なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
イス香編? といえばいいんですかね。は主に真逆視点で描かれる予定です。
そのせいか若干シリアスな部分も出てきます。真逆はふざける奴なのになんででしょうね?
というわけで本編をどうぞ。あ、あといらない情報でしょうけど今回後書きは無しです。
「で……なんでこんなことになってるんだ?」
しわを寄せた眉間をヒクつかせながら、ニャル子は苛立ちを募らせる。
その中身はニャル子と精神が入れ替わってしまった真尋。そう、真尋なのだ。
一方でニャル子(真尋)の対面に座る少女が、礼儀正しく正座をしながらバツの悪そうに顔を俯かせている。
さて、一体全体どういう状況なのか。ここは真尋に解説くんという不名誉極まりない太鼓判を押された俺が説明しよう。
今日は日曜日。ともなれば当然学生たる真尋にとっては休日だ。
一方で惑星保護機構で働くニャル子とクー子はというと、本来なら仕事のために幻夢境に行くべきなのだろうが、現在まだ新たな神々が到着していないこともあり、これまた二人にとっても休日。
ともなればどこかに出掛けようという気が起きてもなんらおかしな話ではないわけで、俺たちは市内の中心部に向かい買い物に勤しんだ。まあ主に散財したのはニャル子とクー子の二人だけなんだが。
真尋はというと、出かけた当初は「なんで僕まで付き合わされているんだ」なんて愚痴っていたが、こっそり俺がやりたがっていたゲームを買っているあたりなんだかんだ言って優しい。
あ、ちなみに俺はぬいぐるみの体のまま同行した。つっても流石にぬいぐるみで自由に出歩くわけにもいかないし、主に触り心地がいいからという理由でクー子に抱かれながらの移動だった。
ただあいつわざとなのか特に意識してなかったのか、持つ場所が人体で言う胸の辺りだったせいもあって妙にくすぐったい思いをしてしまった。次から気をつけよう。
とまあそんなこんなで嬉し楽しいショッピングの時間を過ごした帰り道で事件は起きた。
「え、暮井……か?」
道中突如俺たちの目の前に現れたのは一人の少女。真尋から歩くスピーカーとも言われていた、真尋と同じクラスの女生徒だった。
名前は暮井珠緒。
なんで彼女が? なんてことを俺たちが考える暇もなく少女は行動に移した。
「ワタシはイースの偉大なる種族! 地球は狙われているのですョ!」
そんな側から聞けばわけのわからないことを言いながら、少女はビデオカメラのような機械を構えた。
それがなんなのか知っている俺だったが、油断も油断。あ、やべぇと思う間もなくレンズ部分から目が潰れそうな程の眩い光が放たれた。
次号最終回。八坂先生の次回作にご期待ください。
「最後の最後に地の文でボケるなぬいぐるみ生物」
突如強烈な頭痛が襲いかかる。ニャル子(真尋)が俺の頭を握り潰さん勢いで掴んだのだ。
「お、お、オォ……これがハンドクラッシャー……いや邪神の体から放たれているからゴッドバンドのクラッシャー……? 綿が出そう。ていうかなんで急にメタいことを」
「誰の……せいだ!」
「ドゥヒンっ!」
ビターン! という気持ちのいい音ともに俺は壁に叩きつけられた。
この体やたら頑丈だなぁ。フォークで刺されても痛みがあるだけで傷ひとつ付かないし、乱暴な扱いをしても綿が飛び出ないし。一体なにで作られてるんだろー。
「まったく……珍しく真剣に説明していると思ったらこれだ」
「いや真尋さん。私の体にいるせいかは知りませんがやたらメタいこと言ってますよ」
「……もう一人の少年大丈夫?」
「大丈夫じゃない……寿司が回ってる」
全身痛い。痛いのに傷ない。何これ気持ち悪い。
「韻を踏むな」
「心を読むなよ」
「お前がいつもやってることだろう?」
「ソウデスネ」
俺たちがわちゃついていると「あ、あのー」という申し訳なさそうな声が響いた。
「あ、あの……乱暴はいけないのですョ? 最後の戦場ですョ」
「いやお前は一体何を言っているんだ」
しまった。ついツッコミを入れてしまった。
「というかお前誰なんだよ。暮井じゃないな?」
「ワタシはイースの偉大なる種族ですョ。とりあえず便宜的にイス香と呼んでくださいですョ」
ニャル子(真尋)の質問にイースの偉大なる種族ことイス香が答える。
イースの偉大なる種族と聞いて、真尋は傍にあったガイドブックを広げて目を走らせた。
しかしイースの偉大なる種族――か。精神の交換による時間移動を可能にした生命体。その目的とこれから起きようとしている事件におおよその見当はつくが一応話を聞いてみるか。
「じゃあイス香。幾つか俺の質問に答えてくれるか?」
「あ、はいですョ」
「おぉ、真逆さんがいつになく真面目モード」
「ちなみにその見た目で真面目にやってるとなんか凄い滑稽な絵面だぞ真逆」
「はいはい。珍しく真面目にやってんだから茶化すな茶化すな」
まあこいつがどういう存在か知っている以上、一応警戒しておくことに越したことはない。あまりいい思い出もないし。
「まずひとつ。お前どこの時間軸から来た。この時間への来訪目的は?」
「それだと質問二つなのですョ」
「で答えは?」
「うぅ、なんか怖いのですョ。問答無用なのですョ」
「御託はいいからさ」
「ずっとずっと遠い未来から来たですョ。目的は地球を救うためですョ」
地球を救うため。まあそうだろうな。それは分かっている。地球は狙われているとかなんか言っていたし。
「それと二人の精神を入れ替えることになんの意味があるんだ?」
「うう……それは一生の不覚なのですョ。ワタシ、ドジっ子ですョ。熱血高校ドジボール部主将になれそうなくらいのドジっ子なのですョ」
「お、おう。なんだその愉快そうな部活。気になる」
「おい脱線しようとすんなバカ」
おっといけない。てかバカじゃないし。
「次だ次。えーと、なんだっけ。ああ、そうえーと」
そんなこんなで色々と質問すると、イス香は隠すことなく全てを話した。
イースの偉大なる種族が時間旅行をする目的は知識の吸収にあること。一部の強硬派がこの時代の地球にある知識を早期的に吸収するため、全人類との精神交換を画策していること。穏健派のイス香はそれを止めるためにこの時代に派遣されたこと。
幻夢境の機能が現在停止していることが事件の発端であることも含め、内容はほぼほぼ俺の予想通りのものだった。
「強硬派の計画を阻止するには戦力が必要だと考えたのですョ。そこで現地で最強の人物と入れ替わるため、かろうじて残された過去の記録の中を探したところ、ニャルラトホテプのニャル子サンという方が該当したのですョ」
「あーそれで私たちの前に現れたと。聞きました真尋さん? 私最強ですって!」
「まあそりゃ僕たち普通の人類に比べたらお前が一番強いだろうけどさ」
「はいですョ。そしてもうひとつ名前が該当したのですョ。それが
「は? なんで僕が」
ニャル子(真尋)が疑問を口にしかけたところで何かに気づいたのか俺の方を見る。
「そしたら該当する両名が目の前にいたのですョ。どちらと入れ替わろうか迷っていたら、うっかりお二人を入れ替えてしまったのですョ」
「あー、なるほどな」
何故真尋の名前が該当したのか。原因はおそらく――というか十中八九俺のせいだろう。
ルルイエでの一件や幻夢境での一件がなんらかの形で広まり、真尋はただの地球人でありながらそうではない側面も持っていると評価された。と考えるのが妥当なところか。
「いや……それは…… マズイな」
「そうですョ。このままだと地球がピンチなのですョ」
「ああ、いやまあそうなんだが」
「そういえば今思ったのですョ。あなた誰なんですョ?」
「えっ? ああ、俺は……ニャル子のペット……みたいなもんだよ」
言葉を濁しつつ、唯一俺の正体を知っているクー子の方を見る。するとクー子は無言で頭を振った。
「でもイス香さん」
「はい?」
「そんな回りくどいことしなくても、訳を素直に話してくれれば協力しましたのに。地球の危機ならば惑星保護機構の管轄ですし」
「あっ」
「は?」
「盲点だったのですョ!」
「……真尋さん」
「気持ちは分かるけど落ち着け」
「私は逆になんでそんなに真尋さんが落ち着いているのか割と不思議なんですけどね」
「まあ正直なんか慣れた状態だからな……これ」
◇
イス香への聴取も終わり、日もすっかり落ちた頃。俺は明かりの消えた真尋の部屋で独り胡座をかいていた。
下の階ではニャル子(真尋)と真尋(ニャル子)の賑やかな声が響いている。やれトイレで何してただの言っているのが聞こえているが、ようやく俺と入れ替わるのとではわけが違うと気が付いたらしい。
まあそうだよな。あんだけ真尋にゾッコンなニャル子があいつの体に入っちまったら、普段では見れないモノを見ようとして望遠鏡を覗き込んでもおかしくないよな。
それはそれとして、さりげなく真尋が言っていたことが気になっている。
〝まあ正直なんか慣れた状態だからな……これ〟
「やっぱりだいぶマズイ気がする」
「……何がマズイの? もう一人の少年」
「ウボォわぁ!?」
いつの間にか気配もなく背後にクー子が立っていた。
驚きすぎて野太い台詞の割に甲高い声を出してしまった。あと心臓が飛び出るかと思った。多分この体には無いけど。
「な、ななななんでいつの間に!?」
「イスカへの聴取も終わり――のあたりから」
「いやそれ冒頭じゃねぇか。つーかまたメタ発言かよ。今回そのネタしかやらないつもりかよ」
「もう一人の少年もツッコミ役?」
そんなものこちとらやりたかないんですけどね。
「で、どうしたんだよ。なにか用か?」
と言いつつ聞かなくても分かっている。
クー子は俺の正体を唯一知っている存在だ。だからこそイス香への聴取の際に異変を感じていたのだろう。それを問い質しに来たのだ。
「……もう一人の少年はどう思ってる?」
「どうってなにが?」
「未来における八坂真尋が唯ならぬ存在として扱われている件」
「なんかラノベのタイトルにありそう」
「真面目に答えて」
いつになく真剣なのがクー子の表情からも伝わってくる。
腹を括り、ため息混じりに考えていることを答えた。
「このままだと俺が八坂真尋として塗り替わるのかもしれない」
たかだか二回の出来事で未来の記録に残るなんてことは普通あり得ない。と俺は考えている。
そもそもルルイエでの一件も幻夢境での一件も、表向きにはニャル子が処理したことにして貰っている。つまりこの二つの出来事からだけでは「八坂真尋は普通の地球人ではない」という記録が残らないはずだ。
けど未来の記録には「普通の地球人・八坂真尋」が「ニャルラトホテプのニャル子」と同列に扱われている。そこがどうしても引っ掛かった。
「もう一人の少年。私はもう一人の少年の正体を知っているから警告する」
「なんだよ?」
「軽率な行動は控えるべき」
確かにクー子の言う通りだ。これまでの行動はあまりに軽率だった。
どこまでが大丈夫か、その線引きを見極めるためでもあったが、結果は最悪の方向に進もうとしている可能性がある。
「……私、少年のご飯が好き」
「うん」
「……もう一人の少年のそのモフモフした触り心地と……胸のあたりを触ったらたまに可愛い声を出すところも好き」
「うん?」
「だから……どっちかが消えちゃうのは嫌」
「うん」
「……それにもう一人の少年の帰りを待っててくれている人たちがいるんでしょ?」
「うん、そうだな」
本当にクー子の言う通りだ。
俺は真尋を気に入っている。こいつらのことも気に入っている。帰りたい場所もある。だったら尚更、あいつが消えちまうことだけは阻止しないといけない。
「ほんと、そういうところは似てるよな、あいつに」
「……ん?」
「いや、なんでもない。それよりさ、まさかお前わざと胸のあたり触ってたのか?」
「……違う。たまたま触ったらもう一人の少年が急に可愛い声で鳴くから……それでつい楽しくなってずっと触ってた」
「つまり途中からわざとなんじゃねぇか」
「……気のせい」
「気のせいで済ますな。もう二度とするな」
「……シュン……」
俺の注意にクー子が落ち込んだと同時に、下からニャル子(真尋)が何かをしたのか真尋(ニャル子)の甲高い悲鳴が天高く響き渡った。