山もオチもない……
某アハーンの人が長島スパーランド(ロングアイランド)の短編書けって威嚇(語弊)してきたから……(責任転嫁)
──夜。
季節によりその時間は若干変わるが、それでも午後の六時前後から翌日の午前五時前後の時間帯のことを指す。
そしてそれは、一般的には睡眠時間として割り当てられることが多い。
そんな時間帯に一人、薄くて四角い電子機器を弄っている者がいた。
「あーっ!?」
彼女は三色の発光体を無数に敷き詰めて造られている液晶画面を指でなぞり、その結果に悶えていた。
彼女は何らかのミスプレイをしてしまったのだ。
「う〜……マルチ相手に迷惑かけちゃった……」
液晶画面に『ゲームオーバー』の文字が出ていないので大きいミスという訳でもない。マルチ相手は「気にするな」とジェスチャーしてきたが、彼女は気が気ではなかった。
「……全部あの人のせいだもん」
そうして自身のミスの理由を他人のせいにしながら、彼女はまた液晶画面をなぞり始めた。
──その時だった。
「これは……」
電子機器の画面に表示された、一つの通知。私はそれの詳細を見た時、脳に電流が流れた。
◇◆◇ ◇◆◇
日差しによって蒸発した水分による蒸し暑さと、その元凶である日差しによって立っているだけで体力が奪われていく猛暑日。
気温が三十度を超えたあたりから目の前が歪んで見え始めているのだが、隣にいる奴の為にも耐えなければならない。のだが──。
「おい長島、いい加減にくっつくのやめろ!」
「いやなの!」
「暑いんだよ! 離れろ!」
「いやなものはいやなのー!」
「今ここで腕組まなくても良いだろ! 離れろ!」
「いやなのー!」
「……はぁ……」
場所は首都のとある電気街。
彼女──長島
「てかなんでゲーム買うのに俺が必要なんだ? 一人でも買えるだろ?」
「えっとねー……これ!」
「……カップル割?」
彼女から差し出されたチラシに書かれていたのは、カップルで来店するとお買い上げ時に二割引されるという広告。
「そう! 今日買うゲーム、ちょっと高いのを何本か買うから、こういう割引は使わないとねー」
「……まあ、言い分は分かった。だからといって今からくっつく必要は無いだろうが」
「……もしかして恥ずかしいのー?」
「なっ!? 違っ、そういう訳じゃ」
「もー、恥ずかしがってないで早く行くよー」
「いててて引っ張るなって!」
◇◆◇◆◇◆◇
「結局荷物持ちか……」
「ご、こめんねー……ちょっと買いすぎちゃったのー……」
「まあいいよ。いつもの事だし」
買い物が終わり、家の最寄り駅で降りた俺達は、彼女を家に送るべく歩いていた。
「なあ、長島」
「なーにー?」
「昔からの付き合いで、こんなこと聞くのもあれなんだけどさ……」
「うん?」
「最近、何かあったか?」
「……え?」
俺の問いを聞いて、彼女の目線がこちらを向く。
彼女は気の抜けた顔をこちらに向け、ただじっと俺の顔を見つめていた。
「最近のお前、前みたいな元気がないような気がしてさ。ちょっと心配してたんだ」
「そう、かな」
「無理に言えとは言わないけどさ。何かあったら言えよな? 俺でよければ、聞くから」
「…………」
彼女は目線を落とし、その場に立ち止まった。それに倣って俺も足を止める。
彼女は口を固く結んでいたが、やがて決意したかのように顔を上げた。
「えっとね……ちゃんと、聞いてくれる?」
「当たり前だろ? 俺がそれにちゃんと答えられるかは保証しないけどな」
「……じゃあ、家まで来てくれる?」
「家で話すのか?」
「うん……。ここだと、ちょっと言いづらくて……」
「わかった。なら、行こうか」
◇◆◇◆◇◆◇
それから数分。
彼女の家に着いた俺は、彼女と机を挟んでいた。
「それで、どうしたんだ?」
「あのね……?」
「…………」
「実は、私、今は人間じゃないの」
「……どういうことだ?」
彼女は、自分を「人間じゃない」と言ってのけた。
しかし、彼女は人の形をしているし、変わったところは一つとしてないのだ。
しかし、それにはまだ続きがあった。
「私、艦船少女なの」
「……艦船少女?」
艦船少女。戦艦の力を持つ少女のことを指すと、前にニュースで聞いたことがある。
──長島が艦船少女?
そう疑っていると、彼女は掌を前に差し出した。
「長島? 一体何を?」
「見ててね?」
「……おう?」
見てろというので彼女の掌を眺めていると、軽い発光の後、彼女の掌の上にはプラモデルのような飛行機──彼女曰く艦載機──が存在した。
「ね?」
「ね? じゃないが……まあ、お前がそこまでするんなら、ホントのことなんだな」
「……それで、ね?」
「うん?」
「どう思った?」
「……え?」
「怖い、とか、思わなかった?」
「…………」
「今すぐにでも離れたい、とか、思わなかった?」
「長島……」
その時の彼女は、俺に酷く怯えているように見えた。
「……長島」
「うん」
「別に怖いとか、思ってないぞ」
「……えっ?」
「確かに少し驚いて、まだちょっと信じ切れてないところもあるけどさ。お前は、俺が離れていくのを覚悟して、それを教えてくれたわけだろ?」
「…………うん」
「なら、やっぱりお前はお前、長島空音だよ。怖がる要素なんてどこにもない……そうだろ?」
「……そう、なの?」
「ああ。幼稚園から一緒なんだし、俺が嘘を言ってないってことぐらい、わかるだろ?」
酷く怯えていた彼女は、その隔壁を砕かれたかの如く、その表情が徐々に明るくなっていく。
「ありがとう」
彼女はその明るくなった表情で、優しく微笑んだ。
「……おう」
「あー! 面と向かってお礼言われるのに慣れてないから、恥ずかしいんでしょー!」
「そんなことねーし! お礼とか言われ慣れてるし!」
「……フフッ」
「……ハハッ」
それから俺達は、少しの間笑い転げていた。
何かおかしな事があった訳でもないのに、枷が外れたかのように。
俺は悪くない(必死)