良い場所だと思われた。空から降る砲弾以外は…

 

流石にここに長くいるわけにはいかないか…

肌で実感する危険度を感じ、今後どうするかを考える。機を見て乗員とともに、後ろに下がりたいが、普通に考えたら蜂の巣にされかねない。耳がつんざく程の猛砲撃を聞きながら、どうすべきか…思案していると

 

窪地に転がり込む兵士が目の前に止まる。

エメは咄嗟にホルスターから拳銃を引き抜こうとするが、相手から制止される。

 

「まて撃つな!味方だ!42連隊所属のアルバン軍曹だ!」

19世紀からの伝統を受け継ぐ共和国の軍服を着用する髭面の軍曹を見て、味方だと認識したエメは答える。

 

「すまなかった。俺はジェラール・エメ大尉だ。さっきまで第3突撃戦車隊を率いていた」

エメは手を出してアルバン軍曹と一瞬の握手をする。

「さっきまでというと…」

「いまでは、散り散りになってな。陣地に突撃する途中で足をすくわれた」

少し嘘をついたエメだが、アルバンにはバレなかった。

「そうでしたか…我々も似たようなものです。」

軍曹は、ボロボロの軍服にこびりついた土砂を払いながら言う。

「まず最初の敵の砲撃で自分の隊はバラバラになり、更に敵の防御線で一気に崩れました。」

 

アルバンが言うには、なんとか進み続け敵陣地まで300切ったあたりで猛砲撃を食らい、前進することもままならず、周りにいた兵隊を集めながら、身を守れる場所を探して、今いる窪地に雪崩れ込んだという。その間に何人もの仲間が敵の攻撃でやられてしまったらしいが…

 

「大変だったなぁ…」

エメは同情を隠さずにいう。

「これからどうしますかね…」

アルバン軍曹はエメに言う。

 

アルバンが連れてきた兵士達は8名ほどいるが、皆怯え切っており身を屈めている。タバコを吸って気を落ち着けようとする者がいるが、手が震えてマッチに中々火がつかない。

もはや戦う士気が無いことは目に見えた。

 

「まずは…様子を見るか…」

 

「長くはいられませんよ…」

 

「だよなぁ…やっぱ逃げるか…上手くな」

エメとアルバンは両者が頷き、生きる道を探し始める。

 

〜共和国軍 第3師団 師団本部〜

 

「何故だ!何故っ‼︎突破できん!」

師団本部内に響くのは第3師団の頭領、オーバン少将の野太い声。

額に血管を浮かばせながら、拳を振り上げ机を叩き込む。

憤怒とも思える剣幕がオーバン少将の顔に刻み込まれる。

 

「敵は寄せ集めの烏合の衆ではなかったのか‼︎」

「新鋭の第3師団だぞ!新式装備で訓練済みの部隊で何故、突破できんのだ!」

 

オーバン少将は周りの幕僚に当たり散らす、大部隊を預かる指揮官としては最もやってはいけない部分ではあったが、直情型の指揮官なら納得は出来た。師団長の器ではない。

 

ー思うようにいかなければ、状況を冷静に確認せず、憤激し駄々をこねる。まるで子供だなー

 

烈火の如く怒り狂うオーバン少将を冷ややかにみるのは、参謀本部付き高級将校 トマ=アレクサンドル・デュマ大佐。

 

師団長の激憤に怯み、もたつき困る幕僚の間に入り、デュマ大佐は発言する。

 

「航空支援無しで強行したのが間違いでしたな。」

 

「準備砲撃も味方部隊が陣地に突入する30mギリギリまで行うべきでしたよ。弾薬が欠乏しても。味方を巻き込む危険があってもです。」

 

「何!?」

 

「そのはずです。敵は弱輩なれど、陣地を固めている以上は、相応の準備はされているのは間違いなし。敵陣地後方には森林地帯が見えます故、予備隊や砲兵部隊が多く配置されている可能性が高い。だからこそ、航空支援で要所の陣地や部隊を破壊しておいたほうが良かったんです。まぁ、これはさっきも言ったんですけどね。」

 

淡々と言うデュマ大佐に殴りかかる勢いで迫るオーバンを幕僚が必死に抑える。

 

「何を言うか!貴様!」

 

「まぁ、落ち着いて下さい。とりあえず、こうなった以上は、一回部隊を引き上げるべきです。既にかなりの損害が出ています。これ以上の強攻は自軍の戦線に穴をあけるので、得策とは言えません。」

 

「出来るか!そんな事は、出来るか‼︎たとえ、今は突破が出来ずとも、猛撃を続け白兵戦に持ち込めば勝利に導ける!」

 

「それが難しいというのです。ここは決断して下さい。前線の将兵の為にも」

 

「不可だ!フォッシュの部隊に遅れをとる訳にはいかんのだ。」

 

本音が出たなとデュマ大佐が思う。

オーバンとフォッシュとの間に何の確執があるかは知らないが、つまらぬ意固地な張り合いが彼の強行を駆り立てたのだろう。

しかし、功を焦った結末が、師団の3割を損耗させてしまっている。

 

「そこを曲げてお願いしているのです。一回駄目でも、まだ二回目があります。やり方を変えねば、敵の戦線は突破しかねます。」

 

「ええい、うるさい!今日中に突破せねば、我が師団に汚名がつく!」

 

「なりません!徒らに部隊を全滅に追い込む指揮官は、只の殺戮者ですぞ!」

 

「もういい、黙れ!俺は予備隊を投じてでもここを突破する、エランの力を示す時よ!衛兵、そのナントカをつまみ出せ!」

 

「参謀本部付だろうと、何だろうと!ここは俺の師団。俺が全部、決定する!」

 

衛兵がデュマ大佐の横に立つが、彼は制止して自ら踵を返して、静かに師団本部を去った。

 

去り際に、「どうなってもしりませんよ。」といい残して。

 

師団本部の外に出てると、デュマを待ち構えた士官がいた。

 

「どうでしたか。閣下。」

跪くように向かえる士官にデュマが答える。

「ジェレミアか…今回は駄目だな…」

 

騎士のような優雅さを佇ませるこの士官は、ジェレミア・ゴルドマン大尉。

デュマ大佐の警護兼軍事秘書という共和国軍独特の制度で存在する役職に任じられた士官だ。

 

「だから言いましたでしょうに、話すだけ無駄だと。」

 

「それでも直言はせねばならない。参謀本部付の仕事としてな。現場部隊の視察と指導という形でね。」

 

「で案の定、跳ね除けられたと…」

 

「ふん…共和国の豚共めが…」

 

デュマは鼻を鳴らしながら、侮蔑の言葉を吐き捨てる。

 

共和国はその国情から、帝国との国力差は大きく、人口の面も劣勢(共和国の潜在的動員兵力は帝国の60%)で、技術面、装備、部隊練度など総合的な面でも劣勢の面は否めなかった。その表面上においては。

 

力の差から防御の受け身は無理と見て、ならば先手の攻撃が起死回生の策かとなる。

 

その結果、共和国軍は攻撃一本槍の思考になり、エランに代表される精神論に傾倒する形になってしまう。また階級が上に行けば、行くほどその傾向が強くなる。

 

精神論は弱者が強者に立ち向かうために頼みとなる力で支柱だった。だが過剰に実体なき存在の精神論に補強を加え、根拠を超えた謎のエネルギーをエランに求めていく。

 

さらに極東戦争で秋津島が連邦に対して白兵戦の決戦で撃ち破ったことの印象が強く、その思想がさらに強化されてしまった。実際のところは白兵よりも重火力戦の戦術を重視したのが秋津島であり、共和国でもペタン大佐らが火力主義に切り替えるべしと提唱したが、当時のフォッシュ中佐やジョフル中将らの「大きな声」での喧伝、頭のない人間を魅了しやすい演説でもって精神論は流布され、国全体に浸透してしまう。まるで呪いのように。

 

そうなると軍事的な思考方法は論理に長けてる反面、独創性と柔軟性に欠けるきらいがある。精神的要素と攻撃に重視しすぎて、不可欠な物質的要素を軽んじる。

 

どれほど戦意が高揚していても、装備面や練度の差を人間の意欲で補うのは、無理というものだ。物質文明の先端を行く帝国に対して、特に無謀だと思われる。

 

だからこそ、共和国にいるエランに縋り、力押しの作戦しか出来ない豚は出来る限り屠殺せねばならない。

 

「しかし、これで攻勢が失敗すれば師団の頭をすげ替える理由にはなる。」

 

「そして、またド・ルーゴ閣下の意を汲む人間に新しく師団長になっていただくと…」

 

ド・ルーゴは国防次官兼陸軍次官という共和国軍及び政治においても中央で力を持つ人間であり、共和国で数少ない独創性豊かな革新的存在である。その反面、陸軍の主流派と対立している側面もある。そのため軍事作戦を統括する参謀本部や各軍司令部から放逐され、現職に至った経緯がある。

 

たがド・ルーゴはその立場を逆手に取った。

陸軍省に属する彼は、上級組織を統括する共和国国防委員会内の政治家、軍人と通牒し、自らのシンパを作りつつ、「国防派」と呼ばれる派閥を形成。

 

加えて陸軍内の組織改革を進める道具を手にする。

 

それは人事権である。

 

人事権を管理できる権限を利用し、自らの考えに賛同する人間や部下を事あるごとに陸軍内のあらゆるポストに派遣して、少しずつその勢力を浸透させていった。

 

平時では、年に二回ある人事異動を利用、また新編成部隊の指揮官推薦に横槍を入れ、ド・ルーゴ側の人間を向かわせる。また、アルサス紛争に代表される有事の際に、明らかな失敗を犯した高級将校達を「指揮官不適」として更迭し、後任に国防派の人間を向かわせるなど、あの手この手を使い権力掌握に励んでいた。

 

この「短期の戦争」とされる戦場でも同様の事は行われ、それを実施させる役割を持つのがデュマとジェレミアのような参謀本部付きとされる将校は事実上、ド・ルーゴが派遣した仕置人達だった。

 

「荒手だが、硬直した組織を刷新するには一つの手ではある。」

 

「戦時での更迭はよくある話ですが、何回もやられては困りますがね。」

 

「共和国軍は本国から現地軍に至るまで、硬直しすぎている。頭の切れる人間に部隊を指揮してもらわないと、人が持たん。」

 

「あわせて、ド・ルーゴ閣下の人脈につらなる人間で穴を埋め、国防派の影響力を増すと」

 

「前線部隊は機能的な運用が可能な指揮官に導かれ、効果的に戦況を有利に形作る。一石二鳥といったところか。」

 

「ですが、かなり遠回りですね。骨が折れます。」

 

「そもそも、戦争をするには早すぎた。出征準備も万全の体制ではなかったのだが…ド・ルーゴはそれでも利があるとしたらしいな。」

 

「国防委員長の反対を跳ね除けて、開戦に賛同したと聞きますが…」

 

「我が道を行くのがド・ルーゴだ。奴の考えではプランは前倒しにして、共和国軍を作り変え、帝国に撃ち勝つ腹らしい。」

 

「では、例の作戦は本当にやるんですね。」

 

「ああ、今はまだ発動しないが…暫く時を経てば、自ずと実行される。」

 

「ではその時、閣下は…」

 

「無論、私が率いる。これはド・ルーゴが前々から話していた事だ。まず例の作戦を指揮実行できるのは私しかいない。」

 

「ようやく…ですね。苦節5年に渡ってようやく、この時が…」

 

「感涙に浸るのは、まだ早い。まだ始まってもいないからな。」

 

「その前にだ。厄介な正面の敵を排除せねばならない。流石に放置するわけにはいかない。」

 

「防御陣地の救いがあっても強靭な戦闘力を発揮するとは…ただの寄せ集めの連隊とは思えませんな。」

 

「練度が劣った部隊でも戦える防御戦はある。例えば、ノモンハンで連邦がやった野戦築城戦術を行えば、話は変わってくる。」

 

「連邦のやり方をですが…連邦流を知る人間は、帝国内では殆どいなくなったと聞いてますが…」

 

「時に例外はあるものだ。それでジェレミア、航空戦力は集められそうか?」

 

「このジェレミア・ゴルドマン。僭越ながら既に手は打っております。」

 

「流石だな。ジェレミア。」

 

「しかし、閣下に許可を得ずにした事はお詫び申し上げます。」

 

「構わない。して、陣容は」

 

「方面軍から特殊作戦軍一個大隊に、第87爆撃飛行大隊、第16飛行隊から第104戦闘機中隊を抽出し、現在戦線に向けて移動中。少々時は掛かりますが、間も無くこちら側へ来るでしょう。」

 

「中々の大盤振る舞いだな。特戦を一個大隊とは…よく取りつけた。いい働きだ。」

 

「有難き幸せ」

 

「では、もうこの部隊に用はないな…次の部隊に行くぞ…」

 

「はっ…仰せのままに」

 

2人は、第3師団を後にして去っていった。

彼らが後に戦局に大きな影響を与える事になるのは、暫し時を待たねばならない。

 




駆け足で書いてるので、表現とか細かい部分は割と端折ってます。
とにかく両者を合わせるのに必死です。
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