魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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リーナ「劣等生新刊の表紙は、ワタシ―――だけじゃなあああいいい!!!! だ、誰なのよ―――!! 思わず無淵が胸キュンしちゃったこの茶髪のポニーテールは!!!」

刹那「とりあえずファンスレッドでは、ベンジャミンの娘、君がパレードで偽装した姿、全く別の新キャラ―――色々だな。一高制服の裏地の模様が星と氷結晶で違うから。色々予想が立てられている」

リ「石田先生!! 何で今さらワタシ以上の萌えキャラを出す―――!!(涙)。ワタシこそが、ファンジンでも本家でも劣等生の『メインヒロイン』にして最萌えキャラでしょうがあああ!!!」

刹「錯乱してやがる……(遠くの方で多くの起動式の発動)。ニブルヘイムが起動する前に、すたこらサッサだぜ―――ぐぉおお!! は、離せ! 俺はまだ死にたくないんだ!!」

リ「死なばモロトモ!! 私とてスティツの女、ただでは――――」

炸裂する魔法の乱打によって二人はこの世から去るのだった……。

以上……変な小芝居でした。

いや、本当に誰だ!? うっかり成田先生のfakeの確認を忘れてしまう程でした。


第109話『夏休み 夜の暗闘』

 星と月の明かりが真黒な海に明りを添える夜の時間……。その時の中で蠢くものがいた。

 

 

 小型の高速艇……五隻。雫の別荘、この媒島の入り口は小規模な入り江となっており、入ろうと思えばはいれるし船着き場も整備してある。

 

 しかし、この高速艇の寄港に関しては事前連絡も無いし、何より高速艇側もする気がなかった……不法侵入の手筈なのだから当然だ。

 

 本来ならば、空―――ヘリを使っての『交渉』も視野に入れていた海軍将校『武田』は、アイズデッドの言う通りにしてよかったのかとも思う。

 

 だが、向かっている先にいるホクザングループの『北山雫』御令嬢は、先の九校戦でも存分に『力』を発揮した人間。無論、それと実践のカンは違うだろうが、それでも賭けに出られず―――更に言えば、夜襲という関係上。

 

 海からの揚陸作戦実行の手筈となるのだった……。

 

「少尉……そのよろしいのですか? いま我々が向かっているのは、日本でもメジャー財閥の『北山』家の別荘なのですよ?」

 

「分かっている。しかし、入院患者を引き渡さない以上、こちらとしても強硬な手段を取らざるを得ないな」

 

 野戦服に小銃を担いだ軍曹が、黒眼鏡に黒スーツの少尉に問いかけたが、暖簾に腕押しであった。

 

(『現場』を知らない背広組が、貴様らのせいで部隊の補給に滞りが出たらば、どうするんだ!?)

 

 下の人間は、上の人間の手筈で『装備品』を決められる。

 無論、現場の意見を重視してくれる『将校』もいるにはいるのだが、時に思想的・政治偏向的な一面で、ロクでもない補給が為されることもある。

 

 そして、そのツケは現場の人間の命で賄われるのだ……。汚職・腐敗・人命軽視―――上の人間次第で下はとんでもない苦労を負わされる……。

 

 そんな軍曹とは違って、事の重大性を知っている武田は、軍曹の内心の言葉を悟りながら言葉を紡ぐ。

 

(下士官には分かるまい。あの調整体魔法師達はいずれ、この日本が世界をリードしていくための戦略兵器なのだよ)

 

 かつて日本の海軍とは、国防の要だった。島国という性質上、蛮夷―――敵国がこの国に食指を伸ばす時に使われるのは、昔より海からだった。

 

 古くはモンゴル帝国の侵攻……新しきは沖縄海戦、佐渡島侵攻……全て海からの侵入だったのだ―――。

 

 しかし、昨今の海軍は落ち目である。

 軍事的な魔法師の誕生、あらゆる意味で戦場を塗り替える『機動歩兵』としての魔法師は、あらゆる『打通作戦』を当たり前にして、敵の策源地を『生身』で攻略してきた。

 

 かつて……日露戦争における勝因の一つ。バルチック艦隊を破った連合艦隊のように勇壮な海軍を作り上げる―――帝国海軍の人間こそが、日本のエリートと称される時代を―――。

 

 そんな想いの交錯―――すれ違う二人であったが―――。一つ共通する想いがあった……後ろの船室にいるアイズデッドが連れてきた―――この『奇態な戦闘兵士』をどうしたものかということである。

 

「そろそろ『射程』に入るでしょう。私の計算通りならば、最初はこちらにだけ通じる『耳打ち魔法』による警告。そしてデッドラインを超えてきたところで、恐るべき矢束の嵐でしょうね。

 実に明快! 準備をしておいてください。タケダさん、アキヤマさん―――『彼』には、あなた方の常識は通じませんよぉ!」

 

「わ、わかっ――――」

 

 

 白いコートの下に黒い肌着を着た男は、どこで『昂揚』するか分からぬ男に辟易及び動揺した瞬間に……夜の闇を進む船の上に、声が響くのだった……。

 

 

『警告する。こちらは、ホクザングループの私掠船ゴールデンハインド号のフランシス・ドレイク船長だ。貴船は現在、我が雇用主の『領海』への侵入状態となっている―――速やかに転進せよ。さもなくば、我が方は、実力で以て貴船を排除する』

 

 そんな気取った言葉に、鼻で笑うことは出来なかった。

 威圧的な……何かの『長』、一軍の『頭』を思わせる声に対して、武田、秋山ともども若干……震えているのに対して、アイズデッドは、狂想の笑みで以て答えるのだった。

 

 

 † † †

 

 

 そんな海軍の小型艇が侵入する前に勘付いていた迎撃部隊の中でも、アメリカ出身の2人が、黒沢の連絡―――該船が連絡を取らないことに業を煮やして、言葉を届けることにしたのだった。

 

 直接的な口頭警告。それすら無視するようならば『遠慮なくやってしまって良い』と雫及び北方潮氏からも言質を貰っている。

 

 北山財閥が、雇ったプライベートミリタリーという体の契約書の即時作成で、こちらの行動制限は無くなっていた。

 

 入り江の片端……突き出ている岬の一つに陣取ったリーナと刹那は、シルヴィア得意の『耳打ち』で、一先ず声を届けることにするのだった……。

 

 

「何かVoiceのリクエストはある?」

 

「―――それじゃ、声と年齢が高めのクール系『日笠』さんで一つヨロシク」

 

「オーケー…あーあー…よし。大丈夫ね。今の私はレーベル的には、『OL系女勇者』! では行くわよ!!」

 

 コイツら、何をやっているんだ。というオープン回線で聞こえてきた声にツッコミを入れたいが、CADを操作して空気振動を利用した声を届けるリーナの声の調子は、時々聞く真剣なものであった。

 

「警告する。こちらは、ホクザングループの私掠船『ゴールデンハインド号』のフランシス・ドレイク船長だ。

 貴船は現在、我が雇用主の『領海』への侵入状態となっている―――速やかに転進せよ。さもなくば、我が方は、実力で以て貴船を排除する」

 

 お道化た台詞であったが、その言葉が所属を明確にしており、届かなければ―――本当に撃つだろう声音。威嚇射撃のつもりなのか、簡単なサイオン弾…魔弾ほどではないものが、片方の岬にいる会長から放たれ、海面に叩き付けられて、水柱を上げる。

 

「次は当てる。無論、威力は、こんなものではない……」

 

 最後の脅しの言葉を掛けるリーナを前に―――転船することはなく増速。流石にすぐさま最大船速に至ることは無かったが、その前に――――刹那の刻印弓が、矢束を五隻の高速艇に雨霰と降り注がせる。

 

 無論、高速艇にも魔法師はいたようで、対抗魔法などで撃ち落とすことを企図するも、一本辺りにA級魔法師20人分の『魔法力』が込められているのだ。

 

 干渉強度・情報濃度が段違いな上に、その速さは―――相手の魔法式の投射よりも(はや)いのだ。次々と矢に貫かれていく船体。

 

 一つにでも引火すれば最後の状況。諸葛孔明の三日で十万本の矢でも作りに来たわけでもあるまい―――と思っていると、刹那の手で船体が割り砕かれる様子。

 

 矢を媒介にして『船底』に圧力をかけた……そんな所だろうか、『牛蹄の一撃』では全員死ぬからなと達也が思っていて浮き輪だけでもよこしてやるかと思っていると……水面を奔る人間の姿が見えた。その他にもダイバー装備の連中がいたのも視えたことから、最初から撃沈されると思っていたのだろう。

 

 となれば、更なる矢束が、魔法で水上歩行をしている連中に降り注ぐ。対する達也も、水中にいる連中を拿捕するべく、魔法を仕掛ける。流石に窒息死や酸欠に至らせることはないが、ダイバー装備の中でも重要なスクリューや酸素ボンベの消費が減れば、浮上せざるを得まい。

 

 

「深雪、お前は魔法を使うなよ。この場面ではお前の魔法は不味い」

 

「はい。お任せしますお兄様」

 

 プランの中にあったこととはいえ、水中からやってくる連中の上に氷を一面張っては、死んでしまうだろう。

 

 如何に九亜達を守る為とはいえ、妹に『偶発的』かもしれないが、『人殺し』はさせたくない。

 そんな想いでいたが……刹那のグガランナ・ストライクからの魔力矢を食らっても―――水上歩行している連中はすぐさま立ち上がる。

 

 ジェネレーターなどの改造兵士か、装備してある『タイツ』や『鉄仮面』に何かがあると察する。察したはいいが、何も分からないことで『レリック』か、とんでもない器物と断定。

 

 十文字会頭も壁を使って……タイツの兵士、ガタイはいい存在を圧していくが、何というタフネスなのか、吹っ飛ばされても、すぐに立ち上がるのだ。

 魔法の優位性を若干、疑いたくなる……。

 

「刹那、水上歩行している連中がマズイ。入り江に入り込まれる前に無力化してくれ」

 

『出来るならば、やっているんだが――――』

 

『――――!? まさか―――』

 

 戸惑っている刹那に代わって気付いたらしき、オニキスの言葉……最大級に厭な予感がする。

 

 

『奴らは、ただの改造兵士では無い『ピクト人』だ」

 

「ピクト人って2m以上の巨体ばかりで、青い肌の―――アレか?」

 

『ああ、魔術師の定説としては、彼らもエリンの地に残っていた『巨人種』の一つとされているが、正確には違う。

 彼らは、捕食遊星の浸食を受けた人間(エイリアン・アブダクション)

 その影響は呪いの如く『次世代』まで続いていき、そして、連綿と神代から続き―――アーサー王の時代まで、ブリテンとエリンの地にて最強の戦闘種族としてあったのだよ』

 

「けれど、さっきからこちらの魔法で吹っ飛ばされているわよ?」

 

『恐らく正確な意味でのピクト人は再現出来なかったのだろう。外側だけ『身体変成』をさせた存在だな。アレの元は生きた人間だ―――刹那、『ガンド』で打ちのめせ』

 

「いいのかね? ピクト人の『ガワ』を被っているとはいえ、ただの人間なんだろう?」

 

『だからこそだ。強烈な『呪弾』で『気付け』を起こすことで『ガワ』を外す』

 

 

 この世界の魔法師(A級)にガンドを試したことがある刹那としては、恐ろしい結果になったことを思い出して、少しばかり躊躇ってしまう。

 

 殺すにしても『アレ』は、何というか……風の噂で聞くところの『ケイネス・エルメロイ』のような様を再現するのだから……。

 

 しかし、考えている時間は然程ない。遂に話し中にも放たれていた魔力矢が、持っていたハルバードや戦斧で対応されつつあるのを見て、左手をメインにして刻印弓『第三の形態』を出す。

 

 

 地の底の冥府―――という『ある』とされている場所を思わせるオーラの放出に、幹比古が『刹那は黄泉平坂の住人なのか!?』などと失礼千万なことを言ったが、構わず―――ワインレッドの魔弾が飛ばす。

 

 それは剣のような形に研磨されていき、ピクト人(偽)を貫き、海面に赤雷を走らせ、ピクト人たちの編隊行動に影響を出す。

 

 変態的(誤字にあらず)な動きを見せるピクト人たちがこちらを向く。どうやら狙いを完全に刹那だけに定めたようだ。

 

 

『刹那、そっちに大勢向かっているが大丈夫なのか?』

 

「大丈夫だ。問題ない。一番いい弓を装備しているからな。それよりも国防軍連中の相手は任せたぞ!!」

 

 

 達也からの通信に答えてから入り江の片方。岬に殺到しようとしているピクト人達に攻撃の手は緩めない。

 

「リーナ、浮き輪投げてやれ。どうやら、ガワさえ離せば普通の人間のようだ」

 

「オーケー!」

 

 移動魔法で近くにある浮き輪の一つが、700m先に浮かんでいる……恐らくアングロサクソン系の男性の元に行き、素直に捕まる。

 

 抗魔力で保護した浮き輪なので、そんな簡単に破れはしないが、それにしても……何だか変な様子である。

 

 

(操作されていたのか?)

 

 

 そんな感想を出しながらも、刻印神()『キガル・メスラムタエア』が放つ朱雷の魔弾は過たず、ピクト人に変成されていた人間達を解放していく。

 

 その様子を観察しながらも国防海軍のダイバー部隊を次から次へと海から出させて拘束していく浜辺の人間達……屋敷の裏手、もしくは空に回ることも考えて、待機してもらっていたエリカとレオ、雫とほのかだが……どうやら正面にだけ戦力を移していたようだ。

 

 

 このままいけば―――などと思った時に、大体はとんでもないことが起こるのだ。ここ最近の案件から、達也は気を緩めることはしなかった。そうすると―――。

 

 ちょうど刹那が国防海軍の艦艇を撃沈した辺りに水柱が上がる。なんだと思う間もなく、正体は分かった。

 

 水上戦車……そういう表現が正しい器物が水上を滑走しにきたのだ。その戦車の車輪はいくつもの回転する『歯車』で滑走させているらしく、火花が海面に散っていく。

 

 どれだけの回転数なのか分からないが、その勢いは凄まじい。絶え間ない回転を与えられた水上戦車には数名の小銃持ちの国防軍の兵士が乗り込み、恐らく操縦者だろう白スーツ姿の男が中央でふんぞり返るように座っていた。

 

 黒髪ながらも恐らく日本人では無い。男の周囲にも歯車が滞空、浮遊していた……揃えられていない髪型は一見すれば不潔にも見えるが、男にはこの上なく似合っていた。

 

 直接的な視覚を必要としない現代魔法の大半ではあるが、眼球からの光情報が正しければ、難なく通せる。

 

 分解魔法―――一先ず、腕を貰おうと思った達也の魔法の前に、幹比古が精霊魔法を仕掛ける。呪符を持ち、海水を利用した攻撃。

 

 戦車の行き足を止めることを目的としたそれが……弾かれる。まるで、そんなものは効かないと言わんばかりの『弾かれ』を前に達也と幹比古が、察した。

 

「回転数だけじゃないな。あの歯車。刹那が時々使う武器(宝剣)と同じ類だ―――」

 

「……ロジックカンサ―……」

 

 言われ、言った瞬間、達也はストレージの交換を5秒もせずに行い、照準を着ける。数多もの戦い……人外魔境の戦いで自分の魔法が通じないことから開発したものだ。

 

 魔弾もその一つ。魔法力に乏しい自分では中々に難儀するが、それでも想像上では、イメージの中では刹那にもダメージを与えられたものだ。

 

 

 銃床を掌で覆いながらの、射撃フォーム。今から放つものは恐らく専用のCADでも開発しなければ、無茶が過ぎるだろう。

 

 だが、今はこれでいい―――。

 

 光り輝く銃剣のようなものがホーンのバレルウェイト周辺から円状に展開する。

 見方次第では刹那の剣環を思わせるものだが、作られた剣は短剣程度どころか果物ナイフがせいぜいである。

 

 イメージでは、槍ほどの長さになるはず。更に言えば、何かしら……『媒介となる素材』が必要だ。

 

 だが、今はこれで何とかするしかない―――バリオン・ダガー……撃ち出される必滅の光の短剣が、男を穿とうとした時に、何かの脚―――ギロチン付きのそれが前面に展開してバリオンの塊は、それを吹き飛ばすだけにとどまった。

 

 威力はとんでもなく一時的に戦車の脚も止まったが、少しの転進をして旋回している様子。国防軍の連中は仰天しているが、乗り手である男は違うようだ。

 

 

「実にいいですねぇ!!! 私を躊躇なく殺すためらいなさ!! 正体を晒せない暗殺者といったところでしょうか…… だが、あなたは私の『円』を止まらせた! その行い!! 『あの時のローマ兵』にも通じますねぇ!!!」

 

「な、なんだあの男?」

 

「―――」

 

 無言のままにバリオンの短剣を叩き込む達也に対して、大仰な身振り手振りで連動しているのか、回転歯車を操る男、その勢いのままに直進してくる様子。

 

 もはや揚陸するのに距離は無い。

 

 

「お兄様!! ダイバー部隊は会長と会頭が全員救出しました!!」

 

 その言葉に首肯して、戦車の脚を止めるように伝える―――同時に深雪の氷結魔法が夏の海に季節外れの氷海を作り上げる。

 

 しかし―――。

 

 

「その答えは、実に杜撰! 私の答えを出しますよ、あなた達のつまらない答えをね!」

 

 一端は止まろうとしていた水上戦車。実際止まった瞬間に、男は虚空からギロチン付きの脚を―――巨大クレーンを頭上から四方に落として、氷海を砕いた。

 

 何たる砕氷作業。あのギロチンの一撃で深雪のニブルヘイムが砕かれた。

 だが問題はそこではない――――。

 

「ぶ、物質転移!? 現代魔法が10年以上かけても、遂には『再現不可能』とあきらめなければいけなかったものを!」

 

 有質量物体瞬間移動―――魔法的な言い方で言えば『アポーツ』。超能力的な呼び方では『テレポーテーション』などと呼べるものを容易く男がやったことに、美月は心底驚く様子。

 

 当然、達也も驚いたが、この水上戦車とて、元々達也の眼には見えていなかったのだから、感覚がマヒしてしまう。

 だが、『可能性』を吟じるならば―――。

 

(あり得るとしたらば……この『男』が、刹那が召喚できる『将星』のような存在であるということだ……!)

 

 その可能性を考えつつも上陸を阻止せんと弾幕を張る。しかし巨大クレーンの砕氷と共にやってくる水上戦車の勢いは止まらず―――。

 

 遂に砂浜に乗り上げようとした瞬間―――達也たちの前に二つの影が奔る。男二人―――巨漢といってもいいそれが―――。

 防ぐべくやってきたのだ。

 

「西城! 遠慮なく張ったおせ!!!」

 

「オオオッス!!! パンツァー!!!」

 

 レオと会頭のコンビ。ファランクスの壁をレオの前に張った上での声合わせ。

 

 硬化した拳が壁ごとの勢いを戦車に伝えて、いざ上陸しようとしていた水上戦車の連中をひっくり返す。

 

 達也たちの後方や側面に冗談のように吹っ飛んでいく連中の中でも、黒スーツの男のCAD―――国防軍の連中の武器。衣服に積まれているものから全て分解してしまう。

 

 そうしてから吹っ飛んだ者達を移動魔法で再び砂浜に戻して、拘束したのは、ほのかと雫である。残るは―――。

 

 

「最初っから当てにしていなかったとはいえ、何とも情けない連中だ―――まぁいい。どうやらわたつみシリーズ……いや星呼ぶ巫女(アニムスフィア)たちは、無事のようだな」

 

「九亜ちゃんたちを取り戻しに来たんじゃないんですか?」

 

「ココア―――ああ、「ここのつ」のことか、黒スーツの男タケダやアキヤマの目的は、それだがね。私からすれば最終的には、『死亡』していなければ、それでいいんだ。

 寧ろ目的は―――『魔法使い』の方だったからね。君たちが拘束してくれたお陰で私の仕事は終わった。実にご苦労。礼を言うよ」

 

「お前が―――アイズデッドか?」

 

「分かりきっているだろうことをわざわざ聞くなんて無駄だと思わないかな。君の知性はかなり高いようだが……『わざ』とらしすぎるな」

 

 

 その言葉の後には、アイズデッドの両側面にドライブリザードの弾丸―――数十。七草会長の魔法―――しかし、その両側面に大量の歯車が移動してきて猛烈に回転を果たして、封殺しきる。

 

 SFアニメに出てくるバイク兵器のような展開の仕方、夜の帳に火花が散る。その幾重もの歯車を散らせて、チャクラムのように切り裂こうとして来る。

 

 軌道を逸らす魔法でも干渉しきれぬそれを前に、どうやって移動してきたのか、砂浜から現れるエリカが刀を逆袈裟に走らせた。見事な奇襲―――。

 

 足元からいきなり現れたエリカの剣戟で服を切り裂かれたアイズデッド。病葉に散る服から察してただの衣服だったようだが―――。

 動揺したらしきアイズデッド。すぐさまチャクラムを振り回そうとした時点で、頭上の脅威を察知―――。

 

 

 九校戦の裏の暗闘で使われたシグルド、ブリュンヒルデの格好の2人が、強襲の奇襲を仕掛ける。

 

 獲物を下にしての急降下。落下速度を利用してのものは、流星の如く煌めき―――アイズデッドの―――巨大クレーンごと切り裂いた。

 

 しかし、抵抗を受けたせいか致命傷はあり得ない。背中に深い裂傷二つ。深々と切り裂かれ、貫かれても―――その身体はまだ動いていた。

 急降下から白砂の大地に帰ってきた刹那とリーナが、アイズデッドを睨みつける。

 

「霊核を狙ったか、しかし一撃必殺を狙いすぎたな。そのせいで『シラクソン・ハルパゲー』を出せた。好機を狙いすぎなのだよ!!!」

 

『そう思うのは勝手だがね。君ほどの『数学者』相手に、私やここにいる『人々』の計算の方が上回っていたという事実は覆せないよ』

 

「――――」

 

『よもや、このような時代に相まみえるとは思っていなかったが、君は私にとっては『大先輩』なのだから、敬意はあるのだよ。だが告げさせてもらおう。

 アイズデッド――――『ウォーク・アイズデッド』。考えてみればつまらんアナグラムだった。

 まさか、この人理が進み過ぎた時代に己の名前が知られていないと思ったのかな? 

 だが告げよう―――シラクサの数学者、永遠の数式と円を愛するが故に、遙かな叡智を求めたモノ―――汝の名は『アルキメデス』!!!』

 

 その力強いオニキスからの宣言を受けたことで俯いていた男から何かが剥がれ落ちて―――紀元前古代ギリシャの時代の数学者は俯いていた顔をあげて叫んだ。

 

 

ヘウレーカ(我が意を得たり)!!!!!」

 

 

 星を呼ぶ少女たちをめぐる野望に介入してきた最悪のサーヴァント(将星)の狂相がそこにあったのだった……。

 


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