なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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二年ぶりの最新話。下手すると記憶から忘れ去られているレベルの遅さですね。本当に申し訳ない。

というわけで長らくお待たせしました。そしてごめんなさい。前回のあとがきで次からまたコメディとか言いましたけど、あれ嘘でした。

サブタイ通りこれまでになく重い空気の話です。どうぞ。


第十五話 こりゃヘビーだ

 

 某所の山内に建つ古めかしい神社。ここはかつてとある組織が活動の拠点としていた神社だ。名を「()()神社」という。

 組織が世を忍ぶために作られたこの場所は、表向きには数々のご利益が得られる神社として知られている。

 そんな神社にある本殿の中に、膝を抱えて座る一人の少女がいた。

 少し気の強そうなつり上がった目尻。長く艶やかな金髪。しかしその美しさの反面、鬱屈した碧眼はただ床の一点に向けられている。

 

「またこんなところで泣いてるんですか? 蓮子(はすこ)

 

 そんな少女の背後に歩み寄ったのはこれまた少女だった。

 長い赤髪をツインテールに結った少女は、心配したように紅の眼を金髪の少女蓮子に向けている。

 

「うっさい……あっち行ってよ」

 

 金髪の少女はぶっきらぼうに答えると鼻を啜る。彼女の目尻には涙が溜まっていた。

 

「ろくに食事もせずこんなところでずっと蹲っていたら倒れてしまいますよ?」

 

 ただの蓮子の強がりだと知っている赤髪の少女は、気に留めることなく隣に座って微笑む。

 

「放っておいてよ」

「それはできません。あなたに何かあったらあの人が悲しみますから」

「ちょ、なんでこっちに座んのよ」

 

 泣き顔を見られまいと蓮子は咄嗟に顔を隠す。

 それから二人はしばらく会話もなく座っていた。

 赤髪の少女は天井を見上げたり辺りを見回したりと少し落ち着かない様子だったが、不意に口を開いた。

 

「静かになりましたね。以前は沢山の参拝者で賑わってましたのに」

「それもこれも全部……あいつが帰ってこないせいよ」

 

 顔を隠したまま蓮子は震えた声で答える。

 ある事件を皮切りにここの参拝者は途絶えていた。この神社で最も人気のあった巫女が姿を消したのが原因だ。一切の人が来なくなったことから、その巫女の人気の程が窺い知れる。

 

「そう。寂しいんですね蓮子。でもきっと彼女があの人を助ける方法を見つけてくれます。それまでの辛抱です」

「クー姉――でも本当に見つけてくれるの? だってあいつは」

「あなたが不安に思う気持ちも分かります。けど今は彼女の頭脳を信じましょう」

 

 そう言ってクー姉と呼ばれた少女は視線を落とした。

 二人が向けていた視線のさらに先には地下施設が広がっていた。真っ白な床、真っ白な壁に囲まれた地下施設では何やら機械を弄る音がガチャガチャと響いている。

 長い銀髪とつり下がった目尻をした、気怠そうな雰囲気の碧眼の少女が、数々の部品を傍にエンジンのような装置と睨み合っている。

 

「違う。これだけじゃ足りない。この機構にもっと手を加えないと壁は突破できない」

 

 姿勢を低くして、ぶつくさとうわ言のように呟きながら少女は部品を取り付けたりあるいは外したりと忙しなく手を動かす。

 

「ううんダメ。この組み合わせじゃ速度が出せない。それにエネルギーの循環も悪くなって仮に壁を突破できたとしても安全な走行ができない。下手すれば搭乗者全員が死ぬ」

 

 歯軋りを立てながら少女はふとパーツの一部に目を凝らした。そして舌打ちとともに立ち上がると、手に持っていたパーツを半ば八つ当たりのように背後に投げつけた。

 

「くそっ……壁を突破するために必要な強度のボディにするために資金を使いすぎたせいだ。ろくなパーツが集まらない」

 

 愚痴を溢していると部屋に赤髪の少女が入ってきた。

 

「少し休憩を取ったらどうですか?  あまり根を詰めすぎても良いことはありませんよ成子(なるこ)

「また小言言いに来たの? 空子(くうこ)

 

 クー姉と呼ばれていた少女空子は、これまた心配した表情で銀髪の少女成子の様子を伺う。

 対し成子はそんな彼女の心配を受け取りもせず、食事の乗ったトレーを持っているのを見てため息を吐いた。

 

「それ蓮子の? またあの子食べるのを――」

「いいえ、これはあなたのです。蓮子なら今ごろ食堂で同じものを食べています。説得するのに骨が折れましたよ」

「そう。じゃあどこかその辺に置いといて。あとで暇を見つけて食べておくから」

「そう言って昨日も食べなかったじゃないですか。栄養を取らないといいアイデアは浮かびませんよ?」

「必要な理論と必要な材料は揃っている。別に頭を使うほどのことじゃないから」

「そうですか? その割には上手く行っていないようですけど」

「たまたまよ。たまたまパーツに手の施しようのない亀裂が入っていただけ」

 

 成子の反論に空子は不機嫌そうに口を尖らせながら、部屋にあった白いテーブルの上にトレーを置いた。

 その後成子が投げつけたパーツに歩み寄り拾いあげるとまじまじ見つめた。確かに取り付けるためのねじ山に幾つもの亀裂が走っている。これでは仮に無理矢理取り付けたとしてもその性能に不安が残る。機械に詳しくない空子から見てもあまり扱いたくはない状態だ。

 

「これは酷いですね。クーリングオフしたらどうですか?」

「それは取り寄せた新品のじゃなくてジャンク市場で見つけてきたやつ。返品なんかできない」

「はぁ……それは難儀ですね。新品を買うお金は――このボディに溶けたのでしたっけ」

 

 空子が視線を向けるのは全身銀色で塗られたクーペタイプのボディだ。先ほどそれなりの大きさのパーツを成子にぶつけられていたが、塗装にも擦り傷すらついていない。これほどの強度を持った車体はこの世に二つとないだろう。

 

「別に必ずしもそのパーツが必要なわけじゃない。幾らでも代用品はある」

「そうですか」

 

 空子は項垂れる。言葉の節々に棘があることからも食事をする気はないのだと取れる。

 

「せめて食事くらいはしてください。あなたまで倒れたら私どうしたらいいか」

 

 震えた声から涙ぐんでいるのを感じて成子は肩を竦める。別に空子を泣かせるつもりなど毛頭なかった彼女は、目の前のことに躍起になって周りが見えていなかったのだと痛感していた。

 

「ごめん。分かった。冷めない内に食べるから泣かないで」

「本当ですか?」

「うん」

「約束ですか?」

「うん、約束する」

「そうですか! では今すぐ食べましょう! それとも私がアーンしてあげましょうか?」

「そうやってすぐ前言撤回したくなるようなことするのは上手」

 

 何事もなかったかのように満面の笑顔になる空子を見て、成子は呆れた眼差しを送る。だが内心では笑っているあたり、空子の変わらぬ態度は有難いものでもあった。

 観念して成子はトレーの上の料理に目を向ける。

 メニューはバターロールと野菜がたっぷり入ったスープ。そしてハンバーグだ。

 

「これ昨日と同じメニュー」

「ええ。だってあの人が作ってくれたこのメニュー、特に気に入ってたじゃないですか。あの人が作るものには遠く及びませんが、少しは喜んでほしくて」

「そう。ごめんなさい。昨日は食べなくて」

 

 テーブルに付くと成子はスープをひと口飲んでほっと息を吐く。

 

「うん、美味しい」

「ふふふ、それは良かったです」

 

 

 成子はしばらくぶりの食事に舌鼓を打つと、頬張るようにして料理を平らげた。

 一切手が止まらなかったことから自分の体はこれほどにも栄養を求めていたのかと成子は苦笑する。空子が言うように開発の進捗が芳しくなかった要因にもなっていたのかもしれない。

 

「ご馳走様。ありがとう。少し元気が出た」

「いえいえ。今の私にはこれくらいのことしか出来ませんから」

 

 空子はどこか申し訳なさそうに笑うと、成子が手をつけていた装置に顔を向ける。数々のパーツが取り付けられた剥き出しのエンジンのような装置は、一見しただけではどういう原理で動くのかもどういう用途なのかも分からない。

 ただ目的を事前に聞いている空子は物憂げな表情で口を開いた。

 

「これで本当にあの人を救いにいけるのですか?」

「完成すれば必ず」

 

 成子は立ち上がると装置の一部を稼働させた。

 すると突然なにも無かった空間に黒い渦のような奇怪な穴が生成された。穴は小さいがその奥から溢れる異常なほどのエネルギーを感じて空子は息を呑む。

 

「これが……ワームホール」

「そう。ここを通れば時空を越えてあの人を助けに行ける。でも――」

 

 成子の簡単な説明から間もなくすると、装置は自動的に停止し黒い穴もすぐに消えた。

 

「全然安定しない。あんな小さな穴じゃ人っ子一人通ることも出来ない。もっと装置の中で今より倍以上のエネルギーを循環させないと、時空を越えるためのマシンは完成しない」

「でも本当にこんな装置が必要なんですか? こうしてる間にもあの人の意識が――」

「残念だけどそれはない」

 

 成子は空子の言葉を遮ると、無造作に転がる部品を集めながら釘を刺すような物言いで話し始めた。

 

「今あの体は不可思議な状態にある。肉体の活動はしているけれど、その中にあるはずの魂が抜け落ちている状態。それはあなたにも教えたはずよ」

「それはそうですけど」

 

 部品の中に紛れ込んでいたビー玉のような透明な玉を拾い上げると、成子はその中を覗き込むように顔を近づける。玉の中では小さな稲光が絶え間なく動いているのが見える。

 

「あの時――()()()()()()()の時にぶつかり合った膨大なエネルギーによって発生したワームホール。それがあの人を時空の狭間へと引き摺り込んだ。それを回収するためには当然、同じ場所に行くための装置が必要になる」

「分かっています。分かっていますけど、そう上手くいくのか不安で」

「言ったでしょ。理論はすでに出来ている。あの人の遺伝子情報を元に居場所を解析し、ナビゲーションシステムに組み込んで辿っていけば回収なんて簡単よ。でも問題は――」

 

 成子が持っていた玉を装置に設けられた窪みに入れると、装置は途端に激しい音とともに稼働を始めた。

 周囲に稲妻が走り、膨大なエネルギーによって再び先程のワームホールが生成されていく。その大きさは先とは比べ物にならないほどに膨れ上がっていき、周囲に散らばった小さな部品や食器などが渦の中に吸い込まれていく。

 成子が平然と立っている一方で、自分の体が飲み込まれまいと空子は床にへばり付いていた。

 しばらくすると張り巡らされた回路が破裂し、その影響で装置が沈黙した。生成されたワームホールもゆっくりと収縮して消えていく。

 

「この通りワームホールを大きくしようとすれば装置が耐えられずに壊れてしまうこと。こんなものマシンのエンジンとして積んだら魂を迎えに行く前に全員死んじゃ――」

「動かすなら動かすと言ってください!」

 

 今度は成子の説明を遮って空子が涙目で抗議する。危うく自分が吸い込まれてそのまま帰ってこれなくなるところだったのだから当然の権利だ。何より彼女は今恐怖で腰を抜かしている。

 

「別に今この装置で作ったワームホールに人間を吸い込むほどの力はないから安心し――」

「できるわけないでしょう!? あなたと違ってなにも理解できてないんですから!」

「この程度でギャーギャーうるさい。発情期ですかあなた」

「だったらその減らず口を治すために押し倒してあげましょうか!?」

 

 空子は威勢に反してフーフーと猫のように唸りながらも未だに立てずにいる。余程の恐怖が身に染みついているのか、目尻に溜まっていた涙が溢れ始めた。演技ではない。本当に泣いているのだ。

 それを見て成子は気まずそうに目を逸らす。思い返してみると心当たりがあった。

 

「ごめん。そういえばあのワームホールが出来た時、あなたが真っ先にあの人のところに行ったんだった」

 

 空子は思い出してしまっていた。かつて大切で大好きな人を守ろうと必死になり、それでも敵わなかったあの日のことを。

 それを失念し、浅はかな行動に出た自分を成子は呪った。研究のことになるとつい周りが見えなくなる。ほんの少し前の反省すら忘れている自分を。

 

「大丈夫? 立てる?」

 

 そう言って近づき成子が姿勢を低くした瞬間、空子はその胸に飛び込んだ。

 

「あの人に会いたいです……! 元気に笑っているあの人に! 私も! 蓮子も! あなただって!」

 

 涙ぐむ空子の背中を撫でながら、成子は「そうね」と小さく呟く。

 三人の中で一番精神的に無理をしているのは空子だ。時空を越える装置の開発のために三日三晩徹夜する成子も、毎日のように本殿で泣いている蓮子も、己の本音を隠すことはしていない。

 ただ空子だけが、二人のためにも気丈に振る舞おうと自分を押し殺していた。

 だがそれも長くは続かない。だからこそ成子は装置の完成を急いでいた。大切な人を救うだけじゃない。大切な人を笑顔で迎えられるように。

 

「空子。あなたもろくに寝てないんでしょ? 元からあまり眠れない私と違って、あなたはちゃんと寝ないと回復しないんだから」

「でも……二人のためにも私がもっと頑張らないと……!」

「バカ空子!」

 

 部屋に甲高い叫び声が響いた。

 成子が音の方向に目をやると、頰を膨らませた蓮子が部屋の入り口に立っていた。

 

「バカってなんですか! 私がどれだけあなた達を心配して……!」

「だからそれがバカだって言ってるのよ! 他人のことばっか心配して、自分のことはこれっぽっちも考えてないんだもん! そんなあなたは私と一緒に寝るのがお似合いよ!」

「一体誰が私と一緒に! ――えっ?」

「だ、だから! わ、私と一緒に寝なさいって言ってんのよ。私も一人だと全然眠れてないから……その……」

 

 言葉の意味を飲み込めない空子はキョトンとした目で成子の顔を伺う。

 その成子の方はというと、蓮子の意図が分かっているからかくすくすと笑っていた。

 

「ほら。可愛いお子様があんなこと言ってる。お姉ちゃんが介抱してあげないと」

「だ、誰がお子様よ!」

 

 空子は二人の顔を交互に見てから不意に笑いを吹き出した。

 

「本当に二人は仲がいいんですね」

「はぁ? 誰がこんなやつと!」

「はいはい。じゃあ今から一緒に寝ましょう蓮子」

 

 空子は微笑んで立ち上がると、蓮子の元へ歩み寄り「ね?」と手を差し伸べた。

 

「人の話聞きなさいよ……バカ」

 

 蓮子は恥ずかしそうにその手を取ると、引かれるままに部屋を出て行った。出ていく際「成子、頑張ってね」と一言置いて。

 

「うん。もう少し頑張る」

 

 蓮子の言葉を噛み締めるように呟くと、成子はほっと胸を撫で下ろす。

 

「と言ってもまた一から作り直さないといけないけど」

 

 成子にとってこうなるのは分かっていたとはいえ、装置の破損は痛手だ。

 あの二人の顔を思い浮かべ、嘆きたい気持ちを抑えて成子は作業再開の準備に取り掛かる。

 必要なものを集めるため、買い貯めた部品を保管している部屋に足を運んだ。明かりを点けるとそこには幾つもの棚が立ち並び、数多くの部品が所狭しと敷き詰められている。

 そんな部屋のさらに奥にもうひとつ部屋があった。

 成子はその部屋の鍵を開けると中に入り、閉められたカーテンに手をかけた。

 カーテンの先にあったのは特殊な寝台だった。人の姿を確認することもままならない巨大な寝台には、幾つもの装置が付けられており、中には心電図を表すものも設置されている。そこに表示があることから、この寝台に誰かが入れられているのは明らかだ。人の呼吸音もほんの微かに響いている。

 

「やっぱりこんなところまだあの二人には見せられない」

 

 成子が装置の傍にあったボタンを押すと装置の一部が動いた。

 スライドドアのようなその装置はゆっくりと動くと、中に入っている人物を明らかにした。

 艶やかな長い黒髪。それに相応しい整った綺麗な顔。まさに美少女と言っても遜色のないようなその人物の顔を見て、成子は苦虫を噛むような表情で奥歯を鳴らす。

 

「私のせいなんだから私がなんとかしないと」

 

 成子は美しい頬を撫でながら物憂げに呟く。

 

「だからもう少し待ってて……ヒロ……」

 

 眠ったままの頬に生温かな一雫が落ちた。

 

 

 





 まずは長らくお待たせしてしまったこと改めて謝罪します。本当にすみませんでした。
 そしてここまで読んでいただきありがとうございます。次回はもっと早くに投稿できるよう心がけます。

 さて、今回なにやら不穏な空気というか、どっかの誰かさんの正体と結びつきそうなお話でしたね。
 当初の予定では彼女たち3人の登場は最終話近くのつもりだったのですが、やはりあらかじめその存在を仄めかしておくべきと判断し急遽この話を差し込みました。
 これにより次回についても自然な導入になる予定()です。

 てわけで長々と書いてもあれなので、このあとがきはここまでとします。
 それでは皆さま、また次回でお会いしましょう。
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