なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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長らくお待たせしました。
まだシリアス(?)が抜け切っていない第十四話をどうぞ。


第十四話 なんだかんだと聞かれても答えるとは限らないんだぜ?

 俺の手の平から、黒い粒子が消滅する。

 旧友のニャル美を俺は再び殺した。

 罪悪感はない。あいつは頭のネジが外れてる奴だった。復活した後でも、なにも変わりはしなかった。

 だから後悔するはずもないのだ。俺はやるべきことをやった。これが俺の本来あるべき姿なのだ。

 何故ニャル美が復活したのか。それはわからない。もしかしたらあいつは俺に惹かれて復活したのかもしれないし、ここが幻夢境だからこそ起こったことなのかもしれない。

 どちらにせよ、もうどうでもいいことだ。

 

「悪いな真尋。怖かったか?」

 

 真尋の表情を見て、俺は肩をすくめる。

 明らかな恐怖が顔に現れていた。

 今までは力の片鱗を見せた程度で、思い切り振るうことはなかったことを考えれば当然の反応だ。

 自分に取り憑いているのが化け物だと知れば誰だって恐怖する。

 

《真逆……お前、一体何者なんだよ?》

「悪いがその問いには答えられない」

 

 んだよ。そんな声が微かに聞こえた。

 

《なんだよそれ。答えろよ! 僕は一体何に取り憑かれているんだ!》

 

 堪らず叫ぶ真尋。いつもは悠々綽々とした態度だが、今はそんな影もない。

 

「何度も言うが、それを答えたらお前が消えちまうかもしれない。それだけは避けなきゃなんねぇんだよ」

《あれだけ力を振るってたんだぞ!? 僕が消える心配は無いんじゃないのかよ!?》

 

 真尋の叫びに、俺は被りを振った。

 

「残念だがむしろ逆だ。見ろよお前の体。ここは幻夢境だ。だがこの場所においてお前の存在はあやふやな状態になっている。嫌でも俺と繋がりが強くなっているせいでな」

《なんだよそれ。どういう意味だよ》

「悪いがこれ以上は答えられない」

 

 真尋は俯く。手元を見ると、拳を作って握りしめている。

 真尋の感情が流れてきていることからも、俺はこいつとの繋がりが強くなっているのだと理解する。

 真尋から感じるのは怒りだ。恐怖はもう無くなり、事情を話さない俺に対して言葉では言い表せない怒りを抱えている。

 けどこいつのためにも、俺が正体を明かすわけにはいかない。明かせば確実に、こいつは消える。消えた瞬間、八坂真尋は真逆真尋に塗り変えられる。

 そうなると俺も困る。俺が元に戻るためには、正体を明かすわけにはいかない。せめて俺の〝真逆真尋としての体〟を手に入れるまでは隠し通さなければならない。

 俺は静かにクー子に目配せする。

 今この場で俺の正体を知っているのはクー子だけだ。半ば実験的にした行動ではあったが、やはり真尋以外であれば正体を明かしても大丈夫らしい。

 

「少年。もう一人の少年は、少年のためにこう言っている。受け入れるべき」

《なんだよ。まるでお前も知ってるみたいな言い草じゃないかよ……クー子》

 

 言われてクー子は顔を逸らした。

 真尋は勘がいい。だからきっと、これで分かってくれるはずだ。明かす気が一切無い、というわけではないことを。

 きっともうひと押しでこの場を切り抜けられるはずだ。

 

「真尋。(おれ)を信じてくれ」

《こんな状態でどう信じろってんだよ》

 

 微笑とともに放った言葉に対し、真尋は半透明の体を見て呟く。

 確かにそれもそうだ。と俺は苦笑した。

 俺は軽く目を閉じ、深呼吸とともに意識の半分を別の方向に向ける。

 そして目を開ける。すると真尋の体が元の実体に戻っていた。

 

《ほら、これでどうだ? 少なくとも俺がある程度自分の状況を把握している証拠だろ?》

 

 真尋は無言で俯く。

 真尋からはもう怒りは感じなくなっていた。モヤモヤと渦巻く感情は多少あれど落ち着いてる。

 

「わかった。今は信じといてやるよ」

 

 その答えを聞いて、俺は胸を撫で下ろす。

 

「けどせめてさっきのよくわからない女のことは教えろ。別にそれならいいんだよな?」

 

 痛いところを突かれて、俺は思わず口をへの字にする。

 

《いや、あいつはまあ……あれだよ》

「あれってなんだ。元恋人か?」

《いやちげぇよ。恋人じゃねぇし》

「じゃあ元夫婦ですか?」

 

 待ってましたと言わんばかりに、ニャル子が目を輝かせて言う。

 そういやさっきから空気だったもんな。うん。

 

《それはもっとちげぇよ》

「えー? でもあの女の言い分、一方的に離婚された女の怨念みたいでしたよぉ?」

《あいつはただの友達の姉だよ。だからほぼ赤の他人だ》

「ほうほう。では真逆さんのさっきの姿は?」

「おいニャル子。お前さらっと真逆に正体話させようとしてんじゃねぇよ」

 

 呆れる真尋と一緒に、俺も苦笑する。

 まあ分かってはいた反応だ。クー子が知ってる素振り見せたら、なんでこいつは知ってるんだみたいに食いついてくるのは。

 

「だってなんでクー子には教えて私には教えてくれないんですか! おかしいでしょう!?」

「信用されてないんだよ、お前」

「なんですと!?」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ始める真尋とニャル子。

 その光景を俺は笑いながら見つめる。

 そしてなんとなくニャル美のことを思い出していた。

 あいつがもし普通にしてくれていたなら、こういう関係にもなっていたのかもしれない。

 そんなありもしないことを想像すると、真尋とニャル子の姿は微笑ましくもあり、少し羨ましくもあった。

 

《まあ、結局あのバカと喧嘩に発展してることは変わらないだろうけどな》

 

 俺の小さな呟きは、幻夢境の風となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 真逆の物憂げな表情を見て、僕はため息を吐く。

 こいつはこいつなりに、何かを背負っているというのは薄々感じていた。

 それが少し浮き彫りになって、改めて思う。なんだかんだこいつはいい奴だ。時折ウザいし、というか頻繁にウザいし早く出て行ってほしいけど、それでもこいつの言うことは信じられる。

 だから真逆の正体は気になるけど、深く追及はしない。いつかきっと、正体知る日が来る予感はしている。その日が一日でも早く来ることを祈るだけだ。心の平穏のために。

 それはそれとして。

 

 

「ところでおいニャル子。お前の兄貴どうすんだ?」

「あ、そいや存在ごと忘れてましたわ」

「お前、ほんとに血の繋がった兄貴の扱いじゃないよなそれ」

 

 先の戦闘でニャル子の兄ニャル夫は完全に伸びている。正直死んでないか心配になるくらいだ。

 

「まあ息はしてる感じですし、捕まえて引き渡して今回の件は解決ってところですかね」

 

 そう言いながらニャル子は何処からかともなく何かを取り出した。見たところ何かの端末のように見えるけど、これを一体どうするのか。

 ニャル子は無言で端末をかざす。すると倒れ伏すニャル子の兄の体は端末の中に吸い込まれるようにして消えた。

 どういう原理かはわからんが、まあ宇宙規模のすごい技術でも使ってるんだろう。

 

「これで万事オーケーです!」

「そっか。で、ここを管理する神様の件はどうするんだ?」

 

 するとニャル子は人差し指を立てるような仕草をして少し考えたかと思うと、ポンと手を叩いた。

 

「そんなことよりここから出ましょうか真尋さん」

「お前逃げたな? 考えることから逃げたな?」

「いやまあ考えても仕方ないことですし。ほらよく言うじゃないですか。考える前にエキサイティングしろって」

「エキサイティングすんな」

 

 まあ確かにここから早く抜け出したいという気持ちはある。ここにずっといるのはあまり精神衛生上良くない。

 

「そういえば私、今日なにも活躍してない」

 

 ボソッとクー子が愚痴のように漏らしているが、無視しよう。

 

「ほら真逆。帰るってさ」

 

 ふと真逆の方を振り向く。すると真逆が何やら左の手のひらを見つめている姿が視界に入った。

 

「おい真逆、聞いてるのか?」

《んお? おお。そうだな》

 

 慌てた様子で手のひらを隠すように下ろすと、真逆はガハハと笑う。

 もしかしたらあのよくわからないニャルラトホテプの女を消したことを、少し後悔しているのかもしれない。そう僕は思った。

 

「正体はともかく、なんか悩みがあったら少しは相談に乗るぞ?」

 

 いつもよりどこか萎らしい真逆の姿がなんだか見ていられず、僕は頭を掻きながらそう言った。

 すると真逆のやつは、

 

《お? そうか? じゃあ実はちょっと欲しいゲームがあってさぁ? 買ってくれ真尋!》

 

 とかなんとか宣ったので、とりあえずフォークを刺しといた。

 真逆の甲高い悲鳴が幻夢境の中を木霊した。

 

 

 




 どうも姉川です。続きをお待ちしていた方すいません。大分遅れました。

 まあメインで上げてる方がちょっと行き詰まって、息抜きにこっち書いたって感じなんですけども。すいません。許してください。

 結局真逆の正体は分からずで終わりましたが、一応今回の話やこれまでの話の中に正体に繋がるヒントは散りばめているつもりです。
 もしかしたら今回の話で気づいた方もいるかもしれませんね。
 その答え合わせが出来る日はいつ来るのか。出来るだけ早くその日が来るようこちらも書いていきますので、お待たせしてしまうと思いますがどうぞお付き合いください。

 では次回でまたお会いしましょう。
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