魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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エリちゃん効果なのかお気に入り登録数が爆上がり。ありがとうございます。

またもや新イベント―――第三章クリアしていなければ出来ないとか、初心者や低スペックユーザーに配慮してほしいと思うのは、俺だけだろうか―――と思いながらも、新話お届けします。


第114話『夏休み 断罪と懺悔の時間』

 色々と規格外すぎる二人のトンデモ技で、多くの人間の眼にも見えていた封印と言う名の壁は無くなった。

 しかし、四亜と九亜の叫びを聴いていた十文字克人ことプリズマエメラルドは、呼び掛ける。

 

「キッド・リーナ夫婦、プリズマツインズ―――ガンド―・スノー『夫婦』―――お前たちは先に行け!! ここの始末は俺たちが請け負った!!」

「次勢ガーディアンたちが湧き出る前に、みんなは行って! お願い!! 盛永さんたちごと子供達を助けてあげて!!!」

 

 否も応も無い。せいぜいプリズマスノー(深雪)が、親指を立てて泣きながらサムズアップしていることが、印象的であった程度か……夫婦呼び良かったね(淡泊)。

 

 あの飛行機の時と同じく四亜を刹那が抱き上げて、九亜をリーナが抱き上げて――――工房内部に入り込む。同時に封印式が再展開されたことで、どうやらまだアルキメデスは生きていることが分かる。

 

 内部は平常通り―――というわけではないが、どうやら外の騒乱が聞こえていたかどうかは、考えるまでも無い。

 警報音の一つも上がっていないのは、そういうことだ。

 

「実験区画は地下―――同時に研究員たちのスペースも同時だろう」

 

「秋山軍曹の情報通りならば、そのようだな。九亜、四亜―――お前たちの医務担当官の場所まで、案内は出来るか?」

 

 まだ苦手なのか、端末を覗きこんでから言った達也の言葉に、一度だけ怯えてから頷く二人。指先を向けられて下を指さされる。

 

 ここは玄関ホールと言ってもいい場所なのだが、ショートカット出来るならばした方がいい。銃口を床に向ける達也を見る。

 

「効くか?」

「やってみろ。バックドラフトは何とかする」

 

 達也得意の分解魔法で、床に大人が三人は一斉に入れるだろう大穴があけられる。ベフィス・ブリングいらずな魔法の披露と同時に、地下の区画へと入り込む六人。

 

 着地すると同時に九亜と四亜が「あっち」と互いに違う方向へ指さしをしたことで、四亜を連れて刹那とリーナが行き―――。九亜を連れて達也と深雪が目的地へと向かう。

 

 油断は無いが、それでも互いに安全を願いながら魔術師の工房を進んでいく――――。

 

 

『魔術師の工房ではあるが、アルキメデスは正式な魔術師ではないからな。陣地作成のスキルは無いのかもしれない』

「だがガーディアンの一体もいないってのは不気味だな」

『……実験は最終段階なのかもしれないな―――。セファールを呼び込む魔法式の安定には、ここを騒がせない方がいいのだろう』

 

 そんな雑談を終えると、兵士2人―――巡回中だったのだろうが見咎めたようだが、スパークと魔弾が兵士2人を行動不能にする。

 出会い頭だったことが幸いした。とはいえ、歩哨二人が気絶したことは何処かに漏れただろう。駆け足―――。

 四亜の指さしに従い、二分ほど走り回っていたら―――。一つの部屋―――恐らく拘束室だろう場所にて四亜がわめきたてる。

 

 

「ここ! ここに江崎先生がいるの! キッド!!」

「了解」

 

 流石に達也のようなディスインテグレートが出来ないので、現代魔法の一つ―――刹那のアゾット剣を結構な切れ味にしてくれた『分子ディバイダー』を用いて、分厚い壁を病葉に切り刻む。

 アゾット剣に纏わせたダマスカスブレード的な概念は、22世紀を迎えようとする最新セキュリティを無力化した。

 

「―――っ……君たちは―――四亜!? 無事だったのか!?」

「先生っ!!!」

 

 薄暗い部屋に差した光で、一瞬だけ眼を逸らした江崎研究員だが、一団の中に顔見知りがいたことで安堵した表情を浮かべる。

 そして四亜もまた研究員に駆け寄った。抱きしめて無事を喜ぶ二人を見ながらも監視カメラなどを無力化してから、達也からのコールも確認。

 あちらも見つけたようだ。

 

「君たちは―――いったい……」

「詳しい説明は省くがサンタナからの遣いと言った所だ。全わたつみシリーズを保護するように、師族経由でも依頼を受けているがな」

「そうか……サンディは、無事なのか?」

「本人は自殺することも辞さない様子でしたが、ご安心を―――大使館で祈っています」

 

 胸を撫で下ろす江崎研究員―――もう一人、三亜の担当官という古田も助けてやってくれと、言われて―――承知する。

 走りながら、江崎氏に少しばかり話を向ける。

 

「何故、こんな研究に関わった。あんた等……学徒たる魔法師―――魔法研究員だったらば、こんなこともあり得ると分かっていたはずだ」

 

「そうだな。本当に―――自分が馬鹿だった―――僕も盛永さんも古田さんも……一心不乱になれれば、よかっただけだったんだ―――死んだ妹のことを考えずに済むように生きていくためにも……」

 

 

 その眼が悲しげに虚空を見つめて―――独白は続いていく……。

 

 

 

「沖縄海戦、佐渡島侵攻……その影響は日本国内にも及んでいました。

 私の夫と娘……二人の命を奪ったのは国内混乱を狙って、魔法研究者たちを狙った超限戦を仕掛けてきた工作員たちでした……」

 

 研究所を走りながらの独白。

 盛永研究員は、あの深雪と達也にも深く関わる戦いにおける犠牲者だった。他の研究員―――特にわたつみの担当官たちの概ねはそういう事情だった。

 

「魔法大学で講師をしていた私は、あの日に抜け殻となってしまった。棺桶に入ってしまった大きな体……小さな体―――何故、こんな理不尽があるのだろうと世の中を恨みました……」

 

 その時、盛永氏の手を握る九亜が、優しくするように手を深く握っていたのを達也は見る。

 

「そして―――ある日、失職した私をスカウトしに来た兼丸所長他―――ここのスタッフ達と共に戦略級魔法の開発……二度と、あの人とあの子のような犠牲者を生まないために、日本の確固たる力を―――そんな熱い思いも、一瞬で無くなったんですけどね……」

 

 自嘲する最後の言葉で、九亜を見る盛永氏―――。結局、ここのスタッフとしては、医務担当官である人間達の大半は心が弱すぎた……『人間としての価値観』に囚われすぎたのだ……そんな刹那が言いそうな言葉を思い浮かべた。

 

「兵器として作るならば、なぜこのような少女の姿でなければならないのか、何故他の動植物ではダメなのか―――何故、命を『作り出す』などという行為に邁進出来たのか、今では後悔ばかりです……」

 

 九亜などの調整体魔法師達を、己が失った『いのち』と重ねてしまって、今回―――このようなことになった。

 それを断罪出来るものなど、誰もいない。そして何より、それは全ての魔法師が背負わなければいけない十字架なのだから。

 

 そうして三亜の担当官という古田氏の拘束室で、刹那達と合流。お互いに聞いていた話はどうやら同じ風なようである。

 

 分解魔法を扉に向けて、もう一人の罪人でありながらも、贖罪を行いたい『ジャン・バルジャン』を救い出す。

 

『ファンティーヌ』の残した『コゼット』を、自由にさせたいその想いは、決して間違いではないのだから―――。

 

 

 

 † † †

 

 

「負傷者は絶対に生かせ。最優先だ。何かあればすぐに伝達だ。この事態―――八王子クライシスと同等と覚悟しておくように。我々、警察の任務を忘れるな」

 

『『『はっ!!!』』』

 

 機動部隊を指揮しながら、きびきびと矢継ぎ早に指示を出す千葉寿和によって、混乱は収束していく。あれだけの大立ち回り、流石に重傷を負ったものはいないが、それでも医療品も治癒術者も総動員されている。

 

 そんな兄貴の意外な姿を見ながらエリカが整体治療を施す一方で、レオがルーンの刻印で軍人の一人の打ち身を治していく。

 

 

「す、すまないプリズマパンツァー……君たちがいなければ、俺は息子と同じ年頃の子を―――」

「礼ならば気にせず、全て終わってから、息子さんに家族サービスしてあげてくださいよ」

 

 快活に言うレオの姿に、エリカは―――アンタはいいのか? と言いたくなる。

 何となくこの八月下旬に至るまでに、友人全てのそれなりの『家庭事情』を察していたエリカ―――かつては『カトリ』性を名乗っていた頃の自分も知られているのではないかと思いつつ、レオに対して慮る態度は、彼の繊細な心に棘となるだけだと思った。

 

 周囲では、多くの人間達が―――空間的に遮断された南方諸島工廠を見ながら、何かの変化が起こらないかと固唾を飲んでいる。

 

 腐乱死体処理などを手早く終えた軍人さん達を背中に、最前線に仁王立ちしている男―――プリズマエメラルドこと十文字克人はその手に「棍杖」を持ち―――眼を切らずに、変化が無いかと見ている。

 その横ではプリズマオパールこと七草真由美も、その魔法式の構成に対して干渉しようとするも無駄を悟り―――夜空を見上げる。

 

 雲一つない、星々が全て見える空が、この上なく不吉だ―――この空からインベーダーがやって来る……投射された魔法があれば―――それを目印に―――戦略級魔法相手に対抗できるかどうかを十師族は考えている。

 考えて、そして―――瞬間―――身を強張らせる十文字克人。魔弾を装填する七草真由美―――。その一瞬後に―――エリカやレオにも分かる巨大な魔法式の投射。

 

「―――間に合わなかったか―――」

 

 南方諸島工廠を『砲台』にして放たれたそれは―――インベーダーの招来を告げる福音だ……。

 

 悔しげに歯を噛み締める十文字会頭の言葉の後に封印式が解かれ―――次なるガーディアンが顕れた―――黒々とした魔力で構成された人体―――影の人間。

 

 そうとしか言えないものが、克人たちの正面に大挙して現れる。

 

 

 俗称『シャドウサーヴァント』―――……サーヴァントの残留霊基。英霊の霊基を模した偽物、影のようなもの。サーヴァントのなり損ない。英雄にあと一歩及ばなかった霊体……様々な要因で正常なモノ(プラス)となれなかったもの。

 

 そういったものが、生者を羨むかのように、こちらを見据えていた……その影のようなものは、俗に現代魔法においても使用されるものに酷似していた。

 

 零式行列(マイナスパレード)。特定の人物の記憶や魔法の全てをコピーしきった『複製人間』を生み出すものに―――しかし、シャドウサーヴァントもマイナスパレードも微妙な複製なのだ。

 謳い文句だけは立派なマイナスパレードも、格落ちがヒドイものだ。しかるべき相手ならば、そういった事も出来るのだろうが―――。

 

 ともあれ、今はそんなことを斟酌している場合ではない。敵は恐らくサーヴァントの残滓―――例えランクが落ちていたとしても、その再生された技量や力は侮れるものではない。

 

 シャドウサーヴァントの中でも一番―――騎士らしい印象。影で構成された剣を持つ西洋甲冑姿に何かの装飾なのか、スパイク付きのギャロット()を幾つか鎧から下しているのが―――飛び出てきた。

 

『A――――Urrrrrrrッ!!!!』

 

 明朗では無い叫び。その叫び一つを皮切りに魔法師全部隊と12騎のシャドウサーヴァントとの戦いが始まるのだった……。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「魔弾掃射―――Fixierung,EileSalve!!!!」

 

 行儀よく入り込むことを良しとせずに、分厚い扉をぶち抜いての侵入。奇態な侵入者たちの存在に誰もが驚きながらも、観測されたデータがあまりにもあり得ないことに誰もが焦っている。

 侵入者に対する対処と観測データへの焦り―――二つで混乱状態の最中、そんな中でも落ち着いている人間はいた……。

 

 部屋の中央には―――消耗した姿だが、研究所の外で見たアルキメデスの姿。椅子に座りながら、こちらを出迎えた男に無言で魔弾を放ちたい気分だ。

 

ミア(三亜)! アイ(一亜)! ニア(二亜)!!!」

 

クロア(六亜)! ナナ(七亜)! イア(五亜)!―――アヤ(八亜)!?」

 

 しかし、今は―――先程、魔法を放ってしまった調整体魔法師の容体を見ることの方が先だ。

 達也の分解魔法で分厚い硬化ガラスを消去。そこから飛び降りるように、実験設備の置いてあるところに全員で赴く。

 

 大型CAD計都の中に収められた女の子たちに呼びかける四亜と九亜。

 

 その中でも四亜が悲鳴にも似た声を上げた女の子の容体を見る。

 

 研究員たちを押し退けて、医務担当官が震えているのをそっと退けてから―――自我喪失の進行が速すぎたアヤと言う子に気付けをする。

 

「それは―――?」

 

「……ある『錬金術師』と知り合った時に、家宝なのに……分けてもらったものなんだ。霊子ハッカーという生業の御業―――本来は精神(マインド)プロテクトを突破するためのものだが、今は彼女の自我を取り戻させるために、疑似神経を使って深奥へ至らせている」

 

 達也の言葉に答えながら、思い出す。

 シアリム・エルトナム・ソカリス―――……元の世界で知り合った人の一人―――……本来ならば、『妹たる人物』に与えられているものだったと言われたものを、八亜の首筋に撃ち込んで数秒もすると―――眼に光が戻っていく。

 

 頼りない自発呼吸が、正常なものになると同時に、「げほっ!」という声で起き上がる八亜を抱きしめる四亜―――。

 

「うーーーん。四亜いたい。なんかもうちょっと寝ていたかった気分―――」

 

 ただの寝坊助ではないだろうが、調べてみた所、かなりの精神構造―――要は八亜と言う子は、タフな精神をしているということだ。

 少しの自我喪失も、数時間で回復出来ていたかもしれないが、今この場では、当たり前の如く不味い―――。

 

 階下から再びの上昇―――奇態な連中の再登場にモニタールームの研究員たちは全員慄く。

 

「何があった? 簡潔に話せ―――一応言っておくが―――」

 

 前置きとして達也が、銃の照準を着けたのは、階下にある九亜たちの姉妹が脱出した大型CAD。

 その大質量の全てが『魔法』を掛けられたことで、砂粒に還る。

 

「俺たちならば、わたつみシリーズなどを残して、お前たち全員をああいう風に出来る。機嫌を損ねない内に、ハキハキ答えろ」

 

 若干、不機嫌気味な達也の言葉。まぁあんな風な機械に入れられていた子達を見て、平静でいられる道理はない。

 刹那とて逃げ出そうとしていた研究員一人の背中に『実体剣』でもぶっ刺したかったが、魔弾で我慢しておいた。

 

 こちらの脅しと衰えた眼にも見える魔力の程に、ただの『コスプレ集団』ではないと悟ったのか老化学者で、この研究所の責任者である兼丸孝夫は口を開く。

 ミーティアライト・フォールが今回の標的に据えたのは、月軌道にあると言われている小惑星『ラミエル』。

 

 小惑星とされているが、発見されてから、それが一種の人工物であることなど分かっていた。しかし、誰もがそれの探査をしようとは考えてこなかった。

 

 それは一種の生物的本能―――『怯え』とでも呼べるものが、アストロノーツの探究心を押さえてきた……だが、そのパンドラを開いたのが、こやつ等ということだ……。

 

 

「小惑星ジークが陸軍の戦略級魔法師に、セブンス・プレイグが十三使徒番外位によって無力化されたいま……我々が成果を示す為には、これしかなかったのだ」

 

「なんてことを……! ラミエルは、その直径こそジークに劣るが、観測された結晶構造は、計算上は体積の減衰なしに地球表面に落下するはずです!!」

 

「しかも軌道離脱のための起動式は『定義破綻』を起こしているか―――落着場所は……」

 

「南盾島か」

 

 盛永明子の食って掛かる様子を見ながら達也がコンソールを操って、エラーコントロールを起こしている原因を知る。そして落着場所もまた知れた……。

 

 

「本当の意味でのジャイアントインパクトを起こして人類絶滅を引き起こすなど、正気なのですか!?」

 

「わ、私は悪くない……実験に不備は無かったはずだ。無かったはずだ……!!」

 

『いいや、不備だらけだったよ。本当の意味で不備を無くすならば―――こんな実験、君ひとりでやるべきだったんだ。

 他者を―――幼子を利用してしか為しえない『奇跡』なんてのは容易く崩れ去る―――何故ならば、どれだけ同調を果たそうとしても、『知性』は己の生きた意味を刻む。

 だってさ……違うところだらけの『人間』全てを繋げて『奇跡』を起こすなんてのは、人類危機でも無ければ無理だよ』

 

 オニキスのいきなりな発言。しかし、その言葉を―――真に屁理屈だと言えないのは、老人が優秀だからこそだろう。

 

「―――」

 

『理屈や理論じゃあないんだ。心あるものを「機械」と同じく扱うことは出来ない』

 

「あんたの研究実験は、とどのつまり……最初っから「違えていたんだ」―――ジジイ、アンタのやっている事は、最初っから穴だらけだったのさ」

 

 言葉と同時に、刹那はA4用紙10ページほどの紙束を気流操作で兼丸のもとへと飛ばした。

 その紙束を読んでいき、読めば読むほど顔を青くする兼丸の顔に、『魔術師 遠坂刹那』の顔が『断罪』を突きつける。

 

「一人でも可能な『月落とし』―――しかも、疑似的な『天体』を作ることすらできる『叡智』を無視して、アンタは星間宇宙の涙を地上に落とすことにした。

 ただ九人の巫女を利用して……アンタのそれは―――『人間としての価値観』に擦り寄った―――ただ老いさばらえていく老人の『卑しい行い』なのさ」

 

 その時、目の前の少年が『魔道の怪物』であることに気付いて頭を抱える兼丸孝夫は、震えながら絶叫をした。

 

 その行為で、もはや兼丸という化学者が『化学者』として再起不能であることを、同じサイエンティスト及びテクノロジストとして達也は分かった。

 老人の研究を「完璧」かつ「完全」にひっくり返した刹那。化学者としてこれ以上ない屈辱を与えられただろう。

 

 老人がただの俗物であるならば、その理論を己のものとしただろう。ただ単に日本の為、国防の為ならば、その紙を破り捨てなかっただろう……。

 

 しかし―――己の行いに『無駄』と『無為』の両方を叩きつけられて、頭の中の『解』を全て切り裂かれたのだ。学徒として、ここまでの殺人をされては立ち上がれまい。

 

 この研究は……もはや続くことは無い。データとてここで完全消去してしまうぐらいだった―――。

 切り裂かれた紙が―――何かの魔法陣に吸い込まれて焼け果てる。灰となったものすら消し去られてしまう『消去術』を見た達也は―――。

 

 ここでの行いの一つに決着をつけることにした……。

 

「全員を保護しておいてくれ」

「このご老体は?」

「少しは痛い目にあってもらうさ」

「老人虐待だね」

「児童虐待をした人間でもある」

 

 言い返すも、内心で笑みを浮かべながら、達也はこの研究施設すべて……階下にあるものからモニタールームのデータ保存領域全てに銃口を向けた。

 

 深雪とリーナ、刹那の手で兼丸を除いて全員が、分解魔法の脅威から保護されたのを確認してから―――『雲散霧消』が、その力を発揮。

 

 あらゆるマテリアルが元素レベルに分解される魔法の前では、全てが病葉も同然―――部屋に狭しとあった多くの実験器物が気体レベルまで消え去った影響で、気圧の膨張が発生。

 その所為で小規模の嵐が発生して、その風の中で無防備だった老化学者は壁際まで押し退けられて叩きつけられた。頭から血を流していたものの、「私の研究は無駄なモノだったか……無価値……」などと愚痴る兼丸をもはや意識の外に追い出して―――部屋の中央で、達也の分解が効かせられなかった椅子に座るアルキメデスに眼を向ける。

 

 

「外も安全とは言えないが、ここも修羅巷になる。オニキス―――お前はリーナ、深雪と共に彼女たちを避難させてくれ」

 

『了解だが―――セファールの落着までは30分も無い……死ぬなよセツナ』

 

「俺には無い?」

 

『君は殺しても死にそうにないからなぁいだだだだ! 頑張りたまえ少年! 決して雪の娘に抓られたからではないぞ!』

 

 そんなやり取りをしてから男二人を残して、全員の避難を開始せざるを得ない。アルキメデスの戦闘準備も済みそうなのだ。

 ここでやり合うことを覚悟したアルキメデスから眼を切ることは出来ない。

 

「セツナ」「お兄様」

 

 女二人の呼びかけに、後ろを向かずに親指を立てて安堵をさせる。正直言えばリーナのランサーが『鬼札』になるかもしれないと思えば、失着だったかもしれないが―――この場は男が引き受けるべき場面だ。

 

 盛永など研究員の先導で研究施設から出ていくわたつみシリーズなど……彼女たちが完全に出ていくのを見送った後に―――、ヘイムダルなどの天測カメラの映像を宙に投影するアルキメデス。

 その映像には若干の誤差はあれども、もはや大気層を突き抜けて落ちてくる水晶体が映し出されていた。その中に―――うさぎのような耳をした『巨人』がいることを達也も確認をする。

 

 

「まもなく―――ようやくにしてまもなく―――私の目的が達成される………」

 

「キャスター・アルキメデス。お前の最終的な目的ってのは何なんだ? まぁセファールを呼び寄せるとなればクライシス的なものなんだろうけど……」

 

 

 その言葉に、穏やかな笑み―――まるで未明な生徒に言い含めるような顔をしてから、キャスターは口を開く。

 

 

「そう言えば語っていなかったな。私がセファールを呼び寄せる理由……。

 それは最終的にはヴェルバーの招来。

 ヴェルバーの招来=ホモ・サピエンス全ての文明の消滅―――頭の悪い解答だが、『人類滅亡』こそが、私の英霊としての『結論』なのだよ」

 

 その言葉を予想していた刹那と、予想の埒外だった達也とで表情の変化が違っていた。

 

 少なくとも人類史に登録されている英霊でありながら、この男は人理崩壊の可能性を呼び寄せているのだ。

 

 真逆の方向性である―――無論、英霊の中にはとんでもない亡霊・悪霊じみたものもいるが……それとて変質したものの可能性もあるのだ。

 

 だが、この男にそれは見当たらない。つまりは―――『英霊として人類の滅亡を望んでいる』。そういうことが分かった。

 

「多くを省略させてもらうがな。人類悪と言うマイナスが生じてしまったこの『異聞史』―――『剪定事象』にこそなりはしないがな。

 一度は終わらせてしまうというのが、私の答えだ。

 やはり人類と言うのは醜悪だ……。私の中での解答は変わらぬ。魔法師と言う『デミヒューマン』を生み出して、人類の歴史に溶け込ませたその醜悪さ。

 そして遺伝子構造を改造したことで出来上がった『孔』が―――、多くの『不可能』を世界に蔓延させる……だからこそ―――ここで終わらせることで、一端の終焉を迎えさせておくのだよ」

 

 人類絶滅―――それをセファールが単独で行えるわけではない―――しかし、『本体』はセファールの信号を介して―――いずれは到達する。

 

「この『流れ』が終わった所で、何が変わるかも分からない。だが、私の数式を『証明』するには―――まずはお前の『魔法』を奪わなければならない。

 これは試練だな……『ここ』にトオサカ・セツナ―――お前がいたこととヴェルバーの尖兵が宇宙に浮かんでいたことは、私にとって僥倖でありながらも―――戦わなければならない試練だ」

 

 身勝手かつ自分勝手な結論の押し付け―――。

 

 生前から、この男の本性は、恐らくこちらだったのかもしれない。だとすれば―――。

 

 

「エリリーナが来るまでに、少しはその性根―――叩き直させてもらうぞ学士!」

 

「同感だな。研究者としての全ての祖だろうが―――エリリーナのライブ前の前座として叩かせてもらう」

 

 

 その言葉を放った瞬間。何とも言えぬ表情をするアルキメデス。どういう繋がりかは分からないが、リーナが夢想召喚したランサーを完全に苦手としている。

 だから―――勝利を決めるライブの前に男二人でステージを温めるだけなのだ。

 

 そんな2人とは対称的に頭を抱えるはアルキメデスである。

 

「わ、私の計算に間違いはない! あれはしょせん、霊基を概念置換しただけで、エリザベート・バ……デミドラゴンなんぞに紛い物とは言え邪魔はさせん!!」

 

 言葉で魔力を吹き出すアルキメデス。名前を呼ぶのも忌まわしいと言わんばかりのアルキメデスに対して、棺桶から第七災厄(セブンスペイン)を出した達也のロケット弾が火を噴く。

 その号砲を元に、戦端が遂に開くのだった……。

 

 


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