魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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予定通りならば昨日の夜にアップできたはずが、いきなり肩甲骨の痛み。もう殆ど無いですが、いやー運動不足って怖いですねー。(え)


第40話『九が始まる前―――大会議編―――』

 ……一時間もすると、結局当初に考えられていた混乱や喧々囂々の様は無かった。この九校戦というものが、学校全体の威信をかけた戦いであり、選手、エンジニア個人単位でも様々な評定が貰えたうえに夏季休暇課題の免除もある。

 

 それだけ学校側にとっても大きなイベントなのだろう。同時に、ここ数か月の変化が大きすぎて感覚がマヒしているからだろうか。

 二科生が選手に選ばれたとしても、そこに関して少しの不満はあったかもしれないが、呑み込んでいたものは多い。それだけ今回の九校戦は『何か』が起こるという予感を感じていたのかもしれない。

 

『何か』が―――もしも、四月の初めに起こったような事の場合、最前線にいた連中に比べれば実に……不安もあるのだ。

 

 

「今年のモノリスは、準決から五対五なんですか?」

 

「そうだ。最初はクロス・フィールドに変更という話もあったが、あまりにも『格闘性』が強すぎるということから却下された」

 

「残念でしたね。会頭」

 

 

 沢木先輩の何気ない質問と感想述べに十文字会頭は心底の苦笑。まぁモノリスでも勝てる人なので、そこは問題ないということだ。

 

 

「しかし、司波はエンジニアにモノリスにと八面六臂の『阿修羅』の如き活動の予定ですか、こりゃまた随分と」

 

 苦笑いの桐原先輩の言葉に誰もが四月の一件を思い出して二年の大半は、うんうん頷いている。

 一高壊滅の危機から堺商人の売りさばく火薬と硝石のごとく、『じゃんじゃか』火縄銃を用立てた『織田信長』の如くCADを調整してのけた達也の伝説はいまでも語り草である。

 

「ブラックだが、やってもらわなければいけないな。今期の三年にはそれが出来る人間はいないのだからな。情けない話だが、その点では一昨年と去年までの先輩方に俺たちも『おんぶにだっこ』だったということだ」

 

「俺の意思は完全に無視ですか……」

 

 とはいえ、達也を連れていく理由としては十分だ。そして、それこそが二科のリーダーとして知られている達也の『役目』だ。

 

「頼んだわよ。一高のニコラ・テスラ♪」「頼んだぞ。一高のトーマス・アルバ・エジソン♪」

 

 バカップル二人の脳内では仏頂面な大男と獅子面の大男とが、電流を放ちながらお互いを罵り合う姿が見えていたのだが、ニコラ・エジソンの体現たる達也は、構わず口を開いてきた。

 

「その二人って仲悪くなかったか? で、キダ顧問。俺からも質問あるんだがいいか?」

 

 資料を机に置いたうえで、左隣にいた刹那を見る達也の視線は真摯なものだ。

 

「どうぞ」

 

「例の九大龍王―――ナインティルという連中が、本気を出してきた場合―――俺たちに優勝の芽はあるか?」

 

 達也の質問は難しいものだった。確かに昨日の放課後に至る前であれば、あれこれそれなりに『気楽』でいられただろうが、事態は一気に動いてしまった。

 これもまたエルメロイレッスンの効果であるのならば、その『末弟子』であった男にこそ、聞かなければいけないということなのだろう。

 

 誰もがごくりと息を呑む。例え一つの学校に『数人』程度。それも、若干下に見ている『五・六・七・八・九』高の連中であるが……個々の部門で、優勝していけば非常に荒れた結果が出るかもしれない。

 

 総合力では確かに「一・二・三」高だろうが、魔法能力の恐ろしい所は、『集団』の力よりも時に個人の圧倒的な能力が連携と技術的優位を崩すところにあるのだから。

 会頭も会長も誰もが視線を刹那に集めてきた。それを見てから刹那は少しだけ眼を閉じて黙考しながら語り始める。

 

 

「正直、こればかりは予測がつかないとしか言いようがない。今回、彼らが出てきたのは俺の影響もあったんだろうが、現3年の証言で元々それだけの実力は持っていたということから察しても、本来ならば去年、一昨年と荒れたものになっていた可能性はある」

 

「……」

 

「予選から総当たり戦、勝ち抜きのグループリーグ制であれば、一種の強者同士の潰しあいも有り得たかもしれないが、予選トーナメント方式、そこからも更に順当に上がっていく方式であれば、初っ端からあいつらとかち合う可能性もある。無論、大会関係者も馬鹿じゃないから色々と力のあれこれを考慮しているのかもしれないけれど、どこが勝ちを拾うか分からないな」

 

「予測不可能か。強者同士が戦い合った後での次戦であっさりということもありえるのか」

 

「そういうこと……混沌だな。テニスのシードシステムみたいに、あまり早期に上位ランカーどうしが当たらないようにするシステムならばいいんだけど、そうじゃないしな。本当に混沌だよ」

 

「だが……刹那は楽しそうだな?」

 

「まぁな。骸や黄泉の一騎打ちなんて決まっている魔界統一トーナメントに出たがる奴はいねーよ。学校の威信も当然だが、何より個人の技量で決まる場合が多い戦いだ……己も楽しまなければ損だな。へへっ、なんだかオラわくわくしてくっぞ」

 

 その言葉に会長も会頭も笑みを零す。この二人にとってライバルと言えるものなど、そうそういなかったはず。

 そこに奴らが牙を剥いてきたのだ。

 

 雷禅(?)のケンカ友達の如く、十師族社会以外で磨いてきた強者たちが立ち塞がる。

 しかし、彼らとしてもそれだけではないだろう。十師族や現在の魔法協会に一石を投じるやり方の終点を見たいのだろう。

 

「まぁこっちだって妖力値10万ポイント以上にまで鍛え上げた陣や酎に凍矢みたいなのもいるんだ。決して下馬評通りにいかないだろうが……それ以外の要素もあるしな」

 

「お兄様のCAD技術ですね?」

 

「ああ、地力だけでぶつかり合うのもまた一興だが、魔法師の戦いはそれだけで勝敗が決まるわけじゃない。戦略・戦術・武器の違い―――相性の良し悪し、それを覆す『詭道』叩き。もはや従来のやり方では無理でしょう。総力戦で挑まなければどうなるか」

 

 

 暗に一科二科関係なく動かなければ、負ける。という刹那の言葉の裏を読んで誰もが真剣に頷く。ブランシュの一件はある意味、一科二科の垣根を超えさせた。

 今でも一部の生徒には一種の差別意識があるも、そこまで大きくはなくなっていた。何故ならば、『既存の価値』が呆気なく崩れたのだ。

 

 マナカ・サジョウという横暴な魔女の所業に敢然と立ち向かったのも大きかったのか……。

 

 

「それで―――アタシから質問あるんですけど、いいでしょうか?」

 

「何だ千葉? 幽霊部員のお前が、まさかクラウド・ボールに出たいとか言えばテニス部から総スカン食らうぞ」

 

「いやいや! イジメかっこわるい!! じゃなくて、なんで私がバトル・ボードの新人戦にエントリーされているのかですよ会頭?」

 

 そう、今回の新人戦は……一科二科関係なく出場選手が選ばれている。もちろん、部活動における適性も考慮されているのだが……。

 これは色々と動揺させていた。一科ではなく二科生をである。

 

「クラウドの『ダブルス』に僕とレオか……」

「シングルスは、越前と田丸が『取る』。ダブルスを任せるのは、そちらに専念させるためだ」

 

 会頭による疑問への『回答』を貰った幹比古は背筋を立てて恐縮していた。同時にレオも背筋を立てていた。聞かれているとは思っていなかったようだ。

 

「千葉もそうだが、今回は二科にも裏方や観客席でかちわりを、茶を飲み観戦などということは無しにしてもらう」

「別に今まで好きでそうしていたわけでないことは分かっているけれど、これは九大龍王以前からの我々の悲願、即ち三高対策の一つよ」

 

 尚武を掲げて、戦闘魔法に長けた三高の連中に煮え湯を飲まされるまではいかずとも、それなりにやられてきた一高なのだ。

 行儀のいい魔法師ばかりで構成されていて総合優勝をいただいても、どこかでしこりが残る。

 

 そろそろやり返したい気分もあったのだ。

 

 そういった背景もあって、エルメロイレッスンによる評価査定を貰った三巨頭によって、多くの二科生が選出された。

 多くといっても何かと目立つ『達也組』の面子が主なのだが……。

 

 それでも納得いかないのが―――『二科生』である千葉エリカである。不満を分かった風紀委員長である渡辺摩利が、立ち上がってエリカを見ながら口を開く。

 

 

「お前を推薦したのは私だ。エリカ―――文句があるならば、私が聞くぞ」

 

「なんで、ア……何故、渡辺先輩が私みたいな劣等生を推薦するんですか?」

 

「そういう自分の地位を下にした上での噛付きというのは実に不愉快だな。普段はお前、壬生に道場では自分の方が上だと言ってもいるのにな」

 

 千葉エリカと渡辺摩利。この二人の関係は、都合四か月も経てば、それなりに知れ渡るものもあった。

 

 エリカの家である『千葉道場』の門下生の一人である渡辺摩利との確執は、彼女がエリカの兄貴と付き合ったことが原因だったらしい。

 ブラコンの限り……というには、少しばかり毛色が違う。何かが、2人の間に横たわる。

 

「バトルボードは、その名の通り当たりが強いスポーツだ。部活連と生徒会で推薦した光井の魔法力を疑うわけではないが、それでもそれだけが全てを決するスポーツじゃない。兵法家としても鳴らしたお前ならば分かるな?」

「……だとしても、なんで私を?」

「遠坂から頂いた資料によれば、お前の属性は風と水……、そしてお前は二者に共通する流体操作を主に狙っていたな?」

「ええ、リーナの『星霊装甲』の術式―――派生の源流『ヴォールメン・ハイドラグラム』は、私にとって作りたい『甲冑』でしたから―――まさか、それを応用する?」

 

 ここまで来たことでエリカも理解して恨みがましい視線をこちら(刹那)にやっていたのだが、素知らぬ顔で茶を飲んだことで、達也は苦笑する。

 

「ここまで言っても納得できないか? ならば、こう言ってほしいのか? 劣等生であるお前を満座の観客の前で恥をかかせるために、無茶な推薦をしたんだ。と」

「―――」

 

 眼が怒りの炎を灯して摩利を見るも摩利は動じなかった。むしろ動じたのは二人以外の部屋の全員だ。

 

「だが、あいにく私もお前の心情とやらに配慮して無茶な作戦をやらせてやろうと思うほどバカじゃない。無理だと思えば、違うヤツを選んださ」

 

 言葉を募る渡辺摩利に対して無言のエリカ。この二人は似た者同士なのかもしれない。

 

『いるべき場所』を『己の力』でもぎ取ってきた。生きる権利を、居場所を、鉄血を以て得てきた女傑二人。

 深い事情は分からないが、それがねじれたのは多分、摩利がエリカの兄と付き合ったことが切欠かとも思う。

 

(同じだと思っていたからこそ、裏切られたと思った。そんなところか……)

 

 父母と出会い友人になる前の『硬かったバゼット』は、こんな感じだったのかもしれない。そんな感想を刹那は勝手に出しながら、もはや結論は出ていた。

 

「だから、この『作戦』を採った。それをあれだけデカい口を叩いておきながら、今度は尻込みか!? お前も分かっているはずだ。私もお前も、『居場所』を得るために『何』が必要だったかを」

「………分かりました。けれどもボード自体の調整とか色々は―――」

 

 武器の不安。乗り物の調整を不安に思ったエリカが、その言葉で、エンジニア班と刹那を見るのだが……。

 

「問題ない。最良の『業物』を提供してやるよ―――――達也が」

「俺かよ!?」

「お前だからこそだ。エリカが甘えてるのは達也だしな。必要なものは出してやるから任せた」

「頼んだよ司波君」

 

 倒置法で言われて親指差しで任された達也のいつにない驚きの声はただの中村さん(?)でしかなかった。

 

 しかし逃げ道を塞ぐかのように、羽扇で口を隠した軍師『諸葛刹那』の言葉に対して追撃をかけるは、エリカのやさしい方の兄貴分 五十里啓からの言葉を受けて了承する達也。

 モノリスは一応、変則的なメンバー交換が可能である。それだけハードな競技であるからこそだが、サブメンバーとして登録されていて助かったと思う。

 

 しかし……渡辺委員長の言葉を聞いた時に、責任教師として聞いていた栗井教官(ドクターロマン)が『石田さん(?)、アンタって人はァアア……!!』だのと呻いていたのを達也は少し気になるのであった。

 

 最後の方に少しの悶着あったものの、概ね予定通りのメンバー構成となった。

 刹那が『幻のシックスマン』を用意したいと言っていたが誰の事やら……紙だけを三巨頭に出した刹那、完全に影の参謀。闇将軍となっていたのを達也は見ながら―――。

 

「盲点だったわ…」「ああ、ヤツこそが『最悪の世代』を支える最強のアシスタント」「正しく幻のシックスマンだ!」

 

 紙に書いた情報だけで三巨頭すらも納得する相手とは誰なのか……!? とりあえず1-Cの生徒とだけ言った刹那に対して同じくC組の滝川が「だ、誰なんだろ!?」とビックリしていたことは付け加えて……。

 

 そして更に付け加えると……。

 

(((((俺(私)達は先輩方からそう思われてるのか……)))))

 

 

 会頭の何気なく出した『最悪の世代』という言葉に、少しばかり愕然とするのだったりした。 

 

 そうこうしている内に……全てに決を出されるのであった。

 

 

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 帰り際。何となく十日間の日程で何が必要になるかを確認したことで早急ではないが早めに用意しておいて損ではないものを買っていくことを決めた。

 

 最初は女子は女子で用意するものもあるかと思ったが、結局エリカや深雪たちのメンバーではなく刹那を伴ってのショッピングにリーナは決めた。

 

 いつもであれば、どこそこのスーパーやら昔懐かしの商店街―――まだまだ地元経営が廃れていないということを感じさせる通りで買うのだが、今回はトラベルセットとでも言うべきものを揃えるためなのだ。

 

 行先である『富士演習場』を抱えている御殿場市ならば、大概のものは揃っているだろうが競技に集中するならば、それ以外のことで患うのも時間の無駄である。

 

「しかし、改めて考えると一科二科の制度って変よね……ただでさえ魔法師の数を揃えなければいけないのに、質を上げることで数を満たそうとしているんだとすれば、年間百人の魔法大学進学者のノルマってのもどういうことなのか意味分からないわよ。ムジュンって言葉じゃないかしら?」

「確かにな。まぁそこは深く突っ込まない方がいいんだろうな。この世界にエルメロイ先生がいないことが、とにかく惜しいな」

 

 ただ教員の確保が急務であるならば、今の様々なことをやっている実践魔法技能師たちに登壇してもらうことも吝かではなかろうに。

 

 宮沢賢治とて、様々なことをやりながら詩人として文筆をしてきたのだから、生前にはあまり評価されなかった人材であるが……シャルダンの翁みたいな『下野』した魔法師を『講師』として招くためにもリーナとの旅行を計画していた。

 

 魔法研究における実験の最長老が烈の爺さんだとして、その他が死んだ可能性があるとはいえ、何かしらの政争で下野した人材を積極登用すべきだ。

 

 そのカモフラージュもあったのだが……。呆気なく水泡に帰した。

 

 

「神代秘術連盟か」

 

「本当に突如現れたわよね。ブレイクスルーとなったのは、セツナの講座なんだろうけど」

 

「海を渡って故郷に帰れば、何やかんやと言われて末は『王』になってくれとか、意味が分からんな」

 

 

 魔術師が王とはどういうことなのやらである。先例が無いわけではないが、()の王は例外だ。

 

 

「それじゃ、ワタシが『女王』かしら?」

 

「そんな地位を望んでいるとは知らなかったな。まぁプリンセスの常道ではあるかな」

 

「似合わないってことぐらい分かるわよ。そりゃ『本物』ばかりを見てくれば、そんな感想もね」

 

「むくれるなよ。あんまり高嶺の華になられても恐れ多くて触れられないってことだよ」

 

「昨日は、何回も素肌に触れて、揉まれて、口づけられて、恐れ多いとは正反対―――ケダモノ♪」

 

「嬉しそうに言うな」

 

 

 今さらな話であり、女の子が浮かべるものではない笑みを浮かべてこちらを見てくるリーナに苦笑の嘆息。

 荷物が多すぎてもあれであるが、『工房』を設えるにしても同室の相手次第―――リーナと同部屋と言えばどうなったか……。

 

 

「言っておけば良かったのに、見せられない秘術とまではいかないが古式の伝統があるからって―――そうすればワタシと同じ部屋だったのに」

 

「まぁ、同棲していることもバレて弾劾裁判だったからな―――というわけで、監視は、もういいんじゃないですか?」

 

「おや気付かれてましたか? 学生カップルの放課後に交わされる『アレな会話』を聞いているのは、ある意味楽しかったですから」

 

 

 途中から流暢なキングズ・イングリッシュでスーパーの一角。柱に眼を向けて声を掛けると観念したかのように一人の女性が出てきた。

 

 装いとしては季節に相応しいものの、少しばかり日本の『しきたり』に沿わないサマードレス姿。

 自分も知っている女性魔法師『シルヴィア・マーキュリー・ファースト』が出てきたことで、面食らう。

 

 

「シルヴィ!!」

「こんな場では敬礼できず申し訳ありませんが、お元気そうで何よりですリーナ。セツナ君も変わりなく」

 

 短髪の中性的な顔立ちに、どことなく『出来る女』の風格を匂わすスターズの隊員の一人が出てきたことに、リーナは驚きの表情。

 マンガ的な表現ならば眼の中に(ほし)でも発生させたかのように心底のドッキリであろう。

 

 

「シルヴィアさんも変わりないようで、にしてもどっから聞いていたので?」

「恐れ多くて触れられないって―――辺りから『盗聴』していましたよ。にしても、懸念した通り、爛れた生活してますね……」

 

 

 こちらの少し恐る恐るな声と言葉に呆れるような、そうしながらも、仕方ないかぁという……やっぱり呆れるようなシルヴィアの表情にリーナは焦る。

 

「ちょっ! それは誤解です! いえ、昨日は『七回』でしたが、頻度は抑え気味です!! 多い時は『週八』のペースです!!」

「オィイイイイイイイ!! なんだって昔馴染みが出てきた途端にポンコツ化するよマイハニー!? 思わず銀魂みたいな叫び出ちゃっただろうが!」

「毎日以上とは……まぁ、枯れてるよりはマシなんでしょうけれど……」

 

 桐原先輩の声がインストールされたかのような叫びを上げてリーナを抑えにかかろうとするも時すでに遅し、眉間を抑えたシルヴィア少尉も気付いた。―――色々と騒ぎになりつつあるので、この場は一時退散することにした。

 

 スーパーのフードコート。地下の方に設置されたそれは、放課後の学生たちで少し混雑していた。

 

 その中に魔法科高校の制服が見受けられなかったのは、ここが彼らのフィールドではないからだろう。やはり目立つのか少しの目線の集中を浴びながらも、とりあえず席を確保。

 今や自動化されたファストフード店の受付カウンターにて注文をタッチパネルで押して適当なものを注文して、自動化された機械処理で調理された軽食が出てきた。

 

 こういうのを見ると、一応2020年代に生きてきた刹那としては、人類の進歩に関して恐ろしいものを視る。

 これならば無用なクレーマーが出る必要もないし、店員のナンパも起きない。同時に人件費の圧縮にも繋がる……しかし、味は―――まぁ何というかアレである。

 

 ともあれ、男の役目としてそれらをトレーに乗せて二人の待つ所に持っていく。

 

「お帰りー」

 

「たいした時間経ってないけどな」

 

 リーナの言葉に返しながら席に座る。適当な乾杯の音頭というわけではないが、植物由来の容器に入ったドリンクを打ち鳴らして、再会を祝う。

 

「しかし、学生が多いですね。まぁ当たり前ですが、なんか新鮮な気分ですよ」

「そんなに昔のことでもないのに……」

「それでも、ハイスクールで過ごした思い出は年数では語りきれないことなんですよ。覚えておくように」

 

 普通学校ではない魔術師の特異な学府で過ごした刹那には、その言葉は染みわたるものがあった。

 

 とはいえシルヴィアもまたUSNAの魔法師の学校で過ごしただろうから、それもあるかと思う。

 そんなこんなでスターズ隊員。恒星級ではないが、それでも『この人がいなきゃはじまらない』とも言える参謀役が、ここにいるのは、何故なのだろうかと思う。

 

 まさか本当にリーナと刹那の生活態度のチェックをするために派遣したわけではあるまい。そう考えて、『帰還』や『始末任務』『脱走兵狩り』『アウトサイダー』……様々考えて、問うたのだが……。

 

「普通に風紀の綱紀粛正です。別にあなた達二人の恋仲であり深愛の限りに何か言うつもりはありませんが、とりあえず『少しは自重させたい』という思いですよ。――――スターズ隊員総意の意見です」

「まぁ総隊長が色ボケすぎても困りますか」

「元凶であるセツナが言うべきことじゃないわよ……ワタシにも原因はあるけど」

 

 二人して少しだけの反省をするも、色々と『注意』はしていたしお互いの身体を気遣ってもいた。

 それでも日常生活に害が無いからと、別に勉学にも何も影響がないとはいえ、まぁ皆の気遣いを素直に受け取っておく。

 

「まぁそれ以外の任務もあったのですが、こちらは私一人で何とかなります……というか、もはや終わったのですが……」

 

 やはり何か違うミッションがあったようだが、どうにもシルヴィアの歯切れは悪い。渡されたのはマイクロチップ一枚。

 

 それに仔細が書かれており、一応頭に入れておけということらしい。

 

「ブランシュの壊滅。そして『人間主義者』の解散……大亜が、どんな手を打ってくるか分からなくなってきましたよ」

「大ポカというわけではないが、運が悪いというか、なんというか……」

 

 正直、今まで投資した額から察するに、かなりの痛手ではないかと思う。

 おおがかりな工作活動の割に得られたものは、殆ど無くそれどころか全てを失うほどの災厄の原因になり果てた。

 

(捨て鉢な一手に出るか、思いも知れぬ一手を打ってくるか―――どちらにせよ死期を早めたな)

 

 そも大本を辿ればかつての大漢の頃のアンタッチャブルな話に遡り、そこからここに至るまでに、刹那が余計な茶々を入れたのも一つだろう。

 

「大亜にとってのアンタッチャブルにセツナが含まれてるのかもね」

 

「セイエイ・T・ムーンは、彼らにとって二部の『リナ・インバース』も同然になっていますからねぇ」

 

「別に、俺だって余計なことしたいわけじゃないっての。俺の知らないところで勝手に陰謀でも何でも巡らせればいいのに、俺が行くところで変なことやらなければいいんだ」

 

 しかし、魔術師の運命とは、そういうものだ。魔性は魔性を引き寄せる。魔的なものに関わる人生である以上、そこには絶対にそういう運命が待ち受ける。

 偶然出かけた街で、違法魔法師に会ったり、ロクでもないことを画策する連中と出会う。

 

 これは『必然』なのだ。ならば、その際の運命に打ち克つための方法は己の持つ力にしかないのだ。

 

「とりあえず今は、キュウコウセン……でしたっけ? 面倒ですから『ナインライブス』とでも呼称しておきたいぐらいですが、それに全力を尽くすべきですよ。スターズ隊員から請け負った応援要請と録画機器の準備はばっちりです♪」

 

『『来るのかよ……』』

 

 二人にとって頭が上がらない姉貴分の言葉に少したじろぐも、まぁ応援されて嬉しくないわけではない。というかバランス大佐もそうだが、皆してリーナと刹那を自由にさせ過ぎではないかと思う。

 

 ともあれ、シルヴィアがスターズ全員からの応援を届けにきたという体で、面倒見のいい姉貴分として富士に来るらしく……、何か起こるのではないかと少し不安に思いつつも、九校戦の日は近づくのであった……。

 

 ・

 ・

 

 買い物から帰宅して晩御飯。客人もいるので刹那なりに少し気合いを入れての調理となった料理は好評であった。

 

「やっぱり刹那くんのご飯は美味しいですね。リーナ~。結婚したら主婦できませんよ~♪」

 

「で、できますもの! ちゃんとお料理もするし、掃除はHAR任せかもしれませんが、それ以外のことはちゃんとしますよ!!」

 

 からかうような言い方のシルヴィアにムキになるリーナ。しかし、そこにフォローを入れてくるは未来の旦那であった。

 

「今から意気込んでも、長続きしないから考える程度にしておけよ。どんな生活になるか分からないんだからさ」

「うん……♪」

 

 頭を撫でられて落ち着くリーナを見て、箸を口に入れながらジト目になってしまうシルヴィアである。

 しかし、これはニューメキシコのスターズ本部でも度々見ていた光景でもあるから、ある意味懐かしいものであったのだが……。

 

(もはや結婚することは確定的なんですよねー……やっぱりこういうの間近で見ると少し女として複雑ですね)

 

 

 シルヴィア・マーキュリー・ファースト 25歳。妹分に色々と負けている事実に打ちのめされるちょっとおセンチな年頃であった……。

 

 


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