戦場黙示録 カイジ 〜 ザ・グレート・ウォー 〜   作:リースリット・ノエル

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第51話 連隊会議 Ⅲ

「ここにいる全員がある程度、承知の通りだと思いますが、我々 西方軍は急速なる部隊再編と集結を行なっている段階です。」

 

「実際、どこまで我が軍の戦力集中がされているのか不明ですが……共和国の大規模攻勢に対し、総崩れとならず戦線を持ちこたえている点については評価できます……想定外の事態に対して臨機に対応できた事例の一つになるかと思われます。」

 

カイジ中佐の説明を聞きながら、ターニャは冴えたる頭脳で持って帝国の現状を分析する。

 

フランソワ共和国が西方で接する全国境線から浸透を許す戦略的奇襲を帝国は、初期は大混乱を起こしたものの緒戦全般を見れば、概ねよく対応した、と評価できる程度には持ちこたえていた。

 

無論、押し込まれて後手に回る構図にあるのは変わりがないのだが、基本国防方針が内戦戦略なのだから、やむおえない。

 

「これは、西方軍が持つ任務をよく遂行されていると……現在の段階では言えます。」

 

その意味においては、増援を中央の先遣部隊、留守師団、臨時編成部隊などから受けたとはいえ、遅滞防御を紙一重で行いながら西方軍は方面軍としての義務は、果たしている。大きな損害を受けているとしてもだ。

 

「問題となるのは、いつどのタイミングで中央軍の主力野戦軍が西方戦線に来援するかです……」

 

そう重要な問題はたった一つに集約される。

いつ強力な援軍が到来するかである。

 

「こればかりは、もはや祈るしかないのですが……正直に言って中央軍もしくは本国軍が西方戦線に来援するには、未だ相当な時間がかかると想定した方が良いでしょう。」

 

その方が気が楽だと言うかのように中佐は話すが、周りの反応は暗澹たるもの。思わず、頭を抱え、溜息をつく姿が何人も見られた。

ハインリツィ大佐は、興味深そうに目をパチパチさせながら中佐の話を聴いているが、その内心は窺いしれない物だ。

 

陰鬱な雰囲気に目もくれずカイジ中佐は話を進める。まるで、この状況に慣れているかのようだった。

 

「我が国の基本国防戦略は、まず防御で一定期間耐えてから強力な主力軍の来援でもって逆襲するのが、基本です。というか、我が国の事情を考えれば、そうするしか術がないのが現状です。」

 

帝国の戦い方で最終的な決となるのは、圧倒的武力でもって、対象の敵軍を文字通り殲滅することになる。

 

ここに複雑で巧妙な戦術は必要なくシンプルな形での正面攻撃で戦局を決する。

 

逆に言えば、防御からの逆襲という手段を馬鹿みたいなスケールで戦略的な展開を行うのが巨大な手足となる帝国軍であり、巧緻で複雑な大規模動員を円滑に実施する巨大な頭脳となるのが参謀本部である。

 

これをダイナミックかつ短期間で戦争を終わらせる防衛システムとして内線戦略があるのだが、軽率なノルデン動員により帝国自らの戦局を大きく変えてしまった。

それは果たして制御できているのか危うい形で。

 

「ノルデン動員により西方軍の防御計画が事前に準備されたものと全く異なる状態になり、また前提条件が崩れている。」

 

受け身から殴り返す拳であるべき中央の予備戦力、戦線打開の1番手であり西部映画の騎兵隊的存在の大陸軍の主力をことごとくが北方問題の解決のために投じられたことにある。

 

一撃解決策とやらを欲した参謀本部のお偉方の判断で中央軍を全力で投じた結果、当初の国防戦略が崩壊している……ということになる。

 

中佐は、本来講じていたであろう動員計画を皆に説明する。

 

「本来の国防計画で言えば、動員発令と同時に二十四時間以内に先遣の近衛師団をはじめとした精鋭6個機動師団規模が急行し、七十二時間以内に12個師団が中央から戦時鉄道線を駆使して急行し、戦線に展開される予定であり基本計画でした。」

 

「中央の本隊に至っては、20個師団の重厚な常備兵と60個師団相当の訓練済み予備役兵からなる圧倒的な兵力を一週間程度で投じられる計画です。参謀本部では、S17プランと呼んでましたね……」

 

大陸軍と名乗るには過言ではない強大な兵力が、湯水の如く西方に投入されるはずだったのだ。

 

「だからこそ、一ヶ月以上にわたり単独で西方軍が遅滞防御を行うのは、想定していない事態で……それは現場の我々がよく理解しています……皆さんもそうでしょう。」

 

カイジは、拝聴者達である指揮官と参謀幕僚らに問いかける。彼らは、静かにゆっくりと頷いて答える。認めたくないが、現実はそうなのだ。

 

当然だが、増援というものを考慮して計画されている以上、遅滞防御戦闘にしては一定の損害を受けるのを容認しつつ人的損耗を抑制を主眼においての作戦行動になる。

 

積極的な逆襲は、増援を得て体制を整えてから転ずる形になる。この考えは、前世の我が自衛隊の本土防衛計画と酷似する内容である。

 

あくまでも、大規模反抗までの限定的な防戦という展開兵力に限りがある西方軍からすれば、それ以上の持ち合わせはない。基本は時間稼ぎを行うことしかできないのだから。

 

その前提があるから、帝国が他国を本格的な形で侵攻するというのは、敬遠されるべき方策であり、国防方針から逸脱した考えではある。

 

だが、人間というのは時に原則や前提を破ってしまう。誰が言ったのか、うっかりノルデン北方に中央軍を投じてしまう投機的な判断を下してしまった。

 

そのツケは想像以上に高く付いている。そのツケで流された帝国兵の血は、果たして誰かの責任問題程度の話で丸く収まることはあるのだろうか。それだけに近視眼的判断を参謀本部のお偉方は行なってしまったのだ。

 

帝国軍の狼狽も想像以上だ。

それは教導隊から訓練部隊の教育隊、退役した人間で編成された警備部隊をかき集め、予備品を集めたような臨時編成部隊を次々と西方に投じる羽目になる。

 

西方軍が目指すのは、本来の任務を超えた遅滞防御の継続であり、参謀本部が目指すのは西方防衛の確立だ。

 

その姿は、狂奔的とも言え文字通りあるもの根こそぎ戦線に投げてまくっている。

手段は問わないとはこのことか。

軍事機密の塊で、本国の工廠から外部に持ち出すのを禁じられているエレニウム九十五式とそれを扱う特殊試験臨床人員を「実戦における評価試験と継続的分析情報の継続」という名目で、実質的な戦力として、このターニャ・デグレチャフを投入していることから物語っている。

 

その結果がもたらす戦線の模様は救いようがない。

 

しかし、想像の翼を広げてみると、また疑問に思う事がある。

 

単純な計算である。

共和国との開戦時から、それなりの時を経て既に四週間以上が経過している。

 

考えればいかに混乱しても、相応の時間的猶予があったにもかかわらず、未だ中央の主力軍は来ないのか。

 

仮に鉄道を使えなくとも、徒歩部隊なら時間はかかるが西方戦線にその姿を現してもおかしくはないと思われた。車両化部隊であるなら、なおさらだ。輸送部隊を大動員すれば、ある程度違うのではないか。

危機的な西方戦線なのだから、あらゆる輸送手段を使い部隊を送り込む判断をし実行するはず。

 

しかし、現実には一部の先遣隊が到達しただけで、主力は姿を現していない。

 

では何故か。ターニャは意を決して、聞いてみることにした。

 

 

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