なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
というわけで、長い間止まってた最新話をどうぞ。
そんなこんなあって僕こと八坂真尋は半透明状態のまま、ニャルラトホテプ星人・ニャル子のペットであるシャンタッ君の背中に座っている。
《ておい、なんで僕このままなんだよ。戻れよ元の場所に》
「いや無理ですって。クー子に任せた身でそんな呑気に戻るわけにもいかないんですよ。主に私の立場がありません」
《いや知らねぇよお前の立場とか。どうでもいいわ。だから早く戻れ》
「えぇー。さりげなく酷いこと言ってません? この人」
当然だ。元はと言えばこいつが別に連れてくる必要のない僕を、わざわざこんなところに連れてきたから大変な事態になってるんだ。慈悲などあるはずがない。
「大丈夫ですって。クー子がいますし、なんとかなりますよ」
しかしなんだかんだ言って、こいつはあのクトゥグアのことを信用しているようだ。喧嘩するほど仲がいいと言うし、もしかしたらその類の関係なのかもしれない。まあそれはそれとしてだ。
《いやなんともならなかったらどうするんだよ? 僕がこのまま消えたらどうするつもりだ》
「そうなった場合は、私がクー子を抹消する理由が出来るだけです」
《やっぱり最低じゃねぇかお前》
「いやいや当然じゃないですか。愛する真尋さんの命が掛かっているんですから、きゃはっ♪」
《お前な、ボケるのかまじめに話すのかどっちかにしろよ。面倒くさい》
「愛するという言葉に微塵の反応も無いなんて、とほほ……」
反応しなかったと言えば少し嘘になる。一応一瞬だけだが面食らいそうにはなった。けど今はそんなことにいちいちアクションを起こしている場合じゃない。事は一刻を争うかもしれないんだ。
だというのにこのニャルなんたら星人は呑気にボケまでかましてくる。それが腹立たしい、ああ腹立たしい。ナイフがあったら即刺してるところだ。
「わー、この人すごく物騒だー」
《人の心を読むなと言ってるだろうに。大体お前なんでそんな余裕があるわけ? 僕が消えてしまうかもしれないのにさ》
「それに関しては大丈夫だと思っているからですよ。力を発現しそれを行使した時点で、真尋さんの体が真逆さんに馴染んでいてもおかしくないですからね。それでも大丈夫ということは、何かしら条件があるのか或いは事象の発生そのものが勘違いということですから」
《お前がまともなことを言うと槍の雨でも降るんじゃないかと思ってしまうんだが……。というか前者だったらどうするんだよ? 現に僕は体から離れられているじゃないか》
「逆にこう考えましょうよ真尋さん。体から離れてても消えていないんだと」
確かにニャル子の考え方は一理ある。体から相当離れている今でも存在が消えているわけじゃない。となれば、まだその心配は無いんだと捉えることも出来るわけだ。
「まあ今回は夢の中だからと考えることもできるんですけどね」
《おい待て、ダメじゃねぇかそれじゃ》
「まあまあ、今は問題ないってことで心配するほどのことじゃないですよ。私が側にいる限り、真尋さんが消えてしまうなんてことありませんって」
本当にこいつ僕のことを考えているのだろうか。いや、決してデレたとかそういうわけじゃない。そもそもこいつ、なんていうかこう……危機感が無さすぎる。まあそもそもこんなところにしがない一般人を連れてくる時点で、僕のことを考えていないんだろうけどさ。
《わかった。とりあえず今は考えないことにする》
「その方が賢明かと。それはそれとして真尋さん」
《ん? なんだよ?》
「どうして真尋さんはそんな姿でシャンタッ君に乗れてるんですかね? 私、気になります!」
《知らねぇよそんなこと》
そんなこんな話している内に、シャンタッ君が地面に降り立つ。どうやら目的地に着いたらしい。
《ここが……》
見上げて思わず呟く。
眼前に広がっているのは巨大な城だ。何処となく漂っている不気味な感じが、魔王の城とかそういうものに見えてくる。
隣でニャル子が「地球の神々が幻夢境を管理している職場」だとかなんとか言っているけど、まあうん、深く考えないでおこう。
ふと足元にいるシャンタッ君を見た。さっきまでは人二人以上は運べそうな程の大きさだったのが、今では大きめのぬいぐるみくらいの大きさになっている。エネルギーを使い果たしたとかそういうのだろう、多分。
実体のない僕が重さに加算されていたのかはわからないけど、ここまで運んでくれた労いを込めて頭を撫でた。うん、どうして触れているのかはわからないが、こうして見ると中々愛嬌がある。気がする。
「さて、問題はここからなんですよね」
《は? どういう意味だよ?》
「この城入るたびに中の構造が変わるんですよ」
《なんでそんな面倒な構造をしているんだよ?》
「そりゃ侵入者を防ぐためですよ。キャチコピーは千回迷える城だそうな」
今ちょっとイラッとしてしまった僕は悪くないはずだ。なんせキャッチコピーなんてあるんだ、人をおちょくっているとしか思えない。本当に地球を守るきがあるのか神様は。まあ、キャッチコピーはともかく、その内容は評価に値するかもしれないけど。
耐えろ僕。きっとすぐに事は片付くはずだ。どうせ相手はニャル子によって呆気なく瞬殺されるんだ。もしかしたら敵の増援とかあるかもしれないけど、どうせそいつもニャル子が瞬殺するんだ。今までそうだったんだからそうに決まっている。もう何も怖くない。
「あのー真尋さん。全力でフラグ建設するのやめてもらえます? というか早く行きませんか?」
よし、これでこのままニャル子をツッコミ側に巻き込めば僕の負担も減る。やってやる、僕はやってやるぞ。
「なんか急に小物っぽくなっても、私はツッコミとボケをこなすオールマイティ邪神なので大差ないと思いますよ?」
《五月蝿い黙れ。大体お前基本ボケだろうが。ツッコミなんてあのクトゥグアの時にしかしてねぇだろうが》
「いや、そんなことは無いかと。というか早く行きましょうよ」
よし、これでこのまま――。
「無限ループはいいですから早く行きましょうよって」
《仕方ないな。わかったよ》
「急になんなんですかねこの人は一体。まあそういうところも愛おしいんですけど♪」
よし、今から決めた。こいつがボケる度にカウントして、元の世界に戻ったらその数の倍の回数フォークを突き刺すか。
「え、なにそれ怖い」
《いいから黙って早く行くぞ》
「やっぱり理不尽すぎます」
ニャル子の愚痴を耳には入れず、僕はずかずかと中に入った。
中に入ると、確かに迷宮じみた構造をしていた。ニャル子と一緒に少し歩いたが、普通に歩けば確実に迷子になることだろう。何か策でもあるんだろうか。
《ておい、お前なにやってる》
いや、言わなくてもいい。見れば分かる。古典的なあれをやっているってことは分かる。
項垂れる僕を他所にニャル子が自信満々に話し出す。
「なにってパン千切ってるんですよ。ほら、迷った時にこれを辿れば帰れるじゃないですか」
項垂れながら、来た道を横目に振り返る。
《なあニャル子……》
「なんですか? 今私パンを千切るので忙し――」
《その千切ったパン、シャンタッ君が食べてる》
「は?」
ニャル子が固まった。そして錆びた歯車でも動かすかのようなぎこちない動きで後ろを振り返る。きっと今ニャル子の視線の中にあるのは、千切ったパンを食べているシャンタッ君の姿だ。
おそらく彼なのか彼女なのかは分からないが、仮に彼ということにして、彼は力を使ったことで空腹だったのだろう。そこへニャル子がパンを千切って目印にするという古典的方法を取った。きっとシャンタッ君は撒き餌か何かと思ったに違いない。結果これまでニャル子が置いていたパンは、全て彼の胃の中へと入っていったということになる。
こう言っちゃなんだが、自業自得な気がする。
「しゃああんたああっくううん」
ニャル子がシャンタッ君の首根っこを掴んで締め上げた。対しシャンタッ君は悲痛な声を上げ、逃れようと暴れている。側から見ればただの動物虐待だ。
《やめろってニャル子。お前なんかと違って働いたからお腹空いてるんだろ? 離してやれよ》
「うっ……さりげなく傷つくこと言いますね……」
《離さないと回数三倍にするぞ》
「鬼だ……この人は鬼だ悪魔だ……」
とりあえず今のセリフで二回増えたことにして、ニャル子は渋々といった感じでシャンタッ君を解放した。僕の発言がショックだったのか、しゃがみ込んで地面に何かを書いている。大人しくなるのはいいことだな、うん。
《なんかおやつでもあったかな……》
自然とポケットの中を弄ろうとするが、今思いだしてみれば僕は実体が無い。例え何かあったとしても、おやつになるようなものを与えられるはずがなかった。
《ごめんな。今なにも上げれないや》
とりあえず謝罪の意を込めて、またシャンタッ君の頭を撫でてやる。すると気持ちよさそうに目を細めて「みー」と鳴いた。うん、最初見たときはなんだこの生き物はと思ったが、案外可愛いかもしれない。
《それでこっからどうするんだよニャル子。まさか万策つきたとか言うんじゃないだろうな?》
僕が問いかけると、ニャル子はあからさまに大きなため息を吐いて立ち上がった。
「あーもう面倒になってきたんで、奥の手使いますね」
《あるなら最初から使えよ》
「いやだって、なんかこの奥の手使ったらフォークが飛んでくるような気がして」
《そんなことしないから、早くなんとかしろって。正直早く帰りたい》
僕はつい本音をぶちまける。いやまあ最初から帰りたいムード出してたけどな。こいつガン無視だったけどな。
「ところで真尋さんはRPGは好きですか?」
《え? なんだよ突然。そりゃ好きだけど、マッピングなんてしないぞ》
「いえ、これを使うんですよ」
そう言ってニャル子が取り出したのは確かにRPGだった。もっと正確に言うと、対戦車用のロケットランチャーであるRPG-7だ。真逆がやたらあるゲームで「ヘリコプター相手にぶっ放すのクソ楽しー!」とか言ってバカスコと打ち込んでヘリを撃墜していたから記憶にある。
で、それはいいんだが。
《お前、それで何をどうする気だよ?》
「それはもうこのようにですよ?」
ニャル子は説明がてらと言わんばかりにRPGを壁に向けて構える。この時点で僕は察してしまった。こいつが何をするのかを。
「ドカンと一発ハゲ頭ー!」
ニャル子のどっかで流行ってたかもしれない童謡の替え歌の歌詞にありそうな台詞とともに、ロケット弾が発射。壁はものの見事に崩れ去った。
「と、壁をぶち壊して突き進むんですよ」
《これじゃあセキュリティも何もあったもんじゃないな》
というか、これで済むならどんなやつでも侵略しに来れるんじゃないか? だってこういうこと平気で出来る集団だろ?
「ほらほら、真尋さんも一緒にやりましょうよ? スカッとしますよ?」
《いや僕実体無いから触れないだろ》
そう言いつつ差し出されたRPGを取ってみる。これまでシャンタッ君に乗ったり触ったり出来てたから試してみたけど、案の定持つことが出来た。
僕は深くため息を吐いて項垂れる。ニャル子から期待の眼差しが送られている。正直今すぐ帰りたい。うん、帰りたい。
《わかったよ。仲間に加わるよ》
どうせ好きに帰れないんだ。そう諦めて僕はニャル子とともに破壊工作に勤しむのであった。
破壊工作による力づくの迷宮探索から小一時間。僕が一発放つと、瓦礫の向こうに開けた場所が出てきた。
《ゴールか?》
「そのようですが……はて?」
僕たちは中を見渡す。誰もいない。人一人、神一神。なんでもいいけどなんの姿も見当たらない。もぬけの殻だ。
《誰もいないけど》
「いやそんなはずはないんですけど」
邪神レーダーとかいうどっかの妖怪に似た何かを持っているニャル子の髪が、一房だけピンと立っている。つまり邪神がここにいるということなのだが、やはりどれだけ見渡しても姿形など見当たらない。
それはそれとしてなにかの気配を感じる。
というか、真逆のせいでなんかやけにこう、変な気配に過敏になっている気がする。これもしかしてマズいやつじゃないか?
「いや、現実そっちのけで自分の思考に入らないでくださいよ」
《うるさい、心を読むな。ろくなのが待ってないって分かってるんだ。どうせあれだろ、お前の身内か誰かの仕業なんだろ実は》
「え、何、そこの地球人エスパー?」
そんな声が何処からかともなく響く。
「ゴホンっ……ようやく来たか」
僕の言葉に気を取り直すかのように、あからさま咳払いが響く
音の方向を見てみると、先程まで何もなかったところに一つ人影があった。
《えーと?》
白いローブに身を包んだ金髪の青年が立っていた。見た目は男の僕でも一瞬惚れ惚れしてしまいそうな綺麗な顔立ちをしている。勿論そんな趣味はないと、一応保険として言っておく。
そして先に聞こえてきた発言。僕は蔑んだ眼差しをニャル子に送った。
「そんな……どうしてここに……?」
僕の眼差しを尻目に、ニャル子はクソ真面目な表情で男の方を見ている。声音からして驚いている様子だ。
「久しぶりだな、ニャル子」
「ニャル夫……兄さん……」
まさかの再会を果たす二人を他所に、僕は心の底から思ったのだった。もう今すぐにでも帰りたい。そして、このニャルラトホテプ星人どもから解放されたいと。
まずはこの話を見ていただきありがとうございます。そしてお待たせして申し訳ありませんでした。まあ理由としてはオリジナルの方に力をちょっと注いでたからとかなんか色々理由あるのですが、お待たせしてしまった読者様方にはもう申し訳なさで一杯です。
これからまた再開して、月一回か二回の更新でお送りしたいと考えております。なので、良ければまた楽しんで読んでいただけたらなと思っています。
長々と書きましたが、また次回でお会いしましょう。
See you next ga……story