戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第42話 極限着弾 異邦人の遭遇

第144臨編歩兵連隊の布陣する立地条件は、共和国軍から見れば、進軍の道路に相応しいと判断された。

 

周囲は畑か平原地帯で、起伏が少なく障害物もほとんどない。

正面の敵兵力が少ないならば、攻勢を担当する第3師団にとって、当時の観点として戦線の突破は容易と判断される。

 

また共和国軍としても、この戦線に刺さる蚊のような存在だった連隊の防御線は直ちに抜いてしまう必要があった。

 

そのため予備隊を含めた新たな歩兵戦力を次々と加え、莫大な犠牲に構わず144連隊の陣地に殺到する。

 

「3大隊に連絡!貴隊にある2号戦車、1個小隊を第2大隊の右翼に展開するよう…要請しろ!」

 

カイジは、最前線に近い戦闘指揮所から戦況の動きを先読みし、手を打っていく。

 

2号戦車は、20ミリ機関砲が主武装の軽戦車で対戦車戦に不向きであるが、軽快性と機動力が高く、必要に応じて移動して、火力を集中する戦いに適していた。

 

その能力は、防御陣地内の戦闘において力を発揮している。

 

塹壕陣地に侵入を試みる敵歩兵隊に対し、20ミリ機関砲の重く乾いた連射音を轟かせ、砲塔を回しながら銃撃を加える。

 

20ミリの直撃は、人間を跡形もなく弾け散らす。

 

20ミリの集中された銃撃を食らった敵歩兵隊はスイカが割れたかのようなに、辺りを血と肉で汚す。

 

この恐ろしい機関砲の銃撃を掻い潜っても、シュパンダウ機関銃の猛威と、迫撃砲や歩兵砲の砲撃に襲われ、陣地に手をつける事なく命が消し飛ばされる。

 

だが…それでも共和国軍の攻勢はやまない。

どれだけの人間が秒単位で殺されようが、彼等は突き進んで行く。前へ前へと、屍を乗り越え、戦車の残骸を盾にしながら、前進を続ける敵の歩兵隊にカイジは恐怖に魅せられる。

 

ー これだけ、打ちのめしても!進むのか!あいつらは!! ー

 

共和国軍が勇猛果敢な精兵である事は、自ら認めているし、だからこそ徹底的な殺しの布陣で迎え撃っている。

 

連隊の防御陣地手前は、死体の山々となり阿鼻叫喚の世界と為しているが、依然として攻勢は止まない。

敵兵士の何人かが恐れて逃げる事はあるが、部隊が退却しようとする素振りは見せない。

 

「おい!アレを見ろ!」と指揮所の誰かが叫び、指をさした。

 

見ると共和国の歩兵が死んだ味方の死体を集めて土塁のように作り、そこに機関銃をおき射撃を加えていた。その光景が各所に見られる。

 

「味方の死体を使って……だと!正気か、奴らめ!」

信じられないと嫌悪感を出しながら士官の一人がいう。

 

「確かに……正気ではない……」

 

カイジは呟き、そして納得する。

 

ー 戦場では正気でいられない……正気では、いれない世界で戦って生きる為に……アイツらも手を尽くす ー

 

整然とした指揮は不可能になり、熾烈な接近戦に投じている共和国軍の兵士は、混沌と絶望の中にいたが……それでも諦めてはいないのだ。

 

戦線を見渡せば、連隊の砲撃で出来た窪地に身を潜め、果敢に攻撃を加える小銃分隊がいる。

 

歩哨用のタコツボ跡地を利用して軽迫撃砲をそえて懸命な支援を行う迫撃小隊。

 

戦車の残骸から装甲板を引き剥がしたものを盾にしながら突き進む兵士の姿。

 

擱座した車両から使える機銃で攻撃をする乗員。

 

巧みな回避行動で陣地に迫るルノー戦車。

 

こちらもそうだが、この戦線にいるどの部隊もひたすら生き残るために独力で闘う模様を見せる。

 

ー そう来るなら。やはり……F弾は必要だったか ー

 

カイジの脳裏に浮かぶは、狂気の砲弾。

しかし、ここで使うわけにいかず、その前に大々的に使用できる条件が整っていない。

それ以前にこの戦線にF弾は供給されていない。

 

カイジの中では、このF弾に対する倫理的な問題は無視されていた。シンプルな回答は「あるなら使った」という考え。

しかし、無い物をねだったところで何も得ることは出来ず、いまあるものでその場を繋ぎ止めるしかない。

 

共和国の攻勢が限界を見せないまま、極限状況で熾烈な銃砲撃戦を見せる混乱の最中、連隊本部から命令が下る。

 

「大隊長。連隊長の令により、砲兵隊の全力近接防護射撃が開始されます。」

 

指揮所の通信兵から、砲兵隊の火力地点が各大隊主力陣地を基点として前面に集中される事がカイジの耳に入る。

 

「大隊、各部隊に伝え!砲兵隊が陣地前面にて全力砲撃を加える!各陣地にいる兵士は怯まず、弾幕を張り続けろ!」

 

「了解!各達します!!」

 

カイジの命令に呼応するかのように砲兵隊からの射撃号令がアナウンスのように指揮所に伝達される。声の主はメーベルト大尉だった。

 

「連隊各位へ、こちら砲兵大隊長メーベルト大尉。これより我が砲兵大隊は、大隊全力による近接支援射撃を実施する。射法は各個射。弾種は榴弾、榴散弾混用。直ちに開始される。各部隊は砲弾の破片と衝撃に注意せよ。そして御武運を……」

 

射撃号令が終わり通信が途切れる。

 

20秒ほど過ぎたのち、メーベルト大尉が率いる砲兵大隊が10.5㎝ leFH 軽榴弾砲 18問の一斉射が轟く。

 

「間も無く弾着!」

「総員、衝撃に備え!臆するなよ!」

 

束の間、戦線が一気に爆発の衝撃に包まれる。砲兵隊の射撃範囲にいた敵は、一切合切すべて爆破に飲まれて消える。

 

巻き上がる黒い土砂が彼方の空まで飛ばされて降り注ぐ。地上に降り注ぐ土砂の中には、敵兵士の肉片も混ざっており、全力射撃の威力を示す。

 

「これで終わりだ!」と一人の士官が叫ぶ。

「一気に火力を前に出すぞ!第2中隊で主力陣地を支援しろ!」

カイジがここで決めたい気持ちに駆られる。

 

ー ここで終わらせたい ー

 

陣地から100メートルも切った距離で行われる砲兵隊の猛射撃は、味方に被害が及ぶ恐れの高い射撃だったからだ。

 

たとえ、観測魔導師がおり、精度も高い練度を持つ砲兵大隊の砲撃だったとしてもリスクは背負ってしまう。

 

だから、ここで出来る限り短時間で勝負を決したいとの思いが強くなる。

 

「カルペン少佐より予備支援で残してるヴィットマンの隊も動かせますと…来てますが、どうしますか?」

情報幕僚がカイジに伝える。

「車両は何だ?あと数。」 「突撃砲6輌です。」 「そうか!直ちにこっちに向かわせろ!」 「了解。伝えます。」

 

これはついてると思ったカイジは、さらに火力制圧の強さを増すために指示を出す。

 

戦線はありとあらゆる火砲の砲撃が密着して集まり、無数の爆発で敵兵を視認するのも難しいほどの激しさを見せる。

 

共和国の粘り強い攻勢もここに来て終わるかと指揮所にいる将校が希望に思いを寄せた時に、大隊主力陣地を砲撃が襲う。

第一線の塹壕地帯にいくつもの砲弾が炸裂し、対戦車砲が吹き飛ぶ。

 

「糞っ!砲兵隊は何やってやがる!」

「誤射だ!味方の誤射だ!」

「砲撃を中止しろ!」

「観測魔導師がやらかしたか!!」

 

恐れた事態が起きたと認識して、事態の収束にてんてこ舞いになる戦闘指揮所。

 

「なに!?砲撃は陣地前面に集中してるだと!だから、それが大隊の陣地に当たってるんだよ!中止して修正しろ!!」

 

幕僚が通信機で怒鳴りあいを行う中、大隊の陣地に次々と砲弾が着弾し、被害が拡大する。

 

「こうなったら、直接 砲兵隊に乗り込んで止めてやる!!」

 

そう意気込む士官をカイジが「待て!」と叫び止める。

 

「何を言うのです!早く味方の誤射を止めないと!全滅します!!」

 

「あれは!誤射じゃない!敵のだ!」

 

「なん……ですと……」

 

何を言いますかといった表情を浮かべる士官に対しカイジは言う。

 

「誤射にしては、狙いが正確だ!陣地にバラけて落ちるなら、誤射だと判定できるが!」

 

大隊の陣地で起きる惨劇は、誤射だと判定できるものでは無かった。

 

誤射なら弾着はバラけ落ちるが、弾着した場所の殆どが防御の要となる機関銃陣地、対戦車砲陣地、トーチカなどの防御陣地だった。

 

「明らかに狙いを定めて防御陣地を破壊している!!」

 

「だから敵砲兵だと!しかし、煙幕で遮蔽されて視認しての砲撃が不可のはずでは!!」

 

共和国軍の砲兵は、基本は直接照準射撃を重視する。そのために目標を視認が出来なければ、砲撃支援は不可となる。

 

それを狙い、黄燐発煙弾で砲兵隊から戦線を見る視覚を奪ったはずだった。

 

「敵の前進観測班が生き残っている可能性がある!」

 

もし共和国の砲兵隊が射撃を可能にするならば、戦線に砲兵将校を要にした前進観測班を展開し、観測を行い間接照準射撃を行う筈だと。

 

「しかしながら!あの防御火力で観測可能でしょうか!まず、生きているのも怪しい。それにいたら、とっくのとうに敵が砲撃を加えるはず!」

 

「確かにそうだが……」

 

たしかに前進観測班がいるとしても、あの攻撃の最中生き残っていても観測は困難と言えた。また、いるならもっと早い段階で砲撃を加えるはずだからだ。

 

「まさか敵の魔導師か!?」

「いや、魔導師なら確認はできてないぞ!」

指揮所ではパニック寸前の押し問答が展開が模様され、痺れをきたした士官は行動を起こす。

 

「とにかく止めます!!」

カイジを振り切り、砲兵隊に向け士官は移動しようとすると通信士官から報告が入る。

 

「航空観測班から、伝令!敵砲兵隊が……最前線に展開してると!!」

 

「何っ!?」とカイジは驚き、双眼鏡で爆発と煤煙の向こう側を見る。

 

すると、四角い防盾をつけた一団の散開隊列を視認する。

 

「共和国……砲兵隊……」

 

カイジは絶句し、冷や汗が身体全体に流れる。

 

ー ざわめきの正体は、これだったのか!!ー

 

共和国砲兵隊が自らの危険を顧みず、使える車両で牽引し、若しくは人力という馬鹿力で75ミリ砲を連隊の防御陣地を視認できるところまで持ってきていたのだった。

弾薬も軍馬を使い、また人力搬送しながら運んでいる。

 

これは伝統的に歩兵に勝る勇敢さを持つ砲兵隊の芸当とも言え、蛮勇であるとも言えた。

 

彼らは、死に億せず堂々と75ミリ砲を地面にそえて猛然と攻撃を陣地に加える。

 

「砲兵だ!敵砲兵を潰せ!優先事項だ!」

 

カイジは狼狽しながら指示を出す、ここに来て自分に冷静さが失いつつあり、また自責の念に襲われる。

 

ー 何故、気がつかなかったのか ー

 

思えば、煤煙の先に双眼鏡で見た黒い影は敵の砲兵隊だったのだろう。それを見抜けなかった。

 

ー 航空観測班を近接支援に回してなければー

 

航空魔導師を近接支援におかず、前線の観測に注力させていれば、気づけたはずだと。

 

だが、そう悔やんだところで何もならない。

 

早く手を打たなければ!

カイジは敵砲兵隊を排除すべく、メーベルトの砲兵大隊に目標の修正を連隊本部に伝えようとするが、悪い事が重なる。

 

「第3大隊より……!連隊本部が敵の砲撃により……」

通信士官が言葉に息がつまる。

 

「何っ……!やられたのか!!」

 

そのまさかだった。

敵砲兵隊の一撃が何の奇跡だろうか、連隊本部を直撃し指揮連絡が不可能になってしまった。生死は未確認で不明、どちらにせよ連隊は突如として機能不全となる。

 

「それで……速やかなる指揮権の移譲を……」

 

「まさか……俺にか!?」

 

「はい…早急に判断を…」

 

連隊本部にいる高級指揮官一同が生死不明なれば、戦闘部隊の次級者が指揮権を継がなければ、ならなくなる。その結果、中佐の階級を持つカイジになるわけだ。

 

「しょうがない……これより……当該部隊の指揮権を…」

 

「指揮権を自分が引き継ぐ」と言いかけたところで、空から降ってくる黒い物体を2つ見つける。カイジは目を見開いてみる。

 

それは砲弾であると瞬時に理解し、その砲弾の着弾コースが確実にこちらに真っ直ぐ近づいていることを理解する。

 

何故、このような時に不運が重なるのか…

そして、時間がスローになったように見える不思議さもあるが、そんな事はいってられない。何か手を……

 

「みんな、伏せろ!!!」

何か手を打てるわけでもなく、カイジは伏せろと叫ぶしかできなかった。

 

だが伏せたところで、助かるかは分からなかった。もっとも嫌な運否天賦に任せる状況に腹を立て、悔しくなり、自分の惨めさに痛めつけられる。

 

2つの砲弾が空中で炸裂する。

ー 榴散弾か!ー

 

数千の破片が地上に降り注げば、助かりはしない。生きていても死に勝る苦しみの果てに死ぬであろう。

 

ー ここに来て、もう駄目なのか!!ー

 

眼前の景色が歪み、目を瞑る。

 

この世界に来た運命も、果たすべき約束も

前世界に戻る手段も、何かも果たせずにこの

まま終わるのかと…様々な思いが濁流で流れる。

 

万事休す…全てはもう……

カイジは諦観の念に襲われてるが……

 

しかし、恐れた破片の雨が来なかった。

何故だと空を再び、見上げた時だった。

 

最終に見えたのは魔導防壁の残照。残照が残るくらいだから、かなり強力だったのだろう。

 

そして、小柄な魔導師の姿だった。

 

「砲弾を防いだのか…魔導師…」

 

一瞬、アデルナかと思いきや、違う。

あいつはもっと背が高い。

 

カイジと他の将校も呆気にとられる。

突如、指揮所の無線機から声が漏れる。

 

「こちらホークアイ03、応答を乞う…」

 

カイジは、脊髄反射で無線機のところに走り、受話器を通信兵から奪い、取り答える。

 

「こちら…第144臨編歩兵連隊 連隊長代理 カイジ中佐だ!……救援感謝する……オーバー……」

 

受話器の先にから、何かくぐもる声が漏れた後に返答が来る。

 

「私は、戦術支援中隊を率いるターニャ・デクレチャフ少尉です。あなたが連隊の指揮官ですか……?」

 

声が幼い……少女の声か?いるのか、そんな魔導師が……

 

「そうだ…何かあるか?」

 

ここに来て、両者は始めて遭遇する。

お互いがこの世界では、次元を超えた異邦人である事はまだ知らない。

 




祝、2年かけて……ようやく両者、遭遇。
ここから、ようやくスタートきれる。
とりま、これで「もうすこし」という詐欺的行為を遣らずに済みます。
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