戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第49話 連隊会議

二人の異邦人が対面してから、しばらくして連隊内の各級指揮官が参集して今後の指針を決定する会議が開始された。

 

「それでは、全員集まったかな。」

ハインリツィ大佐が呼びかけながら席に座る。

「2大隊長がいませんが……」

「2大隊長は心労で倒れて、衛生隊に運ばれました。」

「あのゴルトベルク少佐が倒れたのか……」

「代わりに、副官のミュラー大尉が代理を務めますから、ご安心を。」

「なんてこった……先が思いやられるな……」

 

ざわつく幕僚と部隊長陣を尻目に大佐は、呟くように答える。

 

「連隊本部の幕僚が半分以上戦死してるのだから、今更驚くこともあるまい。」と

 

それを聞いた周りの将校らは、しんと静まり返る。笑えない話ではある。

連隊の内情で、統制と指揮を担うスタッフ陣営がぽっかりと穴が空いたようにいなくなっているのだから。寒い反応を示すのは当然と言えた。

 

大佐はその反応を見て、しまったなと思い、頬を掻きながら話す。

 

「とはいえ、我々は比較的経験に優れた指揮官が集まっている。何とか出来よう。まあ。何とかするしかないのだがな。」

 

まるで他人事のように聞こえるが、主観的に見ても客観的に見ても現在の事情は特に変わる意味を持たない。

 

「空いたポストは兼務するか、補充が来るまで一旦廃止しよう。戦闘に支障がない形でな。」

 

「人事面の決定も含めて会議で決めようではないか。」

それを聞いた幕僚、指揮官達は頷く。

 

反面、余計な仕事が増えることに嫌気と不安を覚えるのも数名いたが、現実の問題を前にして各々が自己の心の中で妥協的判断をする。これも神からの試練であると、軍務を担う将校の定めであると。

 

「そう暗い顔をするな。我々にも希望はあるぞ。側に銀翼持ちもいるし、優秀な参謀もいることだし……打てる手数はまだあるしな。」

 

そう大佐が語ると、天幕の中にいる人間の視線が二人に集まる。

 

一人は、第1大隊長と連隊野戦参謀を兼務するイトウ・カイジ中佐。戦時派遣野戦将校団の一人であり、参謀本部の作戦課に勤めた経歴を持つ彼は、連隊内にあっては信用のおける人物であると言えた。

彼の考案した防御戦術によって生き残れたし、現場指揮も俊敏かつ的確であったからだ。出自はともかく、彼の能力、人間性を否定する人間はこの場にはいなかった。

もっとも空軍高射砲部隊の指揮官であるメンヘル少佐を除いては……であるが。

当の異邦人であるデクレチャフからすれば、評価を下すも、謎が多い懐疑的な人物ではあった。そうなるのもわからなくはないのだが。

 

もう一人は、戦術支援部隊を率いる新進気鋭の航空魔導師 ターニャ・デクレチャフ少尉だ。

 

ノルデン戦線においては、単身で敵魔導中隊を壊滅に追いやる戦功を打ち立てた帝国最年少のエースであり撃墜王。

 

そして、軍歴最短で銀翼の誉れに預かる身であり、他にもあらゆる最年少、最短記録を持つ軍事の偉才。

 

その名と活躍は、カイジを除き大体の人間が知っており、先の戦闘でも連隊の窮地を脱した救世主的存在だった。その勇戦ぶりは、この場にいる誰もが認めることであり、年少の少尉に軍人的憧憬を覚えるものであった。

カイジは別の見方をしていたのではあるが。

 

二人に視線が集まる中で、カイジは憮然と構えて何か考えるそぶりを見せる。

彼の頭の中ではすでに、次の戦火が投影されている。どう生き残り、よしんば勝つのかを考えるのが軍人来の癖であったからだ。

 

デクレチャフにしても、視線を受けながすように、毅然とした態度を見せている。彼女として気にするのは視線ではなく、低身長をある程度解決する台座の必要性だった。机の上にある作戦図を見るには、つま先立ちでも十分に見渡せないものだったからだ。

 

そんな二人の思いとは別としながら、連隊会議は大佐の「とにかく、始めよう。」の一言で始まる。

 

連隊会議は、連隊長を主に連隊参謀幕僚、指揮下の部隊が一同に集まって現部隊の状況、戦況の確認、今後の作戦内容や展開、部隊の配置などを熟慮して、議論を投じて決定される。

 

つまり一つの頭脳では限界があるから、みんなで考えようといった感じである。

 

その中にカイジとターニャも立場上、参加することになる。

ターニャからすれば、本日2回目の会議である。

 

彼女の身からすれば、衝撃的な対面から転じての会議出席であるが。

ことに対応と適応に早い彼女は、先ほどの心理の乱れを何とか平定し、仕事に向き合う。

 

カイジも、同様の不可思議な心境に陥るが、得意の分析と理詰めで一定の納得をして気持ちを落ち着かせた。

 

両者とも互いのことに関しては様々な疑義があるが、現時点においては互いの実力を認めて評価をしていた。

 

ターニャからすれば

 

「悪くはない!寧ろ僥倖である!なんだか、よく分からない素性が謎の人間であるが……先の戦闘の采配から見るに現場指揮官として参謀として有用だ。本来、現場指揮官と参謀の二面性を持つ将校は稀だ。だからこそ価値はある。つじーん的な感じはするが、自らの立場はわきまえる姿勢があるから気にする程ではないな、多分。

軍務経験どころか実戦経験は十二分にあり、軍歴と年齢から見ても間違いなくトップエリートだ。

少なくとも無能ではない。

逆に理想のキャリアモデルを持つ実戦指揮官と言える。上官としては恵まれている。」

 

カイジからすれば

 

「彼女は、魔導師としては帝国の中において数少ないレジェンド級の存在。

そして、見た目に似合わない獰猛な猟犬とも思える戦い方を見れば、兵隊としては最高の価値はある。指揮官としてはまだ未知数な部分があるが、臨時編成の魔導師をまとめられる能力は持っていると見える。では、彼女は連隊において重要な鍵となり得る。問題はどう彼女を活かすかが焦点になるところだな。」

 

というような分析を一面的にみて下した。

 

両者同じくする思いは「対共和国戦において重要な戦力である」という一点である。

 

ターニャは、カイジを「対共和国戦の専門家であり、防御戦のスペシャリスト」だと思い。

 

カイジは、ターニャを「教導隊の所属だが、元は特殊任務部隊か東方軍の最精鋭部隊の出身者であり、実戦経験豊富な魔導師」だと見ていた。

 

カイジとターニャの二人は、お互いに一定の評価を下し、自ずとしてそれぞれの義務と仕事を遂行することに専念する程度には相手を信頼しておくことにする。

 

取り敢えず、次の仕事をせねばならない。

状況は、息継ぎをする余裕もままならないのだから。

 

「では、まずは改めて戦況について確認しようか。今までドタバタしてロクに詳細を把握出来ていなかったからね。では中佐、説明を」

 

大佐がカイジに話を振り、「了解です。」と一言をおいてから話す。

 

「これは現在確認できる情報から自分が纏めたものであり、また不確定な部分から個人的な推察もある程度含めらるものですが、よろしいですか。」

 

「ああ、構わないよ中佐。皆もよろしいかね。」

 

大佐が、周りの人間に問いかけて確認するが、反対の声はなかった。皆、頷くか「異論なし」「大丈夫です」と答える。

もともと参謀本部にいた人間が戦況を説明するのだから、これ以上の人選はないし役職も野戦参謀を担っているのだから、当たり前と言えた。ターニャも同様の判断をする。

むしろ、彼女は秋津島出身の参謀がどのような認識を持っているのか、気になっていた。

 

「では、言葉に甘えて説明をしますが……その前に、まず結論から申し上げます。」

 

「ほう。結論からくるのか。」とターニャは思い、即断即決のタイプが強いのかなと思っていると、カイジの言葉が一間を空いて続く。

 

 

 

 

 

「現在の状況のまま行けば、間違いなく我が国は負けます。」

 

 

 

 

 

カイジの言葉を聞いたその場一同は、騒めく。ターニャからしても意外な言葉だった。

真っ向から堂々と「敗北宣言」するのは、帝国軍の雰囲気からすれば、歓迎できるものではなかったからだ。少し遠回しな言い方を選ぶなら理解するが彼の場合は、遠慮なしだ。

明らかに失言だ。それを証明するように、一人の将校から意見が上がる。

 

「中佐。流石にそれは言い過ぎではないだろうか。」その言葉に続くように反発の言葉が上がる。

 

「士気を損ねる言い方で、不謹慎ではないか。」など「悲観的が強すぎはしないか」などの声が上がる。だが、カイジは跳ね除けるように彼等の意見を制止する。

 

「私は、今までの経緯と事実を元に申しています。」

 

「また、我が軍が敗北する条件は満たされつつある事に目を向ける必要があります。」

 

「要は現実を直視しろ、というわけです。」

 

続くカイジの言葉に、周りは更に騒めくし、反発もあるが、連隊長のハインリツィ大佐が「諸君、静かにしよう。まずは中佐の説明を聞いてから論ずるべきだろう。」と学生を宥める先生のように調停をする。

 

一場が鎮まるのをまってから、カイジは再び話始める。

 

「では……何故負けるかという点については現在の戦況を見ながら話ましょう。」

 

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