なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
久々に筆が乗りましたパート2
「いやー! 出来るかな? と思ってやってみたらなんか出来たわ!」
そう言って酒瓶を持った白い猫のような謎の生物がガハガハと笑う。
一体全体なにが起こっているのか、事はほんの数分前に遡る。なんでたかだか数分遡るのに回想が必要なのかは分からないけど、とりあえず遡る。
母さんが送ってきた段ボール。そこから出てきた白い猫のようなぬいぐるみを見て真逆が突然こんなことを言い出した。
《これさぁ、ワンチャン俺が体として使えるんじゃねぇか?》
「お前……頭大丈夫か?」
いよいよSAN値が底をつき頭がおかしくなったのかと、僕は同情の眼差しで真逆を見る。
すると真逆は、
《いやいや大真面目よ。なんかの漫画かなんかで見たんだよ。飴玉みたいな魂の塊をぬいぐるみに突っ込んだら、その魂の体としてぬいぐるみを動かせる的なの。俺って一応ニャルラトホテプの力使えば姿形を変えれるわけじゃん? つまりはさ――》
と言った具合に語り出し、挙句僕のツッコミも聞く耳持たずにその思惑を決行して今に至るわけである。
「フハハハハ! なじむ! 実になじむぞ!」
「あーわかったわかった。体が手に入って嬉しいのはわかったから、その柔らかい酒瓶を振り回すな危ない」
例え柔らかい素材で出来た酒瓶であっても、こいつの手に掛かれば破壊の凶器――いや兵器になりかねない。
「おー! 真逆さんついに自分の体を! これは祝わねば!」
「良かったね、もう一人の少年」
「最高にハイ!ってやつだアアアアアハハハハハぎゃろっぷっ!?」
あまりにも五月蝿いから、とりあえず落ち着かせるために真逆の体にフォークを突き刺した。わけのわからない悲鳴が出たことからどうやら痛みも感じるようだ。
「お、おおおお前この可愛い体から綿が飛び出たらどうすんだ!?」
「知るか。ていうかどういう状況なのか説明しろ」
「いや見ての通り新しい体が手に入ったんだよ。これでお前の体を使う必要も無くなったし、迷惑かけることも減るってわけだ。お前にとっても嬉しいことだろ?」
「おーけー分かった。じゃあとりあえずお前の目的は達成したんだ。さっさとこの家から出て行け喧しい」
今までは真逆の声は音として認識する、というよりは何か頭に響いているような感覚だった。
それが今はどうだろう。実体のある発声器から出る音声として耳が認識している。はっきり言って迷惑だ。コイツが騒げば騒ぐほど耳がキンキンと鳴り、しまいには鼓膜が破裂して僕の音の世界は消滅しかねない。
「いや幾ら騒いでもそこまでのことにはならないだろ」
「その状態でも僕の心が読めるのな。尚のこと厄介だぞコラ」
すでに頭痛が酷い。どうやら僕はSANチェックに失敗したらしい。きっとこのまま冒涜的な生物たちによって精神崩壊させられてしまうのだろう。
「そんなことさせんての。にしてもお前の母さんには感謝だなぁ!」
「たまたまだろ。母さんお前のこと知らないはずだし」
「ちゃんと役には立ったわけだし感謝しねぇと」
まあ確かにその通りだ。
いや本当にそうか? 現に僕は多大な被害を受けている。騒音という被害を。それって却って僕の役に立っていないということなのでは。
「真尋さん真尋さん。それよりお聞きしてもいいですか?」
「なんだよ?」
「真尋さんのご両親はまだしばらくご不在ということでよろしいですか?」
「ついに隠す気も無くなったんだなお前」
「つまりまだここにいても差し支えがないということですね?」
「なんでそうなる。お前たち今回の件が解決したら帰るって話だろうが」
僕の切り返しにニャル子はわざとらしく「ふっふっふっ」などと言って不敵な笑いを浮かべる。見ている作品的に正義の味方とかそういうのに憧れているのかもしれないが、こいつはやっぱり悪役がお似合いだと思う。
「実は先ほど真尋さんの通話を傍受している時に課長から連絡がありまして」
「そう。実はさっき傍受していたら回線を割り込まれて辞令が下りた」
「もはや隠すどころかホイホイと公言するんだなお前ら。ていうか待て辞令?」
このタイミング、そして話の流れからイヤな予感しかしない。
話を聞いてみると案の定こいつらに降りた辞令というのは地球での勤務のことだった。殺害された幻夢境の神々の代わりに新たな神々が派遣されてくるのだそうだ。んでもってその補佐を二人は任されたらしい。
そんな台所などに出てくる虫よろしく簡単に派遣されるものなんだな神々って。と思いながら僕は肩を落とす。
「これで正式に地球勤務ですね! ま・ひ・ろ・さん」
語尾にハートマークを付けながらニャル子は嬉しそうに頬を赤らめる。何故僕が肩を落としているのか理解できていないのだろう。
「これでずっとここで一緒だね、ニャル子」
「いやお前はここからどこへでも出ていきやがりなさいよ」
そのセリフは僕が全員に向けて言いたいことだが、もはや言う気力もなかった。
「あー、で? お前ら二人はここを拠点にする気満々なんだな?」
「とーぜんじゃないですか! 真尋さんいるところ私あり! ですよ?」
「そしてニャル子がいるところに私あり」
「だからおめーはなんでついて来るんだって言ってんですよ!」
どうやら何を言っても聞くつもりはないらしい。
幻夢境に勤務になったんだからお前らはずっと幻夢境にいろよ。なんてことを言おうとも思ったが、よくよく考えてみるとこいつらに地球人の夢の管理を任せられるはずがない。どうせ僕の夢の中に侵入してきてあれやこれやと画策するに決まっている。せめて夢の中でくらいは平穏でありたい。
じゃあ否応なしにこいつらを追い出してしまえばいいかと言われるとそれも違う。追い出せばこいつらは路頭に迷うことなく真っ先に幻夢境に行ってしまいかねない。
つまり僕に与えられた選択肢は無いに等しかった。
「分かった。とりあえず両親が帰って来るまでなら許してやる」
それ以降のことを考えるのは今日はやめよう。もうすでに頭痛と胃痛が限界に来ている。
「キャハー! つまり私を嫁として迎え入れる気になったということですね?」
「なってないなってない」
「では今晩は私の愛妻料理を――」
「人の話を聞け混沌邪神」
眉間をつまんで僕は項垂れる。本当にこいつは人の話を聞かない。
ふと先ほどから静かな真逆のことが気になり白い生物の姿を探してみる。
「いけシャンタッ君! 全速前進だ!」
「ミー! ミー!」
思ってもいない状態だったため僕は絶句する。
白い生物がシャンタッ君の背中に乗り、騎馬に乗る兵士よろしく酒瓶を掲げて遊んでいた。白い生物の中身が真逆でなければ愛らしい光景なのだろう。まあ騒がしいよりはマシなのかもしれない。
「ニャル子が私に愛妻料理を……キュン」
「なーにがキュンですか。死んでもあんたの分なんか作りませんよ」
「今度はどんな限定の食べ物で釣ろう」
「あ、てめーその手は卑怯ですよ!」
それはそれとしてこの騒がしい二人の邪神をどうしてくれようか。普通にフォークをお見舞いしてもいいけど、それだと目新しさがない。
ここはこうガツン! と二度も同じことをさせないような良い方法はないだろうか。
「おお? あそこに丁度良い感じにゴミの山が。よしシャンタッ君、このまま突っ込んで蹴散らせ! 粉砕、玉砕、大喝采てな具合にな!」
ああ、そうだ。そういえば丁度いいのがいるじゃないか。どんな邪神でも大ダメージを与えられそうなとっておきが。
「よーしよし、いい子だシャンタッ君。可愛いやつだ」
「ミー、ミー」
「うむ、苦しゅうないぞ。好きに走り回るが――あ、真尋どうした?」
僕は無言で白い生物の体を持ち上げる。先程ただのぬいぐるみだった時より気持ち重くなっている気がする。魂分重さが増したのだろうか。
白い生物の頭を掴みながら僕はそんな他愛もないことを考える。
「ぐえぇ、それ無理。真尋痛い。綿が口から出る吐いちゃう」
「お前らいい加減に――」
「ふざけんじゃねーですよ! なんで私があんたと一緒の部屋で寝なきゃいけないんですか! 私は真尋さんの部屋で真尋さんと寝るんですよ!」
「ニャル子はもっと素直になるべき。本当は私と子作りしたいって思ってる。運命の赤い触手は私とニャル子の間にこそ繋がっている」
「んなわけないでしょう!? 頭お花畑ですかこのヤロー!」
「わー綺麗なお星様ー。あ、お寿司が回ってるー。あーダメ脳が割れる。ぐぇ……マジでヤバい出そう」
「静かにしやがれーッ!!」
僕は大きく振りかぶり、掴み合いの歪み合いをしている邪神二人目掛けて真逆を力の限りぶん投げた。
「おーれを受け止めてくれー!」
真逆が叫びながら二人目掛けて一直線に飛んでいく。
すると二人は声の方向に顔を向けて同時に「えっ?」と唖然とした表情を見せた。
『ぎゃおす!?』
直後、二人は同時に意味不明な断末魔を上げて撃沈した。
「な、なんで俺が……投げられる……羽目に……ガクッ」
抗議も虚しく、白い生物もまた二人と一緒に撃沈したのだった。
◇
「このままじゃマズイのですヨ!」
謎の空間をピンク色の光が一直線に飛んでいく。空間の出口と思われる先には青い惑星が小さく見えている。
「幻夢境の機能が停止しているのを知って、奴らが動き出そうとしているのですヨ! このままだと地球が危ないのですヨ!」
ピンク色の光を纏っているのは謎の生物だ。実体が無いのか体が半透明になっている。
「強硬派の悪逆非道を止めなければなのですヨ!」
そう叫ぶとピンク色の光は速度を上げ、謎の空間を飛び出した。
空間の先にある青い惑星地球。その地球にある島国目掛けてピンク色の光は飛んでいく。
光の向かう先――日本。多くのエンタメが集まるこの場所に今危機が迫っている。
それを知らせるために、イースの大いなる種族であるイス香は未来からやってきた。強硬派による陰謀を阻止するために。
だがそんな彼女さえ知らない、それを遥かに超える脅威が地球で息を潜めている。地球どころか宇宙全体を、時空を揺るがしかねない脅威が。
その覚醒の日が刻一刻と迫っていた。
完全に隠す気がない元ネタ。どうも姉川です。
また真尋たちがワイワイワイワイとやっている一方、なにやら不穏な空気が漂っていますね。
さてさて脅威とやらはいつ出てくるのか。まあきっと皆さまが忘れた頃に出てくるでしょう(ぉぃ
そんなわけで次回以降、真逆は白い生物となって活躍していきます。
果たして真逆は真尋の投げ道具の一つとして扱われるのか。はたまたツッコミの世界に引きずり込まれてしまうのか。
それは今後のお楽しみ。
ではでは次回でまたお会いしましょう。