「デク君、改めてありがとう。洸太のこと助けてくれて」
「い、いえ、お礼なんて、そんな……」
マンダレイの顔の近さに、出久は顔が真っ赤になり、視線が泳ぎ、両手をわたわたと動かす。いかに強力なヴィランに打ち勝ったとはいっても、女子に不慣れで純粋過ぎる彼には、マンダレイのような年上の美女の接近は、かなりの緊張感を与える。ヒーローの恰好をしている時は、ただ尊敬の眼差しを向けるだけだったのが、私服姿だと、やはり女性的な魅力から完全に目を逸らすのは無理だ。
か、顔が近い~!そ、それに何だかいい香りが……
そんな出久のピュア過ぎる反応を微笑ましく思いながら、マンダレイはわざと顔を近づける。
「どうかしたの?顔、赤いよ」
「な、な、何でもありません!」
「ふふっ、君って不思議ね。ヴィラン連合との戦闘の時は、自分を省みずにあんなボロボロのか体で無茶してたのに、今はすごくシャイで……」
「えっと、あの時は頭の中が真っ白だったんで……」
出久は耳まで真っ赤になり、最早自分が頭の中の考えやら何やらを上手くまとめることが出来ずにいた。
マンダレイはそんな出久に微笑みながら、彼の頭に手を乗せ、くせの強い髪を優しく撫でる。
「本当はあの場にいたヒーローとしては、君のこと叱らなきゃいけないんだけど、やっぱり……ね」
「ご、ごめんなさい……」
出久が謝ると、マンダレイは何ともいえない表情で頬をかいた。
「あー、ごめんね。いきなり変な空気になっちゃって!その…………格好良かったよ」
「~~~~!」
これまでとは違う照れ笑いからの褒め言葉に、最早言葉にならないリアクションを見せる出久。顔が真っ赤になりすぎて、正直今すぐ逃げ出したいくらいの気持ちになっていた。
さすがに心配したマンダレイは、肩を揺すり、出久の体調を確認する。
「だ、大丈夫?」
「は、はい!だ、大丈夫です!あの、何て言いますか……ベテランのヒーローからそう言って頂けるのが嬉しくて!」
「…………」
確かにマンダレイはヒーロー歴12年だが、年齢的な理由で、あまりベテランとは言われたくない。
そんな視線に気づいた出久は慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさいごめんなさい!そういう意味じゃ……」
「緑谷君は……年上は、恋愛対象として見れない?」
妖艶に細められた目、その割に頼りなく響く声。
最後の方が聞き取れなかった出久は、慌てて聞き返した。
「え?今、何て……」
「ふふっ、何でもないわ」
「は、はあ……」
「じゃあ、またね。今度会ったら、合宿の倍ぐらいみっちり鍛えてあげる」
「は、はい!よろしくお願いします!」
マンダレイは身を翻し、大人の笑顔と甘い香りを残し、去っていった。
そして、出久はその背中を、見えなくなるまで見つめていた。
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「またデク君の周りの女の人が増えとる……しかも胸大っきい」
「ど、どうしたんだ、麗日君。目が怖いぞ……」