戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第44話 光条

「……くそっ!……本当に大丈夫なのか……」

 

ー そして、何故 死に急ぐ事をするのか ー

 

カイジは、受話器を放り投げるように通信兵に渡すと苛立ちながらも指示を出す。

 

「連隊は、規定の防御戦を続行する!……砲兵隊は、2個中隊で対砲兵戦に移行し、残りの中隊で前線支援だ……各大隊、踏ん張り時だ!……航空支援も来る!……中隊規模の魔導師だ!各大隊に伝えとけ!」

 

この時点でカイジは、ターニャの事を信用していなかった。彼の中では、たかが一人の魔導師が共和国の砲兵隊を相手に出来るとは、思わなかったからだ。

 

だから、対砲兵に連隊の砲兵2個中隊を差し向ける決心をした。

 

仮にエースだとしても、前線に展開する共和国砲兵隊を相手取るのは危険であり、返り討ちに会う可能性も否定できない。

 

勇猛果敢な砲兵隊は、対空戦闘の備えも相応に整えていると予測される。

最低、1〜2個小隊の魔導師で遊撃戦に転ずるならば、まだ考慮できるが……それを一人で、しかも「殲滅します」というような口振りだった。

 

ー 奴は、共和国軍を舐めていないか? ー

 

彼の中では、そう認識される。

勇気と馬鹿は紙一重と言うが、彼女の行為は

あからさまに敵を過小に見ているように思えた。

 

そう思うと同時に彼女の単独戦を容認した自分の判断に対して、腹立たしく思う。

 

自分の中で「少なくとも彼女が攻撃をすれば、敵砲兵に注意が向く。そうなると、敵の砲撃は薄くなる。これを利用して、戦線の防御を立て直して、合わせて敵砲兵を片付ける。たとえ彼女が撃ち落とされても……」

 

そう、ターニャナントカ少尉が、文字通り勇戦して果てたとしても、戦局を有利にする手立てとして活用できると踏んでしまう。

 

彼女が堕ちても、間も無く来る戦術支援部隊を差し向ければ、状況は好転すると思われた。

 

そんな誰かをダシにして戦争をするという非道というか、残酷な選択を一定の合理で下してしまう自分の思考にカイジは嫌悪した。

だが、その選択以外を選ぶ余裕も彼にはなかった。自然と歯を噛みしめる。

 

そんなカイジの心境を別とし、連隊長代理の下達した言葉を聞くと指揮所にいた士官達は沸き立つ。

 

「おおっ!魔導師中隊が!」

「これで持ちこたえられる!」

 

来るとは思っていなかった航空支援が来援する報は、希望の一筋として光明を連隊に照らす。

 

また、対地攻撃に優れる魔導師の航空支援は願ってもない事だ。

気持ちはわからなくはない。

 

絶望感から引き上がるように部隊の士気は高まりを見せる。たとえ、僅かな形でも心が折れるよりは遥かにマシだといえた。

 

これは、勝機に繋がるチャンスだとカイジは理解し、行動する。再び通信兵から受話器を取り、元いた大隊戦闘指揮所に連絡を図る。

 

「1大隊のカイジだ!カルペン少佐はいるか?出してくれ!」

 

相手の通信を待つと火力運用幕僚のカルペン少佐が出てくる。

「はい、カルペンです。」

 

戦闘前と落ち着きが変わらないカルペンに対しカイジはまくし立てるように喋る。

 

「間も無く、魔導師部隊が来援する!これで形勢は変えられる!連隊の防御戦闘を有利に進める為に、後方においてる機甲部隊は動かせるか!?」

 

カイジの言う機甲部隊とは、中央軍から増援として派遣された1個戦車大隊の事である。

定数割れであるが、最新ロッドの3号戦車を主体とする機甲部隊で、連隊で唯一の機動兵力と言える存在。

 

「はい、可能です。全車起動態勢に移行し、異常なく展開できます。」

 

カルペンは、落ち着きある声で異常なく、可能であるとカイジに伝える。

 

「では、魔導師部隊が突入したのを合図に機甲部隊を動かせ!敵の左翼を突いて横腹を叩く!!」

 

「はっ!……了解しました。ところで……」

「どうした、少佐?」

「はい、魔導師部隊の指揮官は誰ですか?戦闘によっては、通話しないといけませんので……」

「ああ……そうだな。指揮官の名前は確か……ターニャ ナントカ少尉と言ってたな。……コールサインはホークアイ03だ。」

それを聞いたカルペンは間を置いて聞き直す。

「本当ですか?……ターニャ・デクレチャフ少尉ですか?」

 

「そうだ。何かあるのか?」

カイジはそこに何の意味があるのか、わからずに聞く。

 

「彼女は銀翼を持つ最年少のエースです。」

「……そうなのか?」

「……中佐、知らないんですか?」

「知らん……とりあえず、手筈通りに頼む。」

カイジはそう言い終えると受話器を置き、再び戦線に向き直る。

 

ー 最年少のエース?初耳だな……何者だ? ー

カイジは、そう思いつつも今考える場合ではないとし、気持ちを切り替えて指揮所で指揮を取る。

 

ー しかし、エースなら使いようあるか ー

 

彼はどこの馬とも知れない女性魔導師の扱いによってはジョーカーとなる手札かも知れないと直感で感じていた。とはいえ、生き残っていればの話であるが…

 

「支援部隊の任務は、連隊の第一線塹壕地帯を基点に防御戦闘だ!守り抜け!敵の侵入を消して許すな!」

 

無線でターニャは気高い武人の如く指揮下の部隊に命令を出す。そして、軍曹共の野太い「了解」の声を聞き、命令を続ける。

 

「突入コースを2つ指定する!ジョーンズ、エバーンズの隊は左翼から、アレン、アンソニー、エリアスの隊は右翼から侵入し、連隊に近づく敵部隊を叩きのめせ!!」

 

ターニャが部隊に対する命令下達を終えるとジョーンズが話しかける。

 

「少尉は、どうされるおつもりで?」

 

「決まっているだろ……吶喊し、敵の砲兵を潰す……‼︎」

 

彼女の意を決した発言にジョーンズは「本気ですか?」と答える。彼の中でも、流石に単身で切り込むという発想はなかった。

 

「無論だ。因みに正気でもある。」

気が触れてはいない事をターニャは伝えると、制止する反応が部下から返ってくる。

 

「冒険しすぎでは?」

「せめて、我々が来るまで待たれては……」

「先駆けはズルいですよ!」

 

それを振り切るようにターニャは答える。

「心配は無用だ。それに事態は急を要する。早急に対処せねばならない……なに上手くやってやるさ。部隊各員は示した通りに動けよ!」

 

彼女は、部下の返答を待たずに通信を終える。その時には殲滅目標となる敵砲兵隊を直接照準で捉えるところまで肉薄していた。

 

目下では、連隊の防御陣地に急速射撃を加える75ミリ野砲が放つ発砲炎の数々を視認し出来た。

それで敵砲兵隊の位置と陣形は大体、把握した。

 

どうやら敵砲兵は、最前線に於いても一列に砲を並べ、直接観測射撃を実施している。

射法は平行射向束修正で各分隊の個射。

混乱する最前線でありながら敵砲兵の統制は取れているように見えた。

 

ー 砲兵に関しては、有用な人材だな。ー

 

ターニャは共和国の砲兵に一定の評価を下しつつ、敵の砲列側面を通過し背後から攻撃をかけようと迂回機動を行う。

 

敵砲兵隊がそれに気づいたのか、若しくは彼等の直感がそうさせたのか、砲兵隊部隊に随伴していた対空部隊が対空砲火を加え始める。

 

敵の機関銃、機関砲がターニャに向け指向され無数の銃弾が空を切って飛んでくる。

 

感覚的に敵の砲火をレーダーのように察知した彼女は、増速。幾何学模様を描くようにランダム回避を連発する。

 

小さな身体に高負荷のGが加わり、ターニャは歯を食いしばり、対空砲火の波を僅差で避け続ける。

 

戦闘の時は小さな身体である事に彼女は感謝をし、対空砲火を避け切るようにランダム回避から弧を描く急旋回に移る。

 

「敵目標座標把握、チャンバーへの魔力充填正常」

 

彼女は回避しながら、敵目標の所在を把握し、武器に魔力を込める。溢れるエネルギーが鮮明なイメージとなって投影され、一本の形に収束される。

手に持った自動小銃の銃身が黄金に煌めく。

 

「射法は爆裂術式……誘導干渉術式との併用。弾種は術式封入弾……」

 

〜魔導師 用語概説〜

 

「術弾」・・・・あらかじめ銃弾や擲弾、砲弾に術式を封入した専用弾薬。術式を起動させる最小限の魔力で使用可能。術式を発動しなくても威力が見込める弾薬として魔導師的に必需品である。普通の銃弾が中口径の砲弾並みの威力を持つイメージ。

 

「術式」・・・・端的に言って自らの能力を向上させるスキルみたいなもの。魔導師は攻撃・防御・機動性を強化する時に専ら使用される。術式と術弾を併用すると威力が大口径榴弾砲並みか、それ以上になる。

 

魔力適性が高く、エネルギーとなる貯蓄魔力が多ければ、正直に言って何でも出来る。ターニャやメアリー・スーはその典型。

 

【攻撃術式の主な種類】

 

•「光学術式」・・・・ビームライフルかメガ粒子砲みたいな直線の熱戦攻撃。漫画だとバスターライフルみたいな感じのをターニャが撃ちまくる。技量がある奴だと軌道を変化させられられるらしい。

 

•「爆裂術式」・・・・任意の座標で大爆発させる。要は浪漫のないエクスプロージョン。

ライン戦線では一日一回に限らず、両軍魔導師がボコボコ使いまくる。

 

•「誘導干渉術式」・・・・上記の二つの術式を併用すると術式攻撃で目標を追尾、誘導する。個人的には、これがチートだと思う。

 

 

風を思いっきり切り抜ける音を耳に残す急旋回後、敵の砲兵隊を背面につき、身を翻し自動小銃を構えて照準を行う。惰力で横移動しつつも、自らの敵をサイトに捉える。

 

幾つかの砲兵は、射撃を中断しターニャの存在を確認した上で、砲身を上空に向けようと人力で旋回させている。対応は素早く見てとれた。

 

彼女の青碧の瞳が金色に輝き帯びる。

 

「我が帝国に仇なすものは、協商であろうが共和国だろうと有象無象の区別なく殲滅するのが我が使命。」

 

自分に言い聞かせるように唱え、引き金を引き絞り撃発。

 

「我は守護の尖兵!帝国を守る剣なり!!」

 

魔力を充填されたチャンバーを通り術弾を連続して6発撃ち放つ。

 

6発の術弾が青白い閃光を放ちながら飛翔し、目標着弾前に複数に散弾のように分裂し拡散する。

 

1発につき同質量の術式弾が6発に分裂する作用で、合計36発になる術弾が誘導干渉術式の導きで、敵砲兵隊の各砲兵分隊にミサイルの様に誘導される。

 

そして、一気に術弾が着弾し、爆裂術式の併用作用で地表を焼き尽くす大爆発が砲列を飲み込むが如く一線状で巻き起こる。

 

それは煉獄の写し身のような光景だった。

 

ー やったか!ー

 

ターニャは呼吸を整えて戦果を確認すれば、

爆発の粉塵を切っ裂いて複数の砲弾が飛んでくる。

 

彼女は、急上昇し砲弾を避ける。獲物を捉え損ねた砲弾がターニャの背中で爆発し、衝撃を感じる。飛来する破片を防御殻(魔力シールド)で防護する。

 

ー なんと!あの攻撃を凌いだのか!ー

 

眼下を直視すれば、粉塵に紛れて上空に砲を据えた砲兵の数々を見る。

彼等はズタボロになり、片腕を吹き飛ばされ、腹を裂かれていても戦う事を諦めず、砲火を加える。中には分隊で一人になっても、撃ち続けるものもいる。

更に生き残りの手負いの兵士達が使える機関銃、機関砲で対空戦闘を必死に継続する。

皆、重症を負い長くない命、それでも残りの命を燃やすように戦う。まるで死兵である。

 

ー ナポレオン時代から続く、砲兵の狂気的な勇敢さは健在か また兵士もそうか ー

 

ターニャは巧みに対空砲火を回避し、防御しながら共和国軍の兵士を評価する。

 

自分を視認してからの短時間での対空戦闘への移行、高火力の航空攻撃を受けながらも、持ち場を離れず戦う戦闘意欲の高さ……

 

帝国兵士と同様に良兵と言える存在だと彼女は思った。しかし、扱い方がなっていない。

 

よく訓練され勇敢さと技量を持つ兵隊を、共和国を力攻めにより無為に最大犠牲を出している。

 

一概にとは言えないが、非効率的かつ非合理的に有用な人的資源を浪費しているようにターニャの目に映る。

 

「共和国の兵士は精兵か!ならば!その有益な人的資源の一切合切を!一切合切を私にくれないかっ!! 」

 

ターニャは誰が聞くかわからぬ叫びを宙に放つ。私ならば、もっと有用に人材をマシに扱うぞ!と言わんがばかりに。

 

その非難の叫びは、攻勢を指揮する上級指揮官達に皮肉を込めて向けられていた。

 

凝り固まった保守的な頭脳と愛国心に呼びかけるスローガン、また綺麗事を言いながら功を求め戦功を得ようと腐心する上級将官の姿。野心の残像。その命令で多数の命が霞み消える現実。

 

少なくともこの前線の指揮官は、そんな人間が強行し、前途ある若者達を徒らに浪費し有機物の残骸にしていると彼女には思えた。

 

だから、私に寄越せ!と言うのである。

 

ー だがそれは無理というもの。私に銃火を向けるのは、共和国に忠誠を近い、命令に忠実な兵士達だ ー

 

自らがどんな理由があろうと一度、軍に入れば、その為に命を担保に戦うのだ。それはどこの国でも同じ事。帝国は言わずもがな。

 

では、やる事は一つである。

 

彼女は、対空砲火を受けながら術式展開を再び行う。

先程とは比べものにならない形で。

銃に黄金の光が収束し、銃口の先に魔導陣が二重三重に投影し展開される。

 

「汝らが祖国に不逞を為すならば……我ら神に祈らん……」

 

高濃度の魔力収束に伴い、戦線に展開する味方部隊に対し、照射警報を放つ。安全上、念のためだ。

 

「主よ、我に力を……祖国を救い、仇敵を討ち滅ぼす力を……与え給え!!」

 

95式を通して充填される馬鹿みたいな魔力の波動が全神経に注入され、薬をキメた様に意識が冴える。そして憎き存在を崇める言葉が自分の意思と反して、自動的に唱える。

 

彼女からすれば、糞の固まりのような台詞に腹が煮え繰り返りかえる。

抑えようのない殺人衝動をこの場にいない存在Xではなく、共和国軍の砲兵隊に向ける。

 

敵は何かよからぬ異常を察知したのか、対空砲火をターニャにありったけ持てる力を使い集中させる。

 

砲火をターニャは、厚い防殻を展開し防ぎながら、煌めく自動小銃を直下の敵に向け射撃姿勢を取る。両足を前にだす。

 

銃口の先にある魔導陣が自身を覆うように肥大していく。

チャンバーに充填収束した高濃度の魔力が抑えようがなく槓桿から魔力粒子が煙のように漏れ出す。

 

ー 嗚呼、なんとおぞましい事をしようというのか ー

 

「光学術式……最大出力……目標は、視界内全て……」

 

ミリタリーを趣味の一つとして楽しむが、戦争を根本から嫌い、軍人とは無縁の平和的な社会生活をしていた、この私が大量殺戮を自身で行うとは……この世界は、やはり救えない。

 

ー だが全ては、この世界で生き抜くため!……私を阻むものは、なんであろと…ー

 

ー 決して容赦はしない!!ー

 

ターニャは、自らの精神でギリギリ制御できる魔力の充填を完了し、引き金に指をかける。

 

「我、光の鉄槌を主の……名に応じて下してくれる!!」

 

彼女が言い放つと、撃発する。

光学式の禍々しい光条が正しく鉄槌を下すように砲兵隊と周辺にいた部隊共々、まとめて地表を焼き払った。

 




端的にターニャがバスターライフル撃ったという話。
今週は頑張って更新します。
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