GX事変前の時間軸で、卒業後渡英した後の翼の話。
翼の誕生日にちなんだツイッター上の企画(#シンフォギア版深夜の真剣創作60分一本勝負)でワンライで書きました。
(初出:2016/05/25)(他サイトと同時投稿です)






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GX事変前の時間軸で、卒業後渡英した後の翼の話。
翼の誕生日にちなんだツイッター上の企画(#シンフォギア版深夜の真剣創作60分一本勝負)でワンライで書きました。
(初出:2016/05/25)(他サイトと同時投稿です)







羽の舞う、今日のこの日は

 

 

 

 

 

 

 

 

 両岸に街が広がるこの幅広の河川の上には、いつも少し強いくらいの風が吹き抜ける。

 その風に髪をなびかせながらいくつも架かっている橋の一つから翼が上流に目をやると、川向うの遠くに空の青を背景に小さくこの国の象徴的存在の時計塔が見え、それより手前の岸には観覧車が見える。

 川辺と観覧車とは他にあまり見ない取り合わせだが、潜水艦であるS.O.N.G.本部の係留されている港から臨海エリアの水際に建つ観覧車が見えていたのを思い出されて、この風景を見るたびに少々の親近感が沸き起こるのだった。

 その情感は、懐かしさまではまだいかない。

 卒業のあと、国際救助の任務を終えた後に渡英し、ロンドン滞在の身となって二月半ほど。

 英国での名が通じているのはなぜか娯楽番組の出演の様子の方で、それに準じたオファーばかりだったところへ、同時期に米国政府筋のルートで芸能活動のために渡英したマリアの提案によって限定コラボユニットを企画。持つべきものは友人、といった体で。念願だった海外での歌手活動はどうにか走り出すことができていた。

 

「今日はなぜだか街がざわついてますね。週末でないのに人出が普段より多いような……」

 

 隣を歩く緒川に、なんとはなしに疑問を口にする。音楽制作のワークスペースがある対岸へ渡る橋のたもとの近くにまで至って、そこから見える川沿いの遊歩道には何人かで連れ立ってのんびり歩いている人々が目立っていた。

 気がつけば、翼と同じく橋の歩道を往く周囲の人々も眼下の遊歩道同様、仕事に向かうよりは散策といった風の人々が多い。

 

「バンクホリデーといって、今日は春の休日なのですよ」

「なるほど、祝祭日だったのですね」

 

 合点がいったと思ったら、緒川は顔を左右にする。

 

「いえ。お祝いの日ではなく、公休日なんです」

「公休日?」

「ええ。百数年前、イギリスのとある銀行家が当時休業日がかなり少なかった銀行の職員たちにもっと休みを与えてもらえるよう訴え勝ち取ったのが銀行休日法という法律で、今日はそれに制定されている公の休業日なんです」

「そうだったんですか」

 

 この国の細かな風習をまだ覚えきれていない。己の至らなさに内心で少々の自省をしていると。

 

「翼さんも、ここらで一息入れませんか」

「え?」

 

 文脈の繋がらなさに思わず緒川の顔を見つめると、緒川はふっと軽く笑う。

 

「今日は何月何日で、何の日だかお忘れですか」

「今日は五月二十五日で、あ……」

 

 こちらが思い至ったのを察して、緒川は困ったような笑みをますます深めて言う。

 

「渡英して二ヶ月半、スケジュールが入ってない日でもやれることはやる方針でここまで奔走しっぱなしでしたね。でもご自分のお誕生日くらい、休まれても良いんじゃないですか?」

「それは、そうかもしれませんが……」

 

 視線を、逸らす。

 ここまで、コラボユニット企画の一環で邂逅し活動を共にした中で。マリアの海外舞台でのポテンシャルの高さを目の当たりにして、コラボパートナーに相応しい、世界に通じる力量たろうと自己研鑽に暇は一刻もないと思っていたのだが、緒川にはどうやら見抜かれていたようだ。

 けれど、一日でも惜しい気が、どうしても。

 視線を宙空に泳がせる。

 その先で。

 視界を小さな白が漂い過ぎった。

 咄嗟に差し出した手のひらに軟着陸したそれは、一片の白い羽毛。

 見上げた空に飛んでいた白い鳥からの、落し物らしかった。

 

 ――真面目が過ぎるぞ、翼。

 

「……!」

 

 河川から吹く風に、閉じるのを忘れていた手のひらから羽毛は再び宙を舞って、いずこかへ飛んで行く。

 

 ――あんまりガチガチだと、そのうちポッキリいっちゃいそうだ。

 

「あ――」

 

 羽の落とし主は岸沿いの建物の屋根に止まって、悠々と羽繕いを始めた。

 見つめる翼の視線に気付いたようにくちばしを止め、首を傾げて見返してくるそのその仕草は、休まないのかと言いたげに見えたのは、気のせいだろうか。

 ふ、と息をつく。

 

「そうですね――」

 

 翼と同じく白い鳥を見遣っていて、翼の声に振り向いた緒川に、言う。

 

「柔軟にことを考えれば、翼を休めることも、ときとして必要ですね」

 

 羽の舞う、今日のこの日は。

 羽ばたくべきときに力の限り羽ばたけるよう、休息とすることにした。

 

 

 

 

 

「今日はどうされますか?」

「うーん。ハイドバークに行って――」

「散策ですか。水辺の風景が美しいらしいですし、いいですね」

「ジョギングしようと思います」

「……自主ボイトレが体力作りに変わっただけのような気がしますが、翼さんがそれで休まるというなら止めません……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 GXが放送されて翼の進退が判明して初めて迎えた5/25なので、19歳時の誕生日を原作時間軸沿いで書く最初で最後の機会なんじゃね?と考えました。
 5/25について調べたら2015年度のイングランドのスプリング・バンク・ホリデーがちょうど同日だったのでした。
 翼と同時期にロンドンに滞在中のマリアさんは米国政府筋の監視下で自由が利かない時期なので翼に安易に同行したりはできないのですが、バースデーカードと何らかのプレゼントくらいは部屋に送っていそうです。日本からも何か届いていそうな気がしますね。
 いい加減アイドル業に専念させてあげたいと思う一方、装者としての活躍もまだ見せてほしいという二律背反を抱かせる翼さん、誕生日おめでとう!






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