魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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後日談一話挟んで、『星を呼ぶ少女編』は、終わるかと思います。

その後は選挙編かそのまま横浜にするか、選挙編もあーちゃんに『一高四天王を新設します!!』とか言わせたというので、いいのかもしれませんが―――その間にあるドリームゲームも、さらっとダイジェストで流そうかとも思います。


あまり重く受け止めずご期待ください。読み直さなきゃなぁ(汗)


第117話『星が瞬くこんな夜に 願い事をひとつ』

 氷海の地表に降り立つアルキメデスは、ここまで計算が狂いながらも……最後まで計算を行い続ける……。

 そして理解する―――これはもはや『詰み』なのだと……。

 

 空には九騎のワルキューレ。そして地上には、軍神の剣を携えし魔法使いと―――ワルキューレ達の長姉の霊基……と何故か、『竜翼』をばさばさはためかせる様子―――混合した霊基を持つ存在がいた。 

 どこまでも出しゃばる反英雄である。座から消し飛ばす方法を考えたくなる。

 

「そろそろ終局だ。お前が奪ったもの全て取り戻させてもらう」

「つくづく計算を狂わされる……! だが、これも『魔法』を奪う試練だと言うのならば―――乗り越えるしかあるまいな!!!」

 

瞬間、いつの間にか、作られていたのか殺戮機械とでも言うべき野良傀儡が氷海の蹂躙者として現れた。

 そして数体のシャドウサーヴァントも現れる。どうやらこれがラストオーダーのようだ。だが―――この男、数学者としては優秀でも、戦場の輩としてはかなり『計算』が甘いようだ。

 

「さぁ! 戦いの始まりと行こうかぁ!!!」

 学士の威勢のいい言葉―――それに対して前進する殺戮機械―――応じて、刹那たち怪盗旅団は全力で『後退』した。

 

「―――――――なっ!?」

『open fire!!!』

 

その時、南盾島基地所属の兵士たちによる一斉攻撃が―――アルキメデスの『横っ面』をひっ叩く。

 自分達にかまけて島側からの攻撃を完全に忘れていたようである。破壊されなかった基地機能の一部を使っての援護射撃―――稲垣という刑事さんもまたハンドガン型のCADで、ギロチン付きのゴーレムの脚部を叩いた。

 そうして『狙撃』された敵を大火力で打ちのめす。上手い戦い方である。

 研究所を焼き払った事で油断していた様子だが、生憎2090年代の現代機械の機構はそこまで『やわ』ではないのだ。

 

「いい感じに援護攻撃が決まっている。やるぞ!!」

「熱気が心地いい位だ。若干、夏場にしては寒すぎたからな」

 

 狙うは一つ。キャスター……否、『フォーリナー・アルキメデス』の魂一つ。怪盗旅団の前線を務める人間達が、ここに来て前に出る。

 

 狙われたことを悟ったアルキメデスは、狂相を浮かべながらも殺戮機構を繰り出して接近を阻もうとする。

 しかし、ここに来て若干ながらサーヴァントや超常の外法使いに対する対処方法を覚えた後衛部隊が、対抗砲撃を繰り出す。

 

 決して魔法式の重複でのキャンセルを発生させないで放たれる『魔法』……物体の情報次元に対する干渉ではなく、物理的な『権限』を果たした魔力の現象は、その時点で―――物理的な器物という側面を持つことになる。

 炎が上がれば、それは確実に大気中の酸素を燃焼させて燃え上がるし、雷を発生させようとすれば大気層に静電気放電が出来上がる。

 

 放出された『魔法現象』であれば、相手の『能力』にもよるが、効かせられる。ゆえにこの場においては、幹比古と美月が一番の要であった。

 幹比古が敷いた古式の神秘層―――『工房』『神殿』とも言える魔術的な側面で以て、踏みしめているこの氷海一帯が、そういうものに変貌していた。

 

 そして、魔眼の一種でもある美月の眼が、現象を『確定』させて世界の法則を確固たるものにしていた。

 バルトメロイ・ローレライ(ザ・クイーン)の率いる『クロンの大隊』の結界逆相術式―――その『応用』であった。

 

 その神殿が完成した時、深雪が己の側から走らせた灼熱の息吹が、殺戮機械たちを完全に溶かした。

 地走りのように氷の上を滑った炎の波にのまれて一団が無力化された。

 

 そうして現代魔法師の術理が『自分達』の側になったことを知ったアルキメデスだが、その時には盛大な魔法の乱舞が自分の手勢に襲い掛かっていた。

 ドライアイスの弾丸の乱舞が、震動破壊が、氷結と灼熱の混合が……激突しようとしていた戦士の援護として突き刺さる。

 しかし、それで動揺するアルキメデスではない。最終的には『魔法』を手に入れられればいいだけ。その為の秘策ぐらいあるのだ。

 

 それらの殺戮機械を退けて、シャドウサーヴァントの群れが近接戦型の連中に襲い掛かる。

 

「幾らナメているとはいえ、もうちっとマシなの寄越せ! こんな中級死徒にも劣る様なのがサーヴァントなわけあるかっ!!」

 

 刹那の持つ剣の刃が『鞭』のようにしなり、あり得ざる角度からの斬撃であり打擲が影絵のものを一蹴する。

 他の連中も同じく―――といきたかったが、剃髪した修験者、武僧……どことなく八雲に似ていると思えた達也が、その瞬間を見届けた。

 先程までの戦い。剣客タイプのシャドウと戦っていたからか、その刀剣型のデバイスがバキンッ! とものの見事に砕けた。

 

「ゲッ!?」

 

 女らしからぬ声を上げたエリカが被害者であった。

 その長柄の槍―――黒いが形状から十文字槍と見受けたものが、穂先の引っ掛かりを用いて見事な捌きで砕いたのだ。

 

 不味い―――無手ではないが、他の得物ではズンバラリン間違いなしな状況。猫のように氷原を飛びながら、十文字槍の追撃を逃れる。

 しかし敵も然るモノ、刹那が得物を与えようとした一瞬……。

 

「エリカ!!」「お嬢ちゃん! これを使え!!!」

 

 槍のシャドウの前に立ち塞がる二人の刑事。そして守られたエリカの正面には長十手と―――『骨刀』が抜き身で突き立っていた。

 

「兄貴! これ!?」

「遠坂君の鍛ち直しだ! 四の五の言わず―――!!」

 

 その時に、貫かれた勢いで吹き飛ぶ刑事二人、目の前には槍のシャドウサーヴァント。その十文字槍の軌跡は、眼で追い続ければやられる類だ。

 気配を察して、その上で『十一』の型―――全て、どこからでも必殺に転じられるものを封じる。巨大な刀剣双振りを持ち―――対峙し合う。

 

 ―――行けっ!! そう眼で言うエリカに従い、他が走る。そんな自分達の前に一際強力なシャドウが立ち塞がる。

 

「アルキメデスめ。ここに来てシャドウの霊核を強くしてきやがった……」

『奴もセファールの力を得ているからな。暑苦しい霊基に、凍えつきそうな霊基と両極端だな!』

 

 暑苦しい霊基と言われたシャドウが走り出す。その手に抱えている『大砲』を撃ち出すそれと、相対するのは達也だった。

『オーララ!』と、声を発したかのように見えて、その実大砲の音であり、撃ち出された砲弾を分解する。

 

 難儀な作業だ。巨人の投石ですら、『巨人』という『神秘』の存在が投げつけた時点で石は神秘を帯びていると言う話。

 巨人と戦った事が無い達也では想像もつかないが、恐ろしい光景だろうなと思えた。そしてどこの『英霊』だかは知らないが、この影で構成された大砲を持った存在も、その例に違わないのだろう。

 

『恐らくそいつは、己の辞書(生き様)に不可能という言葉が無い男の影だ。気を付けろよ!!』

「皇帝陛下か、面白い。近世の英雄―――あなたの大砲が、俺の銃の原点でもあるんだからな」

 

 大砲持ちの影英霊と相対しあう達也は、セブンスペインという大砲杭打機を持ちながら―――この戦いを『楽しむ』ことにした。アルキメデスなどよりも、随分と馴染みがある人間でもあるからだろうか。

 どうでもいい―――ただ、この戦いを選んだのだ。火薬砲弾と魔力砲弾の撃ち合い。時には砲自体を鈍器として殴打もするその戦い―――。

 その中で達也は笑みを浮かべていた。

 

 達也とエリカが拘束されたとしても歩みを止めない四人の前に―――巨躯の大男(?)が現れた。凍えつきそうな霊基とオニキスに称された英霊は、どこの出自か……。

 

「イヴァン雷帝……『あり得ざる可能性』までも呼び寄せたのか!?」

「達也に続いて、こっちも皇帝陛下かよ!?」

「俺と西城で抑える!! クドウ、遠坂―――お前たちは先に行け!!!」

 

 身体を強張らせるだけで雷気を放出している皇帝は、猿神―――恐らくハヌマーン系列かもしれない魔力であり、化成体を纏ったレオと、槍衾のような突起を伸ばしたファランクスを纏う会頭に抑え込まれる。

 

「行け!!」「立ち止まるな!!!」

 

 その声に後押しされて、遂にアルキメデスに襲い掛かる。槍剣絶技の応酬の狭間に、リーナの放つ雷霆交じりのソニックボイスがアルキメデスを襲う。

 後ろにいる連中との力の差は歴然だ。アルキメデスの思考は、十分に冴えわたる。

 

(やはりこいつらは別格か? かといってシャドウサーヴァントで抑え込めようとすれば……『召喚』される危険がある)

 

 回転歯車で抑え込もうとするも、段々と抑え込まれるのを感じる。純粋なセイバーと亜種のランサークラス相手に、元がキャスタークラスではどうにも間尺が悪すぎる。

 というよりもである……呼吸、間合い、魔力の使い様―――それら全てがアルキメデスとは相性が悪すぎるのだ。

 

 リーナの戦いにたいする心理は、赤き情熱の王(薔薇の暴君)にも通じるものがある。理屈だったもの(現代魔法)を若干、魔法使いによって解されたといったところか。

 致し方ないが、このまま力比べでは、こちらの負けとなる。

 ならば――――――。殺戮機械を存分に吐き出す。宝具を使うとなれば―――それだけだ。

 

 

 ――――虹色の光剣が一閃するごとに殺戮機械を破壊していく。アルキメデスの狙いを刹那は看破していた。あの第一戦である研究所でのことから承知済みである。

 だからこそ―――虹色の光剣を振るう片方で、オニキスの転送で、2090年代では電子化された端末ばかりで巷ではほとんど見かけない『製図入れ』『図面ケース』とでも言うべき『筒』を手にした。

 同時に魔力を通して『封印』を解いておく。

 

 殺戮機械の殺到で視界を遮られたアルキメデスには分かるまい―――。

 刹那のとっておきが―――エース殺しの『鬼札』(ジョーカー)が切られたことが……。

 

 そしてアルキメデスは『真円』を手に宝具を頭上に展開。ナポレオンとの撃ち合いで杭を打ち込んだ達也が焦った声でこちらを呼んでいる。

 殺戮機械の掃討をしてこちらを見たリーナが、拳を握りしめて「ヤッチマイナー」とでも言わんばかりの笑顔。

 だから―――何も心配する必要は無くなる。

 

「完璧なる式! 完璧なる数を見せてやろう!!! 終末の時だ!!!!――――」

 

 六角形の鏡が20枚以上を用いて真円を描く様子。そしてそれらが適切に配置されて、反射レーザーはこの氷海を全て融かしつくし、足場を無くすだろう。

 それだけならば、どうにでも出来そうだが、まぁ死ぬ可能性もあるか。

 

 だから―――この男の思う通りにはさせたくない。何もかもを台無しにするぐらいの嫌がらせは許されるはずだ……。

 飛び出してきた鉛色の鉄球が、刹那の右腕と反応しあう……。

 

「アンサラ―……」

 

 右拳を溜め込む姿勢。右肩にあるバゼットから譲り受けた『神代刻印』が、あり得ざる現象を抹殺せんと刹那の身体を苛むも―――こんなもの―――誰かを失う痛みに比べれば―――『刻印』の前の持ち主が死んでしまった時に比べれば―――。

 

(痛みでも何でもないっ!!!!)

 ルーンリングが、鉛色の鉄球を包むように展開されてから、球を基材として短い刀身が形成される。

 その歪な―――到底武器としては使えないものが放つ魔力に眼を焼かれそうになる達也と美月だったが、驚くべきことが起こる。

 

集いし藁、月のように燃え尽きよ(カトプトロン・カトプレゴン)!!!!」

 

 遂に―――自分達全員を焼き尽くす炎が放たれた。ダメ元で達也がマテリアル・バーストを放とうとした時に、深雪の悲痛な声が聞こえた時に―――。

 

「―――斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!!!!」

 

 刹那による、もはやタイミングを逸した剣の撃ち出し。拳を使って撃ち出された剣が―――光速の域に至っても、手遅れだったはずなのに――――。

 溶け落ちた海の中に飛び込むことすら考えていた達也の思考すらも切り裂かれたかのように、『何も起こっていなかった』―――。

 

 あらゆる熱気も、魔力の昂ぶりも、マテリアル・バーストの起動式すらも―――無くなって―――否、一つだけ変化を見た。

 

 アルキメデスの胸に穿たれた黒い空洞。バカらしくなるほどに小さな穴が穿たれて―――その後に、アルキメデスは血反吐を盛大に吐き出した。

 そして背中から突き出る多くの武器―――身体から出てきた刃物の多くに本気で痛みを堪えている様子だった……。

 

「ぎゃ、逆光剣フラガラックだと……!? き、貴様―――確かに『無銘』の血があるならば、否、無銘の血があったとしても、お前では完全な発動は不可能だ!! あれは神代の魔術特性を完全に持った者にしか出来ぬ秘奥だ。

 真名解放を果たしたとしても、フラガ―――太陽神ルーの血筋に連なる形でなければ、それはただのDランク宝具の撃ち出しのはずだ!!!

 いや、違う。お前は―――どんな『魔法』を備えているのだ!? そんなことは―――― トオサカ・セツナ!! 貴様は『第二』ではなく『第――――』―――」

 

「そこを――――動かないでよ!!!」

 

 あり得ぬ論理を吐きながらも、血反吐を氷原に撒き散らすアルキメデスに追撃。真上から竜骨槍を突きさして、氷に背中から磔にしたリーナ。

 ただでさえ大ダメージで、プシオンが分解されて放散される様子に終わりを確信するも―――――――――。

 

「この!!!! ニンゲンどもがァアアア!!!! 私の円を踏むんじゃァアない!!!!!」

 

 言葉と同時に己の身体を巨大化させるアルキメデス―――。ここで最後になる様子を感じる

 

「出るものを出したか!」

『ラストチャンスだ。奴を完全に討滅することでヴェルバーの発信器を砕け!!!』

 

 セファールのように白く巨大な人間体となったものが、氷原を這うように進もうとした時に、エリカが相対していた槍使いが澱んで、助走からの大斬撃が奔る。

 完全に立ち合いの常道から外れた技ではあったが、それでも二刀を使って繰り出されたそれは、影の槍使いを散らしたままにセファール・アルキメデスを直撃。

 

 それに倣うわけではないが、達也もまたバリオン・スピアは―――接近しての使用では怖くて使えないので、魔弾を放射状に投射することで応戦。

 ちょっとした粒子ビームにも見える輝きが放たれた後には―――砲口を逆向きにして実体弾を放出。

 二十発も叩き込んだ後には、その際の火薬を利用しての『ブラスト・ボム』によって、更に体積を削る。

 

「やるよみんな―――」

「「「「「「「「わかった!!!!」」」」」」」」

 

 今の今まで空中にいた九亜達―――「わたつみシスターズ」―――否、ワルキューレシスターズ……名付けでドイツ語の『姉妹』ではなく語感を優先したその子達が、天空の夜空に飛びあがり―――その身に持つ『銀色の槍』を輝かせて一気呵成に投擲。

 

 流星が氷原を盛大に穿つ勢いで巨体に吸い込まれる。

 巨体を貫く天空よりの神罰(テスタメント)で、本格的にマズイと思ったアルキメデスは反撃しようとしたが……その時には刹那とリーナが奔っていた。

 

「キッド! 私達の愛の攻撃!! フォーメーション・NNトオサカ。やるわよ!!」

lina(リーナ)setsuna(セツナ)で、NNって無理やりすぎるだろ!!!」

 

 言いながらも、二人で虹色の光剣を持ち―――高く掲げながら刀身を回転させる様子。

 盛大な魔力の螺旋が夜明けを切り裂くかのように――――天空に届き―――それらを纏め上げて、色彩豊かな魔力の螺旋と共に刹那とリーナは翔んでいく。

 その剣であり技の名前は―――――――『軍神の剣』(フォトン・レイ)

 

 そう叫びながら突撃していった二人は、口中から絶叫すら挙げさせずに、セファール・アルキメデスを粉砕した……。

 

 エネルギー波を放とうとしていたセファール体ごとの吶喊で、後に残るのは――――アルキメデスの後ろに駆け抜けた二人と、セファールのマテリアルボディを失い―――左半身を袈裟に切り裂かれて辛うじて生きている……という状態のアルキメデスだけだった。

 

 ここまで弱れば達也にも分かる。この男の最後は―――約束された……。

 

「理解できんな……なぜそこまで肩入れ出来る……分かっているはずだ。この世界は人理がいきすぎるぐらい、『発展』しすぎた―――もはや、この世界の滅び―――ヴェルバーの招来は確約された……お前が管制塔を潰したところで何も変わらん」

「そうかい」

 

 サーヴァントに心肺に値するものがあるのか、ひゅーひゅーと隙間風のような音が漏れる。そうでありながらも世界に対する悪罵は続く。

 

「汎人類史とも違う歴史を刻んだ。この世界において、空想の根は枯れ、想像の樹は腐り落ちた―――。このような世界では『廃棄場』になるしかないのだよ……」

 

「だからといって―――滅びを招き寄せることが結論だなんて、あほらしすぎる。お前の結論は拙速すぎるし、なにより畏まるな。お前はただ単に人間が嫌いなだけの破綻者だ。

 どこかの世界(異聞史)には、お前が望んだ『人類』の姿があるのかもしれないが、そういった―――何かに対する『熱』を持たない人類を、人類とは言いたくないよ。俺は――――」

 

 抗うものだからこそ出来ることもある。感情による行動の『起伏』を全て亡くした人類。数式と論理のみに基づいて『在る』ものを人類とは言いたくない。

『個』があるからこそ生まれるものが尊い。時にそれは『公』のものと対立してしまうような時もあるだろう。

 

 だが、それでも……生命は、いつか其処と折り合いをつけていける。理想ばかりに固まらなくても、時には不幸な出来事もあるかもしれない。

 神を呪うような心地すら出てくることもある―――けれど―――やるだけ、やって、どうしてもダメだと言う時が来るまでは、抗い続ける。

 

(でなければ……生きていけるものかよ)

 

「平行線だな。魔法使い――――だが、まぁそれでいい。しょせん分かりあえるわけがないのだよ……私をさんざっぱら否定してくれた連中のなかにお前も加わるか、―――『父親』と同じく、実に不愉快だ――――」

『待て、学士。この世界にキミを呼び寄せた首魁がいるはずだ。それを教えてから帰りたまえ。勝者に対する戦利品(RESULT)が少なすぎるぞ』

「だから言ったろうが、私と同輩の存在よ―――私を呼び寄せたのは『魔法師』たちだ。奴らが己の身に穿った『聖痕』(スティグマータ)であり、そこから流れるものを受け取る―――『杯』こそが、この結果を生んでいるんだよ」

 

 相手を煙に巻く言動。だがそれを思考し、反論する前にアルキメデスの身体が想子と霊子―――現代魔法ではそう言う風に称される『エーテル』の分裂体となって溶け消える。

 全ては終わった―――――氷海の上で繰り広げられた戦い全てが終わると同時に、九亜たちの目の前にアルテラの霊体が現れていた……。

 

『あなた達に与えた力は、あなた達を生かして、いずれは多くの『あなた達』を救うものになります。力の使い方を講釈出来る立場に私はありませんが―――』

 

「大丈夫です。私もリーナみたいに、多くの人に手を述べられる人になるです」

 

『……ありがとうココア―――アナタを見つけられて良かった。これで私も―――『この世界の座』に行けます―――』

 

 輪郭を朧にしていくアルテラの姿――――どこかの誰か―――第二魔法に近づこうとしてもいない。実に堕落して磨かれていない自分(セツナ)など、刹那であると認めたくないのだが―――流れ込んできた想いが、彼女に特別さを覚えてしまう。

 

『そしてセツナ――――アナタに出会えた私とも、私が出会えたアナタとも違いますが――――その想いが……とても尊いから―――』

「言わなくていいよ。その想いだけ受け取っておくさ―――」

 

 相手の内面を全て見てしまったことに対する羞恥心から、拗ねた態度を取った刹那にリーナは食って掛かる。

 

「もう! 昔の女を無下にするなんて小さい男に惚れた覚えはないわよ!!」

「違うんだけど!!……まぁ気恥ずかしい限りだが、アンタも―――達者でな」

 

『セツナはこんな感じだが、本当は抱きしめたい気持ちで一杯だから。けどこんな『まるでダメなウォーロック』略してマダオに引っ掛からない様に祈っているよ☆』

『―――ありがとうダ・ヴィンチ―――その言葉一つで救われました……きっと―――再びの時に―――アナタは私を召喚してくれるのでしょうね……』

 

 溶け去り消えていくアルテラの身……手を握りしめて、祈るような体勢でいる彼女の輪郭が消え去る。

 サーヴァントの消滅とも違う―――その身を『世界』に溶け込ませる作業。世界との契約が為されたのだろう……そして――――ほしふる夜の奇跡は幕を閉じた。

 

「結局のところ、どういうことだったんだろうな……今回の一件は?」

 

 締めくくりというわけではないが、近づいて聞いてきた達也に何と言えばいいのやら―――――。

 それに答えるのは、リーナであった……。

 

「シンプルなはずのことに、あれこれと噛付く連中が多かっただけよ。

 宇宙にいた女神様は地上の人間に恋をして、また助けを求める女の子を来臨したのに―――それを利用して人類絶滅を目論むサイエンティストがいた」

 

「単純化しても、それだけの説明がいるんだよな……まぁ何にせよ―――全ては終わったさ。

 調整体魔法師―――わたつみシリーズは作られないだろう。もしかしたらば、調整体魔法師という存在すらも、いずれはいなくなるのかもな」

 

 変化の楔は撃ち込まれた。九亜と四亜、三亜を抱きしめている盛永達に、十文字会頭に肩車されている八亜(寝ぼけ眼)とを見ながら、その変化がいつか何かを変えると信じたい。

 

 そう信じた瞬間に、不意の流星群が星空を彩る――――。

 その美しさ―――真っ黒な海にも反射されるきらめきを『感じる』ことは、どんな人間にもゆるされているはずだから――――。

 ――――真夏の夜の奇跡は、こうして終幕となるのだった。

 

 とはいえ……これで一件落着ではなく、古式に則れば『もうちっとだけ続くんじゃ』と言った所である……。

 


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