なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
いやぁ、久々に筆が乗っている感覚で脳からいけないお汁粉がドバドバドーパミン。
しれっと真逆の正体のヒントも散りばめた今回の話、どうぞお楽しみください。
あと今回も後書きは無しです。
「ったくニャル子のやつ。おかげで余計な疲れが」
ぶつくさと愚痴をこぼしながらニャル子(真尋)は服を脱いでいく。
お風呂は命の洗濯――と何処かの誰かも言っていた通り、例え自分の体で無いとしても精神の安らぎを求めて湯に浸かろうとしているのだろう。
俺も湯船に入りたいもんだが、まあこの体だしな。かと言って今の状態の真尋の体を使うわけにもいかないし、それにクー子に軽率な行動は避けるべきだと釘を刺されたばかりだ。
「見るな見るな」
ふとニャル子(真尋)が鏡を見て赤面している。
鏡に映るのは自分の体ではなく、他人のそれも異性の体なのだから当然の反応。俺も最初は面食らったけど、まあもう慣れてしまった話だ。
ただ真尋のやつ、初心なのか両目を手で覆って浴室に入っていった。なんというか面白い光景だ。
「見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ」
なんの呪文を口にしているのやら。目を覆って湯船に浸かりながら言っていることから何かの儀式だろうか。うん、そんなわけないな。
「……あいつ、結構華奢な体してるんだな。こんな体で僕を守ってくれていたんだよな」
ふと思うところがあったのか、ニャル子(真尋)はか細い腕を見て呟く。
見た目は人間のそれなのだからそう思うのも仕方のないこと。いつだったか同じ目にあって同じことを考えたような考えなかったような。
あの時何を思ったっけ。確かこの胸にある脂肪想像以上に重いな。自分には無くて良かった――とか思ったような。
「で……おい真逆」
「ん?」
「お前なんでここにいるんだよ?」
「え、いたらおかしい?」
おかしなこと聞くもんだな。と俺は小首を傾げる。
「あーそうか別に……っていやおかしいだろ」
「え、だって今までずっとそうだったじゃん」
「そりゃ前はあまり離れられないんだろうしって大目に見てやったけど、今お前そのぬいぐるみの体があるだろ?」
「あー確かに。それは盲点だった」
「湯船に沈めるぞコラ」
それは困る。あの時感じた重み以上の感覚を味わうとか無理無理ダメ絶対。
とか思っていたところに突然浴室の扉が開いた。
「真尋さーん! 慣れない体でしょうし、お背中洗い流しますよー!」
真尋(ニャル子)がタオル1枚すら身につけず全裸で入ってきたのだ。
いやまあここ浴場じゃないわけだから、別に全裸でもなんらおかしくはないんだけどさ。
「お前もなんで入ってくるんだよ!」
「いやだって真尋さんが私の体を洗うのは恥ずかしかったり不都合があるかと思いまして!」
「……本音は?」
「ぶっちゃけこのままでもゴールインしてぇ!」
真尋(ニャル子)の答えにニャル子(真尋)は拳を握りワナワナと溢れる怒りを露わにする。
しかしニャル子のやつ、辞書には「諦める」て言葉が無いかのような感じだなぁとつくづく思う。そういうところはあいつに似ている。
「……ニャル子……えっち、しよ?」
「だぁ!? なんであんたまで入ってくるんですか!」
今度はクー子が身をくねらせながら浴室に入ってきた。もちろん全裸で。
蒸気を発しているかのように赤面したクー子は、ハァハァと色っぽく息を吐いている。
こいつがニャル子のことを燃えるほど好きだっていうのは知ってるけど、ここまでその思いが前面に出てるていうか、弾け飛んでる場面は初じゃないだろうか。とふと思ってみる。
「……ニャル子と……えっちしたいから」
「何言ってやがりますかコイツ」
「それってもしかして僕……というより、僕が入っている体に対して言ってるのか?」
「……ニャル子……もうダメ……その声を聞いただけで……んんっ……!」
「ダメだこいつ早くなんとかしないと」
ニャル子(真尋)と真尋(ニャル子)の声がハモった。
俺も同じことを言いそうになったが、ここはグッと堪える。俺はツッコミではない。ボケ側の人間だ。そうだ忘れるな。
「お前ら出ていけ。今すぐ。独りでゆっくり静かに入らせてくれ。風呂に入る時は誰にも邪魔されず自由でなんていうかこう救われてなきゃダメなんだよ。言ってる意味分かるよな?」
「何言ってるんですか真尋さん。思いを寄せ合う男女二人がひとつ屋根の下。となれば起こるイベントなんて交尾以外になにがあるってんですか」
「思いを寄せ合った覚えはないし、あと交尾言うな」
「……少年。わたしは例え中身が少年であろうとニャル子の体というだけでも愛せる。だから今すぐ交尾しよう」
「いやだから交尾言うな。ていうかお前らマジで出ていけよ」
なかなかにカオスな様相を呈してきたが、俺は静かに見守るとする。
いやそれとも「俺真逆真尋はクールに去るぜ」と言って出ていくのも手か。
真尋が買ってくれたPS2ソフト――便利屋稼業を開こうとしていた男が、力を求めて邪神の封印を解こうと目論む兄を止めるために戦うスタイリッシュアクションなゲーム――をやりたいし。
「お前ら……」
よし、じゃあ! と決めたところで誰かにガシと頭を掴まれた。掴んでいるのはもちろんニャル子(真尋)だ。
嫌な予感がする。この体を使うようになって間もない内から立て続けに起きている悲劇の予感が。
ヤダなぁ。あれ痛いんだよなぁ。ていうか扱いが日増しに悪くなってる気がするんだよなぁ。うん、てかほんと。
「お前ら今すぐ出ていけー!」
「これいったいようぉおおおーッ!!」
予感は的中し、俺はニャル子(真尋)の弾として全力投球される。
標的は乱心する二人。別に俺何も悪いことしてないのに、今日はどうしてこんな目にばかり合うのだろうか。
それはそれとして今ならなんか太陽の光を身に纏って飛んでいけそうな気分だ。
うん、まあ無理なんだけど。
「サバタっ!?」
どこかの暗黒な少年の名前を叫びながら、俺は二人諸共浴室の外に吹き飛んだ。
「で、さっきのさっきでなんで僕の部屋にいるんだお前らは」
《ぶれすとぉ! あーぅと!》
「いえ真尋さん。これはクー子から私の体を守るためでして、決してやましい理由では」
《はぁー! ぶれーくだうん!》
「……クー子」
「……メーター振り切れてる」
「ニャル子、お前嘘ついてるな?」
《とぅー! へぁー!》
「真尋さんついにそんなものを平気で使うくらいに順応して……というか」
「誰のせいでこうなったと思ってんだ。で、お前も思ったのか?」
「……少年。きっとここにいる三人が同じこと思ってる」
《すぃーと、べいびー!》
「さっきからうるせぇ!」
「……もう一人の少年ちょっと音量下げて」
俺が熱心にゲームをしていると、三人からそんなことを言われた。ニャル子(真尋)と真尋(ニャル子)に至っては声がハモっている。
が、俺は気にせずゲームに没頭する。
このゲームは楽しい。現時点で選択できる最高難易度でやっているが、油断すると即ゲームオーバーになる。隙を生じぬ連撃と必要に応じての回避。まだ解放されていないが、先を進めるとジャストカウンターができる戦闘スタイルもあるらしい。
「あーダメですね真尋さん。あれ完全に拗ねてますよ。真尋さんが悪いんですよ? あんなホイホイと投げられたらそりゃ怒りますって」
「……いやまあ確かにちょっとやり過ぎたとは思ってるけどさ。てかあいつあの体でどうやってプレイしてんだあれ」
「……少年には見えていないかもしれないけど……もう一人の少年はものすごいスピードでアクションに必要なボタン操作をあのぬいぐるみの指のない2本の手で同時に行っている。はっきり言って人智を――邪神智を超えてる」
「止まってるのかと思ってたけど、ニャル子の体でも認識が困難なくらい速い動きなのかあれ。あと変な造語作るな」
そう。俺はぬいぐるみの姿でアクションゲームをやっている。それもただのアクションゲームではない。スタイリッシュなアクションゲーム。普通は人間の手でやるのが最適解なくらいのものを、俺はぬいぐるみの2本の腕でやっているのだ。
となれば当然尋常じゃない集中力と精神力が必要なわけで、俺が喋らないのは決して拗ねているからではない。
そう拗ねているからではない。拗ねてないし。拗ねてないもん。
「あー、これは謝るまで完全に無視決め込む腹づもりですね。どれ、今は私が真尋さんの体を使っていますし、私が試しに謝ってみましょうか?」
「おいやめろ。火に油注ぐつもりだろお前」
「そんなことしませんって。ただちょっとクー子に燃やしてもらおうかと」
「……幾らニャル子の頼みでもそれは……どうすればいい?」
「やる気あるのかよ。ていうか室内でボヤ騒ぎ起こすなやめろ」
後ろでなんか言っているが、丁度ボス戦に差し掛かったところ。もはや気にしている余裕などない。
今の俺は修羅神仏を超えて世界を支配できるスピードに達している。吹き荒れろ暴風。拗ねていません暴風。
「ほら早く謝ってくださいよ真尋さん。このままだと話が進みませんよ」
「ったく分かったよもう」
背後に気配を感じる。
しかし俺の意識が向く先は目の前の敵のみ。氷の攻撃とかやたら面倒なことしてくるボスだが俺の敵ではない。今のところノーダメージでコンボも継続中。勝ったな。
「あー、その……悪かったよ真逆。ちょっと投げるのにお手頃なサイズになったものだからつい魔が差して……」
あ、ヤバい。手元が狂った。ダメージが痛い。すぐに立て直さないと。
「もう投げないからさ。悪かったよ、本当に」
うん、ペースが乱れた。これは無理だ。
諦めたと同時に「GAME OVER」の赤文字が画面に表示される。
俺はコントローラーの操作をやめて振り返る。そして俺は震えた声で言った。
「真尋……やっぱりこの体でアクションゲームするのキツい……」
「は?」
ニャル子(真尋)が首を傾げる。
「いやだってさ、コントローラーて基本人間の指に適したボタン配置がされてるわけじゃん? 特に地球産のゲーム機」
「ああ、まあそうだな」
「俺頑張った。めちゃくちゃ高速でボタン操作したさ。それこそボス戦までノーダメージだったさ。でもよ……わりぃ……やっぱ……つれぇわ……」
「お、おう? 大変だな」
そう。拗ねてなんかいられなかった。新しい体を得られてやったこれでゲームを心置きなくできると思ったんだ。
けど現実は違った。この体だとまともに遊べない。頑張れば遊べるし、まあ楽しくはあるんだけど、俺は普通に遊びたいんだよなぁ。
「あー、つまり真逆。お前が嘆いているのはゲームを普通に遊べないことで」
「あーうん。別に投げられたことはそこまで気にしてないぞ。無言だったのはマジで集中しないと無理だっただけだし」
「……おいニャル子」
「え!? いやいやいや! えっ? 私のせいなんですか?」
「お前は余計な心配をさせた。よってギルティ」
「理不尽極まりない!」
まあだからと言ってほいほい投げるのはやめてほしいけど。
「ところで真尋」
「なんだよ?」
「クー子がトリップしてる」
「は?」
俺の指摘に二人の声がまたもハモる。こいつらやっぱ仲良しじゃなかろうか。
「……あのニャル子がすごく弱ってる……ニャル子が困ってる……申し訳なさそうに謝ってる……わりと新鮮……ぐふ、ぐふふふふふ」
「女の子らしからぬ笑い方してっけど」
「おいニャル子、あいつを早くなんとかしろよ」
「真尋さんにも分かりましたか……私の苦労が」
あ、ヤバい。クー子のやつ床で何か始めようとしてる。良い子には見せられないことをしようとしてる雰囲気がある。
「今夜はこれをオカズに……あぁ、でも目の前にはニャル子が……ダメ少年……わたしを見ないで……そのニャル子の目でわたしを見て……凝視して……」
それは見てほしいのか見てほしくないのかどっちなんだろうか。というかマジでおっ始めようとしてるぞコイツ。
あれか。少し前に真面目な雰囲気で真面目な話をしたからその反動とかそういうのか?
「よしクー子。今すぐその奇行をやめて僕の言うことを聞いたらこれを所有する権利をやる」
ニャル子(真尋)がいつ用意したのか、何やら紙をクー子に突き出した。
紙に書いてある内容を真尋(ニャル子)が目を凝らすかのように近づいて朗読する。
「えー、なになに……わたしニャルラトホテプは八坂真尋との再精神交換により元の体に戻った暁には、クトゥグアに身も心も捧げること誓います? ってはぁー!?」
「おお……真尋、お前鬼だな……」
ニャル子が絶叫を上げるのも無理はない。何せこいつの筆跡で拇印もこいつの指紋で押された、正真正銘ニャル子が作った誓約書なのだから。
クー子もその内容と紙面を見るなり、起き上がって姿勢を正し――いやそれどころか片膝をついて忠義を示すかのように胸に手を置いている。さっきまでの赤面してそのまま如何わしいことをやろうとしていたとは思えない態度だ。
「……少年を我が主と認める」
「ちょ真尋さん何やってるんですか! てかいつの間にこんなもの用意したんですか!」
「いやお前がよくやってるようなことを出来ないかと思ってやったら出来た」
「まさか
生体時間加速――なんて単語俺は初めて聞いた気がするが、まあ気のせいだろう。
それはそれとして真尋がニャル子の体でニャル子の能力を使えてしまったというのはつまり……つまり俺の――。
「どうするんですか真逆さん。これ絶対真逆さんのせいでしょう?」
「今お前俺の心を読んだな? ていうかお前今の今まで俺の心読んでたな?」
「そ、そんなことよりそんな書類私が破り捨てて――てクー子の手にもう渡ってる!? ちょ、その紙渡しなさいクー子!」
どうやら図星らしい。
「……ニャル子、少年を困らせてはいけない。少年の安眠を妨げてはいけない」
「人前でナニかをおっ始めようとしてたくせに都合のいいこと言ってんじゃねーですよ!」
それはその通りである。
さて、でもまあこのまま熱りも冷めそうだし俺は大人しくゲームの続きを。
「……少年、お騒がせしてごめんなさい。わたしたちは下に行っている。もし何かあったらすぐ呼んで」
「ちょ、離しなさいクー子!」
クー子は退散するべく真尋(ニャル子)の体を持ち上げている。
それはいい。それはいいのだが。
「あのクー子さん? なんで俺も持ち上げられているんですか?」
「わたしの宇宙CQC外式『断固として無慈悲な前進を続ける達急動』で駆けつけるから」
「無視ですか? 無視なんですかクー子さん? あ、せめてゲーム機の移動だけでも」
「……おやすみ少年」
「ん、おやすみ」
この体になってから良いことないなぁ。もしかしてこの体邪神とかそういった生物から剥ぎ取った素材で出来ているんじゃないだろうか。そんなわけないか。あはは。
なんてことを思いながら俺はクー子に連れられて下の階で寝ることになった。
その後なぜかクー子にあらゆるゲームで対戦を申し込まれたが、それはまた別の話。俺はスタイリッシュな邪神ハンターのゲームに思いを馳せながら枕元を涙で濡らすのだった。まあ、この体涙出ないんですけど。