魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

121 / 414
第106話『夏休み 少女の願い』

 無人運転のコミューターで、七草家の自家用機に戻ってきた真由美と克人は、七草家の家令である女史の一礼を受ける。

 

 

「お帰りなさいませ。お嬢様。克人殿」

 

「敬称はいりませんよ。竹内女史―――それで……」

 

「―――『お客様』はやってきたかしら?」

 

 畏まったことをしなくていいと述べた克人の疑問を次いで、真由美が問いかける。

 

 しかし竹内は首を小さく横に振るのだった。

 

 ダメだったか―――もしくはまた『研究所』に連れていかれたのか……。悔しさに拳を握りしめた所、それ以外の情報を教えてくれる。

 

 

「基地の兵隊が検閲をしたいといったので、お二方のプライベートな私物はともかくとして、機内を全て調べてもらいました。申し訳ありません」

 

「検閲の理由は?」

 

「軍病院から抜け出した患者を探しているというものでしたが、お嬢様が仰っていた調整体の魔法師の少女を探しに来たのでしょう」

 

 どうやら―――基地の兵隊たちは、真由美と克人と同じくモールで九亜たちを見つけられず、この島を離れられる輸送手段に眼を着けたようだ。

 つまり、まだモールの何処かにいる可能性があるということか―――そう思って、踵を返そうとした時、更なる情報が告げられる。

 

「恐らく関係があるかと思われますが、ここから100メートル先のターミナルビル寄りに、先程まで当機と同型の飛行艇が駐機していました。

 遠目ですが、客席に入りたいのに入るのを拒まれて、何か問答をしている様子でしたね」

 

「映像・静止画像ありますか?」

 

「プライバシーの関係もありますし、角度もありましたが―――、『恐らく』と思って、機体の外部ドローンで撮っておきました」

 

 手際がいい。しかし、竹内も確証は持てなかったのだろう。考えるにこのニアミスを招いたのは、真由美のせいだ。

 彼女たちが、飛行機に詳しくなければ、『どちらか』分からなかったかもしれない。符牒とか、何かの目印を立てていれば良かったか。

 

 ともあれ―――、竹内が撮っておいた映像・画像の中に………顔見知りの顔が角度の関係で、半分ほど映る。

 色々と手を焼かせる後輩二人―――。ある集団の切り込み隊長で、二人にとっても戦友である。

 

「西城と千葉―――つまり……」

「……達也君と刹那君が一枚噛んでいるわけね……」

 

 映像を顔を寄せ合ってみた後に、顔を見合わせて―――苦笑のため息を突き合うのだった。

 

 そんな様子に、竹内が『お二人とも仲がよろしいですね』などと言ったが、ともあれ何処から来たのかを知るべく機体の照会を頼んでおくことにする。

 凡そ……北山家関連の資産だろうと予測は着くのだが、ともあれ、それまでは克人と共に待機であった。

 

 

 † † † †

 

 

「達也さん。こちらをどうぞ」

 

「すみません黒沢さん。いただきます」

 

 時間帯を間違えて北山家の別荘に戻ってきた達也だが、主人がいないというのに持て成すメイドの気遣いのアイスコーヒーを飲みながら、何となくあの『魔法』の正体などを端末で分析してきたが、やはり分からぬものだ。

 

 やった人間はもはや分かり切っているが、それでも自分がやろうとすれば、近距離での中性子など劣化ウランの分解など煩雑な作業が必要になっただろう。

 

 その結果としてオーロラが出来上がるだろうことも予測は着いた。

 まぁかなり離れていれば、普通に『質量爆散』でやってしまえば劣化ウランなどの核廃棄物は、真空宇宙の中に溶け込み無害化されるだろう。

 

 ジメチルヒドラジンなどの被害を出さないことは間違いない『質量爆散』ではあるが、『あれ』とどちらが上かを比べてしまう。

 

 戦略級魔法『オーロラ・サークル』。

 

 その本質は――――などと考えていた時に、ヘリローターの音が聞こえた。どうやら、深雪たちが帰ってきたようだ。

 北山家所有のヘリポート。とんでもなくデカい別荘の横にあるそこに着陸する様子に達也は出迎えの準備をする。

 

 着陸したヘリから最初に出てきたのは愛妹である深雪だった。恐らく自分がいることから先陣を切ったのだろう。

 

 

「お兄様、お戻りだったのですね」

 

「一時間くらい前にね。深雪たちこそ聞いていた時間より早いんじゃないか?」

 

 弾む声で言ってくる妹に答えながら、自分も疑問を出した。その間にもヘリからは人が吐き出され続け、こちらに赴いた初日にはおらず結局すれ違っていた友人2人の姿が見えた。

 

 その友人の懐かしい顔に声を掛けようとした時に――――、その二人が抱き上げているものに気付く。

 気付いた瞬間、達也としては一番……あり得る可能性の答えを上げることにした。

 

 近づいてくる刹那とリーナ。貫頭衣というよりも手術服のようなものを纏う少女二人の正体は――――。

 

 

「お前たち、いつの間に、こんな大きな『こっこ』を拵えたんだ?」

 

「お前本当に東京都民!? 『こっこ』とかどこの方言だよ!?」

 

「フツーは、Who is she? とか聞くのがマナーでしょう!?」

 

「一番あり得る答えを出してみたんだが、間違いか―――改めて聞くが、その子達は?」

 

 誰なんだ? と言う言葉を省いた達也だったが、その前に―――リビング辺りで二人を落ち着けたい気持ちでいる刹那とリーナは、若干……『親』の顔をしているのだった。

 

 まぁ達也にとっての親は、どちらも達也を『守らない人間』だったので想像でしかなかったのだが……そう思えた。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 リビングにて腰を落ち着けた二人の少女。彼女らは出されたジュースを飲んで、クッキーなどの甘菓子を頬張り、なんやかんやと落ち着いた様子だった。

 

 先程までは刹那とリーナ以外が触れようとすると少し怯える様子だったが、ようやく話が始まる。

 

 最初に口を開いたのは―――エリカからだった。意外というわけではないが、この中では刹那とリーナの次に懐いているのが彼女だった。

 

 

「あなた達のお名前は?」

 

 優しげな声と顔で問いかけるエリカに対して、少女は口を開く。

 

「わたしは、ココアです」

「シア。ココアは数字の九に亜種の『亜』で九亜(ここあ)―――私は数字の四に同じ『亜』で四亜(しあ)

 

 どこか、たどたどしく幼いココアに比べれば、つっけんどんというかぶっきら棒なシア。

 

 雨ざらしでしょんぼりと落ち込む野良ネコと、自分と自分の家族を守る為ならばと立ち塞がる野良ネコ。

 そんな表現が似合ってしまう二人だった。

 

「歳はいくつなの?」

「シアも私も14歳です」

 

 数字順ならば四亜の方がお姉さんなのかもしれないが、それでも先程の自己紹介で多くをやってもらったからか、九亜は四亜の年齢も教えた。

 しかし、聞いた人間の大半は、その年齢に驚いた。

 

「……もっと小さな子だと思っていました」

 

 美月の悲しげな声は、当然であった。仮に14歳だとしても二人の身長・体重は明らかに10歳児なみ―――いや、体重だけならば、それ以下の可能性もある。

 

 どんな状況に置かれれば、こんな風な成長不良の児童になるのか……家庭内での虐待などを想像するが、事態は深刻だった。

 

「あなた達は……海軍の基地から逃げてきたの?」

 

「正確には基地の中の研究所―――魔法研究をするための場所から逃げてきた」

 

「四亜が研究所の扉をあるだけひしゃげて、それを私が簡単に壊せないよう魔法で『封印』をして、そうして逃げてきました」

 

 方法に関しては特に聞いていなかったが、何て剛毅な二人なのかしら。そんな風に誰もが汗を掻いて想うも、この体重では筋肉も然程着いていない。

 

 研究所における環境から察するに、よくぞここまで歩き、走り……逃げ延びてくれたものだと思う。そう感じて隣に座っていた刹那が四亜の髪をそっと撫でていく。

 

「……キッドくすぐったい……」

 

「ああ、ごめん。嫌だったかな?」

 

「ん。悪くは無いけど、プラズマリーナほどいい髪質じゃないから」

 

 そんなことを気にするとは、若干ながら『おませさん』なのかもしれない四亜の甘えた様子に、殆どが苦笑。

 ムッとするのは、マイハニーたるリーナと雫であったりする。

 

「それじゃ二人は優秀な魔法師なんだ―――けれど……なんで研究所から」

 

「魔法師は魔法を使う『人間』であって、私達は人間とは扱われていませんでした」

 

「―――研究所の人達は、私達を『わたつみシリーズ』って呼んでいた」

 

 エリカの質問に首を横に振る九亜。そうしてからの言葉、四亜の細かい説明で、大まかな事情を達也は悟った。

 

「調整体魔法師、か」

 

 その言葉を出した瞬間、言った当人である達也、深雪、レオの顔に『気鬱』が走った。

 

 調整体魔法師―――。あまり一般的ではないが、それでも知る人間ならば知っている単語である。

 

 魔法師研究が能力開発だけでなく、遺伝子研究の観点から入ったことは、大体の人間ならば知っている事である。

 特に現代魔法のように『超能力』という定義づけをなされたものを発現させるには、その能力を発現させられる塩基配列に組み替えなければならない。

 

 エレメント研究からの十大研究所の開発実験・遺伝子改良……古式魔法師の幹比古からすれば、そういった現代魔法師の一種の『おぞましさ』は、いまだに受け入れづらいものである。

 

「九亜、四亜―――これも食べなよ。お腹空いているだろうから遠慮しなくていいよ」

 

 そう言って刹那が部屋から持ってきたバスケットの中身を出した。

 昨日のメイド王(?)黒沢との戦いで出せなかった鳩型のパイ。それに入っている卵こそが一番おいしいお菓子であった……。

 

 北山家の別荘には、驚くべきことに無菌豚やありとあらゆる食肉類が『生のまま』用意されており、刹那はこの機会に、作りたくても作れなかったものを作ることにしていた。

 

「お前も食った方がいいよ。技術仕事で疲れて来たんだろう達也?」

 

「ならば、いただくとするか。察するに鳩や豚の血を使ったデザート……血で作る腸詰の菓子バージョンといったところかな」

 

 おっかなびっくりな九亜と四亜に先んじて、達也がオレンジ色の卵に手を伸ばす。ウズラの卵サイズのそれに手を伸ばして一口食べる。

 食べた瞬間に、深雪が仰天するほどに満面の笑みを浮かべてしまう達也の顔。

 

 少し時間が経ってしまったとは言え、魔術の効果でそれなりの保存していた血宝卵の味は鉄面皮の達也の仮面を砕いた。

 

 喜びだけの顔で崩れた表情をする達也に誰もが驚く。

 

「なんだこれ……言葉にできないほど旨いぞ―――塗されているのは真珠の粉に抹茶にココナッツパウダーに―――このオレンジ色は何だ?」

「それはウミツバメの巣。大亜と戦争状態になって手に入りにくくなっているウミツバメの血が混じった最高級のものさ」

 

 専門用語で『血燕』(シェイエン)と呼ばれるものだった。中身はグミのように柔らかなもので、まるで最高級のルビーのように鮮やかな色彩を見せている。

 

 コワモテ(誤字にあらず)な達也が、そんな風に相好を崩したことで、九亜と四亜もその卵型の菓子に手を伸ばす。

 

「おいしい……すごく美味しいね。四亜」

 

「そうね。九亜―――生きていて良かったって思える……」

 

 

 その少女にあるまじき言葉の重さに誰もが何かを感じる。そして九亜と四亜の食べる卵に誰もが手を伸ばす。

 

「大事なことや重要な事を話す時は、ちゃんと美味しいものを前にして食べてから話そうっていうのが、オヤジからの家訓なんだ。

 まぁ衛宮じゃなくて、俺は遠坂姓の私生児なんだけどな」

 

「けど―――スゴクいい事だと思うわ。セツナ、ちゃんとご飯は食べさせようね?」

 

 誰にだよ。などと問いかけることは愚問である。

 

 とはいえ、その薔薇の香りと新鮮な生クリームとで仕立てられた血のデザートを誰もが食べたことで、舌はなめらかとなり話は続く。

 

 九亜と四亜が『実験体』として入れさせられていたのは大型のCAD。

 

 専門家(達也)曰く『そんなものに放り込まれれば術者の意識や意思など関係なく全ての処理を行わせてしまう』。

 

 CAD(機械)を人が使うのではなく、人をパーツ(機械)としてCADが使っているのだという。その非人道性に、聞いていた誰もが拳を握りしめて悔しさや憤怒を押し殺す。

 

 

「人知を超えた力を求めるんだ……人道も人倫も、どこかでは踏み躙られてしまうんだろうな。それが現代魔法の暗部だ。かの『アンタッチャブル』は、その考えに準じて魔法師は兵器という原則を守り続けている……」

 

「悲観的過ぎて、虚しすぎるだろ……そんなの……天地(アメツチ)の理を侵してまで得た力ならば、ちゃんと人として扱い、人としての評価を与えてあげるべきなのに……」

 

「優しいな幹比古。けれども、そんな風に考える奴等ばかりじゃないんだ……魔法師研究が究極的に目指すものは『超人』だからな。そこに、慈悲は入らないんだぜ」

 

 達也の言葉に俯く幹比古、それが人間として正しい理性だ。しかし、追い打ちを掛けるように『フォルゲ』だろうレオが、悲観論を言う。

 

 友人二人のあまりにあまりな結論に幹比古の縋る様な視線が刹那に届く。

 

「刹那、お前の意見を聞きたいな。現代魔法とも古式魔法とも言い切れぬ術利を操るお前だからこその意見をな」

 

「俺は、ただ一つの極論だけだよ。『道具』として使うならば、別に人間でなくても……こんな可憐すぎる少女でなくても良かったはずだ……。

 少なくとも現在の地球は、『ミノタウロスの皿』を求めちゃいない……だからこそ、お前達は、その銃を握り、その身体を鋼にすることを選んだんだろ?」

 

 問いかけたのは幹比古ではなく達也だが、返した言葉に少しだけ考え込むレオと達也だが―――その前に、『怒り』を覚えたものが言葉を発した。

 

『かつて、試験管ベビーとして生み出され、されども一人の『少年』と共に破局を防ぐべく戦った『少女』がいた。

 少女の余命は18年……その破局が生み出された年には燃え尽きるはずの儚い命のはずだった―――けれども彼女は、それを悲観しなかった。

 破局を防ぐべく、多くの時代の事象に赴き、そこに生きる人々の鼓動が、厳しすぎる世界でも生き続けている人々の全てが、色褪せぬ『色彩』が―――彼女を生かした。一つの知性として、生命として―――まごうこと無き『人間』としたのだよ』

 

 

「「「「…………」」」」

 

 いきなりなオニキスの言葉に誰もが面食らい、それでもその言葉は、物語は真に迫るものだった。そこには熱があった……。

 人の世の為に嘆き、悲しみ―――誰かの為に笑い、泣き、怒りを上げることを当然と考える『人間』としての熱が――――。

 

『作られたものだからと、それを『当然』と考えるな。作られたものには自由意志が無いわけではない。感情が無いわけではない。

 熱を失うな。生きようとする意思。何かを成し遂げたいと考えた時に、紛い物は、ただ一つの知性となる。

 知性は生きたいと思う。一秒一瞬が愛おしく思えるようになった時、この世界に生きている。自分も生きている―――そう叫ぶ権利があるんだ』

 

「聞いていたんだろ。二人は―――九亜や四亜の『叫び』を……言いたい事は全部オニキスに言われちまったが、俺の意見はそれだけだ」

 

「ワリィな刹那、オニキスさん……俺自身、色々とあるからよ。なんつーかシニカルになりすぎていた……」

 

「お前は何でもお見通しだな……そして―――ミスタ・オニキス……本当にそんなことがあり得るんだろうか?……作られたもの―――『意思』を縛られたものに、そんなことがあり得るのか?」

 

『キミが、どういう『感性』をしているかは分からない。キミの事情を全て知っているわけではない―――だがシバ・タツヤ―――例えどれだけ『人』が『人』を縛りつけたとしても、それは完全ではない。

 何故ならば掛けたヒト自身が『完全』で完璧じゃないからだ。ヒトは様々な規制や規則・道徳観念・法律を作って社会を維持してきたが、どうやっても救いきれない人や抜けてしまうところが出てしまう……。

 

 どんな社会的システムであったとしても、それは―――ヒトが『完全』ではないからなんだよ。同時に魔法師も同じだ……。意思持つもの、心あるものが持つ欲求はいつか――――どんな『運命』すらも覆すものになるんだ』

 

「――――その言葉……いつか実現させたい―――」

 

 誰もが仰天して、深雪などもはや感涙だか悲嘆の涙だかを流してしまう事態。なんかこんな達也はちょっとばかり印象を変えられる。

 

 変わりたいのに変われない自分を哀れんで、そして自分の運命と九亜や四亜の運命を同じにしていたのだろう……。

 めんどくさいが、見ていて飽きない男である。

 

「四亜、九亜―――君たちはどうしたいんだ?」

 

 問いかける刹那に四亜も九亜も顔を上げる。その顔は少しだけ泣いていた―――きっと、研究所から脱出しようという気持ちを抱けたのは、二人の近しい人間が、真っ当な人間性を持っていたからなのだろう。

 それと同じようなことをオニキスから聞かされて感極まっていた。そんなところだろう。

 

「遠慮なく言いなさい! ワタシのハズバンドも、そこにいるミスター・ガンド―(銃道)も、その気になれば、なんでも出来る凄い魔法使いなんだから!!」

 

「プラズマリーナも?」

 

「オフコース! 何といってもプラズマリーナは、正義の美少女ヒロインで魔法のプリンセスなんだから、ココアとシアの為ならば、国土の割譲だって求めちゃうわよ!」

 

 それは完全に悪役すぎる。つーか正義の定義から外れすぎである。親指を立てながら勢いよく語るリーナの言葉に嘆息しつつも、『やるべきこと』なんて決まっていた。

 そもそも、この実験は停止させねばならないものなのだから―――。

 

 全容を明かせないが、やるべきことなど決まっていたのだ―――。

 

 

「助けてキッド……刹那お兄さん。他のお兄さんもお姉さんも―――大型の機械に入れられているのは他に『七人』―――私達の姉妹『アイ』『ニア』『ミア』……皆の『自分』が消えちゃうかもしれない」

 

「モリナガ先生が言っていた―――このまま実験を続ければ、『アナタ』が消えてしまう。だから逃げて、そしてサエグサマユミという女性を頼れって。お願いします。妹とお姉ちゃんを助けて」

 

 彼女らの申告通りならば14歳だが、二人の精神年齢はまだ小学生といってもいい。そんな歳の子が頭を下げて懇願しているのだ。

 

 ここで『これ』を断るなど心ある人間ならば、出来るわけがない――――。

 

「俺は最後までやる。最終的に日本から追い出されたとしても、他の子達を助けた上で、その『訳の分からん実験』とやらも全て消し去るさ」

「ワタシも一緒よ! 置いていかないでね?」

「ついて来てくれ。マインスター、こちらこそお願いする立場だよ」

 

 そもそも、そういう『任務』でもあったのだが、それでも四亜と九亜を助けたい気持ちは変わらないのだ。

 

 ここに戻って来るまでに達也以外は聞いたのだが、九亜たちがリーナと刹那を魔法のヒーロー、ヒロインと思ったきっかけは、彼女らの『医務担当』が、情緒を回復させるためにテレビジョン型のキャビネットを用意して見せていたことが原因だそうだ。

 

 察するに当初こそ、あまり『知恵』を付けさせるのはマズイと思ってそういう娯楽物を与えてこなかったと思える。

 しかし、九亜と四亜の眼に焼き付いたプラズマリーナとプリズマキッドの姿が、彼女たちをこうして檻の中から出させる切欠になったのだ。

 

 その気持ちを無下には出来ない。

 

「九校戦で二人を見てファンになったらしいけど、私も出場選手……負けたくない」

 

 どちらかと言えば、リーナの発言に少しばかりムッとしたらしき雫の言動。彼女もアイスピラーズでは『寡黙の激嬢』などと称されていた『主役』の一人なのだ。

 

 注目されていたのが、自分達だけだなどあまりいい気分ではないのだろう。しかし、事は海軍とことを構えることだ。

 露見すれば―――というか確実に露見すると分かっていること、今までのキャリアも何もかもおじゃんになるかもしれない。

 

 如何に北方財閥―――ホクザングループの財力と権力でも何かしらの影響は免れないはず。

 

 

「こういうのは、『はぐれている』人間の役目だと……」

 

「お話の最中に、失礼しますお嬢様。当別荘のヘリポートへの着陸を願い出ている機体があります」

 

「どこの人間?」

 

 

 そうして雫ほか全員を嗜めようとした時にティルトローター機。北山家所有のものと同じものの音が聞こえてきた。

 

 黒沢さんの言に返す雫。まさかアポイントメントも無しに来訪してくるとは、軍の関係者かと思った矢先、口ごもりながらも、黒沢さんが口に出したのは――――。

 

 

「国立魔法大学付属第一高校に現れた奇跡。らぶりーきゅーとな世紀末小悪魔系アイドル『まゆみんセブン』と名乗る方です……」

 

 夏場にしては寒すぎるその自己紹介。もうなんて言うかいいかげん空気を読んでほしいと思えるそれに対して、全員の答えがユニゾンする……。

 

『『『『追い払ってください♪♪』』』』

 

『なんでよぉ―――!? この後輩たちしょっぱすぎるわ――!!』

 

 ニッコリ笑顔で黒沢さんに返したが、それよりも早く誰かの端末に自動で接続してきた七草先輩の絶叫が響く……。

 

 茫然、唖然、どちらともいえる四亜と九亜の表情を見ながら―――『全ての役者が揃っただろうか?』 そう視線で問いかける達也に、『かもね』と眼だけで返してから、四亜の首筋に現れている『紋様』から、不味いなと気付く。

 

 この紋様もあったからこそオニキスは、保護を命じたのだ。

 

 

インベーダー(外宇宙侵略者)か……、ということは……アンチセル―――ヴェルバーの尖兵が地球に降臨するかもしれないということか)

 

 威力偵察程度で終わってくれればいいが……、やって来たならば―――。覚悟を決めるしかあるまい。

 

 

(アンタだったらば、どうしたかなんて知らない―――もしも四亜や九亜を殺すことが、アンタの道ならば―――)

 

 死んだとして輪廻転生する前に、アンタがいる座に行って絶対にぶん殴る。そんでもってそれ以外の道を叩きつけてやるだけだ。

 

 ―――お袋と一緒に―――。それだけだ……。

 

 

 役者は揃い、そして闇の中にあるモノも、準備を整える――――。

 

「さぁ、手勢は揃えた。私の『数式』に間違いはない。九と四が逃げ出したのも想定内―――あの魔法使いを連れてきてくれれば―――それで十分だ」

 

 我が円は崩れることは無い。無限の螺旋の彼方からやってきたものであろうと打ちのめす。

 

 その決意でアイズデッドは、緑色のタイツに無機質な仮面を着けたものたちと一緒に、『タケダ』とかいう少尉に同行する形で、連中が逃げ込んだ『工房』へと向かうことにするのだった……。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。