魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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休日を利用して、こんな時間に投稿。

そろそろ皆さんお待ちかねのエイプリルフール企画も近づきつつありますねー。

うふふ。きっと今年のタイプムーンのサイトでは真なる意味でゴールドヒロインに覚醒したエリちゃんが待っているんだ(え)

というわけで新話どうぞ。


第115話『夏休み ほしふる夜の願い』

 研究所と基地が併設された場所なだけに、研究所から出ると、そこには先程とは違う修羅場が広がっていた。

 

 影のヒトガタと戦い合う人間たち―――その中には同輩及び先輩もいたわけで―――。助太刀を敢行しようとする前に、背中にいる人間達を保護しなければ―――。

 

 しかし、その前に気付いたらしき十文字克人からの支援でファランクスが張られて、九亜たちなどへの壁となる。

 

 

「リーナ。わたしも―――」

 

「いまはダメよ。ココアのシスターズは、消耗している。いまココアとシアも戦えば、否応なくみんなが同調しちゃうわ」

 

 言い含めてから四亜と九亜を貨物の搬入口に留めておく。今は不味いのだ。ここから完全に出ることが、死へとつながりかねない。

 

 

「お願いします。盛永さん」

 

「はい―――あなた達も気を付けて」

 

 深雪の言葉に女史の言葉が返されて、リーナと深雪は飛んでいく。特に指示は無い。やるべきことは分かっているからだ。

 

 霊性が実体と化して現実への干渉を繰り広げている以上、シャドウサーヴァントもまた実体のある『生体』だ。しかし、そこにあるサイオンウォールとでもいうべきものが硬すぎる。

 だからこそ、その障壁に対する干渉を諦めた深雪は一番―――凍結させるべき所を凍結させる。

 

 しかし『触媒』が足りない―――定義破綻を起こす魔法。殴り合いの技術を知らないわけではないが、『達人』相手ではまず間違いなく深雪はズンバラリンだろう。

 

 そんな深雪の努力を見た美月が、幹比古と雫に頼み込む。それぐらいならばなんとかなる―――幸いと言えばいいのか、周りは『海』なのだ。

 

 即座に深雪の手助けとなる魔法を掛ける。このままでは直接戦闘部隊の負担が大きすぎるのだから、当然だった……。

 

「いける。そっちは?」

 

「何とかなるよ。合せて」

 

「ん」

 

 雫の振動系魔法によって、基地の防潮壁に寄せては返していた波が増幅される。幾度かの波長に合わせて、振幅、伝播速度が最高潮になった高波を、基地全体を呑みこむ勢いで叩きつける。

 

 同時に幹比古もまた海水に干渉する。それは、基地が背としている山の方から飛んでくる水で構成された大蛇―――八体であった。

 巨大な大質量全てが海水で構成された『海の八岐(ヤマタ)』という術だ。蛇の形をとって蛇の動きを再現した海水の大瀑布が、雫の高波と同時に基地内に炸裂。

 

 いきなりな奇襲に、シャドウサーヴァント達は、水を被り―――そしてその海水の量は、体躯に差はあれども全ての影たちの脚を沈めていた。

 

 低いものでは膝丈になるかもしれない海水の大洪水―――それを受けた深雪は、十分な『水素』を獲得したことで―――再びの魔法の定義づけ。

 

 広域冷却魔法『二ヴルヘイム』が、シャドウサーヴァント達の脚を縫い付けた。

 

 

(もはやリヴァイアサン並ね。使っている人間が違うだけで、ここまで違うなんて)

 

 敵味方識別型のMass Amplitude Preemptive-strike magic(大量広域先制攻撃魔法)。そんな認識で以て見てしまうリーナ。

 事実、シャドウサーヴァントと相対していた直接戦闘部隊を避けて、冷却を足先に向けて放たれたことで、隙が生まれる。

 

 その隙を狙わない全員ではない。

 

「今がチャンス――――おおおおおっ!!!!」

 

 自分の周囲の海水の中から出て氷原へと足を着けたエリカが、氷原を足場にして高く高く跳躍。

 振りかぶった剣が、どういう結果をもたらすかなど周知。はっきりとした姿ではないが、『陣羽織』のような肩が尖った服に、エリカの持つ剣よりもさらに長い剣を持った―――。

 

『長髪』を後ろで一本に纏めた剣客にも見える―――そんなシャドウサーヴァントを落下と同時に袈裟に切り落した。

 

『妖術含みとは言え、いや―――お見事、そのような剣もあるものか。……拙者もまだまだ、だな』

 

 霊核ごとの衝撃と斬撃。シャドウサーヴァントに意識も自我も無いと知らぬエリカが、その剣客の言葉を聞いた……。

 幻聴かもしれないが、それを最後に影の塊は、黒い粒子となりて虚空へと消え去るのだった……。

 

 

「ルーンセット! エイワズ(研ぎ澄ませ)! ヤールングレイプル(雷神鋼手)!!」

 

 音声認識型CADとそれに反応する『白銀の籠手』に力を溜め込んだレオは、目の前の相手―――逆手に『歪な双剣』を持った黒影。

 レオに比べれば矮躯の相手に拳を叩きこんでいく。

 

 このシャドウサーヴァントは他の相手よりも『弱い』のか、エリカの相手とも違い、『左半身』まで氷漬けになっていた。

 

 動きが取れない左から拳を叩きこんだ。その勢いを借りて振り子のように右を振りだして―――そのラッシュを叩き込む。

 

 霊核を貫いた衝撃は、十発も放つ前にはレオにも伝わり―――。上半身を晒した影は消え去ろうとしていた。

 

『あーあ。ったくこんな終わり(刻限)かよ。しっかもルーンを込めた拳とか、イヤなモノ使いやがってよぉ。

 けれど、こんなカーテンコールも悪くねぇな…。それじゃあな。厳ついニイさん―――オレみたいな声で二重にやりづらかったぜ!!』

 

 あくまな笑い声―――しかも、言われた通り自分の声に似ていて、何かヘンな気分になったレオは、その影が消えた所にあった『歪な双剣』……実体を伴ったそれを拾い上げて、とりあえず戦利品としておくのだった。

 他の連中はどうなっているかと言えば―――十二体のウチの二体を受け持ったエリカとレオに対して、残り十体の内の一体がゼニガタと千葉寿和の両斬撃で倒されて、残りは九体。

 

 二体は『光』を増幅する『月鏡』によって疑似的な『熱光線』―――そして、そこからの魔弾……カレイドバレットの放出系術式の交差で消え去る。

 光井、美月、七草の連携が決まった形だ。しかも美月が『魔眼』で霊核の位置を見抜いた上での放射だったのだから当然だった。蟻の一穴を穿った勝利である。

 

 

 残り七体―――その内の五体は、リーナが手に持ったごつい槍と『ブリオネイク』の変形『ランス』の双槍術で、沈黙させられていた。

 

 刹那(ダンナ)がいないならば、自分がそれをやるのみだと言わんばかりの見事な戦闘術で終わらせられていた。

 そして二体は、棍杖の『魔力』を解放させた十文字克人の真っ直ぐな突きが一体の霊核を貫き、そのまま横なぎでもう一体を打擲。

 

 

「ふっ!!!!」

 

 一点集中させた衝撃が鎧騎士の上から臓に当たる部分を叩き、同じく影の粒子に変わる。

 

 一瞬の間隙を貫いた形。その為には事前の打ち合わせも無しに、これだけのことをやらなければならなかった。

 基地内から氷原氷床が消え去る。シャドウサーヴァントの消滅による魔力の干渉が、深雪の魔法を持続させなかったようである。

 

 残るのは、一瞬だけ息を突いて窮地を脱したことへの安堵。そしてぴちぴちと陸に打ち上げられた魚たちが若干可哀想な感じ。

 

「助かったは助かったけど、やり過ぎじゃないかしら?」

「結果オーライということで、そこは流してやれ。それに水の魔力を受けない相手だったらば、余計にヒドイ結果になったかもしれない」

 

 一体残さず拘束してしまうには、あれだけの水量が必要だったのだ。同時に深雪としても、未熟を感じていたのだ。

 四葉の次期当主と目されている自分が、他人の手助けありでなければ敵を『凍らせられなかった』のだから―――。

 

 先輩二人の言葉に恐縮する幹比古と、傍目には平然としている雫。対称的な二人あってこその結果……。

 

 そうして拳を握りしめていた深雪だったが、肩を叩かれて振り向くとそこには特徴的な『エリザベート』なリーナの姿があった。

 

「ミユキ、そんなロンリーウルフな考えってどうかと思うわ。アナタ1人が強者だなんて世の中、つっまんないわー」

「リーナ……」

 

 軽口の調子であるが、自分の中の懊悩を見抜いたリーナに少しだけ胸が痛むも、構わず言葉を続ける。

 

「それにそういう考え(マニフェスト)って、ちょっと前のワタシやセツナみたいよ? 肩の力抜けば、アナタは高位のマギクスなんだから、ね?」

 

「分かってますよ……そんなことは―――」

 

 ただ―――兄の手助けをするには、兄の出来ないことを出来るようになっていなければならない。

 この場に兄がいれば、深雪に『足止め』を願ったうえで、必殺の一撃を叩きこんでいただろう。そういうことが出来ない身が辛かったのだ。

 

 そんな意識と目標が高すぎる後輩に苦笑する先輩二人……九校戦で知り得た情報では、彼女も当主候補なのだから……。

 

 そうして意識の外に外れていたが、わたつみシリーズが完全に外に出てきた。その簡素な衣服と髪の様子に、誰もが悲痛な心地をしてしまう。

 

 

「怪盗少年少女達―――司令官などの高級将校たちは拘束したんだが……まだ『終わっていないんだな』?」

 

「はいゼニガタ警部―――ですが、島民たちの一時的な避難を願い出たい」

 

「ああ。今さらながら、小惑星にも似た物体がこの辺りに落ちてくるそうだな―――防げるか……!?」

 

 ボロボロの衣服でも長十手を離さないゼニガタ警部……端末から読み込んだ情報よりも早く―――その不明物体……。

 空の彼方より光を伴いやってくるものがある。丁度『ナッシング・マギクス』という映画に出てくる『隕石災害』―――……そんなワンシーンにも似た光景が、夜空に広がっていた。

 

 光の尾を引きながら、堕ちてくる場所は―――、ここ以外にない。

 

 

「あんちせる……」

 

「せふぁーる―――」

 

「きょしん……■■■ら……」

 

 うわ言をつぶやく……わたつみ『姉妹』たち―――その様子を聴いてから眼をソラに向けたオニキスは、『速すぎる……そうか! それでも波がやってくるぞ!!』―――。

 

 その時―――南方諸島工廠が火柱に包まれた。全てを灼熱の中に置き去りにする盛大なものだ。魔力の火柱がまるで何かの剣のようにも見えるその中にいたはずの人間二人―――その末路を予想した人間が絶叫する。

 

 

「た、達也さああああん!!!」

 

「せ、刹那……そん、な―――」

 

 その灼熱の中に取り残された人間がどうなるかなど、分かりきっている。

 

 分かっていたからこその絶叫と悲嘆だったのだが―――、ぼごっ! という音で基地の舗装路面が盛り上がる。それは断続的に続き、最後にはコンクリートを跳ね上げて、人間三人が出てきた。

 

 土まみれの煤塗れの格好ながらも、そこには確かな生者が存在していた。

 

 

『無茶したものだね。地中に潜ってソーラ・レイを回避したのか』

 

「正直死ぬかと思ったがな。げほっ! 何とかかんとか生きている……」

 

「アルキメデスの宝具……『カトプトロン カトプレゴン』……か。ほのかにも見せたかったな。あれこそが光波振動系魔法の究極系だろうからなっ!?」

 

 

 台詞を途中で遮られた形になったのは、プリズマシャイニングこと光井ほのかが、プリズマガンド―に抱きついたからだ。

 急な行動と疲労の為に、達也も回避出来なかったが……そのほのかが泣いていれば、その行動を受け入れざるを得ない。

 

 

「キャスターは?」

 

「仕留めていない。どうやらセファールが来ることを察しての宝具解放だったようだな……」

 

 恐らく南盾島の沖―――小笠原諸島全てを呑みこむかもしれない波を予想していたが……『制動』がかかろうとしているのを見る。

 

 セファールを己のモノにするために動いたアルキメデスだが、まだこの辺りにいるはずだ……。

 

 

「にしてもどうやって、ここまでやってきたんだ?」

 

「まぁ地中に穴ぼこ開けて、このジジイごと飛び込んで『熱線』を回避したんだが、その後は目測を着けて横穴を広げてここまでやってきた」

 

「汎用性無い魔法師であることが、ここまで悔しいと思った事は無いな」

 

 気絶した兼丸孝夫を官憲に引き渡しながら、レオに説明をする。奴が熱線を地上にいる『こちら』に向けて放った時に―――『防ぐ手立て』はあった。

 

 達也と自分を守る手段はあったが…その時にはジジイが死んでいただろう。

 いくら人格破綻の外法使い……というには『まだまだ』だが、そんなのでも生かして置かなければならなかった。

 

 よって―――達也に地下区画までをまるごと分解してもらったうえで、強化土壌の人工地盤も分解した上で、深い塹壕の中で熱線を回避。

 あとは若干、湿り気ある土の中を横に掘り進めていき、エレメンタルサイトを持つ達也の目測―――酸素が若干足りないのは刹那がフォローしつつ、ここに辿り着いたというわけである。

 

『対軍宝具としては、そこまでランクが高くないんだろうね。あるいは、日光の権能が『大規模太陽光発電』で奪われているからかもしれないな』

 

 もはや、サーヴァントの宝具の力にすら作用するほど人理が刻まれていると言うのか……? オニキスの推測に若干、寂しい想いだが―――少し違う結論を出しておく。

 

「あるいは、ヤツ自身……『地上』から排除されているのかもしれない」

 

『ふむ?』

 

「あの男の目的はホモ・サピエンスの全滅。でありながらヤツ自身は英霊として召喚されている。アラヤもガイアも、この『地球』での力の行使を制限しているのかもしれない」

 

 アルキメデスの熱線放射を食らいながら、魔眼の幻視で見えた月の玉座をめぐる戦い。その中でどこまでも立ち上がった人の想いが、刹那を貫いた。

 そしてアルキメデスの月での企みも全て見えた。

 

 あの男にヴェルバーを招来させてはならない。その願いも受け取ったのだ。

 

 

『ならば勝機は、いや『交渉』の一手は、あるな』

 

「呑気に語っていていいのか? 大質量が制動を掛けているのは俺にも分かるが、アルキメデスがあの巨人の力を奪おうとするならば、近くに現れるんじゃないのか」

 

 深雪の手によって土汚れなどを払われた達也の言葉に対して、殆どの誰もがうなずく。

 あれだけの大質量が減速なしに落着すれば、大津波などというレベルではすまない。被害は小笠原諸島だけではすむまい。

 

 そんな予測は何かされたのか、『何かした』のか……緩やかな落着となっている。

 そしてよく見ると―――『星舟』の表面に手を着けている男が一人……そして知ったのだろう。

 

 セファールの『真実』を………。そして遠くで『エウレーカ!!!!!』と叫んだのと同時に、刹那は番えていた弓から矢を解き放つ。

 

 空間ごと『捻じり切る』剣の射に対して、アルキメデスは貫かれるも、まだ生きていることに「しぶとい……!」と感想を一言吐くと、その射が契機だったのか空から落ちてきた人工物……。

 正八面体の全てに罅が入る。全員からいいのか? という視線―――それに対して刹那とオニキスは―――。

 

 

「――――」

『――――』

 

 ただ沈黙あるのみ。その心と眼には何が宿っているのか―――正八面体の中に眠っていた―――巨人の姿が既に見えている。

 

 ざわつく一同。それらを背中にして、その眼は天空からの使者を睨みつける。正八面体―――宇宙からの人工物が遂に物理法則に晒されたのか、内外の気圧差によって完全に砕け散った。

 

 その中から白い巨人が完全に姿を晒して、海に叩き付けられる寸前に――――。

 

 

『■■■■■――――』

 

 歌うような声が、響く。それは魔法師でなくても感じる……眩暈をおこすような最大級のサイオンとプシオンの『音』……。

 

 魔法や魔術による波動(おと)ならば分かるが、魔力そのものが『振動』(おと)を発するなどあり得ない。

 

 だが、それこそが先史文明を葬り去ったことの証左―――あんな『魔力の化け物』が地上で暴れたならば、一たまりもない。

 達也とて分かる。あれは分解できない。何故ならば、構造物質がそもそも『地球』に由来しないものばかりで構成されているのだから……。

 

 だが―――そんな巨人は海辺に落着する寸前で己に制動を掛けた。そして、その身には大きすぎる両掌を胸の前で重ねて、祈るような姿勢のままで直立していた。

 幻想的な光景……その身に輝く紋様は、異星の使徒の証なのだろう。その頭から伸びる触角は―――九亜の描いた絵の通り『うさぎ』を思わせる。

 

 その額に輝く紋様もまた―――達也の知識には無い。如何に地球を滅ぼすインベーダーだと分かっていても……根源的な恐怖も感じる……その御身は女神のように美しかった。

 

 そんな一同の沈黙を破るように一声を発したのは、対アルキメデス用決戦兵器たるエリリーナからだった。

 

「呼びかけてやりなさいココア。アナタの声を―――『あの人』は待っているのよ」

 

「「「「「――――」」」」」

 

 絶句する面子を置き去りにして、リーナの言葉に応じて港の縁にまで寄っていった九亜は呼びかける。

 

 呼び掛けは、明朗な言葉ではないが―――その言葉を聞いた時に―――。

 

 

『ちいさきもの。はかなきもの。私とおなじく己を『機械』(モノ)とされる運命を悟ったものよ―――お前は、いまを否定するのか?』

 

 

 明確かつ明朗な言葉を発する巨神に、誰もが度肝を抜かされる。しかしココアとの会話は続く。それを見守るのみだ……異星人とのコンタクトに必要なものは、子供の純真さなのだから……。

 

 

「ううん。アナタに呼びかけた時の私は全てを壊したかった。外の世界を知る事も出来ずに『九亜』(わたし)がいなくなることが嫌だったから……アナタにお願いした」

 

『いまは―――違うのか?』

 

「うん。世界を恨んでいた私はもういないの―――、夜空の星々の下にあった全ての綺麗なものが、わたしはすごいものにみえたの。

 もちろん全てがそういうものじゃないことも、分かる気がする。影のドンやフィクサーみたいなものが、世界を汚すかもしれないって分かっていても―――それでも、この眼で見た世界は――――」

 

 

 愛しくて美しいものだった――――。

 

 だからこわしたくない。こわさないでください――――。

 

 ―――みんながいる世界にわたしもいきている―――。

 

 ……生きていたい―――。

 

 最後の声と言葉は九亜達―――九人姉妹が揃って言ったものだった……。その願いに研究所の医務担当官である盛永達は泣き崩れる。

 

 言葉の意味の深刻さと彼女たちの来歴を推察した人間達が、同じく涙を拭う。

 

 

『―――そうか……よかった―――私はまたもや―――『輝き』を失わせるところだったのかもしれない……魔法師という文明を―――悪い文明だと決めつけるところだった……』

 

 

 その時―――セファールの身体が変化を果たす。白い身体が剥がれたその下の姿は、茶褐色の肌、白銀の髪。

 衣装は若干露出度が多い―――どこか遊牧民族を思わせるものを身に纏う『巨人の少女』が現れた。

 

「アルテラさん……」

 

『ココア、アナタを助けたものを尊重します。アナタに色彩を与えたものに、敬意を表して――――この身を―――』

 

 

 その時、何かをやろうとしていたセファール=アルテラの胸を―――『槍』が貫いた。

 

『巨人を貫く槍』は、その通り巨人の如き大きさであり……鮮血が、海に散る。

 

 

「――――『獲ったぞ』!!! 生け捕りに、支配しようとするから『前回』は失敗したのだ!! 今度ばかりは、貴様の『力』と『管制塔』だけを我が物とする!!」

 

 

 奇跡の夜に場違いな哄笑が響く。狂笑が響く。その笑みを許しておけない。その声は全てが耳障りすぎた……。

 眼を剥いて憎悪の眼で『巨神殺し』を実行したアルキメデスに、全力のシャウト(叫び)と数百の宝具が―――正面(真横)から叩きつけられる。

 

 二重の衝撃を食らったアルキメデス―――しかし、それでも生きていることに驚愕して―――最後の戦いが始まろうとしていた……。

 

 


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