魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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日間ランキング、とりあえず私が確認した限りでは六位に上がっていたのを見ました。

多くの評価投票とお気に入り登録をしてくれた方。ランキングに上がったことで興味を持ってくれた新規の方。本当にありがとうございました。

今話で、とりあえず盆休みの書き溜めは尽きましたのでペースは落ちると思いますが、これからも読んでくれれば幸いです。

最後に重ねてありがとうございました。





第11話『宝星運命開幕』

 てっきりスターズ専用のSTOVL機辺りで、横須賀基地にまで行くかと思っていたのに、アルバカーキ国際空港から、国際線の便に乗り込んでのものだとは思わなかった。

 

 流石にそんな風な出入国は認められまい。第一、体裁としては極秘任務でもあるのだ。

 

 

 なのに――――。

 

 

「見送り多すぎないですか!?」

 

「何っ!? ジャパンでは『上京』する人間が故郷を離れる際には、こうして大勢で見送るのが定番じゃないのかっ!?」

 

 

 自分の時代ですらもはや行われなくなったことを、盛大に行う基地内の連中。横断幕まで持っている辺り、少し気恥ずかしい。というかかなり前の上映会の時のように待機していなくていいのかと感じる。

 

 一番に驚くバランス大佐に何を言っても暖簾に腕押しだろうと思いながらも、ここまでの見送りが嬉しくないわけではない。

 

 ただ……その中に―――いなかった。寂寥感を表に出さずに、一人ずつ全員に挨拶しながら本当に繋がりが出来ていたのだと気付く。

 

 

「ううっ……セツナお兄さん―――あっちに行っても私のこと忘れないでくださいね…」

 

もちろんだよ。(of course)あんまりお父さんを困らせないようにねレディ、それだけ護れれば君は誇り高いロウズの女傑だよ」

 

 

 関係性としては違うし、その間に流れる空気も違うが少佐の娘と自分は、師匠である『エルメロイⅡ世』とその妹である『レディ・ライネス』と同じようなものに思えた。

 

 少しだけ涙ぐんだレディ・ロウズに言ってから頬にキスされたと同時に、出港が迫っているのが分かる。

 

 

 アナウンスが響いたのだ―――。

 

 

「それでは行ってきます」

「ああ―――達者でな」

 

 

 バランス大佐が、いや全員が少し涙ぐんでいたが、それだけが少しの罪悪感になりながらも―――手荷物を手に―――搭乗ゲートに向かう。

 

 手荷物とは言ったが魔術師にとっての『カバン』というのは、それだけでちょっとした『大荷物』なのだが、表面的には分かるまい。

 

 赤いコートを羽織った『魔宝使い』が、手を振りながらこちらを何度も見ながら日本行きの便に乗り込む。

 

 

 その姿を見送ると、ハヤオ・ミヤザキの作品において箒に乗って飛び立った魔女を見送った気分だった。

 

 

「あの快活な『月』の声もしばらくは聞けないんですね……」

 

 

 シルヴィアが、しみじみと言うが―――アルゴルは鼻を鳴らして、そんなことあるかと思う。

 

 

「いずれは会うだろうさ。アイツの行くところ騒動ばかりだ。今度は『横浜』辺りに出向くことになるだろうさ」

 

「横須賀基地に偶然居合わせた我々が、セツナ君に助力すると?」

 

「さぁな。詳細は分からないが―――そのぐらいはありえるさ。アイツの戦場にオレのような切れ者が必要だと言うことを今度こそ教えてやる!!」

 

 

 切れ者の意味を完全に取り違えているリッパ-のラルフ・アルゴルに誰もが呆れながらも、何となくの予感を感じられる言葉であったが……不安など誰も持たない。

 

 

 その戦場には、数多もの星が瞬くのだから……。

 

 

「しっかし―――『彼女』のこととなると、本当途端にポンコツになるな。あいつは」

 

「愛は全てを美しくもさせるが盲目の元でもある。我が部族に限らず多くの人類の不変の考えだ」

 

 好漢な印象を崩さず相応しいUSNAのフライトジャケットを着ていたユーマは、少しだけ笑いながら言う。対してアレクサンダーが、仏頂面のままに言うが少しだけ面白そうな声音で本心はバレバレだった。

 

 

 今ごろ――――『二人』は……。

 

 

 

 † † † †

 

 

 エグゼクティブクラスのシートの乗り心地は最高ではあったが、その一方で何かの寂寥感を感じる。

 

 それは、このクラスの席を使う人間が殆どいないからだ。すし詰めのようなノーマルシートならば、何となくこう…ワクワクもするのだが―――。

 

 

 マフィア・テロリストが用意した乗客の中にいる『要人殺し』のための仕掛けとして殺人蛇や死徒蜂が仕掛けられていたり……物騒なことでも考えなければ、寂寥感は拭えなかった。

 

 

「……端末の連絡にも出ないなんて、どんな任務だよ」

 

 

 むすっとした感情が刹那を覆う。何となくこのまま―――二人分ものスペースを持ったワイドシートで寝っころがろうかとも思うぐらいには、苛立ちが募りながら、ドリンクでも―――という想いでキャビンアテンダントを呼ぼうとした時に―――。

 

 

「ハロハロ~。なんだかずいぶんと不機嫌ねぇ。まぁ理由は分かるけど、隣に座らせてもらうわよ。ここはワタシのシートでもあるんだから♪」

 

「―――え」

 

 

 脇の広めに取られている通路からやってきたのは私服姿の少女。何度も見た麗しき星の乙女。その姿以外―――服の有無や髪型の変化も見たことがある。

 

 どんなに姿が変わっても見間違えることなどない。

 

 声を出して名前を呼ぼうとする前に悪戯っぽい表情で人差し指を使って口を封じてきたリーナ。

 

 

 アンジェリーナ・クドウ・シールズが自分と密着するかのように、エグゼクティブのシートに座る。気楽に伸びをしてこちらと触れ合う彼女に色々言いたい事があるが一先ずは確認事項をとることに

 

 

「―――なんでここに?」

 

「バランス大佐やシルヴィには頼んでいたんだけど―――私も、日本に行くことになったから、というか選んでいた家が『一人』で暮らすには広すぎるとか考えなかったの?」

 

 

 ……言われてみれば、確かにそんな風に感じなくも無かった。

 

 そもそも確かに軍人として更に言えば魔術師的な感覚でも工房ないしセーフハウスの機能は広く浅く持っていなければならないはずなのだ。

 

 しかし、それにしたって一言あっても良かろうに、一言すらないことが推測できる事実。

 

 

「あの任務説明の時から担がれていたってわけか……」

 

「そういうこと♪ まぁ送別会に参加できなかったのは残念だけど―――色々あったから……」

 

「シアトルにいる親父さん関連か?」

 

「―――うん。セツナが来れば、それはそれでややこしくなったから、今回は私一人で、ね……許可を取って来たのよ。セツナと日本で『同棲』する許可を」

 

 

 きっとリーナの親父さんは卒倒したに違いない。南無。

 

 しかし最終的に親父さんも妻の意見に押されて認めた。そんな過去の予想図を言うとウインク一つにBANG!とでも擬音が着きそうな様子のリーナのジェスチャー。

 

 色々とやることがサマになる女の子だ。魔法師としての才能が無ければレッドカーペットでも歩いていたんじゃないかと思う。

 

 

「それでセツナに手紙。パパとママからの連名だけどね」

 

「今時、紙のメッセージとはね」

 

 

 しかも毛筆を使ってのメッセージとなると、何が書かれてやるやら、肩に頭を乗せて体重を預けてくるリーナの柔らかさを感じながら開くとそこには―――。

 

 

『娘を頼む。君だけが頼りなのが如何ともしがたいが』

『はやく孫の顔が見たいものです。アンジ-をよろしくお願いしますね』

 

 

 てっきり『セツナ殴っ血KILL』とか書かれているのかと思っていたのだが、シールズ夫妻の配慮に感謝である。

 

 しかし、確かに自分のアパートに来ること多くなり……若さに任せて色々してしまった刹那であるが、後者の要望に関しては、もうちょっと待ってほしい思いだ。

 

 

「これからはずっと一緒だから、お互いに協力しながら―――『任務』を完遂しなきゃね?」

 

「そうだな。けれどせめて一人暮らしで―――ダメか?」

 

「ダメよ♪ 知らない女を連れ込まれたり、知らない女に連れ込まれたり―――そういう浮気とか不倫、私許さないから」

 

 

 しないよ。と言いたいが、笑顔が怖いリーナに対してイエッサーと震えながら答えて、そんな風に嫉妬というか『ありえない想像』でも自分を想ってくれていることが嬉しくて―――。

 

 

「んっ……どうしたの?」

 

「いや、二週間ぶりぐらいのリーナだから抱きしめて感触を確かめたかった」

 

 

 今のリーナの服装は、あちらの気候に合わせて少し暖衣を感じさせるものだ。黒のベレー帽に赤い大きなリボンで止められたブラウンコート。下は白のオーバーニーソックスで、コートで殆ど隠れている黒のミニスカート近くまで伸びていた。

 

 

 はっきり言えば、『なんだ このかわいい いきもの』という気持である。

 

 

「シルヴィやバランス大佐、それにアビー博士やアンジェラに言われたんだけど―――ベタベタしすぎているよりも、会えない時間が愛を育むと」

 

「俺はリーナがNTRされてるんじゃないかと不安でしょうがなかった……」

 

「そんなふしだらな女じゃありません!! だから私に誰か、不埒なものがロクでもないことをしたらば、『陰茎』を焼き切る呪いを掛けるように言ったじゃない!」

 

「この年齢で、そこまでお前の気持ちや人生を縛れない」

 

「……捨てる気だぁ」

 

「違うってば!」

 

 

 最後の方には不満げな声とジト目で言うリーナをきつく抱きしめながら否定する。

 

 

「本当、心配したんだ……」

 

 

 本心からの言葉を吐くと、少しだけリーナの不安が広がるのを感じた。不義を犯したと感じさせたのかもしれない。

 

 

「ごめん。けれどパパとママに理解してもらうのは、私一人でやらなきゃって思えたの」

 

 

 それは、今回の任務がどんな『事』になるか分からないからこその説明だったのかもしれない。もしかしたらば、第三国に『亡命』するようなことになったとしても、大丈夫なように……そういうことかもしれない。

 

 挑むは日本の暗部―――もしかしたらばクローバーに通じる可能性だ……。

 

 

「君を『ナディア・エレーナ・コマネチ』にはさせない。家族の元に無事に帰す―――USNAに厄介になってる身としては、不義理だが『そちら』が危なくなればご両親ごと君を守る」

 

 

「うん。けれどあなた一人で解決しようとしないでねセツナ。あなたの隣に私がいるんだから……――――」

 

 

 抱きしめていた形を変えて、お互いに愛しい顔を見つめ合う。

 

 刹那の朱が差した頬に両手を添えて顔を近づけてくるリーナ。

 

 その顔と顔―――あの頃、まだ幼いティーンにもなっていない頃とは違い、グロスを着けて艶を出してきたやわらな唇が、刹那の唇に触れ合う。

 

 その官能に酔いしれながらも―――十秒ほどがあってから、どちらからともなく顔を離す。

 

 

「――――えへへ。キス、しちゃった。……二週間ぶりの私の唇はどう?」

 

「言葉が無いよ。お前反則すぎ(I LOVE YOU)―――」

 

 

 悪戯っぽく舌を出して満面の笑みをしたリーナに対して際限ない愛しさが込みあげて、刹那が耳たぶにお返しをすると、飛行機が間もなく離陸するというアナウンスが入り、姿勢を正すことに―――。

 

 この辺りは時代を経ても変わらぬルールなのだなと思いながら隣に座るリーナと手を繋ぎながらシートベルトを締める。

 

 

 遂に北米太陸を離れる時が来た。短期での旅行程度ならばあったが、長期での旅立ちとなると少しだけ感慨深いものがある。

 

 

 最終的なセーフティとしてシートを覆う安全シールド。その内側に投影された光景は、渇いた大地だ。

 

 

 どこまでも荒野ばかりが広がるニューメキシコの大地、そこで照りつける日差しに焼かれながら、濃すぎる日々を生きてきたのだ。

 

 

「また来る時まで―――」「忘れないわ―――」

 

 

 その光景を目に焼き付けておく。そこにて戦い続けてきた星々の輝きこそが、戦士の証なのだから。

 

 

 そうして飛行機はアルバカーキの滑走路を上がっていくのだが―――先程までこんな公共の場でいちゃこらしていたリーナと刹那を見ていたキャビン・アテンダント達(未婚)が、夜叉の顔をして睨んでいることに二人は気付くことなく、ちょっとした眠りに就くのだった……。

 

 

 極東の地までは少し長い道のりだから……今は揺籃の時なのだ……。

 

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 サクラサク、サクラサク、桜サク、サクラ咲く―――桜咲く。舞い散る花弁の数々は、親類の一人を自然と思わせるものだ。

 

 

 それ以上にその光景―――ただ眺めているだけでも心湧きたつものだ。

 

 

 枝垂れ桜に江戸桜、定番の陽光(ようこう)も咲き誇り、春もうららな光が差し込む中に、一組の男女が歩く。

 

 

 その男女が着る衣服―――制服は、都内にいるものたちならば、誰もが知っているといっても過言ではないもの。

 

 

 一見すれば制服というよりも、軍隊にいる特殊部隊の制服・官服―――具体的には、火星に現れたゴキブリを殲滅しつくす連中の服装にも見える。

 

 

 将来的にはそうなってもおかしくないという意味では間違いではない。しかし、未だに未成年の彼らが着るには、少しばかり大人びたものだ。

 

 

 そんな外連味溢れる格好を颯爽と着こなす姿は、堂の入った役者・芸人にも繋がる洒脱さを見せている男女がいた。

 

 

 八枚花弁――トロイア戦争の大英雄『大アイアス』の盾よりも一枚多いのが気に入らないと愚痴る整った顔立ちの日本人ばなれした男。

 

 それに並走しながらも、桜並木に心が浮いているのか、スキップするように喜んでいるナチュラルブロンドヘアにブルーアイズの美少女。

 

 

 この二人は、その中でも実に目立っていた―――。

 

 

「すごいわねーニホンのサクラって! 一度でいいからこうして桜並木を歩いてみたかったのよー♪」

 

「ワシントンにもあるじゃん」

 

「あれとはナニカが違うのよ。こう……『Feel it』よ! あなたのステディの感情を察してセツナ!!」

 

 

 まぁ分からなくもない感覚だ。手を一杯に広げて桜の重なりを見上げながら、くるくる回るリーナはちょっとした妖精だ。

 

 そして、桜並木を歩いていると、同じ制服の人間達を続々見掛ける。

 

 

 そろそろ止めにした方がいいと思ったのかリーナは、妖精の踊りをやめてこちらの隣に寄りつく。

 

 

「いよいよ来たのね」

 

「ああ、間違いなくな」

 

 

 一度来たからどうと言うことでもないはずだが、何となく感慨深いものがある。刹那にとって学校は二つある。いわゆる俗世の『普通学校』に通えたのは二年程度。それ以外は殆ど時計塔ばかり―――。

 

 そういう意味では不思議な学校だ。

 

 

 高等学校の履修課程もこなしながら魔道の教練も行う。

 

 

 刹那にとっては『どちらか』にしか偏らない学校しか知らなかった。だからだろうか、『ここ』での生活に少しだけ期待している。

 

 

 ―――国立魔法大学付属第一高校―――。通称『一高』。

 

 

 そこの一科生として遠坂刹那とアンジェリーナ・クドウ・シールズは、合格・入学。

 

 

 出会ってしまった宝石と星―――『運命』を与えられた二人の男女が魔法科高校に入学した時から、波乱の日々の幕が開いた―――。

 

 

 




そんな風に個人的にめでたい中、聞こえてきた訃報に驚きました。

名優 石塚運昇さんが亡くなられたそうです。本当に不意の話で驚き、ウソだろと思いましたが、事実は変わらず、勝手ではありますが、ここに、ご冥福をお祈りします。

長い間―――お疲れ様でした。いまはゆっくり休んでください。

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