戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜 作:リースリット・ノエル
視点変更 カイジ
敵の攻勢をなんとか跳ね除け、撃退に成功。
攻勢を挫くだけではなく、相当な被害を敵の共和国軍に与える事が出来た。
一時は窮地に陥るも、何の運かわからぬが、航空魔導部隊の来援で戦局は、こちら側に傾いた。
端的に運が良かったが、舞い込んだツキを最大限 活かしたのも成果としてある。
かくして連隊は生き延びた。
必死の防戦で一難去った……とはいえだ。
大隊長と連隊参謀を兼務する俺には、一息着く暇などはない。
連隊の戦闘が終了しても、俺は仕事に忙殺されていた。
次の戦いに備えなければならないからだ。
兵卒の身であれば、一つ一つの戦いに集中していればいいが、部隊指揮官や参謀、幕僚となるとそうはいかない。
部隊を指揮する人間達は、先を見据えて準備をしなければならない。それは戦闘終了後から開始される。
推定される各部隊の被害状況を確認し、現有兵力で持って部隊の立て直し、破壊された防御陣地の再構築、通信系統の復旧、弾薬の消費量と在庫の集計と確認、再編された部隊の再配置、そして次の防御戦術を立案する……
そう、イベントが目白押しだ。
お陰で、タバコを吸う暇もロクにない。
しかし、やるべきことは今のうちにやらねばならない。考えつくことは全て。
可能な限り、次の戦闘に対応できる準備を成さなければならない。
自分の命と周りの命を生かす為には、手を抜くことはできない。その一切を。
どのような形であれ、戦闘の結果は簡単に出る。生か死かのどちらかしかない。
非情だがシンプルな結論。そこに例外はない。しくじれば、ドジを踏めば、準備をぬかれば……多くの者の運命は、大体 決まった。
前世の世界とは、違う生存闘争がここにあり、ビジネスマンが語る「戦場」に比べれば、余りにも生ぬるい。
あれは戦場にかこつけたファッションに過ぎない。
たった数分の戦闘で百人単位の命が消え去り、何人もの自分の部下が一瞬で死ぬことはオフィス街であるまい。
命を掛けたギャンブルとは違う死の恐怖と緊張感が存在する。
そして、用意周到な準備を行なっても、究極的には運の力に左右される戦争は、完璧な予測は不可に近い。
だから、将校である人間は手を尽くして勝負の算段をいくつも作らなけらばならない。
また俺の扱いは、普通の将校とは立場が違う。
俺は、天下の参謀本部が編成した戦時派遣野戦将校団【トラッカー】の一人であるからだ。
簡単に言えば、参謀本部の使い魔だ。
トラッカーは臨時編成部隊か 指揮人員に欠員がある部隊に送り込まれ、使えない戦力をモノにする仕事を請け負う。
また戦線の再構築が必要な戦域に派遣され、トラッカーは培った経験と能力を生かして、
戦術上の優位を確保するための策を弄する立場にある。
言えば、無茶振りだ。上がデカイ失敗をすれば、その分のツケをトラッカーが現場部隊と一緒に引受人になる。
割になんてあってはいない。
しかし、結局は誰かがやらねばならない。
もしくは誰かにやらせねばならない。
そうなると、俺は動かざるをえない。
そんな立場だ。逃げようはなかった。
そうして、連隊を股に異動しながら戦う羽目になる。この連隊で三件目になる。
前の二つの連隊は一週間以上は持たせたが、俺が離れたそれ以降はわからない。
だが俺がいる限りは、連隊は持たせる。
それだけの決意は本物だった。
考えを巡らして、大隊幕僚と協議して、部隊を立て直す。また、損壊した防御陣地を作り変える方法を考え、実行する。
敵の砲撃で、乱れた陣地の射線を調整する。
ヴォルフから新兵達の様子を聞き、使える人間と使えない人間とを分別する。
そうあせくせとしていると、連隊本部から呼び出しを受ける。おそらく連隊会議であろう。
俺は、副官に残りの作業指示と監督を頼むと、連隊本部がある仮設営の天幕まで移動をする。
連隊には不運があったが、幸運もあった。
まずは、生死不明の連隊長が生きていた事だ。連隊本部にいた幕僚は、半分以上が死んだと聞いたから、強運の持ち主である。
あとは支援に来た戦術支援部隊が 引き続き連隊の支援を行なってくれる事であろう。
大抵の航空支援は、一度支援任務を終えれば、風のように去っていくようなものだが。
今回は状況が別なようで、継続的な支援を方面司令部が直々に保証してくれる。
薄弱な戦力の連隊の窮状に気をかけてくれるほど司令部は優しくないのだが。
連隊の立地上の問題であろうか。
なら、もっと増援を送って欲しいが、そんな願いは届く試しはない。
とはいえ、魔導師がおよそ一個中隊規模の戦力を確保できるのは大きい。
何より……あの魔導師だ。
敵の砲兵隊を周辺部隊 諸共、一撃で殲滅した
魔導師。
戦術支援部隊の部隊長を務める少尉の力は異常と言えた。
通常の魔導師を遥かに超える出力で放出された光学術式。
本来、狙撃に使われる術式を広範囲殲滅の術式として使用するのを、見たのは初めてだった。
そして、通信越しに残る若い女性の声。
女性と言うより、十代の女子か。
若さと反面に、凛々しさと闘志を感じさせる声は印象に残る。
やたらと軍人然とした態度も……
ならば、奴は歴戦のエースであるのは間違いないか。帝国は、少数で多数の敵と交戦する考えを基本としている。しかし、実力云々の問題では無いように見える。
では特殊部隊出身の強化魔導師という線も強いか。
ならば、素養から見てふるいに掛けられた魔導師を外的手段で強化を施し、特殊訓練を積んだ魔導師という可能性もあるか。
実際にいくつかそんな任務部隊があった。
主に東部方面に配置されていたと思うが、一部転用されて来たのだろうか。
それでも、あれだけの事をなす魔導師は、他にいるかどうか疑わしいが。
そして、戦術兵器クラスの魔導師がこんなところにくるのであろうか。
もっと重要な局面で投入されないだろうか。
少なくとも俺はそうするのだが。
そう、あの魔導師の事を考えていると。
連隊本部の前まで来る。
中で会話する声を聴きながら、「入ります。」といい、天幕の入り口をめくりながら入る。
天幕の中には、連隊長のハインリツィ大佐と連隊観測班の魔導師ジングフォーゲル中尉の二人がいた。そして見知らぬ、金髪の女性。
やたらと身長が低く見えた。
「紹介しよう。少尉。」
連隊長が近づき、俺を金髪の女性に紹介する。少尉と言うと例の魔導師かと、俺は理解をする。噂の人間と対面と言うわけだ。
「彼は、イトウ・カイジ中佐。元は参謀本部の作戦課にいた事もある極めて優秀な参謀だ。今は第1大隊長と連隊野戦参謀を兼務して連隊を支えてくれている。連隊の防御戦術を考案したのは、彼だよ少尉。」
連隊長が俺の紹介をするが、やたらと褒めすぎてるように聞こえる。気恥ずかしいし、過剰な評価と感じた。
なので、正直なコメントを伝える。
「連隊長。少し大袈裟ではないですか。」
「何を言うか。事実ではないかね。」
「私は、少し陣地に手を加えただけです。」
「中佐にも謙遜というものを知っているようだな。」
謙遜と言うのは、多少持っていたと思っていたが、足りていなかったようだ。
そう連隊長と少し談笑していると、例の少尉に目を向ける。最初、よく見てなかったからだ。身長が低いぐらいしか把握してなかった。
そして、金髪の女性と目が合うと俺は……
ハッとして衝撃を受ける。
目の前の女性が幼すぎるとか、そういう以前の問題だった。
これは、一体どう言う事だ。
俺の中で時が止まる。
目の前にいる魔導師は、過去に出会ったとある人物と瓜二つの容貌をしていたからだ。
そして少尉も何処か唖然としているように見えた。少尉の碧眼がそう訴える。
そこに何らかの思いが伝わってくる感じを直感で受ける。
まさか、俺を知っているのか。
では生きていていたのか。
いや、そんはずはない。
彼女は激化するバルカン紛争で戦闘中……あの村で……
俺が声も出さずに呆気に取られている。
心境の整理がつかなかったからだ。
そんな事を知らないハインリツィ大佐は「どうしたのかね。」と首を傾げ、ジングフォーゲル中尉が大佐の横に来て耳打ちする。
「ああ、そうだったね。彼は外国人で、秋津島皇国出身だ。」
ここに来て少尉が唖然とした理由がわかる。
俺が帝国に於いては異物の民族であるからだ。
それで驚いているのだろうと判断出来る。
皇国人で中佐の階級を持つ参謀など異例中の異例であるからだ。帝国軍内にあっては異端者と言っていいからだ。
そう考えると俺の脳裏に焦燥が走る。
では、彼女ではないのか。
しかし、余りにも酷似している。
面影がピタリと重なるように見えるからだ。
自然と自分の眼光が鋭く少尉を捉える。
金髪碧眼で彫刻のように白い容貌を持つ魔導師の姿。
それは、俺の中では記憶の中の彼女を指す。そうかつて、憧れた女性だ。
かつてゴミみたいな初年兵にすぎなかった俺に生き残る術として、狙撃と戦術を教えてくれた恩師。
俺が参加した世界各地の紛争では、常に先陣を切って戦った勇猛な魔導師。
非業な戦場で窮地に陥った度に、度々助けられ、俺の命を救い上げてくれた。
そして、この世界で唯一……俺が………
思わず自分の口から溢れるようなに彼女の名前を発する。
「……エス……ターシャ……大尉……」
そう……エスターシャ大尉だ。
俺が生きるこの世界で、最も記憶に残り尊敬する人間であり……ある一件から心の中で封印していた存在でもあった。
もう……この世にいない存在だからだ……