今日は1年に1度、アイツと会える日。



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時間ギリギリでの七夕短編です。




第1話

「全く…あんたはなんでこんな時間まで寝てるのさ! 今日は大事な日なんだろう!?」

 

「だあっ!わかってるって!ボクにだっていろんな準備があるんだよ!母さんは急ぎすぎ! 父さんを見習ってよ!」

 

「あの人はアンタと違ってなんでも出来ちゃうからいいの! それにしても…なんであの人からこんな慌しい子が産まれたのかね…?」

 

「それは母さんに似たから…」

「うるさい」

 

 

既に西の空は真っ赤に燃えるような色に染まり、東の空は薄いながらも星が輝き始める時間。

普通なら家の中でゆっくりとし始める時間だというのに、その家では随分と騒がしさが増していた。

 

 

「ちょっ…どこいった!? ねぇ母さん!ボクの星飾服知らない!?」

 

「知るわけないでしょうが! あんた昼寝する前に風通しの良い場所に干してくるって言って山に飛び出したじゃない! どっかに置き忘れたんじゃないの!?」

 

「あっ…やっばぁぁぁぁあ!? すぐ持ち帰ってくるぅぅぅう!」

 

「ちょっ、待ちなさいって! 今からだとあの子が来る時間に間に合わない…あぁ、行っちゃった…。」

 

 

自分の子供が山に走り去っていくのを、呆れた様子で眺める母。その口から言葉が零れ落ちた。

 

 

「まぁ…今の時間ならあの人が山にいるからいいかしらね…。 なんとかしてくれるでしょうきっと…。

 

ステラも今年で16か…。 今年が初めての経験になるってことね。

 

頑張れ!お母さん応援してるわよ!」

 

 

既に姿が見えなくなった自分の子供に向かって、母親はそんな言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「えーっと!えーっと!? たしか風がよく吹き抜ける谷の辺りに干しておいたはず…。

マズイ!時間がねぇ! このままだとアイツが来る時間になっちゃう!」

 

 

ヤバイヤバイ!太陽のステキな香りをつけようと、わざわざ風の吹き抜ける谷に干したのが失敗だった! ボクの素晴らしい俊足にかかれば移動の時間はそこまでじゃないけど、この暗闇の中じゃ星飾服を見つけるのに時間がかかりそう…。

 

 

「あっ、あった。」

 

 

なんて思ったけれど、杞憂だったみたい。

深い深い藍色の布地にキラキラと光る装飾を飾り付けたその服は、星が光り輝く夜空をそのまま服にした様で、夜の暗闇の中でも全く隠れることなんてしていなかった。

 

 

「よし、取りに行こう。 ちょっと急な坂の下にあるけど…」

 

 

さて、ちょいと坂の下にあるけれどボクの運動神経にかかればチョチョイのチョイだ。

こんな坂なんざもう腐る程登り降りしてきたさ。

よし、それじゃあボクの華麗なステップで星飾服を華麗に…。

 

 

「よっ、ほっ! いいぞステラ! さすが今をときめく16才! お前にかかればこんな坂なんざなんのそのぁ…ぁぁぁぁあああ!?

 

あぶぶぶぶ……いったぁ…ケツ打った…。」

 

 

少々無様な姿を見せてしまったかもしれないけれど、あれはしょうがない。

だってあんな坂、誰がどうみたって断崖絶壁だ。こんなの今まで降りたことなんてないし、むしろケツを強打しただけで済んだのを褒めて欲しい。 常人なら骨折はしてるね、うん。

 

 

「い、いぢぢ…。ボクのかわいいお尻にダメージが…。 いや…これは星飾服に辿り着くまでの試練! ボクは今、見事その試練を乗り越えて星飾服に辿り着いたんだ!」

 

 

そう叫びながら、星飾服が干されていた場所を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイエエエ!? キエタ!? キエタナンデ!?」

 

 

いや、わけがわからない。 だってボクのケツを犠牲にしたんだよ? まさかボクのケツは無駄死にだったとか言わないよね? ねぇそうだよね?

 

 

「えっ…まってよ!? なんでだよ!? それじゃあアイツが来る時間に間に合わないって!」

 

 

ヤ、ヤバイ…。 せっかく一年に一度の機会なのに…。これじゃあアイツに悲しい思いをさせちゃう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、ステラじゃん。 どしたい?こんな時間にこんな場所で」

 

 

ふと、後ろから声をかけられた。

声がした方向へ振り向くと、そこには母親の顔と同じくらい目に入れた顔があった。

というか父さんだった。

 

どこか眠そうな目をしながらもハッキリと通る声をボクにかけた父さんは、ボクの物よりもさらに深い藍色…もはや黒と言ってもいいくらいの布地に、柔らかな輝きを放つ星飾をふんだんに施した星飾服を着ていた。

あっ、肩の辺りに相棒の龍さんがいるね。

 

 

「父さんじゃん! これで勝つる! あのさ、あそこの辺りに干されていた星飾服知らない!?」

 

「あ〜…っと、星飾服ねぇ…。 もしかして、風に飛ばされてたこれか?」

 

 

父さんはそう呟くと、持っていた袋の中から星飾服を取り出した。

間違いない。 ボクの輝きには流石に負けるけど、あの星の様な輝きで周りを魅了する星飾服は絶対にボクの星飾服だ。

 

 

「ナイスゥ! これで待ち合わせに間に合うよ!

いやぁ、やっぱり父さんは頼りになる! 実は父さんって神様だったりする? 持つべきものは便利な父親だね!」

「そいつはどうも。 まぁ、隠したのも俺なんだけどな。 坂滑り落ちてケツを強打したのを見た時は腹抱えて笑った」

 

「この悪魔がぁっ! アンタのせいでボクのかわいいケツが被害を被ったじゃないか! お尻を叩かれて喜ぶ癖とかついたらどうすんのさ!?」

「安心しろ、 おめーはタフだからそんくらいどうってことねーさ。ほれ、時間なんだろ? 早い所服着て行けや。」

 

「ぐぐっ…納得いかない…。 あとで美味しいもん食わせてよ!?」

「おう、まかせとけーい」

 

 

なんかやる気のない返事だなぁ…。 いや、結局お願いは聞いてくれるからありがたいんだけどさ?

 

 

「そんじゃあ行ってくる! 父さんもびっくりするくらい上手くやってみせるよ!」

「あい、がんばれよ〜」

 

 

ボクは父さんを置いて走り出した。

うん、色々あったけど全ては計画通り。別に強がってなんかないよ? ケツを強打したのだって計画通りさ。

 

さて!やっとアイツに会えるぞ!

今年はボクが成長したところをバッチリ見せつけてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の子供が走り去って行った後、1人の父親は山の中で満天の星空を見上げていた。

 

 

(もう少しお話したかったんじゃないの?時間のことなら私がいるから心配しなくても良かったのに…)

「ん? 別にどうとも思ってねえさ。 アイツがいまやりたい事の邪魔をしちまうのはパッとしないしな」

 

(……あの子の星飾服、星が増えて綺麗になってたわね。 貴方もうかうかしてたら追い越されちゃうんじゃないかしら?)

「ほざけ。まだまだヒヨッコだよ。 ……でもまぁ、思ったより成長はしてたかな? 流石は俺の娘だ。ありゃ2年後には化けるぞ?」

 

(あら、それは頼もしいわね。私も今よりのんびりできるようになるかしら?)

「さあな。 まぁいずれはそういう日も来るさ。

……さて、そんじゃあ俺達もそろそろ時間だ。

フィロ、よろしく頼む」

 

 

(ええ、承りました。 今年はいつも以上にいろんな願いがあるわよ? 貴方でも大変なんじゃなくって?)

「おうおう、言うねぇ。 だけど甘く見てもらっちゃ困る。 長年『星詠み』やってるんだからそれくらいどうってことないさ」

 

(ふふっ…流石ね。 それじゃあ…始めるわ)

「あぁ、ばっちこい」

 

 

少しの会話を交わすと、1人と1匹の周りに不思議な光が漂い始めた。

炎の様な力を感じさせるものと、透き通った氷の様な清らかさを感じさせる2種類の光がコンビの周りに溢れる。

 

 

星飾服の星とフィロが首につけている白銀の玉石が光り輝き、2人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「よし!準備オーケー! あとはアイツが時間通りに来てくれれば…」

 

 

満天の星が輝き、まるで煌めく海の様。そんな空の下で、ボクは星飾服を身にまとってアイツが来るのを待っていた。

 

 

「さ〜て、そろそろ来ると思うんだけど…。

おっ!? あれかな!?」

 

 

空の端に、一際目立つ赫く光り輝く星を見つけた。 それは星というよりも尾を引いて流れる彗星の様で…。

 

 

「やっと来たかぁ…。 ボクも人の事言えないけどアイツもアイツでギリギリじゃんか!」

 

 

彗星は少しずつ大きさを増し、こちらに近づいて来る……ってあれ?

 

 

「…………あのスピードでここに突っ込んだらボクの体が木っ端微塵じゃない?」

 

 

嫌な予感がしてそんな言葉を落とす。そんなことをしているうちにも、彗星はどんどん近づいて来る。 まるでここに着弾するかの様な勢いで。

 

 

「あ、あのバカ!? 時間ギリギリだからってそんなマネする!? や、ヤバイ! このままだと死んでしまう! どこかに隠れないと…」

 

 

だけど、ボクが慌てているうちに彗星は目前に迫っていた。

 

彗星は猛スピードでボクのいる場所へと突っ込んで来て……

 

 

 

 

 

 

 

爆風を辺りに吹き荒ばせながら、一瞬で減速。

見事な着陸をやってのけた。

 

 

だけど、辺りに爆風が発生したわけで……。

 

 

 

 

 

 

 

「んぎゃあああああああぁぁぁ!?」

 

 

 

 

ボクの華奢な体は見事に吹き飛ばされた。

身体中に衝撃が走るけど、ケツへのダメージが深刻だ。 一体今日は何なのだろう。 ボクのケツを殺しにかかってきている気がする。

 

 

「いぢぢぢ……おいコラ、ファル! なんであんな危険運転なのさ! ボクの可憐なぼでぃに傷が付いたらどう責任とってくれんの!?」

(あ…ご、ごめんよ! 確かにステラのそのぺったんこの胸がさらに無くなったら大変だもんね! 胸が凹んでいる女性がいたら世界が仰天しちゃうよ!)

 

「………ねぇファル。 それってボクのことバカにしてない?」

(い、いや!全然そんなこと思ってない! 思った通りのことを言っただけだって!)

 

「うわぁぁぁあん! ボクのだいなまいとぼでぃがバカにされたぁぁぁあ! 」

(あ〜〜っ! ごめん!泣かないで! ステラのまな板ボディも魅力的だから!)

「慰めになってない!」

 

 

本当にくだらない話題でギャーギャーと喚く1人と1匹。

2人が落ち着くまでは実に30分ほどもの時間がかかった…。

 

 

 

「……ふぅ、納得いかないところも多いけど今は置いといてあげよう…。」

(いやぁ、やっぱりステラは優しいね! 結局そうやって許してくれるんだもの!)

 

「ふふん!当たり前さ! 魅力的な女性は寛容なものさ! いずれ、このまな板ボディも街を歩けば男どもが目を輝かせてみるくらいのだいなまいとぼでぃになるに違いない!」

(無理だと思うなぁ…)

 

「なんか言った?」(何も言ってません!)

 

 

むむむ…この間会った時よりも生意気になってないかコイツ…?

 

まぁ今はそれどころじゃないか。 早い所、やらなきゃいけないことをやってしまおう。

 

 

 

 

 

 

「………1年ぶりだね。 どうだった? 世界を飛び回って?」

(……広かったかな? 特に夜空は果てが見えないくらいに広かった。 飛び回っているうちに、いろんな人たちの願いをうけとったよ)

 

 

その言葉を聞いてボクは笑った。

 

 

「うん!願いを受け取ることが出来たなら上出来だ! それじゃあ始めることにしない? ボクもこの1年で『星詠み』が上手くなったんだからさ!」

(おっ、言うねぇ! それじゃあその腕前を披露してよ!)

 

 

望むところだ。 それじゃあ始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し小高い丘の上。

 

ボクとファルは向かい合っていた。

 

 

「それじゃあ星詠みを始めるよ。」

(オッケー。 頑張って)

 

 

 

ファルと少しだけ言葉を交わした後、ボクは集中する。

 

ファルの首にかけられている、白銀の玉石。

『星石の結晶』という鉱石から作られたその装飾に意識を向ける。

 

 

 

 

次の瞬間、ボクの頭の中に様々な意思が流れ込んできた。

ぐっ……やっぱりキツイね……!

 

(ステラ…頑張って……!)

 

 

うん、ありがとう。 応援されたからには失敗するわけにはいかない。

ボクらにいろんな願いを託してくれた人達がいるんだ。しっかり応えなくちゃね…!

 

 

「んぎぎぎ……!あと少しぃ……!」

(が…がんばってーっ!)

 

 

あ〜…やっばい。 頭の血管千切れそう。

でもあと少しぃ……!

 

 

 

 

 

「ふんにゅううぅぅぁぁぁああ!」

 

 

 

自分の中で最も気合の入る掛け声を叫びながら、ボクは全身に力を込めた。どこか力の抜ける掛け声だとかよく言われるけど、ボクには合ってるんだからしょうがない。

ともかく叫んだ。

 

 

 

 

次の瞬間、目の前が真っ白な光に包まれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅう………」

(わ〜〜っ!? ステラ〜〜っっ!!しっかりして〜〜っ!?)

 

 

 

 

 

どうやらボクは気絶したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「う……うん……? どうなった………?」

(あっ!ステラ! 大丈夫!?頭イかれてない!?)

 

 

意識が戻った途端、パートナーに頭イかれてない?とか聞かれた…。 いや、流石にあんまりじゃないだろうか?

 

 

「あ…うん…頭はイかれてない……。

 

 

違う!そんなことじゃなくて!星詠みはどうなった!?」

(わ〜〜っ!? ちょっと待って! 首を揺さぶらないで!?ぐえっ……)

 

 

ボクに失礼な質問をした罰だ。 それくらいは我慢しろ。

そんなことより星詠みだ。 あれが成功してなきゃこの1年の努力が水の泡なんだ。

 

 

(げほっ……気持ち悪い……。 あ、星読みね?

お見事!大成功! 願いは見事に星に届きました!)

「マジ!? 届いた!? 届いちゃった!?」

(マジマンジ! ステラが自分の力だけで初めて成功させた星詠みだよ!)

「いよっしゃぁぁぁあああ!」

 

 

やった……! ついに成功させた!

父さんに比べればそりゃあ願いの量も質もショボいけれど、成功させたんだ!

 

 

「やったよファル!これでボクも『星詠み』を名乗れる!」

(いえ〜い!やったね!)

「いよっしゃあ! 今日は宴じゃ! 早い所お家に戻って美味しいもの食べようよ! 母さんがきっとご馳走作ってくれてるはずだからさ!」

 

 

ファルにそう提案する。だけど、ファルは何か考えてる様子。どうしたんだろう?

 

 

「ファル、どうしたの? 早くボクのお家に…」

(よし!決めた! 今日はステラを背中に乗っけて飛んであげるよ! 僕からのプレゼントね!)

「えっ……」

 

 

次の瞬間、ファルは翼脚の噴射口から赫いエネルギーをぶっ放し、僕をかっさらった。

 

 

「え゛っ………」

(いやっほーーい!)

 

 

そのまま、信じられないほどの角度と速度で上空へ。地面がどんどん遠くなっていく……。

 

 

 

「ぎゃああぁぁぁぁああああ!? 下ろして下ろしてぇ! 無理無理無理無理!! 死ぬ!死ぬって! 無理無理! まって漏れる! いやぁぁぁぁぁああああ!?」

(ちょっ!? 暴れないで! 大丈夫!僕、飛行能力は自信あるから!)

 

「でも無理! 怖い怖い!イヤイヤイヤァ! 早くおろせぇぇ!」

(ぐえっ………!? 首はマズイって! ぐ、苦じい……。 きゅう……)

「………えっ?」

 

 

次の瞬間、 ボクを乗せたファルは急に力が抜けたように落下し始めた。

 

 

「えっ……ねぇファル? 嘘でしょ? ねぇ!嘘だよね!? このまま墜落なんてことないよね!?ねぇ!?返事してよ!? このままだとボクは16の若さで儚く散るんだよ!? ちょっ……

 

いやぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!??」

 

 

速度を失った私達は、重力に身を任せどんどん速度を上げて地面に迫る。

そして、地面に激突するかと思われた瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファルは態勢を一気に立て直し、再び安定した飛行の姿勢に入った。

 

(嘘でした〜! えへへ!ステラびっくりした?

……あれ? ステラ?)

 

 

 

 

「………ヒュへへ。綺麗な花畑だぁ〜」

(…………やりすぎたかな? ……ってかなんか背中が濡れてるような…)

 

 

背中に乗せた星詠みの女の子は気絶していたそうな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「もうっ!このバカッ! ボクにあんな痴態を晒させるなんて!」

(いたた!ごめんって! でも楽しかったでしょ!? )

 

 

ファルの背中に乗ってゆっくりと夜空を飛ぶボク。 全く、さっきは酷い目にあった…。 あんなもん誰かに知られたらボクは引きこもるぞ?

 

 

(でも、ほら見てよ! こんなとこから星空見たときある!?)

 

 

ファルにそう言われて、私は上を見上げた。

 

 

 

「うわ……すご……」

 

 

 

 

 

そこには海が広がっていた。

 

深い深い、光を吸い込むような色の水面に、数えきれないほどの星をちりばめた海。

正確には空なんだけど、ボクの目の前に広がる景色は最早海といっても間違ってはいなかった。

 

(さっきステラに言ったんだけどさ。 空は広かったよ。 もうなんか笑っちゃうくらいに。

だけど、とっても素敵だよね。 海が空にあるみたいだよ!)

「うん……そうだね。 これはすごいわ。」

 

 

空に広がる海を眺めながら、のんびりと飛ぶ私達。 ふとファルが口を開いた。

 

 

(僕がこうやって世界を駆ける…。 そして、運良く僕を見つけた人が何か願いを込める…。 そうしてその人の願いは世界中の空を回って、ステラの下に辿り着くのか…。 ちょっとした奇跡だね。)

「そりゃそうさ。 お星様は奇跡を起こしてくれるものなんだよ? その力を行使するのは大変だけどさ、それでもボクはその奇跡を成し遂げたいからさ」

 

 

ボクや父さん、母さんが持つ『星詠み』の力。

星と共に歩むと言われる一族のみが持てる力。

昔はこの力を持った人がたくさんいたらしいけど、今ではそんな人たちの話を聞くことはほとんどなく、また、ボクたちの存在が周りに知られることもほぼない。

時々、父さんの下に星の奇跡を求める人が訪れるくらい。

 

 

(でも、願いをたくさん込められると大変じゃない? さっきだってステラは気絶しちゃったじゃん)

「アレはボクがまだ未熟なだけ。星に認められた願いだけしかなかったよ。 父さんならササッと終わらせてる」

 

 

もちろん、星の奇跡だって無条件じゃない。

星が認めた願いじゃないと、そもそも聞き入れてさえくれないらしい。 『星石の結晶』は、その人の願いが星の奇跡の手を差し伸べるに相応しいかどうかを選定する役割があると父さんが言ってた。

 

 

(へぇ〜、ステラのお父さんは凄いんだねぇ)

「父さんだけじゃないよ。 相棒のフィロさんだって規格外さ。 あれだけの願いを一気に運べるなんて凄まじいなんてもんじゃない。 ファルだと絶対無理だね!」

(あの先輩はなんかこわいんだよね…。 近寄りたくない…)

「そんなこと言ってると、どこかで聞かれてるかもよ?」(……!?)

 

 

 

ともかく、そんな話をしながらボク達は空を飛んでいた。

 

 

 

(ねぇ、ステラ。 僕がもっと速く空を駆けて、沢山の願いを受け止めれるようになれば、1年に1回と言わず、1年に何回も会えるようになるかな?)

「そりゃいずれはなれるさ! フィロさんなんて3〜4日に1回は帰ってきてるよ! まぁ…毎回父さんを取り合って母さんとバトルをしてるけどさ…」

(ふぇ〜モテる男は大変だなぁ〜。 ステラはそんな心配はなさそうかな?)

「おいコラ、どういうことだ」

(へへ〜ん!秘密で〜す!)

 

 

またまた、やかましいことになる1人と1匹。

静かな夜空に軽く言い合う声が響く。

 

 

 

(ねぇステラ。 どこだっけな…。 すご〜く東の方に飛んで行った時に聞いた話なんだけどさ。

仕事をサボっちゃったせいで。1年に1回しか会えなくなっちゃったカップルがいるらしいよ?)

「あっはっは! なにそれ!? 随分愉快なカップルがいるもんだね!」

 

(それでさ、真面目に働くようになったから、1年に1回だけ星の川を渡って会えるようになったんだって。 それがとっても有名なお話になったらしいよ?)

「ふ〜ん。 甘っちょろいな。 ボクはサボったら晩御飯抜きとかいう死刑より恐ろしい罰がまってるんだよ!? それに比べりゃそんなの甘すぎる!」

 

(ステラも微妙なこと言ってる気がする……。

あっ、それでね。 僕考えたんだ。 あそこに星の川が見えない?)

「う〜んと…。あれかな?」

 

 

ファルに言われた方向をじっと見ると、確かに星が密集して白く光る川のように見えるところがないでも無い。

 

 

(そう、それ。 でね? 1年真面目に頑張って、1回だけ星の川を渡って会うだけでそれだけ有名になれるならさ。僕が1年に1回と言わず、何回も…星の川じゃなくて星の海を越えてステラに会うことができれば僕達はそのカップルよりすごいって事じゃない!?)

「う〜ん? まぁ…そうなのかな? 」

 

(でしょ!? だから、これから僕はガンガン世界中を飛び回って願いを集めようと思うんだ!)

「うん!それは素敵だと思う! それじゃあボクも星詠みの力を磨かないとね!」

 

 

(うん!2人で頑張って、有名なお話になる位の名コンビになろうね!)

「よっしゃ、やる気でてきた! ファル!腹が減ってはなんとやら! 早速ボクのお家に帰ってご飯だ! そして英気を養ってから星詠みの特訓だ!」

 

(がってんしょーち! それじゃあぶっ飛ばすよ! しっかり掴まってて!)

「えっ……ちょっ……ぶっ飛ばすのは勘弁……」

 

 

 

(GO!)

「んぎゃああああぁぁぁぁぁ…………」

 

 

 

 

 

星詠士の卵を乗せた彗星は、赫い尾を引きながら凄まじい速度で飛んで行った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある田舎の村にて、母娘が夜空を見上げていた。

 

 

 

「あっ! ねぇお母さん! 綺麗な流れ星だよ!」

「あら…赤くて綺麗な星ね…。」

 

「ねぇねぇ! なんかお願い事したらいいことあるかな!?」

「ふふっ…さぁ?どうかしらね? でも、お星様は願いを叶えてくれる奇跡の力があるって聞いたことがあるわ?」

 

「ホントに!? それじゃあお願いする!

え〜っとね…。 よし! 『お星様がもっと綺麗でありますように』!」

 

 

 

母娘の頭上には、海の様な満天の星空が広がっていた。

 

 

 

 

 



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