魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
「先程、娘及び『十文字克人』より、緊急の連絡が来た。各々方は、既に送信した資料を読んでいるとは思われますが、この案件に関して審議したい」
ある種、このような案件を引き当てることになった弘一としては、頭が痛い限りだったが、しかし―――この事態を静観出来るほど冷静ではなかった。
調整体の魔法師―――それを軽んじるわけがない。そして、囚われているのが『少女』、それも14歳のまだ年端もいかない子であることを知った時に、頭が沸騰しそうになった。
(何故、いつの時代も『生贄』に選ばれるのは女なんだよ!!!???)
痛みを代われるのだったら代りたかった。恥辱の汚辱を受けるのが自分ならば、どれ程、気が楽だったか……。
少年の頃のような内心の言葉の調子を殺しながら、テレビ会議に出てきた十師族の面々―――その中でもシックなドレスを着ている女性を見ながら、言葉を紡ぐ。
『九人の調整体魔法師を利用しての大規模魔法式の構築。しかも本来ならば十二人で運用するはずのCADを九人で運用させているとはな』
『明らかにこれは魔法師に対する人権の蹂躙です。即時の運用停止を求めるべきですよ』
『同時に、彼ら調整体魔法師に対するケアも考えねばならないな……下劣な事を……』
最後の三矢当主の言葉は憤慨しているものだった。知っている事ではあるが、彼の末娘は、今年で14歳……実験に使われている少女と同じであれば冷静ではいられない。
『しかし、事態は海軍と『こと』を構えます。七草師―――あちらが唯々諾々と従ってくれるでしょうか?』
一条剛毅の言葉。海洋資産関係の会社を運営しているだけに、そこの問題点を突っ込まれる。
まず無理なことは、ここにいる全員が分かっている。2000年代当初―――いわゆる21世紀に至る前の中東の湾岸戦争に端を発する近代戦争までは、魔法師の戦力化などというのは、あまり純粋に議論が為されていなかった。
しかし、武器・兵器のハイテク化で世界を席巻しようとする各国の『流れ』は、急速に変化を果たす。
本来ならば海軍・空軍の拡充及び兵器のハイテク化をするはずであった中華人民共和国の軍備刷新は行われず、旧態通りの陸軍偏重の軍備に走る。
同じくある種、世界最強の国。地球と言う人類史の覇者である合衆国においても、魔法師に対する軍事化が進められていく……。
つまりは―――魔法師と言う安易な『陸戦歩兵』が誕生したことによる変化だった。
その『流れ』の前では、兵器のハイテク化は然程行われず―――未だに世界では2020年代ごろの技術レベルの兵器が、運用されていた……。
無論、各細部のアップデートはされていても、本筋においては、あまり変わらない。
ある意味、ハイテク兵器と言えるのは……九校戦で遠坂刹那が撃ち落とした鳥などに代表される『ロボット』だろうか。
蛇足な思考を終えて、つまり海軍は、陸戦歩兵としての魔法師ではなく、『ピンポイント軌道爆撃』というある種、魔法師以前の頃の兵器思想を受け継ごうとしているのだと断じる。
「……まぁ無理でしょう。そして海軍としても面子の問題があるのだから、簡単には内情を明かせないはずです―――しかし、既に実験は起きています。この隕石爆弾が制御不可能な事態になることだけは避けたい」
そもそも十二人でやるべき実験を九人でやっている時点で、いずれ『重大インシデント』が起こることなど、火を見るより明らかだ。
魔法師のマイスターとして選出された人間達ならば分かり切っている……。だからこそ、事態解決に『自然と立ち向かう』人間の名前を挙げた。
上げた瞬間、それぞれの表情を浮かべる十師族の面々。三矢元など『こりゃまいった!』などと言わんばかりに額を叩いている。
反対に暗い表情なのは九島真言だろうか……『レッドジュエル』が動けば、そこには『スターサファイア』がいるのだから……。
当主の座を簒奪されるのではないかという危惧があると見える。
合衆国に行った叔父の孫……。それが、彼ら『クドウ』にとっては眼の上のたん瘤のようだ。
『ではお任せしていてもいいのではないでしょうか?
何だか刹那さんは危難があるところには自然と赴くというか、騒動の女神に愛されている節がありますからね』
『引きがいいのだろうな。いつでもババを引いている風に見えて、必要な手札を揃えている……息子『が』サポートしていれば、問題なく動けよう』
四葉と十文字に言われれば、その通りだ。と納得をしてしまう。そしてまずは事態解決を、『十文字克人』を名代に、全権を任せてもいいだろう。
『後始末』こそが、大人の役目なのだから………。
結論は出たことで、師族会議は解散の方向へと向かう。
しかし、少しの不安もある―――宇宙望遠鏡ヘイムダルが捉えたもの。
ラグランジュ点において、地球から月の外側の公転軌道に存在する地球に接近する小惑星などの隕石災害に対処するためのものが捉えた『物体』が、弘一には不安の種に思えた。
明らかなまでの人工物。『半壊』という表現が適当な『正八面体』……元の形がそれだったろうものが、月の公転軌道に乗っかる形で動いているという『モノ』。
人類悪、神秘の顕現、人理……人の世に、蔓延る『未明』な全てが明らかにされて、それに対応している最中だと言うのに……。
(今度は『宇宙人』まで実在するなんて言われた日には、どうしたものかな……?)
魔法師の分野ではないが対処せねばならないこと。そして古式魔法師でも知り得なかった理屈……その一端が再び、この世界に披露されるのだろうか。
そんな嘆息をしつつも、緊急の十師族会議は、終わりを迎えたのだが……弘一の前のテレビ画面には未だに四葉真夜が映っていた。
「何か用か? 真夜」
本来ならば四葉殿とか四葉師とか呼ぶのが礼儀だろうが、一斉退席して二人しかいない以上、プライベートな呼び方でもいいだろう。
そんな気安さだったが、あちらも『同じ』だった。
『特に用事はありませんが、何やら隠し事をしていて、深刻な顔をしている弘一さんの顔を見に来ました。そう言えば気が済みますか?』
「極東の魔王と呼ばれる君に見つめられて、俺の心臓は今にも止まりそうだよ。勘弁してくれ」
軽口で躱すも、弘一の心は違っていた。というか確かに心臓は『今にも止まりそうな』勢いで『早鐘』を打っていた。
今すぐにでも会いに生きたい気持ちを抑えなければならない。葉山さんにも『言われたこと』を思い出して自重したいが、こうして対面していると、昔に流行った電脳SFラブコメディ……。
主にテレビなどの回線を通じて『あちら』に行くなどという夢想であり空想を孝次郎辺りに『開発してくれ』とか言いたくなる。
そして、『寝言は寝て言え』と辛辣に次男に言われるまでがセットである。
「まぁ君に隠し事したとしても簡単にバレるからな……白状しとくよ。『今後』のミーティアライト・フォールの目標物に関してだ」
『長期のインターバルも無しに実行しますかね?』
「やるだろう。だから止めなければいけない―――そして、その目標物に対する検討が着いている。君もだろう?」
『事態は最悪を考えるべきですからね。杞憂の原因は、以前から宇宙研究者の間で話題に上っていたもの『ラミエル』ですね?』
そう。謎の天体……そうとしか言えないものが、何の目的なのかラグランジュ点にあるのだ。
もしもコースを外れて月ではなく、地球に落ちてくることあれば、そして呼び寄せる手段が、隕石爆弾であれば……。
『今は待ちましょう。事態を丸く収めるのは刹那さんでしょうが、その後は私達の出番なのですから、ね?』
小首をかしげるように『笑顔』で言われては、もはや弘一には何も無かった。
そんな真夜との何気ない会話こそが、今も昔も……弘一にとっての『微笑みの爆弾』すぎてどうしようもなかったのだ……。
† † †
北山家の別荘には別棟になっている大浴場がある。
外からの眼を完全にシャットアウトしたプライベートな大浴場。されど完全に外側の景色が見えないわけではない―――そんな豪勢な風呂場に女性陣は、四亜と九亜を連れ込んでいた。
湯浴みをさせたいと言った時に、「キッドは来ないの?」という四亜の言葉に、「行ってもいいのか?」真面目な返事。
―――女性陣全員で暴力言語(弱)での刹那への総ツッコミであった。
ちなみにリーナだけは『二人っきりの時は
ともあれ……そういった男女別という一般常識を存じず、湯浴みという生活習慣すらこの子達には与えられていなかったらしく、とりあえず髪を洗うことからだった。
身体も垢ぐらいは取れているかと思えば、少し堆積していた……この子達の14歳にしての低身長は、湯浴みなどで『垢』を落としていなかったことも原因だろう。
そんなわけで――――。
「わぷっ……リーナ、この泡は、何だったです?」
舌足らずな九亜の疑問に対してリーナは、コンディショナーを用意しながら答える。
「オンナノコを綺麗にする魔法のポーションだよ♪ シャンプーって言うんだけど、ココアも女の子なんだから綺麗にしておかないとね?」
「何だか頭がすっきりした気分です。そして、頭の後ろが『ぽよぽよ』する感覚があるです」
つまり先程まではリーナのビッグなバストの感覚を髪及び頭皮で感じ取れていなかった証明だ。四亜は四亜で、「ほのかと美月も、ぽよぽよだ。なんか落ち着く……」
そんな風景を見てから九亜を世話したかったエリカの武力介入を許さぬ形で、立ちはだかるリーナの胸にエリカはちょっかいをかける。
「にしても、リーナのバストはこうして見ると凄いわね。体育の合同授業では一緒にならないから、貴重なシーンだわ」
「エリカ、女どうしでもセクハラは成立するのよ?―――まぁご存じの通り、ワタシはアメリカ人だもの」
そんな人種的な、生物的な差異―――いわゆる競争競技における『アフリカ系黒人』と多人種との差のごとく、そういうのはあるはずなのだ。
この差は、2090年代の世界にあっても変わらないものであり、今でも『年始の駅伝』―――社会人、大学生問わず『別格』の走りを見せている……。
にも関わらずリーナと比肩しうるぐらいの人間が、純日本人の系譜で、二人もここにはいるのだから恐ろしい―――
まぁリーナも刹那に『造型』されていなければ、深雪と比肩するぐらいで収まっていたかもしれないので妙な話である。
「さてとウォッシュは終わったから、バスに入るわよ」
「初めてです―――お湯の張った大きな水槽―――ううん。『お風呂』に入るのは……四亜、大丈夫?」
「へ、平気よ! 怖がってなんていないよ!?」
調整槽とでも言うべき簡易な身体洗浄しかされていなかったわたつみの少女達にとって初めての経験だろう。怖がらなくても大丈夫という意味で、手を握り皆でエスコートして入浴。
上がったらば、あまりにもざんばらで、自然と湯の中に入ってしまう伸びすぎた髪も整えてあげねばなるまい。
黒沢さんがカットも出来るらしく、流石に美容師ほど凄い事は出来ないが、それでも展望はある。一方的かつまだ助け出していない子もいるのに罪悪感を感じる心もある。
不平等な気持ちもあるが、それでも―――この子達を見た時に、他の子たちに外への関心を持ってもらう切欠にはなるはず。
そう願いながら魔法師の少女達は、四亜と九亜を磨き上げていくのだった―――。その際に、体のどこかに『バーコード』のような縞模様のものがあるのを気付き、それが研究員たちに付けられたものではないかと悲しく想い、致命的な勘違いをするのだった。
† † † †
「おや、男子? 給仕仕事ご苦労様」
「なんの、二人は大丈夫だったか?」
エリカのからかうような言葉に、ウェイターよろしく動いてセットを完了させた全員を代表して刹那が問いかける。
「まぁね。お風呂に入るのも初めてだったから難儀したけど、女の子の命の洗濯を何だと思っているんだか海軍の連中は」
「憤慨しても仕方ないな。ただ身体環境を整えることも魔法式の安定に繋がると考えない連中は馬鹿かとは言いたくなる」
魔法師とて人間。肉体的コンディションがメンタルに与える影響は大きすぎる。そういった観点を考えないで、そうするとは、九亜達は試作品で、再び『シリアルナンバー』が作られる可能性があるのだろう……。
「それでそっちはどうだったんですか会頭?」
「何とかかんとかだ。こっちはこっちで好きにやらせてもらうさ。変な気遣いだが桐原の親父殿も海軍勤務だからな。あまり、スキャンダルにはさせたくない」
所属基地と防衛隊と艦艇勤務とでは違うと思うが、まぁ、そういう気遣いが出来るのも、この人の特権である。十師族及び魔法協会への連絡は滞りない。
そして十文字克人がもらった『フリーハンドで動け』という返事にエリカは笑みを零す。
達也の方も所属先『二つ』からの返事で大丈夫だと小声で伝えてきた。どうやら後は、全員が承諾するかどうかである。
「そう言えば、オニキスはどこにいるんだ? 何か見えないが―――」
「砂浜で少し『相談中』―――どうやら、早急に九亜達の姉妹、アイちゃんたちを救出しないと拙いかもな」
NASAの動向に近いアビーに『電話』しているカレイドオニキスの返事次第だが……何であんなものが宙の上にあったというのに今まで気付かなかったのか……。
そう考えていると、お色直しをしてきた四亜と九亜が、扉の向こうからやってきた。似たふうなサマードレスを着込み、髪も整えられたのか―――緩くパーマがかかった二人の姿は、やはり違っていた。
九亜は若干、恥ずかしそうだが……四亜は若干、誇らしげな感じ―――。そして―――。
「プリズマキッド、似合うかしら?」
「うん。凄く似合っている。女の子はやっぱり着飾ってないとな」
駆けだすようにやってきた四亜を抱き留めて、色々あって滑らかになった髪を撫でる。その姿にリーナは何とも言えない表情。
「分かってはいたけど、シアは、セツナに対して―――むぅ。怒るに怒れないわよ」
「しょうがないわね。あの子が、外の世界に憧れた最大の原因は、九校戦でキッドのコスプレをした刹那君だから、リーナも分かっているでしょう?」
「理解と納得はアナザーエニシングじゃないかしら、ミユキ」
そう言いながらもさせるがままにさせている辺り、リーナも、そういったやさしさはあるようだ。
そして二人の衣装直しと色直しをした黒沢氏が、食事を持ってくるという。
一夜の晩餐が始まろうとしていた……。
食事を取りながら一段落した所で、オニキス含めての説明を行う。
席に座っている人間の位置的には、刹那は上座ではないのだが、ともあれ説明を行う手筈。
最初に口(?)を開いたのはオニキスからだった……。
『君たち二人をモールまで連れ出した米国諜報員サンタナこと『サンディ田中』の証言で、次なるミーティアライト・フォールの実験再開は二日後ということが分かった』
「サンタナさん無事だったんだ……」
「よかった……」
安堵している二人をモールに連れ出すまでの手筈を整えたのは、基地に潜入していた色黒の日系人であり、刹那も知らない人間ではなかった。
彼は、彼女たちの担当官とやり取りをしていて、この計画に一枚噛んでいた。
その上で米国に連れ出すことを不可能だとして、九亜の担当官『盛永』氏の機転で七草家との渡りが着き、そこにUSNAスターズからの勅命があった刹那とリーナが噛んだ。
現在の状況は、その産物だ。その上で伝えられた実験再開の日にちに速すぎると誰もが思う。
「研究者の視点からだが、本来12人のものを9人でやっていて更に二つ欠けているというのに、なぜそこまで強行するんだ?」
『詳細は不明だが、海軍基地研究所の責任者『ドクターカネマル』を唆している人間がいるようだ。
名前は『ミスター・アイズデッド』。顔写真は手に入らなかったが、二十代後半から三十代入った位の人間だそうだ。国籍・人種・経歴―――全てが謎ながらも、彼の『手並み』で、此度の事になった』
ドクターカネマル…兼丸と言う名前の老化学者が顔写真と共に投影スクリーンに出てきた時に、九亜が怯えて、四亜が睨みつける。
この科学者には、家族がいないのかと思い……年齢的にはWW3で、そういうのを全て失っていてもおかしくない歳かとも思えた。事情がどうであれ許せる所業ではないのだが。
『次なる目標は不明だが、ともあれ―――作戦を考えた方がいいね。刹那、腹案はあるかい?』
「考えたんだが、要は『訳の分からんもの』に奪われてしまえばいいんだ。つまりは■■大作戦だ。」
『これでも私は『探偵』と『縁』が深いんだがね……いまさらではあるか―――では各々、どうする? こんな奇抜すぎる作戦に乗るのかい?』
『『『『『『乗った!!!』』』』』』
『おおう……何と気持ちのいい返事。しかし海軍と事を構えると言うのに、みんなして怖くないのかい?』
オニキスとしても自分の『トランス』させる人間達が、ここまで乗り気だとは思っていなかったようである。
まぁ……名目上の『魔法少女』を、『高校生』で積極的にやりたがるのもそこまでいないよな。と思う。が、いの一番の光井の言葉は力強かった。
「そりゃ怖いですよ……けれど、ここで九亜ちゃんと四亜ちゃんの姉妹を見捨てて、あとは魔法師協会任せでいいなんていうのは、それこそ夢見が悪いですから」
「ほのかが行くならば、わたしもいく―――もう『あの時』みたいに助けられる側なのは嫌」
光井と雫の言葉は力強かったが、2人は、この中でも『実戦』……切った張ったが出来るかどうか一番不安なのだが、やるならば仕方あるまい。
全力サポート要必須とオニキスに思念で伝えておく。
「私も出来ることがあるならば、やります! もう八王子の時みたいな置いてけぼりは嫌ですから」
「僕もだね。理屈じゃないんだよ。僕の魔法師としての心が、この研究を許しておけない」
美月と幹比古の返事も心地いい――――。決意は硬いようだ。
「アタシもよ。一度関わったならば最後までやっていくわ。それに―――ようやく『形』になってきたしね」
「オレもだ。この事態を静観していたならば、死んだ祖父にも顔向けできねぇ……全員に自由を、明日を掴ませてやりたいんだ」
純粋に切り合いを望むエリカとは対称的なレオの決意を秘めた言葉……気負いすぎなければいいと思える。
「聞くまでも無いだろうが、俺もレオと同じだ。『それだけ』だよ」
「お兄様が行くと言うならば私も行きますが―――この歳でま、魔法少女ですか……一色さんのを見ていたとはいえ、恥ずかしいですね」
『プロトタイプ(赤、青)ではダウトと言いそうだが、私はオールオッケーさ。まぁ君の場合、拳や杖で
「そこまで肉弾戦な魔法少女はイヤです!!! リアル思考な魔法少女は禁止!!」
だが、刹那としては、深雪がいざカレイドステッキの所有者になると、他にも『八艘飛び』したり『ケモ耳』になるのが眼に浮かぶ。
そして最後の言葉は現代魔法の使い手としては失格なのではないだろうかと思う。まぁ今さらなことではあるのだが……。
「それで会頭と会長は―――言わずもがなですかね」
「愚問だな。そして―――、まぁ……そうだな。本音を言えば『一度』はやってみたかったからな」
「意外な一面ね……私も―――一度はやってみたかったわ。魔法が『現実』に即したものしか出来ないなんていう現実を崩すような…そんな存在にね」
刹那としては、魔法師と言うのは、『魔法』という技術を、『現実』のものと『割り切って』人間能力として想っていると考えていただけに、意外である。
しかも、それが十師族というマイスターならば、『下らん妄想だ』とか言われると思っていたのに。
人の想像通りとはいかないのが人間の実像なのかもしれない……と思っていると、リーナの下から覗きこむような顔が隣にあった。
「セツナ。ワタシには聞かないの?」
「今さらだろ。昔から見ているよ……ボストンでの君はラブ・ファントム。着いてくると信じているから言わなかったんだよ」
「それならば仕方ないわね。仮面を着けたファントム・ジュエルの素顔を見た時から、ワタシの心は、盗まれっ放しだわ……」
金色の髪を撫でてから、苦笑しあう二人を見て達也が口を開こうとして―――。やめといた。
「お前ら、本当は……いや、いい。聞かないでおく……」
達也からすれば、この二人の出会いはもはや周知されているようなものだ。しかし、あんな風にアメコミじみたド派手なことをやるとは―――。
そんな達也に近づいてくる魔法のステッキが、内心での疑問に答えてくれる。
『まぁ彼の母親も、私の先代と共に『魔法少女』などをやっていたほど。
そして魔術の本質とは『自己への陶酔』だからね。ようはナルシーな人間ほど、術式が安定・向上するんだよ』
「初めて聞きましたね。その理論は……」
『まさか自己陶酔しているなんて、
槍玉にあげられていることを悟って、『うわっしゃ――!!』などと言って宙にいるオニキスを刈り取るセツナ。
『ぎょわ―――!!! 外道神父に胸を貫かれるが如き痛み―!!』などと言って明朗な叫びを上げるオニキス。
なんだこの三文芝居……と思っていると九亜と四亜が笑っている様子に、達也は、ちょっとだけ安堵する。
こんなことで笑ってくれるならば―――とてもいいことだろう……そんな思いを抱きながらも夕食は、終わり―――そして敏感なものたちは悟っていた。
多くの人間達は九亜と四亜を寝かしつけるために、尽力していく様子―――それを邪魔させないためにも、いつの時代も変わらぬ『魔法使いの時間』……『夜』がやってくるのだった……。