魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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本当ならば、本日のアップをするつもりはなかったのですが、美遊を引き当てて愛でたりしている最中なので、サービスみたいなもんです。

ついでに言えば後半部分は丸ごとカットして書きなおしたりしていたので、申し訳ないです。

当初の予定では『将輝 ケイネス先生化』なんてこともあったのですが、あそこまで小者にするのも悪いなと言うことでカットした影響で少しばかり戦い方も変わりました。達也がケリィなみな人間になっていたんですが、うん。あんまり良くないな。

読み直すと駄文が更に駄文だわ。

ということで、色々言い訳が見苦し過ぎる新話どうぞ。(謝)


第88話『九校戦―――仕切り直し』

 

 その瞬間―――刹那の矢は、飛翔した。こんなもので狙われる相手を気の毒に思いながらも、これをどうにかするだろう藤宮と一条。

 

 どうにかするだけでも一苦労だろうそれで崩れた瞬間に、達也は魔弾を叩き込む準備。加重系統の弾丸(まほう)でもいいのだが、ここに来るまでに、藤宮の力量はかなりのものだと理解した。

 

 五十嵐をバトル・ボードで降したことから、油断できる相手でないことは理解していたが、まさか『反衝』を用いてくるとは思っていなかった。

 

 

 悉く一条を狙う魔法を性質の違うモノに変えて投げ返してくるとは、単純な戦闘力では一条に劣るも、その一芸がとことん達也には厄介だった。

 なにせ、向けた術式―――加重系統の『幻衝』も『共鳴』も―――。

 

干渉開始(キックオフ)!」

 

 そんな言葉で簡単に捻じ曲げられる。

 魔法式を『反射』している。そうとしか言えないものだ。

 

 この場に刹那がいれば、それを混沌魔術(ケイオスマジック)と称して、『ゲテモノだよ。が、海の魚はゲテモノこそ『旨い』という真理もある』などと苦悩を浮かべていただろう。

 

 魔法式に干渉する『魔法』……それが、もしも―――ただの魔力弾にすら向けられたならば、達也の思いつきの考えが、閃きを生んだ。―――待て、それと同じ現象を見た。

 

 そう、入学式から日も浅い頃……他者の術式でもなく、ただのサイオン弾に干渉・増幅する手際で己の使い魔を破壊した男の手際を……。

 

「特大だな!! 司波君の抑えを頼むぞ!! 若大将!!!」

 

「ああ、頼んだぞ!! 『ケイオス・カイオス』!!」

 

 藤宮介という名前と使っている魔法から、そんな字名(あざな)なのだろうが達也としては口汚くも『ダサっ』などという内心での感想が出た。

 

 しかし一条が投射してくる魔法に対して『術式解体』と加重系統の魔法―――二挺拳銃(ツイン・ドライブ)で対応しなければならなく、藤宮に対しては何もできなかつた。

 

 音速にも迫る矢に対して藤宮は、直接干渉して受け止めた。何か大きなもの重すぎる門扉を『開けゴマ』(open sesame)とでも言うかのように、腕を開き手を伸ばして受け止めた。

 

 その時、ばしゅっ!という音で、藤宮の腕の衣服が消し飛んだ。同時に切り刻まれるような傷が幾重にも刻まれて血が吹き出るが、進もうとする矢は完全に止められていた。

 

「純度の高い魔力だな……まざりっけない。本当にお手本みたいな魔力の精製だよ……けれど―――略奪開始(スティール)略奪開始(スティール)略奪開始(スティール)!!!」

 

 言葉で干渉を開始。現代魔法にあるまじき呪文の羅列。いや、現代魔法とて言葉を並べれば発動できるものだ。ただ、その面倒さと不安定さに、CADが高性能化しただけだ。

 

 だから藤宮のようなことが、他の連中にも出来るかと言えば―――。

 

 

「奪ったぞ!! ロード・トオサカの魔力!!!」

 

 矢が藤宮の手の中で―――魔力の球体。オーブとなる。巨大な球を使って何をするのか、理解出来ない達也ではない。

 

 一人でも三高を『戦闘不能』にしなければならない。しかしここぞとばかりに一条は達也を威圧してくる。ビビってはいないが、それでもその数の前に―――。

 

 一条を戦闘不能にする為に動く……慮外の動きで迫る達也に対して一度は瞠目する一条だが、すぐさまに対応してくる辺り、プリンスの名前は伊達ではない。

 

 

「俺との踊りを切り上げようだなんて、せっかちすぎやしないか? お義兄さん」

 

「お前に義兄(あに)と呼ばれる筋合いはないな。仮に深雪を嫁に出すならば刹那辺りが適当だろうさ」

 

 

 通信チャンネルはオープンのままなので、耳元に、『断固辞退しよう。』などという軽口でも聞こえてくればいいのに、それが無いことが達也の眼を一条から切らせた。

 

 矢を奪われたことが契機なのか、少しだけぐらつく刹那。次弾が撃たれていない……その意味を―――。

 

 

「刹那! そこから退避しろ!!!」

 

 急いで連絡を入れた時には、加速魔法で藤宮と一条に合流してきた吉祥寺、中野、火神―――。他のレオ達は無事であったが赤いドームの発生で若干自陣方向に移動させられていた。

 

 だからこそ見てしまった。その瞬間を―――。

 

 

『『『『『相互干渉増幅術式―――起動――――『灼王の魔鎧』(イフリート)!!!』』』』』

 

「―――儀式呪法……これだけ大規模なものを―――結界まで用意して、どこに向けよう――――」

 

 こちらに合流してきた幹比古が五人がかりの術式を見て驚愕している。だが、そんなものは当たり前の如く―――『あいつ』にでしかない。

 

「―――ッ」

 

『邪魔はさせないよ。苦心して築き上げた陣形。君のグラムデモリッションで破壊することは不可能だ』

 

「起動した魔法式の『現象』に対して、確かに俺の魔法は無力だが―――何もしないわけに行くか」

 

 吉祥寺の言う通り赤い魔力―――オーラがオーロラのように三高五人全てを覆って、達也の魔法が届かない。

 干渉装甲の大規模バージョン。十文字克人のファランクス並の防御壁と断定。だが、砲撃を許せば―――。

 

『残念だがな。まずは一人を潰す。お前相手に容赦とか加減とかはいらないからな。『死なない』とは思うが死ぬなよ刹那!!』

 

 それに関しては、一高三高問わず誰もが同意だが、ともあれ友人の危機に棒立ちではいられない。黒子乃の電磁球が、レオのブレードが結界に叩き付けられる。

 

 だが、その前に、刹那のいる射台に渦巻く魔法陣の数―――凡そ20。明らかにオーバーキルだが刹那だけでなく、射台に向けていると言えば何とでも言い訳できるだろう。

 

「小狡いなプリンス」

『その皮肉すら乗り越える男だろうから俺は挑むんだよ! お前と同じくな。お義兄さん(ブラザー)!!』

 

 お前の義兄(あに)になった覚えはない。そう叫ぶ前に空間そのものを圧迫して放たれる―――その威力が火砕流も同然に刹那を射台ごと呑みこんで崩壊させた。

 爆裂の別バージョン。空気を『躍らせる』ことで、数千度の熱を周囲に発生。その熱が集まった空気塊を炸裂させたのだろう。

 

 崩壊する前の射台。その際の刹那の顔を見た達也は―――。魔弾を三高の形成している要塞のような魔術陣に叩き込む。

 

「仇は取らせてもらう!!!」

 

 そうして無謀な攻撃をする。その五人がかりの要塞魔法は、まさしく叩き込んだ魔法を全て無為に帰す。

 

 三高の五人がきっちり『五芒星』の立ち位置で、彼らを中心に半径10mほどで展開されているそれに攻撃を繰り返す。

 

 他の四人もその進撃を食い止めるべく、攻撃を繰り出しながら伝えるべきことを伝える。

 

(カッコつけがすぎるんじゃないか?)

 

 言いながらも自分とて一条にオーバーキルされたら『再成』を発動させるつもりだったことは胸の内に秘めておく。

 秘めながら―――大根役者の演技で三高を釘付けにしなければならないのだから―――。

 

 

 ……そんな選手たちの熱気とは別に、応援席は絶叫と悲鳴と―――嘆きで混ぜ合わせ、こういった場面に慣れていない光井ほのかなど目を背けた。

 

 殆どの人間がオーバーアタックを確信して笛が吹かれると思っていたのに、それが無く―――。

 

「セツナァアアアアアア!!! アー……そろそろ起き上がる頃ね。うん、準備は万端(ゲットレディ)といったところかしら? 喉が枯れちゃいそうだったわ♪」

 

『アナタ!! アンジェリーナ!! こっちの非があるから強くは言いませんが、この鬼! 悪魔!! 泥棒猫(?)!!! セルナが心配じゃないの!!??』

 

 悲劇のヒロイン演じてました的なリーナの言葉と行動に誰もが何かを言いたいのに言えない状況を崩す形で、ふるめかしい拡声器を用いて一高応援席に声を飛ばす一色愛梨は、恋敵の無情な言葉にツッコみを入れた。

 

 代ってリーナもまたネコの意匠が付けられた古めかしい拡声器…恐らく刹那作だろうものを手に声を飛ばす。

 

「ワタシがダーリンの心配するなんて200年は速いわ! というよりも……セツナを信じられなくなったらば、セカイの全てがワタシには信じられないわね」

 

「―――どういう―――」

 

 意味なのだ? という言葉を出さずとも、リーナは微笑み。華を綻ばせたかのような笑顔のままに答える。

 

 そんな顔を―――いつも深雪とて兄である達也に向けているのだろうな。と思わせる笑顔がそこにあった。

 

「だって……あの時から、ワタシの全てはセツナと共にあるもの……セツナの『過去』(ウルズ)を知り、『現在』(ヴェルザンディ)に在る目的を知り―――祈りを『未来』(スクルド)への福音で満たすために……『魔宝使い』は、ワタシの元に来てくれたのよ。そしてワタシは『魔宝使い』の側にいることを選んだのだから」

 

 一拍を置き、リーナは言葉を再び紡ぐ。

 それは彼の戦う理由の一つ。ぶっきらぼうに口汚くも、『クソ親父』だの『ヘッポコ』だのと言いながらも、母親の事を語る時以上に、刹那は、自分の父親のことも語る時があったのだから

 

 とても……尊いものを語るかのように……その横顔を覚えている。

 

偽物(イミテーション)だとしても目指したセツナの父親―――エミヤ・シロウから継いだ意思(こころ)がきっと負けさせない。彼を立ち上がらせる! どんな困難も打ち破る!! そうワタシは信じている!!」

 

 その時、リーナの言葉が呪文であったかのように、状況が動く。崩落したステージから何かが飛びだした。

 

 

 バトルフィールドでも確認して、土煙から出たそれは、草原を低く走り、走り―――カメラでも追い切れない速度で動くものが七つ。それが何であるかなど愚問である。

 何かが迫ってくる。それだけは事実。そしてそれが誰の手管かが愚問なのだ。

 

『野郎……『分身』してやがる!! 多分だが魔力体で編んだものが六つのはずだ!! 本物は一つ!!』

 

 探知役の中野が攻撃担当である火神と一条にそれらの情報を渡す。

 

 見た瞬間に吉祥寺が呻く。それら―――刹那と刹那の分身体は、狼の幻体を纏ってやってきたからだ。

 

 獣性魔術……狼の如き脚力と走力―――同時に、魔力の狼爪で草を払いながらの進撃は、スピードシューティングでの苦い思い出を感じたが、それを振り払う「真紅郎くん! ブーイングに負けないで!!」という既知の女の子の言葉で持ち直す。

 

 しかし、あれで攻撃するのはムリだ。己達を棚に上げてしまうが、完全にルール違反だ。となれば、ただの移動魔法代わりということか。

 

「オッシャー!!!」

 

「攻撃再開だ!!!」

 

「―――『準備』します。司波君―――」

 

 チームメイトの安堵ゆえの言葉じゃないな。何かの作戦だが、結界を叩いて攻撃されるのをただ棒立ちでいるわけにはいかない。

 

 迎撃することを忘れない。簡単に破られるものではないが、あのジョーカー(鬼札)がやってくればどうなるか―――。

 

 不可視の弾丸に混ぜてサイオン弾を放つも、既に対策されてしまっている。

 それどころか、この空間全てに投射された遠坂刹那の魔力が威力を減衰させてしまっている。まるでレーザーを減衰させるスモークか何かのように、吉祥寺の攻撃を通させないで行く。

 

「真紅郎!! 『使え』!!」

 

「アイツの魔力とかちょっと嫌なんだけど!!」

 

 結界構築の担当者たる藤宮から『渡された魔力』は確かに、実用的で有用だが……まぁ今は、四の五の言ってられない。

 

 魔力を通して、放たれる魔法で一高のフォーメーションに乱れが生まれる。

 同時に将輝の様子を見ると、既に至近に近づきつつある遠坂を中々迎撃できないでいる様子。

 

 七つの内、四つは既にない。しかし迫りくる刹那の勢いは衰えていない。

 

(策に溺れたな三高)

 

 

 刹那の強烈な攻撃力に対抗する為に、要塞のような魔術陣を作り上げたのはいいが、所詮は簡素な要塞の類であり、中にいる人間全てが安堵できる……『籠城戦』が出来るようなものではない。

 同時に刹那の手の内が野戦砲や攻城砲の類から騎馬と重歩兵を用いた『攻城戦』になれば、いとも容易く食い破ってくる。

 

 一色との戦いが、刹那の接近戦技能。即ち、剣を用いたものが本道であると勘違いした三高の油断である。

 

(十師族やA級魔法師が常識に対する非常識な脅威ならば……刹那は非常識に対する『死神』、『魔王』なんだろうな)

 

 そして空間的に閉じられた結界など、刹那はいとも容易く食い破る。入学して日も浅い頃の刹那の手際……あの模擬戦でのことを三高は知らず、刹那のトータルスペックを見極めきれていない達也の苦い悩みであった。

 

 オーバーキルも同然に、放たれる空圧に爆圧―――四つの内、三つがただのサイオンに還る―――還ってから残った刹那に注がれる。

 

 最後の一体……金色の幻狼を纏っている刹那こそが本物―――。

 

「お前ら、ただの競技大会に大仰な術を使いすぎだろう!!!」

 

『刹那!!!』

 

 明朗な言葉で分身ではないことを悟った一条が魔法を叩き込むが、それを刹那は躱していく。その動きは確かに獣性魔術で強化されているが、本質的な動きは……どこか達也の『忍術』に通じるものだった。

 

 もしや、その動きが『七夜』のものなのかと気付き、それでも(たい)の限りを振り絞って、一条の攻撃を躱しつくすと要塞の正面に立つ刹那。

 

 当たり前だが迎撃しようとした三高の五人―――全員の動きが縫い付けられた。

 

『なにっ!?』

 

 魔眼による拘束ではない。黒子乃太助の秘儀の一つ。影縫。己に伸びる影を用いて相手の影と接続することで相手を拘束してしまう技である。

 

 原理としては影に付随しているアストラル体への干渉やら、エーテル体に対する防壁突破……全て小難しいことを抜きにすれば、黒子乃太助の影が三高メンバーたちを縛りあげているのだ。

 とはいえ、その拘束は絶対ではない。サイオンの放射や様々な外的干渉次第では外される……。

 

「太助君が作ってくれたこのチャンス逃すわけに行くか!!! Anfang(セット)―――」

 

 言葉と刻印解放で獣性魔術をキャンセル。同時にルーングラブ……達也と殴り合ったあの礼装が展開。

 グローブの甲に円状に配置されたルーン文字が浮かび上がり、刹那は未だに発生する赤い結界―――要塞と化しているものに挑みかかる。

 

 達也も準備をして動き出す。そして衝撃的な言葉が響く。色々と苦労したのは分かる……衝撃的な告白であった。

 

「今日も野宿、明日も野宿! ターゲットを捕捉するまで雑草や犬の小便掛かっていたかもしれないドクダミばかり食わされた日々からの脱却!! 

 アンタを師匠に持って後悔した日が多すぎたぞ!! バゼット(ダメット)・フラガ・マクレミッツゥウウ!!!」

 

『『『『『どんな師匠だ――――!!!???』』』』』

 

 言葉に思わず一高、三高問わずツッコミを入れたが、構わず刹那は手刀にした掌を、まるで剣か何かのようにイフリートの『結界』に通した。

 

 達也ですら『雲散霧消』でも使わなければ破れなかっただろう結界を病葉か何かのように破り切り、サイオンの破片がガラスのように空間にちりばめられる。

 

 瞠目する三高。しかし、その際の『ゆらぎ』が黒子乃に伝わり、影縫の拘束が揺れた。察した刹那だったが、止まらずに結界破壊のルーンチョップのままに手近な所にいた中野新に『斬撃のルーン』を飛ばした。

 

 大気中に描いた『呪刻』(ルーン)。まるで演奏の指揮棒を振るような刹那の指の動きで、肌を裂き、筋にも到達せんとする真空刃が放たれ、中野を打ち据える。

 

 

「がはっ!!!」

 

「アラタッ!!!」

 

 切り裂かれるプロテクションの下にある服の繊維、同時に筋繊維すらも切り裂いたような荒れ狂う風の刃で、三高は危機を感じる。

 

「我が眼前に勝機あり!! 俺の魔力でよくもこんな『大仰なもの』(大魔術)を作ってくれたな!! 褒めてやるぜ!! 藤宮!!」

 

「それほどでも―――」

 

 皮肉か礼賛か分からぬも、崩れた陣形。絶対防御を誇るはずのそれが崩されたことで、三高メンバーが、互いの背後をフォローしあう形で退く。

 

 ……退こうとした時に、刹那の背後から誰かが奔る。それは―――刹那に続く死神であった。

 

「司波っ!!」

「馴れ馴れしい」

 

 刹那の身体を潜るように達也が出てきた。

 

 色々と一高では一緒にいることも多い二人なので、その急激な接近に変な妄想が膨らむものたち(柴田美月+α)もいたが、本人達は割りと真剣であり―――。

 

「『耳』―――頼んだぞ『魔宝使い』」

 

「オーライ! 行って来い!! イレギュラーマギクス!!」

 

 一瞬だけすれ違った時に手を叩きあう刹那と達也。それとて色々な妄想が膨らんだのだが、本当に本人達は真剣であり―――。

 

 達也の狙いは、馴れ馴れしい男。一条将輝であった。狙われているのを悟った一条が、ルール上あり得ない近接戦闘の予感に体を強張らせる。

 

 だが達也の狙いを崩すように至近距離からでも放てる大威力の魔法が襲う。熱波が、衝撃が、爆圧が―――達也を包もうとしたが、それらは崩れた。

 

 達也を守るように展開されるルーン(呪刻)トゥール(勝利)のルーンが、円状の防壁となって達也を守る障壁としたのだ。

 

 慮外の動きで突き進む達也は止まらない。一条の至近に至り、CAD……シルバー・ホーンを上空に投げ捨てて、狙いを散らしてから手を伸ばす。(あずさの悲鳴が上がる)

 

 不意を突かれても、退こうとする一条。更に腕を伸ばした先は『耳元』。引き絞られる親指と人差し指。

 

『お前はどこのヒィッ〇カラルドだ?』などと言われたことを思い出しながらも、達也の持つ魔法(ぎじゅつ)の一つ。

 

 刹那に言わせれば、呪刻魔法とも宝石魔法の変形とも言える『フラッシュ・キャスト』で、指を弾いた音を増幅。

 

 ―――音響爆弾を耳元で破裂させた。

 魔法のレベルとしては単純かつ低レベルなもの。しかし、その速度が刹那と比しても『速い』ということが、驚異的だったのだ。

 

 失神相当のダメージを食らわせた。……はずなのだが……。

 

 崩れ落ちようとしていた一条将輝―――その失神を誰もがあり得ないと思い、三高全員が崩れるなと念じたのを―――。

 

「ああああっ!!! はあっ!!!」

 

 聞き届けたかのように、雄叫びを挙げながら崩れ落ちずにいた。それどころか―――。その破れた鼓膜……血を噴きだした耳にも構わずに―――。

 

「ヤベェ!! 刹那!! 援護を!!!」

 

 レオが叫ぶよりも先に達也は危機を理解していた。刹那も、魔法式を砕くべく魔弾を放っていたが―――。

 

「遅いっ!!」

「お前がな!!」

 

 刹那と一条の受け答え。それでも放たれる空気弾が、『地面』から『二回』吹き出て岩土ごと刹那と達也を強かに撃ちつける。

 

 ダメージは、そこまではない。ただ、一条の復活が予想外だっただけに精神的なダメージが少しあった。

 

 進むか退くか、こちらとしては無論、ここで決めたいのだが……。下駄を最初に履いたのは三高であった。

 

「撤退だ!! モノリスまで一端退避!! 殿は僕らで務めるから!! 新は将輝が引っ張って!!」

 

 逃げるとなれば速い。参謀役であり副官役の吉祥寺真紅郎の判断は、撤退。それを追撃するには――――、こちらも満身創痍である。

 

 状況の確認、そして戦力の過不足を見てから―――逃げ去っていく三高に爪を立てるには、今は……仕切り直しするしかないのだった……。

 

 


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