ほむら「ハーレムつくったら全部上手くいく気がしてきた」   作:ラゼ

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一、二週間に一回の更新(大嘘)

まあそういうこともあるよねごめんなさい


ドッペル・ヴォミット

 いろはの絶望に沈んだ声を耳にして、状況を理解している面々が沈痛な面持ちで顔を伏せる。誰よりも、何よりも大切な妹──単身神浜へ来てまで探し求めた宝物。それが魔女どころか、それよりもずっと悲惨なものに成り果てていたのだ。いろはの張り裂けそうな心は、優しいチームメイトたちだからこそ理解でき、それゆえに声をかけられずにいた。

 

 ──しかしそこは空気を読めないほむらである。気絶したままのねむを盾に収納し、つかつかとイブへと近付いた。そして再度盾のギミックを発動した次の瞬間、彼女の手にはドリルが握られていた。

 

 手で持てるサイズにありながら、軽々と岩を砕く現代技術の粋──“打撃数2450”“ストローク45”“ホース内径19”“空気消費量1.6”“ピストン径54”。黄色のヘルムを被り、安全のために『ヨシ!』と指差し確認をしながら、ほむらはイブへと突貫した。

 

「まま、まっ、ちょまっ──待ってくださぁーーーい!!」

「…どうしたの?」

「暁美さんがどうしちゃったんですか!?」

「見ての通りよ。アリナの言葉が確かなら、あなたの妹──『環うい』は、体そのものが変質したわけじゃない。体を覆う繭のように、イブが成長していっただけでしょう? なら掘り進めていけば見つかる筈よ」

「そ、そんな物理的な手段でいけるんですか?」

「わからないけど……私はちっぽけな魔力なんかより、このドリルを信じたい」

「魔法少女なのに!?」

 

 スパァン! と自分の太ももにツッコミをいれるいろは。どこか違う次元の彼女が乗り移ったかのように、空へと吠える。そしておもむろに走り出すと、ほむらの腰へ見事なタックルをかました。

 

「ういを削らないでぇー!!」

「…ならどうするつもり?」

「そ、それは…」

「時間がないの。ワルプルギスの夜とイブ……両方を相手取る事態だけは避けたいわ。既に魔法少女としての肉体を失っている──もしくは中にまだ居る。どちらにせよ、このドリルが解決するでしょう?」

 

 前者であれば、それは『嫌な役割』を引き受けるということだ。姉が妹“だった”ものに手をかけるよりは、まだ救いがあるだろう。冷酷な表情で、優しいナイフを突き付けるほむら。残酷な思い遣りを見せる彼女の様子に、いろははぐっと喉をつまらせた。しかしそんな二人を見て、蚊帳の外に置かれていた灯火が叫ぶ。

 

「にゃーー! わたくしを無視するなー!」

「…はぁ。いい加減、本当に鬱陶しいわ。これ以上、邪魔をするのなら──もう容赦しない」

「ふーんだ! わたくしだって、あなたの能力にあたりはついてるもん! 時間停止……あるいは滞留! なら対策はどうとでもなる──けど…」

「…けど?」

「アリナの被膜にキュゥべえが入り込んだ時点で、わたくしたちの計画は破綻しかけてる……なら今は、環いろはの言葉が真実なのか確かめたい…」

「灯花ちゃん…!」

「…勘違いしないでほしいにゃー。お題目とはいえ、わたくしたちの計画は確かに魔法少女の救済だったもん。それを邪魔したあなたたちは、救いを望んだ羽根たちの想いを殺したんだよ?」

「詭弁ね。他人の財布を掠め取ろうとした犯罪者を止めただけでしょう? 貧しくたって、苦しくたって、それは願いを叶えた私たちが負うべきもの。たとえ騙されてそうなったからって、自分が騙す側になる言い訳に──使っていい筈がないわ」

「…」

 

 少しのあいだ睨み合ったあと、灯火はほむらから目をそらした。まっすぐな瞳が、彼女の記憶野を刺激する。常人よりも遥かに優れた脳を持つ彼女は、『現状』がしかと理解できていた。いろはが彼女たちに訴え続けてきた『偽りの記憶』は、キュゥべえの言葉を加味すれば完全に整合性がとれてしまうのだ。どことなく覚えていた違和感にも、それで答えが出る。

 

 それでも灯火は、唇を噛みしめた。魔法少女は救われなければならないのだ。魔法少女の救済──まずそこがありきで、だからこそ自分は魔法少女になったのだから……と、そこまで考えたところで彼女は己の思考の矛盾に気付く。救済は結果的にそうなるだけで、自分は宇宙の真理を理解するために魔法少女になったのではなかっただろうか、と。

 

 しかしなぜそのような回りくどい方法を選んだのか──答えは出ない。真理を知りたいだけならば、もっと直接的な願いはいくらでもある。

 

 …ならばその答えこそが、失われた記憶に存在するのだろう。そう灯火は自問自答し、イブを見上げた。いつの間にか足場が組まれ、養生シートまで張られている。盾の中にはホームセンターでも広がっているのだろうかと、彼女は冷や汗を流した。

 

「みんな! ドリルは持ったわね!」

「はい!」

「…本当に大丈夫なの? いろは」

「…はい。これは私が、私がやらなくちゃダメなんです…!」

 

 そして足場のあちこちに、ほむらからドリルを配られた魔法少女たちが陣取っていた。いくらイブが覚醒していないとはいえ、体中を掘削されて大人しくしている筈もないだろう。となれば、重要なのは時間だ。いかに短時間でイブの体を掘り尽くすか。

 

 あからさまに弱点と主張している胸の宝石に三人、次に可能性の高い頭に二人、下腹部に二人、そしてイブの拘束を担当する三人。残りは何かあった時のための控えだ。

 

「ううん……しまった、気絶して……ええぇぇ…!」

 

 一方、盾から解放され目を覚ましたねむは、ぼやけた視界に入った意味不明の状況に唸り声を上げた。イブの周囲には建築現場のような骨組みが張り巡らされ、そしてイブ本体はというと、リボンやら樹木やら赤い鎖のようなものやらで拘束されているのだ。加えてその周りにドリルを持った魔法少女たちとくれば、理解しろと言う方が無茶だろう。

 

 目を白黒させている彼女に灯火が軽く説明をすると、ようやく得心がいったのか、ねむはこくりと頷いた。彼女がちらりと顔を横に向けると、そこには静観しているキュゥべえが目に入る。傍目にはただ傍観しているだけに見えるが、しかしそんな筈はないだろうとねむは断じた。

 

 地球の文明では理解できない技術で状況を精査し、把握し、そして他の端末と同期している。そこに疑いの余地はなく、それゆえに計画が破綻した可能性も劇的に高まった。『マギウス』の計画は、もとよりキュゥべえへの情報封鎖が大前提なのだ。

 

 彼らがマギウスと同じ情報や同じ手札を持ってしまったなら、そこで勝負は終了だ。知識も技術も比べ物にならない相手と同じ土俵に上がるには、勝負が始まる前に終わらせておかなければならなかった。だからこそ、キュゥべえすら締め出せるアリナの被膜は必要不可欠であったのだ。

 

 その前提が覆されてしまったならば、優位は崩れ、交渉の余地は生まれない。全てにおいて自分たちに劣る者からの、技術提携染みた交渉など受け入れる理由はないだろう。そもそもキュゥべえから奪った能力こそが計画の根幹にあるのだから、彼らの方がよほど使いこなせるだろう。

 

「…因果の抹消による記憶の書き換えか……本当にそんなことがあるのかな? あるとすればどんな手段なのか──興味深いね」

「うん…」

「…灯火?」

 

 イブの胸前に立つほむらを注視する灯火。そしてその横に立ついろはも──そのどちらもが、彼女の思考にさざなみを起こす。イブの中にいるかもしれない魔法少女……記憶に存在しない筈の少女の姿が、ふと脳裏によぎった。しかしそんな灯火の葛藤をよそに、事態は進んでいく。

 

「せー……の!」

 

 ──都合七本のドリルが、イブを貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──世界とは、無数に存在するものである。平行世界、並行世界、あるいは現在、過去、未来……しかしその全てに共通するものが『法則』というものだ。世界が世界として成り立つ、根本の事象。

 

 いつかどこかで始まった『円環の理』という法則は、“始まった”時点で物質の(くびき)を外れ概念へと至り、その時間軸よりも過去に“存在していた”という矛盾を抱えて生まれた。

 

 そしてその矛盾が許されるのは、ありとあらゆる物事に対し『法則』が優先されるからに他ならない。『円環の理』とは世界の一部でもあり、同時に世界そのものでもあるのだ。

 

 通常、法則に確固たる意思など存在しないが──『円環の理』は世界の法則として唯一、例外的な存在として成り立つ。元はただ一人の少女であった『円環の理』は、人間としての在り方から外れてなお“人間”としての自意識が存在していた。

 

 それは『円環の理』という存在が、彼女だけで構成されていないことに起因する。彼女が統括し、そのものとして流れる法則は『魔法少女の救済』だ。穢れを放ち、魔女へとなり果てる筈の魔法少女を導く。

 

 ──導くというからには行き先が存在し、そしてそれもまた『円環の理』である。導かれた魔法少女は『円環の理』を構成する一部となり、それが意味するところは──この法則が『鹿目まどか』であると同時に、過去現在未来全ての『魔法少女』でもあるという事実だ。

 

 概念でありながら我を持ち、個としてありながら全でもあり、全てに平等である筈の法則でありながら──誰か一人を特別に想う『世界』。

 

 いくつもの世界に共通して存在する筈の『円環の理』は、しかしその法則が作用していない世界があることに気付く。それはとても儚く朧気で、直接触れてしまえば壊れてしまいそうな世界だった。

 

 法則は、法を則すことが存在意義である。世界に作用していないならば原因を調査し、可能であれば導かなければならない。しかし触れれば壊れそうなその世界に、大きな影響は毒になる──故に『円環の理』は、その力のほんの一部だけを送り込んだ。

 

 それが──『』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『美樹さやか』──見滝原中学校二年生。身長は百六十センチ弱と平均よりはやや高く、体重も少々平均を上回る。バスト、ヒップも十四才にしてはボリュームのある方だが、腰回りと胴回りもそれは同様である。太っているかと言えばそうではなく、痩せているかと言えばそれはないと否定できるだろう。結論としては、少々肉付きの良い女子中学生といった評価になる。

 

 そしてそんな少女の日常を付け回す、怪しい少女が一人……見滝原を徘徊していた。頭から茶色の紙袋を被り、目と口の部分にだけ穴を開けた──有り体に言えば不審者そのものであった。ハロウィンであればまだ理解できなくもない風体ではあったが、もちろんカレンダーはその日を示していない。

 

 それでもこの不審者が通報されないのは、性別が女性であり、年齢が見るからに中学生ほどだからだろう。身長は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 彼女は、美樹さやかという少女の日常を折に触れて観察していた。それは使命と言うよりも興味の部分が強かったが──しかし無意味という訳でもなかった。およそ半月と少しといったところだろうか……彼女のストーキングを一部抜粋すると、このような感じである。

 

 

 

 

 

 ──電信柱の陰から、こっそり美樹さやかを覗き見る不審者。その視線の先には、ストーキング対象ともう一人……長い黒髪の少女がいた。下校中の買い食いだろうか、クレープ屋で注文をしている様子がうかがえる。それぞれ別々の商品を頼んだ二人は、ベンチに座って談笑していた。

 

 人によっては『ガサツ』と評される美樹さやかという少女は、食べ方も(しと)やかとは言い難い。大口をあけて齧り付くほどに乙女を捨ててはいないが、美味しそうにパクつく姿は上品とは言えないだろう。口の周りにクリームが付いたことにも気付かず──隣の少女がクスリと笑いながらそれをすくい取り、そのまま口に運んだことで、ようやく気付く有り様だ。笑われたことに対してか、それとも行動そのものに対してか……頬を染める青髪の少女。そんな二人のやり取りを見て、不審者は──

 

「げふぅっ!!」

 

 ──血を吐いた。紙袋が赤に染まり、彼女の視界も赤に染まる。地面をゴロゴロと転がる姿は、まるでいま見たものを認められないと駄々をこねているようにも見えた。

 

 

 

 

 ──観光用に備え付けられた望遠鏡で、遙か先にある景色を覗き見る不審者。そのレンズには、ショッピングにいそしむ二人の少女が映っていた。黒髪の少女が青髪の少女の髪飾りを外し、新しい飾りをプレゼントしているようだ。付けられている間、もじもじと頬を染める少女……プレゼントをつけた自分の姿を鏡で見て、花が咲いたような笑顔を見せる。そんな二人のやり取りを見て、不審者は──

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ーー!!」

 

 ──血を吐きながらうつ伏せになった。望遠鏡に土下座でもしているかのような体勢で、プルプルと体を震わせる。まるでいま見たものが現実ではないと否定するかのようにも見えた。

 

 

 

 

 ──ゲームセンターで遊んでいる二人の少女を、ダンスゲームの筺体に隠れながら覗き見る不審者。その視線の先には、クレーンゲームに熱中する少女たちの姿があった。交互にボタンを押しながら、アームの強度に文句をつけつつ笑い合っている二人。景品の入手にこだわっている訳ではなく、共同作業という行為そのものに楽しみを見出しているのだろう。そしてふとした瞬間、ボタンを押す二人の手が重なる。なにか熱いものに触れたかのように、ビクリと反応する青髪の少女。そんな少女を見て、もう一人が笑いをこぼす。非常に仲睦まじい様子を見せつけられ、不審者は──

 

「おぉっふぅぅ…!」

 

 ──血を吐きながら苦悶の声をあげる。あり得ないあり得ないと地団駄を踏む様子は、横のダンスゲームのプレイヤーがドン引きするレベルだ。そもそも紙袋などかぶっている時点で、周囲に引かれるのもやむ無しだろう。地面を蹴り続ける様子は、子供の癇癪かなにかのようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 否定したいがために観察を続ける日々を繰り返す不審者であったが、ここ数日でようやくギブアップしたのか──隠れ家のベッドの上で呆けていた。時折ゴロゴロとベッドの上を転がるのは、何かを思い返して煩悶しているのだろう。そんな彼女の姿を見て呆れたように声をあげたのは、同じ使命をもつ同僚だ。

 

「いい加減に受け入れるのです。同じであって同じでない……わかっている筈なのです」

「ううぅ……でもさぁ…」

()()()()()()()()()なんて、こっちからしたらあり得ないのです……なら別人って考えた方が絶対にいいのです」

「うー…」

「それより、ようやく動き始めたっぽいのですよ。そろそろ仕事しないと、怒られるのです」

「ずっとチーズ生活してたあんたが言うか…」

「英気を養っていたのです」

 

 液体のようにベッドからズルリと這い出し、準備を整える少女。その横に立つのは、少女よりも更に幼い童女であった。どちらもやる気があまりなさそうではあったが──やはり人の形を取れども『理』。一つ頷きあった彼女たちは、真剣な表情で隠れ家を後にした。




アニメ始まる前に完けt








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